第14話 牽制
拠点へ戻ると、予想どおり、大半のクラスメイトが地面に座り込んだり、倒れ込んだりしていた。まともに立っていられるパーティは、僕たちを除けば、この場に集まっている六パーティのうち一組ほどしかいない。
残りの一チームはと辺りを見渡したところで、西宮さん達の姿が無い事に気付く。
(もしかして怪我でもしたんじゃ……)
そんな不安が頭をよぎるが、ほどなくして彼らも時間どおりに戻ってきた。その姿に目立った怪我はない。疲労こそ見えるものの、堂々とした足取りだった。
(よかったーー)
と内心で安堵する。そんな中で地面にへたり込んでいたいた一人が相良の方を見やる。その顔を心配そうにして相良は声を掛ける。
「そっちも大変だったみたいだね」
「ああ。相良たちもか?」
「うん。やっぱり初めて自分の手で魔物を斬るのは、手が震えたよ」
そう言って相良は、自分の右手を静かに見つめる。その様子に安堵したように、頷いた。
「そう……だよな」
とその言葉を聞いて、どこかクラスメイトたちも安心したようだった。相良ほど才能のある人間でも、最初は同じように怖かったのだと知れたからだ。こうして自分の弱さを隠さず口にできるところが、相良の人望の秘訣なんだろう。
「そっちのチームは疲れていそうだけど、少しは余裕がありそうだね」
僕たちの方を見つめる相良に、左近寺が頷く。
「そうだな。僕たちは白石が冷静だったおかげで、なんとか対処できたよ」
その言葉に相良は驚いたように目を丸くしつつ、どこか嬉しそうに笑う。
「そうか……ありがとう、白石くん」
「いえ、どう……いたしまして」
そんなふうに相良に褒められ、僕は驚きながら小栗と顔を見合わせ、静かにうなずいた。まさか、自分が褒められるなんて思ってもいなかったから。なにより、左近寺がそんな風に答えてくれるなんて思わなくて、思わず彼を見つめてしまう。
どこか照れ臭そうに頬を赤らめる彼に、ありがとうと口で呟き頭を下げた。それに更に照れ臭そうにしつつ彼は頬を掻いた。
「それで、塩山たちは?」
もう一チームの少し余裕があるチームに相良は様子を尋ねる。
「僕たちは、なんとかって感じだな」
「そうか」
相良は一人ひとりのパーティへ目を向け、それぞれの様子を確認していく。そうした細やかな気遣いがあるからこそ、彼は自然と周囲から信頼されるのだろう。僕は改めてそう実感した。
相良が全員のことを確認し終えたところで、教官が前に出る。
「初めて魔物と対峙してどう考えられましたか?」
「想像以上に怖かったし、今でも斬った感触が残っています」
相良は手を見つめながらそう呟く。その手は少し震えていて、けれど彼は力強くぎゅっと握る。
「それでも、ご協力いただけますか。勇者様」
「……はい」
相良は迷いながらも、しっかりとうなずいた。その姿を見て、クラスメイトたちの表情から少しずつ迷いが消えていく。
相良も怖い。それでも前へ進もうとしている。だからこそ、みんなも勇気をもらえたのだ。こういう人だから、勇者と呼ばれるのだろう。僕はそんなことを、改めて理解した。
***
「そういえば、白石君は初めての戦闘で冷静に対応したんだって?」
「……えっ……いや、そんなことないよ」
唐突に声を掛けられて僕は驚く。まさか相良声を掛けてくるなんて思わなかったから。
「そうなのか?」
左近寺が言っていたことが違うのかなと疑問を持っている。疑われるのは悪いなと思い僕なりに言葉を紡ぐ。
「咄嗟に動いただけだよ。ここで動かないと殺されるかもって、臆病だっただけ……」
本当にそれだけだ。決してみんなを護ろうなんて殊勝な心掛けはない。
「それでも咄嗟に動けただけですごいよ」
「そういう相良も立ち向かったんじゃないのか?」
「まぁ、佐野が突っ込んだおかげでね」
なんて苦笑しているあたり、本当に佐野は敵に突撃したのだろう。そういう恐れ知らずなところを素直にすごいと感心する。
「それじゃ、また」
なんて彼は前にいる佐野達に合流する。当然そのグループに西宮さんもいて、少し羨ましく見つめていると……
「調子乗んなよ」
なんてクラスでも中間に位置する男子が肩をぶつけてくる。本来なら身体能力に差があるので、倒れていただろう。それでもここ数日ガレスさんと特訓したおかげで、彼がぶつかってすぐに身体能力を強化できていた。
そのおかげもあって、僕は倒れずに過ごせている。
「チッ」
なんて悪態をついては慣れていく男子生徒に呆れつつ、
(まぁ、当然受け入れられないよな)
と思いつつ、やはり悲しい気持ちはなる。それでも彼らの後を追って馬車に乗り込むのだった。




