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Episode26:お嬢さまは驚愕する

一歩下がって二人の様子を見ていたひな子は、愛奈を簡単にフッてしまった小太郎に困惑する。

お互いに小声でヒソヒソと話しだした。


『竹谷、幼なじみからの告白はえてして成就するものでしょう?しかも女の子からの告白ですのに!お爺さまの書物にもそのように書かれてましたわよっ!!』


『またそんな埃をかぶったような少女趣味の本など読んで……』


『そのように稚拙な例えはよろしいのです!小太郎さんはどうして小坂部さんのお気持ちを無下になさったの!?竹谷、お答えなさい』


言い得て妙な物言いをされ、ひな子はイラっときたのか竹谷に偉そうに命令する。

竹谷はふぅっと息を小さく吐くと、小生意気そうにふんぞり返る主人を見据えて答えた。


『――どうやら小太郎さまには他に思い人がいらっしゃるようで、小坂部さまにお心をさけるほどのキャパシティがないのだと思われます』


『小坂部さんは、あんなに素敵な告白をなさったのに!?』


『小太郎さまの方は、告白を受けたとも思われていないご様子だとお見受けします』


『オゥ………』


思わず外国人のような感嘆符が口から漏れ出てしまうくらいの衝撃をひな子は受ける。


(あんなにも小太郎さんを思っているのに、当の本人は別の方を思っているなんて――)


こうなると、ひどく愛奈が可哀想に思えてくる。

何か小太郎に言ってやりたい気分になったが、どこからともなく黒猫のアシストロボットがひな子の肩に乗ってきた。


《今出て行ったらダメ!これからが本番なんだよ!!》


『本番?と言いますと??』


ほほうとひな子が黒猫ヒナタの声に耳を傾ける。


《実は小坂部さんを思う男子部員が河本さんを殴り、『彼女のことを何だと思ってるのか!』って言ったあとで、自分はもっと彼女を愛してるって告白するんだよ!――そして小坂部さんが男子部員の気持ちを知って胸キュンってカンジになるの♪いいでしょ、いいでしょ~☆》


『まあ!それは素敵な話ですわね!!時代劇にもたまに見受けられるシチュエーションですわ~』


《君もこういう話が好きだと思ってたのー!でね、でね、別パターンだと――》


『さすがですわ!恋の始まりを感じます!!』


少女漫画のような展開を勝手に作って盛り上がるひな子とヒナタ(中の人)をよそに、フラれる形になった愛奈は、小太郎から断られるなど微塵に思っていなかったようで『なんで?どうして……?』とくり返していた。


「確かに”自身の能力を反映させた”クローンモード競技は楽しい。自分自身の本当の力が見えるからな。だけど、今日久しぶりに競技を観戦して、とくに愛奈、お前とNPC戦を観ていて思ったんだ。――()()()()か、って……」


「この、程度――?」


意味が分からないという顔をした愛奈の方をみることもなく、小太郎は空を見上げてさらに言葉を紡ぐ。


「あのNPCの動きを観て、三室会長が『全日本チャンピオンの城戸選手に似てる』と言ったんだ。良い動きをしていたのは分かる。だが、オレの中では”あの程度で全日本チャンピオン”なのかと失望した。まぁ、愛奈はよくやったとは思ってるよ。けど、今のオレには物足りないんだ………」


「……あの、程度?物足りない??――そんなの意味分かんないよォ!!!」


わっと愛奈が膝をついて泣きだしてしまった。

小太郎にクローンモード競技に復帰て欲しくてがんばってきたのに、個人戦で優勝したのに、すべてが無駄だったと言われたような気持ちになってしまったのだ。


――全日本チャンピオンですら、今の小太郎の眼中にない。


一体、彼がクローンモード競技に何を求めているのかすら分からず、ただただ泣きじゃくることしかできなかった。



悲しみ、絶望する愛奈の姿をみて、ひな子の心は穏やかではない。

ここにきて、鈍いひな子でも小太郎のこだわりが分かってしまったからだ。


(小太郎さん、どこまで【コードネーム:AOI】に固執する気なの!?あれをクローンモード競技の頂点にしてるのであれば、すごく迷惑だし、大間違いですわよ!!)


二人に干渉する気はなかったが、AOIが絡むことだと話は別!


ひな子は顔におおって泣く愛奈の横に立ち、ちょっと気まずい顔をしている小太郎のほほを平手打ちしたのだ。


スパーンと小気味よい音が鳴る。


いきなりひな子に平手打ちを食らった小太郎は、へっ?と驚いたようなまぬけな顔をした。

顔をキリッとさせ、怒ってますを強調した表情をしたひな子は、彼を指さして警告する。


「クローンモードの基準をAOIにするのはおやめなさい!アレはバーチャルマシンの実験データにしかすぎません!!」


「……ひな子さん、それは秘密にと――」


「うるさいですわ!!アレはうちの企業のデータで、わたくしもよく存じております!データの元となった方も知っております!」


「………。ひな子さんは、AOIを、あの人を知ってる!?」


今度は小太郎が混乱し始めた。

そしてそれと同時に、泣いていた愛奈が冷静になる。


「……AOIって何?」


「わが社のバーチャルマシンの研究データの一つですわ。クローンモードの処理能力などのテスターの名をつけて、AOIと呼びますの。――小太郎さまはそのデータに心を奪われてしまったようで、現実の人間を置き去りにしているようですの……」


「その人って、……女の人?」


「男の方ですわ」


ふんと荒い鼻息をしながらひな子が答えると、愛奈は力なく『あはは……。そっかぁ、男の人かぁ………』とつぶやいた。


すると次に小太郎がひな子に詰め寄ってくる。


「ひな子さん!オレ、AOIに会いたい!!どうしてもあの(ひと)に会いたいんだ!!!」


「えっ?どうしてですの??」


「誰よりも強くて、格好良くて、――オレ、ずっとAOIに憧れてたんだ!だから会いたくて爺さんにも頼んだけど、ダメで……。それでもこの六年間、クローンモードでしか会えない彼をずっとずっと想っていたんだ!!」


「はぁああああああああああっ!!!?」


思わぬ小太郎の告白に、ひな子は大声を出して仰天する。

愛奈も驚きを隠しきれない様子で、目を見開いて無言で彼を見つめていた。


ひな子の肩にまだいたヒナタはひょいと地面に下りると、頭を斜め上に傾けて、両眼から一体のホログラムを作りだした。


《AOIの最新映像だよ~ん。うちの嫁はカッコイイでしょ!?感謝して拝んで眺めなさい☆》


小学生のころのデータではなく、本当に自分と変わらない背丈。

そしてやはり忍者服に狐面。


「――このデータを、売ってください!!!」


《ほっほっほ~。どーしよっかな~♪》


小太郎は土下座をしてヒナタに頼みこむ。

その光景を満足そうに尻尾を振りながら見ているヒナタ。

後ろに控えている竹谷は、旭川グループの機密をホイホイと露見され頭を抱えている。


ひな子は唖然としたまま固まり、愛奈は『小太郎、男の人が好きだったんだ……』とつぶやいたのは言うまでもない―――――。

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