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オルター・イグジスタンス  作者: 夢見る冒険者


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第16話 初めての気持ち

訓練を終え夕陽を見つめる。心地よい風が肌をさすり、熱くなった体を冷やしていく。そんな風にどこか癒されていると教官はどこか僕の方を真剣な表情で見つめてくる。


「にしても、お前さんはどうして、あの西宮というお嬢ちゃんを守りたいんだ?」


教官の何気ない問いに僕は深く彼女のことを思い出していた。だからかな、目の前のことが見えなくなるくらい集中してしまっていたせいで、僕は西宮さんが近づいていることに気付いていなかった。


僕は彼女が笑った時の表情や、寄り添うように怒ってくれた表情を思い出して笑みを零しつつ答える。


「彼女に助けてもらったんです」


少しだけ照れくさくなって、僕は頬を掻きながら続ける。


「この世界に来て、一人で落ち込んでいたとき、最初に声をかけてくれたのが西宮さんでした」

「ほう」


ガレスさんはどこか感心したように頷きながら、視線をチラリと後ろに向ける。ん?と思い気になって後ろを見やるが当然。戦闘用の模擬鎧しかない。あぁ、反射が眩しかったのかと納得しつつ続ける。


「西宮さんのおかげで僕はスキルを使って何かで貢献できる道を示してくれた。魔法を使えるようになった。少しずつ前を向けるようになって、強くなろうっていう目標までくれたんです」


教官は腕を組み、静かに頷く。


「恩人ってわけだな」

「はい」


僕は迷わず答えた。


「西宮さんは、僕にとって……きっとヒーローなんです。そんな彼女もどこか悲し気な表情になるんです。期待を背負っているからこそ、苦しそうな表情をする時がある。だから支えたい。彼女がこの世界で安心できるくらいに、僕は強くなりたいんです」


真っ直ぐに教官の瞳を僕は捉える。この気持ちを偽りの内、本心だから。教官の方もその言葉にどこかふっと笑みを零す。


「あぁ、良いと思うぞ」


なんていいながら教官は僕の髪を思いっきりわしゃわしゃとかき混ぜる。


「もぉ、止めて下さいよ」

「いいだろ、これくらい」


なんて言いつつも僕自身もどこか嬉しくて胸が温かかった。きっとガレスさんは西宮さん以外で初めて僕に向き合ってくれた人だから。どこか父親の様な兄の様に感じながら、僕はその温かさを享受するのだった。



***



Side 西宮さん



彼と教官の言葉を聞いていた私は思わずその場にしゃがみ込んでしまう。当然のように鎧に身体を隠していた私の身体が、カシャンと音を立てて鎧にぶつかってしまう。


ビクッと身体が反射的に反り返り。私は鼓動が早くなるのを感じながら、恐る恐る鎧から少し顔を出して彼の方を見る。そこにいるのはガレスさんと呼ばれる教官に犬のようにわしゃわしゃとされて嬉しそうに笑う彼の姿があった。


その姿を見つめて思わずボーっとしつつ、頭を引っ込める。


そんな風に顔を逸らしたはずなのに、未だに私の顔は熱を持っていた。こんなにも真っ直ぐに想われているなんて、思ってもみなくて思わず心臓が音を立てて跳ねる。


(あの時はこんなに意識してなかったのにな……)


私は自然と、彼と初めて会話をした、一緒に日直をした日のことが思い返す。


「相良も西宮さんも凄いよね」


最初にそんな言葉を投げかけられた時は。またか、なんて思ってしまったっけ。みんなに言われ慣れていた言葉に、私はどこか作り物になってしまった笑顔で返した。


「評価してもらえるのは嬉しいな」


って。その言葉に彼はみなと同じように、勉強や運動ができることを褒めると思っていた。けれど違った。


「ホント凄いよね。期待からくる不安を抱えながらも、向き合って前を向く姿は本当に尊敬する。僕は逃げちゃったから」


その言葉に思わず驚いてしまった。いつだってみんなは私だから出来て当然というなかで、彼が告げた言葉は私の内心を言い当てていたから。隠せていると思った事実を知られた私はどこか呆然としてしまう。


そんな無反応な私に彼は勘違いして焦ったように褒めだすのだ。


「それに、常に周囲の反応にも気を付けてるでしょ。相良なんて……」


彼は私だけではなく朝陽のことまで褒める。私を好きってわけじゃなくて、こんな風に素直に誰かのいい所を見つめらえる部分を好ましく思ったんだと思う。


「ごめん、変に嫉妬して……」


なんて告げられるが違う。素直に嬉しかった。お世辞でも期待でもない素直な賛辞に私はどこか救われたのだ。幼少期に出逢った彼を追ってきたこの道は間違えていなかったと。


「ううん。そんなことないよ。褒めてくれてありがとう」


気付けば私は素直にそう返していたっけ。心からの笑顔で。彼はこの世界に来て落ち込んだ。けれど、自分にできることを探して今は教官に気に入られるくらい前を向けている。


白石君は私が救ったって言うけれど、行動をして変えていっているのは君自身なんだよ。どこか微笑まし気に彼らの方を見ていて、私はやっと私を救ってくれた人の気持ちを理解できたのかもしれない。


その人が前を向いてくれるだけでどこか心が温かくなる気持ち。あの時救ってくれた彼もこんな気持ちだったのかな。なんて、昔に出逢った。顔も思い出せない彼のことをふと思い出し、どこか笑みが零れていた。


(ねぇ、気付いている。みんなが『聖女』として私を見る中で、唯一”西宮香織”として見てくれるあなたの存在が私とっても、居心地がいいてことを)


一人そんなことを思って、思わず心が軽くなるのを感じる。改めて私は白石君の方を見つめる。彼は目を輝かせながら、どこか親し気にガレスさんと話している。その横顔が、あまりにも眩しくて。もう見ていられなくなって、私は慌てて鎧の陰へ身を隠した。


カサッという音がなって見つめた先には、白石くんに渡そうと思っていた小さなお土産が手元にあった。さっきまでは何気なく渡せると思っていたのに。今は、それがどうしても渡せない。胸がいっぱいで、顔を合わせられなかった。私はそっとそのお土産を握りしめたまま、静かに寮への道を引き返すのだった。


***


二人部屋。私と親友の美咲のベッドが並ぶ部屋へ戻った私は、自分のベッドに腰を下ろす。私が戻ってきたことに気付いた美咲は手にしたままの小袋へ視線を向けると、不思議そうに首を傾げた。


「あれ、香織。それ、誰かに渡すって言ってなかったっけ?」

「うん、渡そうと思ったんだけど。 なんというか、その……」

「ん?」


友人の無邪気な表情を前に、言葉が詰まる。さっき彼に言われた言葉が頭をよぎり、頬がみるみる熱を帯びていく。


「香織どうしたの?顔が赤いけど」


なんて問われるけど、自分でも理由がわからなかった。こんな気持ちは初めてで、何と言う感情なのか分からない。だから


「少し疲れが出たのかな」


なんてごまかした。


「そっか。ごめんね、いろいろ連れ回しちゃって」

「ううん。私が行きたかったんだから。むしろ心配かけちゃって、ごめん」

「『ごめん』は言わない約束でしょ?」

「……うん」


そう言うと、彼女は軽く私の頭を撫でた。


「少しじゃあ休もっか」


なんて言われて、ベッドに横になるけどわかる。体調が悪いとかじゃなくて、ただ単純に、彼のことが頭から離れなかった。


一人布団をかぶりながら、どこか悶えるように蹲るのだった。

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