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Episode30:お嬢さまに出来ることはない

裕也がAOIのことを詳しく話してしまったせいで、申し訳なく口止めすることしか出来なかったが、以外にもカオルがAOIに食いついてきて、クローンモードで戦ってみたいと言い出した。


もう、全員口封じした方がいいんじゃないの?

と黒いものが吹き出しそうになる。


それから学園から河本邸へ帰ったひな子は、AOIのデータのことがどこまで広がっているのか把握するために、竹谷とヒナタの中の人を呼びだして話し合うことにした。



竹谷は裕也の話を聞いた途端に、河平家に抗議の電話をする。

ヒナタ中のあの方はこちらの会話を聞いていたようで、良一の母親である麗華へも即この情報を送ったようだ。


今頃、麗華は髪を振り乱しながら動き回っていることだろうと、あの方は楽しそうに笑う。

どうやら息子に激甘な麗華は、良一におねだりされてAOIの最新データまで渡していたらしい。

良一は母親とは違い蒼本人に懐いていたので、大好きなお兄さんのすごさを友達に自慢したかったのだという……。


しかしあの方には、企業秘密の漏えいしているときに笑っていてもいいのか?とツッコミそうになったが、


《あれはバーチャルマシンの適性チェックデータだからいいの。それにAOIのデータに不正アクセスしようとしただけでもデータが自壊し、バーチャルマシンごと繋がってる端末をぶっ壊すデスウィルスを仕込んでるから、大丈夫~ダイジョ~ブ♪》


と楽観的だが、何を言ってるのか理解できない説明をされた。


ひな子はペットボトルのお茶に口を付けてごくごくと飲みこむ。

そして半分くらい残ったお茶をテーブルに置くと、ぐったりとソファーによこになった。


ヒナタがぴょんぴょん跳ねながら、ひな子の顔の前にやって来る。


《良一くんのことを怒っちゃダメだよ?きっと小太郎って人と同じなんだと思うんだ。――蒼くんってとっても強いから、男の子が好きになるのも当然なんだよ!》


「小学生相手に怒りませんわ。……でも、そういうものなのでしょうか?わたくしには分かりません」


《好きっていっても”憧れ”だよ。君には憧れている人はいないの?》


ヒナタは箱座りして、お疲れ気味なひな子の顔をのぞき込みながら中の人が問う。

するとひな子はヒナタの頭をなでながら答える。


「強いて言うなら、あなたです」


《……そう?》


「わたくしは出来ないことが多く、人に頼ってばかりです。ですが、あなたは何でも出来てしまう――。今みたいな状況でも、わたくしは何も出来ずにこうして寝っ転がってるだけですから……」


《あのね、君には君にしか出来ないことがあるの!そのときまでは寝てていいんだよ。――でも、その時が来たら……》


「この命、あなたに捧げます」


《うん、よろしい!》


ヒナタはひな子のほほに頭を寄せてスリスリと頬ずりしたあと、満足げな顔をして彼女の視界から消えさった。



それと同時に河平家に抗議の電話をしていた竹谷が、神妙な顔をしてひな子近くへ来る。

ひな子はすぐに起き上がって姿勢を正した。


「竹谷、河平はなんと?」


「――AOIのデータが、不正に抜きとられた可能性があるそうです」


「一般家庭のバーチャルマシンから、ですか?」


「そのようです。どうやら外国製のバーチャルマシンを使用したみたいで、中に巧妙なバックドアが仕込まれていたそうです。今そのバーチャルマシンを持ち帰って色々と調べているのと、アクセスログから抜き取られたデータの行方を追っている。――そのように報告されました」


「……バーチャルマシンもお高いですからね。子供のお遊び程度なら外国製の安いバーチャルマシンでも、ということでしょうか」


「子供を持つ親としては、耳が痛いですね」


河平家からの報告を聞き、ひな子は目を閉じて考える。


つい先日、クローンモードの競技の大会であるバトルフィールド・コンベンションの個人戦で、NPCが全日本チャンピオンのデータに上書きされた。

そしてここ最近には、クローンモードのテスターのデータを抜きとられている。


何だかイヤ~な気分になりそうだ。

AOIのデータを使って、何かが起りそうで……怖い。



はあっとひな子はため息をつくと、テーブルに置いていたお茶を飲み干した。

竹谷は詳しい情報を得るために旭川の本家に行くと出て行き、ひな子は一人になる。


取りあえず着替えようと制服を脱ぎ始めたところで、息を切らせた小太郎がノックもなくいきなり部屋へと入ってきた。


「ひっ、ひな子さん!?」


上半身裸のひな子の姿を見て、小太郎は顔を赤らめて硬直する。

どうやら急いていた竹谷が、部屋のロックをせずに出て行ったらしい……。


「小太郎さん、後ろを向いていただけませんか?」

「はっ、はい!」


傷だらけのみっともない素肌を人目に晒したくないひな子は、怒ることも恥ずかしがることもなく、冷静に小太郎にそう伝えた。


しかし小太郎は、ひな子の身体に付いた無数の傷について逆のことを思っていた。


彼女はあの【嵯峨の宮の事変】の生存者。

かなりひどいテロ被害に合い、千人ほど集まっていた会場で生き残ったのはたったの数名。

その生き残った者も、奇跡的に軽傷だった一人を除いては、みな重傷だったという――。


また間の悪い時に来てしまったのと、ちゃんとノックをしなかったことに恥じた小太郎は、後ろ向きのまま声を震わせて彼女へ謝罪する。


「いきなり部屋に飛び込んで来てすいませんでした」


「いえ、わたくしこそみっともないところをお見せいたしましたわ。――小太郎さん、こちらを向いても構いませんよ」


「え?」


あれからまだ一分も経ってないのに?


小太郎がおそるおそる振り返ると、浴衣に茶羽織姿のひな子がソファーに座っている。

脱いだ制服すらも見当たらない。


ひな子さんのことだから、死角にこっそり脱いだものを置いてるのかもしれない……。

あまり無粋な詮索はしないでおこう。


「どうぞ」


とひな子は小太郎に向かいに座るようにうながす。

改めて小太郎は一礼すると、ひな子と向かい合わせに座るのだった。

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