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Episode28:お嬢さまはキレました

「うわっ!!!」


ひな子が思わず大きな叫び声を上げる。

今、一番会いたくない人からの呼び出しがかかってきたからだ。

出来ることなら声すら聴きたくもない。


(ここでヒナタを壊してしまえば、あの女の嫌味を聞かなくて済むかも……)


そんな思考が頭をよぎる。

超レアなアシストロボットを破損させれば、一体いくらの修理費を請求されるか分からないが、それでも麗華の顔を見るよりかはマシだと、ひな子はヒナタに手を伸ばす。


《コラ!ヒナタに手を出さないでよねっ!!》


音声がヒナタのAIから中の人へと変わる。

チッとひな子は舌打ちすると、観念したように起き上がって再び姿勢を正す。


「呼び出しに応えます……」


《了解》


AIに戻ったヒナタの瞳から、熟女とまではいかないがキリッとした顔をし、髪型も服装も固い印象を与えるような女性が映し出される。


「……お、お久しぶりですね、麗華さん。今日もお綺麗ですね……」


「心にもないことは言わなくて結構。――そんなことより、聞きましたよ!あのデータを一般人に公表するなんて……。あなたがもっとしっかりしていれば、このようなことにはならなかったのよ!?分かってます!!?」


「……はい」


「本当にあなたはダメな人ですね。馬鹿の一つ覚えくらいのことしか出来ませんし……。それでよく旭川の名を出せますね?これ以上、恥をかく前に田舎へお帰り願えませんか?山猿ちゃん」


麗華は、一方的にひな子を罵倒する。


いつもこうだ。

彼女とは根本的に合わない――。


黙って大人しくなっているひな子をみて、調子に乗った麗華はさらに嫌味な言葉を投げつける。


「あなたのお父様はとても優秀な方だったそうですわね。でもあのテロ事変であっけなく……。本当に残念でしたわねぇ。役に立つこともなく、何の意味もない死にざまで。フフフッ」


《ちょ、麗華――》


<バギッ!>


アシストロボのヒナタの首を、ひな子は無言でにぎり潰した。


今までの通話を傍受していたと思われる竹谷が。無断で小太郎の部屋まで入ってきている。

ひな子は壊れたヒナタを竹谷に放り投げた。


「竹谷、ソレを麗華さんに渡しておいてください。修理代も河平が出すように言っといて。向こうが文句を言って来たら、――分かるよね?」


「――はっ」


意味ありげな口ぶりをしたあと、ひな子は手をヒラヒラと振って竹谷を退室させる。

そして怒りにまかせてテーブルの上のクッキーをがつがつと貪り食い、飲みかけの紅茶をごくごくと飲み干す。


ちょっと落ち着いたところでガクリと頭を垂れた。


(………やってしまった)


明日は祝日だから学園に行くことないけど、明後日までにはヒナタは直るのだろうか?

勢いで壊してしまったが、ヒナタがいないと何も出来ない。


(――まあいいわ。明日は一日中、好きな時代劇でも観ながらグータラしましょう)


TVの操作だけは出来る。

竹谷に甘味を用意させよう。

部屋に引きこもっていればいいんだ―――。



それから一時間も経たずに小太郎と愛奈はバーチャルマシンから出てきた。


どうやら思っていた以上にAOIの強さに愛奈がついて行けず、精神的にも消耗していたので仮想空間から戻ってきたらしい。

でも愛奈は『またあとでAOIと戦う!アタシの力はこんなもんじゃない!!』と息巻いていた。


二人とも冷めた紅茶を飲みながら、AOIについて色々と話し合いしている。

ひな子そっちのけで、二人の世界を創りあげてしまったようだ。


(AOIを起点としてるけど……)


あとは若いお二人で――と、ひな子は小太郎と愛奈にもう一度AOIのデータを秘密にするようにいい、部屋から出ることにした。


元々バーチャルマシンに深い興味はない。

AOIのデータがそこいらに出回らなければそれでいい。



ひな子はゲストルームに帰ると、着物を脱いで汚れが付着してないか確認したあと、簡単に畳んで箱の中へ収めた。

あとで竹谷にクリーニングに出してもらうためである。


それから脱衣所に向かい、下着を脱いでカゴに投げ入れて、身に付けているものを取り払う。

不意に鏡に映る裸の姿――。


身体中、至るところに傷がある。


ふだん学園では、長袖のインナーや黒タイツで隠している。

着物のときも、出来るだけ人前では大きな動作をしないことで人目につかないように気を配っていた。


みっともないとは思わない。

ただ、人さまに見せられるようなものでもない……。


自分の存在は、麗華の言うように意味のないものなのだろうか?


静かな部屋で一人になると、無性に麗華の言葉で頭の中が埋め尽くされる。


シャワーを浴び終わり水気を取って、裸のまま部屋の隅にある箱からペットボトルを取りだしコキュッとフタを開け、乾いた身体に染み渡るようにそれを飲み干す。


もう浴衣を着る気力もなく、裸でとなりのベッドルームのドアを開けた。

そして無気力なまま、ベッドの上にうつ伏せに倒れ込む。


(今日は、もう眠ろう……)


今までの疲れが溜まっていたのか、ひな子は身動きひとつしないまま朝まで死んだように眠り続けたのだった――。




「まったく、素っ裸で寝るのはやめなさい。風邪を引きますよ」


竹谷があきれながら言う。

彼が朝ひな子の様子を見に行くと、裸のまま眠ってしまっているひな子と遭遇したのだ。


ひな子は竹谷が持ってきた葛餅を口にしながら、

「わたくし、あまり頭が良くないので風邪は引きませんわ」

とほほ笑む。


それでいいのかと竹谷は目尻を指で揉み回す。

とくに今まで大した病気もなかったので気に留めてなかったが、昔の古臭い迷信を本気で信じているのはどうかと頭をかかえる。


そこへ《ニャ~》という鳴き声が響き、ひな子のひざの上にヒナタがひょいっと乗った。

ヒナタの姿を見て驚いたひな子は、つまようじに刺していた葛餅をポロリと落としてしまう。


「――もう、直ったの?」


ひな子はヒナタをそっとなでる。


「スペアが一体あったようで、壊れた方のデータを移動させました。……もう壊さないでくださいよ」


「――うん」


自分が殺してしまったヒナタが帰ってきたことに、ひな子は喜びを感じてぐずぐずと鼻を鳴らしながら涙を拭くのだった。

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