Episode23:お嬢さまは訴えたい
愛奈は一回戦、二回戦ともに難なく勝ち進んだ。
準決勝で三人になると一人余ってしまうので、大会が用意したNPCに勝利することで決勝へ進めるルールとなっていた。
「NPCは動きが単純で読みやすいから、抽選で当たると決勝戦進出はまず間違いないね」
健人がこれまでの大会の傾向を口にする。
へぇ~っと裕也が感心しながら彼のことを聞いていると、小太郎はやや驚いた表情になる。
「今のNPCは、昔とちっとも変ってないのか……?」
「大会用のNPCなんて、どこもそんなもんだよ。プレイヤーの行動に対応した動きをしているだけ、独自の行動をもって自立化したAIは初期予測の幅が広過ぎるせいで実用的なレベルに達してはいない」
「自立化したAIは、まだ開発されてない――?」
「クローンモード競技用に開発するには、時間と手間と金がだいぶ掛かると思うからね……」
戦士と戦士の戦いを想定した大会なので、予算外のことまでは手が回らない。
――と健人が一般論を語る。
しかし小太郎が疑問に思っていることはそうじゃない。
【コードネーム:AOI】は自立化された行動をしていた。
一定のパターン化した動きをしていないかは、ここ数年自分で研究して確かめている。
何十何百と戦っているうちに、AOIは自立化したAIなのでは?という結論に達した。
もしパターン化されているとしたら、何万何億通りくらいはあるだろう。
そのくらいAOIのデータは、クローンモード競技用のNPCとは格段に違いすぎていた。
元戦士として昔のNPCのお粗末さぐらいは知っている。
でも数年前から完成されたシステムが、いまだに発表されていないことに疑問を感じているのだ――。
「ひな子さんのところでは、バーチャルマシンの研究はしていますか?」
「えっ?はい、そういう企業もありますよ」
健人と小太郎の話はよく分からん、と聞き流していたひな子は、急に話をふられてびっくりする。
そんな彼女にお構いなしに小太郎は質問をするのだ。
「じゃあクローンモードでの、NPCのAIの自立化には成功していますか?」
「NPC?AI?の自立化??」
「――あ」
なにソレ?何も分かりませんとも言えないくらいに混乱するひな子の様子を察して、小太郎は次の言葉を失う。
前にもカオルが言っていたが、自分の家の会社が何をやってるのか彼女がすべて把握しているワケじゃない。
その上ひな子は機械音痴で、バーチャルマシンで遊んだこともない。
生きる時代を間違えてるんじゃないかと思うくらいに時代錯誤がヒドイときもある少女だ。
オレの疑問に答えられるワケない――。
小太郎は頭の中を切り替える。
巨大ディスプレイには準決勝の抽選結果が出ていた。
愛奈は運よくNPC戦に決まった。
「小坂部センパイ、決勝に行けそうっスね」
「手ごたえはないけど、力を温存するにはいいことだよ」
裕也と健人は楽しそうに会話している。
同じ学園の生徒の勝利を願うのは、誰しも心に持っていることだろう。
小太郎も愛奈の勝利を願っているひとり、……だと思いたい。
わたくしは恋のキューピット~と心の中でひな子は歌う。
準決勝一戦目は他校の戦い、二戦目が愛奈vsNPCの戦い。
一、二回戦で愛奈戦闘パターンは解析済みだ。
彼女はスピードよりパワー重視の戦闘を得意とする。
ちょろちょろと動き回ってスタミナを消費させるより、最小限の動きで技の一つ一つを確実にヒットさせる冷静さ。
動きに無駄が少ないのは評価できる。
ただ自分のペースを乱されたら、立て直すのに時間がかかりそうな感じだ。
愛奈は自分が考えていたことと別の動きや発言をされると、途端に冷静さを失うことをひな子はよく知っている。
(でも今まで他校の戦士の動きを見ていましたが、愛奈さんを混乱させるにいたる者は見受けられませんでした。――順当に行けば優勝でしょう)
準決勝の試合風景を退屈そうに眺めながらひな子はそう思う。
それでも所詮はスポーツ。
リアルな戦闘では通用しない。
しかし彼、彼女たちはテロリストと対等に渡り合えると思っているのだから滑稽なことだ。
だいたいテロリストが正面きって、正々堂々と戦うワケない。
ドローンを盾にしたり重火器を手にしていることだってある。
体や技を鍛えることに意味がないワケではないが、だからといって餅は餅屋。
戦闘事はプロに任せてもらいたいものだと、幼稚な正義感でテロと戦いたいと思ってる夢想家たちにそう訴えたい。
そんなひな子のぼやきもつかの間、準決勝一戦目が終わり、愛奈とNPC戦が開始された。
小太郎たちが見守る中、愛奈のパンチからキックのコンビネーション技が華麗にNPCに決まると思ったら、見事にNPCがかわし、逆に無防備になった愛奈にカウンターを食らわす。
<おおーーーーーーっ!>
試合を観ていた観客たちが、NPCに向けて歓声の声を上げる。
倒れた愛奈が素早く立ち上がるが、NPCの動きはさらに早く、ワンツーパンチのラッシュラッシュ。
愛奈はダッキングからのカウンターを狙うが、NPCはそんな隙を与えない。
両手で顔とボディをガードするが、HPがじわじわと削られていく……。
「あのNPCはおかしい!動きがまるで、――全日本チャンピオンの城戸選手に似てる!!」
「なんだよ、それ……」
健人はクローンモード競技のマニアなのか、他の選手の動きまでも知っているらしい。
ずっとAOIだけ見続けてきた小太郎には分からなかった。
「――変っスね。一年のNPC戦は、あんな動き方じゃなかったのに……」
尋常じゃないNPCの攻撃に裕也は身震いする。
NPCに歓声を上げていた観客たちも、次第に異変を感じてかざわつき始めた。




