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Episode31:お嬢さまが小太郎の気持ちを理解したのは?

ひな子は髪をかきあげながら小太郎に問う。


「それで小太郎さん、わたくしに何か御用でしょうか?」


「……はい」


「AOI――に、ついて?」


「………はい」


冒険会での活動時に裕也がポロッとAOIのことを口にしてしまったせいで、小太郎のAOIに対しての思いが大きくなってしまったのだろう……。


彼はAOIのデータに関わって六年。

どうやら最新のAOIのデータやそれに関する情報を、同じ一般人の裕也が知っているということで嫉妬のような感情が出てきてしまったようだ。


(AOIのことを漏らしたのは小太郎さんの方が先なのに……)


でも怒ってはいけない、()()()()()()()()()から――。


ひな子はこほんと咳払いすると、AOIは旭川での機密事項にあたるデータであって、本来一般人が知る必要のないものだと強く伝える。

しかし小太郎はAOIのデータについてのことより、蒼について聞いてみたいことがあるとひな子に言うのだ。


「何故、――蒼に?」


「彼はどうしてあんなに強いのか、何のためにあの領域まで強くなれるのか、……オレは聞いてみたいんです」


「何のために、強く……。小太郎さん、あなたは何故、――強くなりたいの?」


「オレは小さいときから、強いヤツと戦いたくてクローンモード競技にのめり込んでいた。そして大会でも優勝して、いつしか自分が世界で一番強いんだとバカな夢みてた。それがAOIに出会ってそんな自信は砕かれたけど、また強くなる目標が出来たことがうれしかった。けれど、まだまだ子供のAOIの足元まで追いつけない……」


小太郎はクローンモード競技から離れても、必死に努力してAOIに近づくためにがんばってきたが、モデルの蒼は自分のもつデータよりもきっと強くなっている。

同じ人間なのに、絶対に追いつけない領域があることを知った気がする、――と彼は言う。


さらに裕也から実戦訓練用のNPCにもなっていると聞き、どこまで蒼の戦闘力は上がっていくんだという、憧れと絶望で小太郎もかなり困惑しているらしい。


ひな子は小太郎の悲痛な話を聞き終えたあと、ふうっと軽く息を吐いた。


「蒼はね、強くなりたいなんて思ってないわ」


「――えっ!?」


「彼は生まれたときから旭川家の役に立つために、毎日きびしい訓練していただけよ?それ以外の生き方が許されなかったから……。ただ、それだけ」


同年代の子供のように、学校へ行って友達と話をしたり、勉強の片手間に強くなろうとして努力してきたわけじゃない。

根本的にあなたとは違うのだとひな子は言う。


しばらく小太郎の思考は止まって呆けた顔をしていたが、ハッと何かを思い出したようでみるみる笑顔になり、キラキラと()を輝かせるのだ。


「それって何か影がある主人公みたいで、カッコイイなあ!!」


「………ハァ?」


「異世界に行かなくてもチートキャラって理想的な男像だよ!本物のAOIはきっとハーレム作れるほど女の子にモテまくってるんだろうなぁ……」


「ちょっと、小太郎さん??」


――さっきのわたくしの説明(セリフ)から、どうしてそう思えるの!?


それに異世界って、何?

彼の眼鏡の向こうでは、一体何が見えているのだろう……。


あまりにも蒼が異質な生い立ちだったから、小太郎の頭の中で処理できず、ステキなバグでも発生しているのか?


また小太郎の中に、AOIに対しての歪んだイメージを植え付けてしまったようだ。

ひな子は何とも言えない悔しさから唇を噛みしめる。


この部屋へ来たときの小太郎は、まだ理性的でシリアスな表情をしていたが、今はお花畑の中で地に足がついていない状態といっても過言でないほどに浮かれている。


「オレ、やっぱりAOIのように強くなりたい!近づけなくても彼のように戦う面白さを追求してみたいんだ!!」


もはや恋は盲目といった感じで、勝手なAOIの理想像を着々と作りあげていく小太郎を止めることは出来ないようだ。

彼は自分の言いたいことだけ口にすると、スクッと立ち上がりスキップしながら部屋から出て行った――。


「アレはなんだ!?なんなんだ!!?」


ひな子が理解できないと、青ざめた顔で両手を膝の上でにぎりしめる。

さらに嫌な汗がダラダラと流れ落ちていくような感覚におちいり、ひな子は部屋の隅に置いてある箱からお茶のペットボトルを取りだすと、フタを開けて一気にごくごく飲み干した。



それからソファーに戻り、気分転換にテーブルに置いているリモコンを手に取ってTVをつける。

ディスプレイからは【食いしん坊将軍】が映し出された。


「時代劇をみるとホッとする。しかも食いしん坊将軍かぁ……。あーあ、お腹が空くわ――」


この時代劇は、毎回色々な江戸時代の食についての話が主軸となっていて、他の時代劇とは一線を画す異色の作品だが、それでも最後はチャンバラ有り悪を倒すという王道的な流れになっている。


ラスト近くになると将軍が刀を抜き、みねうちで雑魚を蹴散らしていく。

そして諸悪の根源と言うべき悪役には、将軍さまではなく御庭番に斬らせるところを観ると、ちょっと悲しくはなる。


(やっぱり偉い人は自分の手を汚さずに、配下に後始末させるのよねぇ……)


ほうっとちょっとため息をついたあと、悪者はいなくなり浪人といつわる将軍さまが、おいしそうに焼けた魚をほお張り、少し熱かったようで焦って水をがぶ飲みして物語は終わる。


食いしん坊将軍を見終わったひな子は、うっとりしながらソファーによこになる。


(将軍さまはいい男だし、配下の御庭番も陰ながら活躍する姿が頼もしい――ハッ!!)


ひな子は目を見開く。

そして気づいたのだ。


小太郎がいう()()()()()()というものを―――。


たしかに、食いしん坊将軍に出てくる御庭番たちはカッコイイ。おいしいところは将軍さまに持っていかれるけど、それでも陰ながら健気に支える彼らは、まさに自分にとって理想の姿ではないのか!?


ちょっと前までまったく理解が出来なかったことが、時代劇を見たあとで解ったという……。


(やっぱり、時代劇は心の師匠――ですわね!)


さすがにあそこまで浮かれることはしないが、小太郎が言ったことの一部でも理解出来たことに、ひな子は素直に喜ぶのだった。

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