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Episode24:お嬢さまではどうにもできない

大会関係者たちも慌てて駆けまわっている。


だが黒鳥は取り巻きたちは、手も足も出せずに耐えるだけの愛奈を観てせせら笑う。

一応教師として楢井先生が『もう、みんな笑っちゃダメだよ~。可哀想でしょ~』とたしなめているようだが、眼は笑っていた――。



「ヒナタ」


ひな子は小声でヒナタを呼ぶ。

するとヒナタはするりとひな子の肩に飛び乗ってきた。


「……何とかできませんか?」


《今やってるー。どうやら外部からクラッキングされてるみたい。カウンターセキュリティの穴から相手に攻撃性の高い猛毒カクテルを注入してる。それにNPCのデータの書き換えがもうすぐ終わるよ》


「さすがですね。――頼ってばかりで申し訳ないのですが、そちらの方は大丈夫なの?」


《こっちのしっぽはつかませないよ。侵入の手口から見てアジア系のクセがでてるから、これ以上の無理はしないっしょ。わたしの作った毒からPC内のデータを守るのに向こうもてんやわんやだろうし~》


周りに聞こえないように耳元でヒナタとささやき合う。


彼女の作った毒は、多種多様なウイルスの詰め合わせで、感染すると高い確率で復旧不可能にさせたり、ループ命令の割り込みなどで処理遅延を起こさせたりと、嫌がらせ要素をてんこ盛りにしてシステムをフリーズさせていくという……。

この分野では彼女に頼らざるを得ない。


ひな子は巨大ディスプレイに目をやると、NPCが愛奈への攻撃を止め、プルプルと震えながら後退している。

愛奈は先ほどのこともあり、今はNPCの次の出方を探っている様子だった。


「――あのNPCのデータは?」


まるで場違いなド素人がいきなりバーチャルマシンに乗せられたような

両手を上げて『自分は敵意がありません』みたいな、クローンモード競技に似つかわしくない行動をしている。


ヒナタがご機嫌にしっぽを振りながら、ひな子の問いに答える。


《河平麗華(36)のライブだよ~ん》


「……えっ?」


《えっとねー。麗華をこっちのバーチャマシンに乗せて、リンクさせちゃってます☆》


「えーーーーーっ!!!」


《声、大きいよ?》


ひな子は驚きのあまりに吐き出した声を、大慌てでのどの奥に押し戻そうとする。

となりの竹谷は、ワイヤレスイヤホンからこちらの話声を拾っていたらしく、笑い声を必死にこらえていた。


ちょうど今、持ち直した愛奈が逃げ回るNPCに向けて、強烈なラリアットを放った――。

NPCはそのままダウンして動かない………。


《ねぇ、麗華のしたことはこれで手打ちにしてちょうだい。小坂部家には別の者を派遣しておいたわ。――だからね、お願いっ!》


ヒナタはひな子のひざの上に飛びおりると、足を香箱座りさせて、猫の必殺技である”ごめん寝”のポーズをとる。


――こんなのずるい!卑怯だ!!可愛すぎます!!!


わしゃわしゃとヒナタをなでくりまわした後、ひな子は顔をゆるませて『仕方ないなあ』とほほ笑む。


観戦用の巨大ディスプレイの向こうでは、NPCを倒した愛奈の姿が見えている。

彼女はやや疲れた顔をしていたが、それでもキラキラと輝くような笑顔をしていた。


あれは小太郎さんへ向けたものだろう――。


ふと、となりに座る小太郎の顔をうかがうと、愛奈とは対照的に複雑な顔つきをしていた。

よく周り見ると、健人も同じようになにやら渋い表情をしている。

裕也は何も気にせずに、バケットのポップコーンをむさぼっていた。


「小坂部さん勝ちましたね!……あの、小太郎さん?」


「――あ、はい?」


恐る恐るひな子が小太郎に声をかけると、ハッとした顔で彼はあわてて返事をする。


「小坂部さん、勝ちましたね?」


「ああ、そうだね……」


確認するように、もう一度ひな子が愛奈の勝利を口にすると、小太郎は朝のときと同様に気のない返事をするのだ。


どうやら愛奈のことより、NPCのことの方が気になっているらしい。

大会の運営も臨時休憩を急きょ入れてきた。

NPCデータの解析、もしくは不具合の復旧をするのだろうか?


それでも、その間に決勝戦にコマを進めた愛奈は、しばしの休息できる。

すでに小太郎と健人は、NPCのことについて情報交換しているようで、愛奈のこともひな子のことにも気にとめていない。



黒鳥たちは愛奈がNPCに勝利したことが不満なのか、暴言を吐きまくっている様子だった。

彼らの中には、この大会に参加する予定の者もいたのだろう。


冒険会に嫌がらせをし、戦技研の部長である一志からひと月の部活の停止を言い渡され、そのことに関わっていると思われる愛奈に憎悪を燃やすのは当然だ。


彼らもまた、テロリストに似た行動理念を持っているのだから――。


人に対して妬み、嫉妬、憎しみを抱き、自分の強さや欲求を満たすためならどんな汚いことにでも手を染める。

そして、その行いを正当化し、自分に賛同する者の言うことにしか耳を貸さず、賛同しない者はみな敵扱いするのだ。

だからテロ集団のトップの多くは独裁的傾向が強く、時には自分に敵意の矛先が向かわぬように神の存在を盾にしている。


少し前に黒鳥たちと試合の観戦をしていた楢井先生は、手洗いにでも行ったのか席から離れている。


彼女は大してクローンモード競技には興味がないのか、学園の生徒の応援をするような素振りもなく、黒鳥たちの話を聞き、そして助言することもなく、ただひたすら彼らの言葉にうなずくだけだった。


カウンセラーは患者の話を聞き、相手の話を否定したり、自分の考えを押し付けたりはしないという――。

しかしある程度のアドバイスはしないのか?

とも考えてみたが、それが彼女のやり方なのかもしれない……。


――それこそ、餅は餅屋。


考えをそこで留めおき、ひな子はこれから始まる愛奈の決勝戦へ気持ちを切り替えるのだった。

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