第5章完結〜壁に耳あり障子に目あり〜
あれから2日が経った、山岡さんは傷が癒えるまで療養することになり入院することになった。一方でアリスは影山が毎日介抱し、世話を焼いてくれたおかげでなんとかいつも通りの気丈な振る舞いをする程までに回復した。そして今日俺は広島での出来事を報告するために東京の本部に戻っていた。
「…美香、久しぶりだな。…んや親方様って呼んだほうがいいのか?」
「そんな他人行儀な呼び方辞めてよ、いつも通りでいいの。」
久し振りに見た美香は、かつてこいつの親父さんが座っていた上座に座っていた。側に控えいる師匠とヒナも微笑んでいる。
「あれから元気になってよかったわ…文乃様も喜ばれてただろ?」
「ふふ…えぇ、あの子「これで厄介な仕事から解放されます〜」なんて言ってたのよ?」
「文乃様らしいわ…」
そうして談笑を少しし、このまま談笑しててもいいが仕事はしないといけない。俺は真面目な表情に戻し広島であった事を話す。
「広島にてバイケルの配下、ベータという奴を討ち取った。…討ち取ったのは前に報告書に書いた吸血鬼の妹だ。」
「…貴方達3人で苦戦したあの吸血鬼姉妹…」
ヒナの発言に俺は頷く、ってか久しぶりにこいつ見た気がする。
「あぁ、そして…戦闘の結果、勝利はしたが…その吸血鬼姉妹の姉アイリスが、ベータの攻撃から妹のアリスを庇って死んだ、加えて山岡さんも長期入院。ついこの前起きた広島での出来事はこんな感じかな」
「…山岡が長期離脱…成る程な…んで?テメェはそれだけ会いに来たんじゃねえんだろ?」
左に座している師匠が鋭く俺の目の奥を見ている、まるで何を言いたいのか分かっているかのように。
「…俺としてはアリスを仲間に入れてやりたい、アイツは1人になってしまった。バイケルの元を裏切り、唯一の姉であるアイリスを失ったあの子を、1人にはさせたくない。」
俺は美香に伝えた、肉親を失ったこいつならわかるし、それは右に座しているヒナにも痛いほど分かることであった。さらに俺は続ける。
「アイツは俺と一緒にヤマタノオロチを討伐してくれた、アイツがいなければ被害がもっと増えていた、それにベータ討伐に協力しトドメを刺したのもアイツだ」
「…けどよぉ勝斗、妖怪を引き取るってのはそんな簡単なことじゃねえってのは知ってるだろ?」
師匠は俺の目をじっと見つめる、分かってる、俺たちは妖怪を殺す為に存在している組織、殺すはずの対象を生かしてましてや仲間に引き入れるなど前代未聞なのは知っている。
「ですが師匠…その理屈ならヒナはどうなりますか、こいつは4年前敵対しており、京都にて俺に負けて生かされここにいます。」
師匠はぐっと何も言えないような顔になり、ヒナも少し申し訳なさそうな顔になる。
「人に害をなさないのは俺が証明します、アイツは…アイツらは人を救うために動いてくださった。……それに…姉が妹を庇うのを目の前で見ちまいました…」
俺の脳裏にあの日、アイリスがアリスを庇い、ベータの斧に仕留められたのが蘇る。俺は美香を見つめる。
「…美香、お前が決めてくれ、最終意思決定は現当主であるお前にあるんだ。お前の命に俺は従う」
美香は目を閉じて考えるような仕草をする、悩んでいるのだろう、バイケルの配下、手助けしてくれたとは言え妖怪、だがいなかったらベータ戦で壊滅していた可能性、それにヤマタノオロチとベータを討ち取った功績。それらを考えた結果。
「…勝斗、貴方…本気なの?」
「…おう」
「ふふっ…やっぱり貴方はそんな人なのね…仕方ないな、良いよ、認めてあげる。でも入る入らないはあの子に聞きなさい?」
「…!サンキュー!美香!」
俺は急いで玉座の間を出た、走って退出していく俺を見て師匠はため息をこぼした。
「はぁ…高校生になっても中身は変わんねえな…あのガキ…」
「良いじゃない、お父様から聞いた話だと貴方もそうだと聞いたわよ?」
「…充様もそんな時期あったのですね」
「うるせえ…あー…煙草吸ってくるわ」
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城を出て俺は一旦広島に戻る準備をしに借りてるホテルへの道を歩いていた、広島に滞在する理由はもう無いが向こうにも荷物を置いているために取りに帰らないといけない。
「…あ、もしもし?野村さん?うん、俺だよ…美香から許可もらった、あとはアリスの意思だけ…うん書類は林くんにお願いしたらいいよ」
この時俺は油断していた、街中の真昼間、そして安全圏だと思っていた本部周辺、極限まで消して背後に近づいてくるマナの気配に気づかなかった。
「あーそうそう…そー言えばっ…!?」
突然背中から熱が出た、とても熱く、冷たくなってきた。刺された。そう思った時にはもう遅く、奴らは刺したナイフを抜き人混みへ紛れた。電話越しに野村さんが何かを言ってる、聞こえない。治癒術が使えない、上手い具合に回路を絶たれている。
「ダメ…だ…これ…治癒…できねえ………」
俺はその場に倒れた、周囲にいた人が悲鳴をあげるが聞こえない。俺はとうに限界だった。意識が無くなる前に最後に見たのは、泣いてる美香とヒナだった。
これにて第5章終了です、次は第6章、お楽しみに




