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オルター・イグジスタンス  作者: 夢見る冒険者


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プロローグ:異世界召喚

「……ぐはっ」


ほんの数日前まで、普通の学生生活を送っていた僕は今、周囲を石造りの高い城壁に囲まれた訓練場で地面に突っ伏していた。口の中には倒れた際に入り込んだ土の味がし、体中にあざの様なものがある。


ふと見上げた視界の先にあるのは、中世の甲冑に身を包んだ騎士とクラスメイトの姿で、彼らは淡々と自身を傷つけることなく訓練に挑んでいた。皆が皆この異世界に召喚されて、特別な力と身体能力を貰っていた。


ただ一人、僕を除いて……。


どうして自分だけ身体能力が低いのか、戦闘能力を与えられなかったのかは不明だった。ただ、一つ言えるのは、自分だけがここでは役立たずということだ。いや、それは転生前の学校でとあまり変わらないのかもしれない。


僕は地面に伏せたまま考えるどうしてこうなったのかと……。



***



今日もいつもと変わらない時間が流れていた。窓際の席で、一人ライトノベルを開く。英雄譚が描かれた物語。誰にも認められなかった少年が、異世界で最強の力を手に入れ、ヒロインと出逢って、惹かれ合いながら世界を救う——そんな、ありふれた物語を。ページをめくりながら、小さく息を吐く。


(自分もこんな風になれたら、彼女の隣にいれるのだろうか?)


ふと顔を上げて、彼女の方に視線を向ける。そこには、いつもの教室風景が広がっている。クラスメイトと楽しそうに肩を揺らしながら、笑う西宮さんがいた。


大和美人という言葉を体現したかのような黒く艶やかな長い髪は、彼女の内面の美しさと、控えめな気品を示している。柔らかな琥珀色の瞳は、どこか温かくて、誰かをいつも真っすぐに映していた。


そんな、目にすると自然と肩の力が抜けるような安心感を彼女は持っている。彼女の優しさが特別なものではないと知っていてもなお、僕は日直で一緒になった日の事を忘れられないのだろう。


『ありがとう。白石君!』


そう朗らかなな笑顔に、逆光の夕陽が彼女を照らしたどこか幻想的な雰囲気の事を。思えば僕はあの時から彼女のことが気になっているのだろう……。


決して届かないと分かっていてもなお、ついつい彼女のことを目で追ってしまう。そんな風にマジマジと見惚れていたからだろう。ふと、彼女がこちらを振り返り、目があってしまう。


気色悪い。そう、スッと目を細めて蔑みの目線を向けられても仕方ないというのに、彼女はふっと笑みを和らげて、手まで振ってくれる。


それにふいっと視線を逸らしてしまった。決して自分に向けられたものではないと分かっているから。勘違いしないように、視線を下へと落とす。本を読んでいるふりをして、再度顔を上げた先の彼女は、友人たちと楽しそうに会話をしていた。


もしも僕が、彼女の隣にいる相良さがら 朝陽あさひのように、爽やかなイケメンだったら、告白とか出来たのかな?そんなないものねだりをしてしまう。


西宮さんの隣で笑う彼は、ワックスで髪を弄っており、ゆるめの毛流れパーマにしている。立ち姿もまた堂々としているもので、僕と違って肩を張って話している。その振る舞いが周囲からの信頼を得ているのだろう。


現実は、この物語の様にはいかない。そんなことくらい、もうとっくに知っている。身の程知らずだとも分かっている。それでも僕は西宮さんと楽しそうに笑う彼に嫉妬していた。


(彼の様なイケメンだったら僕だって……)


生まれ持った彼の容姿に嫉妬する、そんな自分が嫌になって、再度本に視線を落とす。現状から逃避するように。


もしこの本のように異世界なんてものが、本当にあるなら。そこでチート能力でも手に入れて。誰にも負けないくらい強くなって、彼女を助けて結ばれる。そんな、人生を送れたなら……


我ながら、笑ってしまうほど現実味のない妄想に、苦笑している。そんな時だった。床に描かれた魔法陣が、ふいに淡い光を放ち始める。


「……え?」


思わず視線を落とす。そこに描かれたのは、巨大な円形の紋様。複雑な文字が幾重にも重なり合い、まるでアニメの中でしか見たことのない魔法陣が、教室全体へと広がっていく。


「……ちょっ、何これ!?」


そんな戸惑いの声が上がった瞬間、光はさらに強くなる。思わず腕で目を覆う。白い閃光が視界を埋め尽くし、何も見えなくなった。


……どれくらい時間が経ったのだろう。恐る恐る目を開く。ぼやけた視界の向こうで、一番最初に映ったのは。


「大丈夫?」


不安そうに僕を覗き込む、西宮さんの顔だった。


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