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Episode22:お嬢さまの悪だくみ

大会開始の時刻になると、巨大ディスプレイに偉い人だと思われる老人が開催のあいさつをし、昨年の総合優勝校である剛健学園の戦技研の部長、田原が選手宣誓を行う。


軽く大会の流れを説明し終えると、最初に一年生男女の個人戦からの試合が始まった――。



個人戦は十分の試合時間があるが、ほとんどの試合が五分くらいで終わってしまう。

健人曰く、クローンモード競技はダメージレベルは7に設定されている分、精神的な疲労がかなり大きいらしい。


その上、仮想空間で自分の分身たるアバターを脳の命令だけで動かし、戦闘中の緊張感や戦略や相手の動きを読むことも同時に行わなければならない。

集中力が少しでもかけてしまうとあっけなく倒されてしまう。


さらにトーナメントを勝ち進んでいくためには、周囲や自分自身からのプレッシャーに耐えなければならない。

そして人気競技であるのだが、多くの者が精神的に疲労してやめてしまうという、とてもシビアなスポーツなのだ。


選手はぴったりと体に張り付くような上は七分袖、下はミドルパンツ。

各学校でデザインされたユニフォームを着ている。

手足はそれぞれクローンモード競技で指定されているグローブと靴を身に付けていた。


バトルフィールド・コンベンションは素手による近接格闘戦のみ。

武器の使用はない。

ナイフ使用のスネークファイトの試合もあるが、学生の試合には推奨されてはいない。


男子戦と女子戦が巨大ディスプレイに半々に映し出されている。

仮想空間で使用されている自動カメラワーク機能がとてもよく、迫力のある戦士たちの戦闘を観ることが出来た。




あっという間に一年生の試合が終わり、剛健学園の戦技研の男子部員が優勝し、惜しくも女子部員は準優勝となった――。


二年生の個人戦開始まで十分間の休憩が入り、観戦をしていたひな子たちは気をゆるませる。

スポーツ観戦はなかなかに面白い。

気のない態度だった小太郎も、クローンモード競技の観戦後には、興奮しながら健人や裕也と試合の話で盛り上がっている。


そんな彼の様子を見てひな子は肩の荷が下りたように感じ、よかったよかったとはあっと長い息を吐く。


ほっとしたのもつかの間、ひな子がふと周囲を見回すと左斜め前方の席に、黒鳥とその取り巻き、そして養護教諭である楢井先生の姿がちらりと見えた。


ひな子がその方向へ顔を向けて『あっ』と声を漏らすと、小太郎たちも彼女の視線の先に目をやる。


「――へえ、アイツ観戦してたんだ……」


あれだけ悪態をついてたのに、よく来れたなあと小太郎は皮肉の言葉を口にする。

健人は『まあまあ』とその場をやり過ごそうとしたが、裕也が楢井先生を指さしてこう言った。


「ボインボインじゃん。相変わらずご立派っスなあ~」


「ボインボイン?」


すごい単語を耳にしたので、ひな子が思わず口にすると、小太郎がかなりどもりながら説明する。


楢井(ならい)先生はあの胸を弾ませながらスキップしてることが多いから、男子生徒たちから陰で『迫りくるボインボイン』ってあだ名付けられてるんだよ……」


「迫りくる??」


「あの爆乳が上下に揺れると、せんせーの顔がちょうど隠れるんスよ。なんつーか、走るおっぱい?みたいな。それがたまに自分の方へ向かってくるように見える幸福、そして凶悪な乳ユレに感謝の意味を込めてそう呼ばれてるんス」


「ああ、なるほど!分かりますわっ!!」


裕也が何かを思い出すようにウットリしながら語ると、ひな子は楢井先生のスイカ二個ぶら下げたような胸を思い出して目を光らせながら理解する。


その時、竹谷はワザとらしい咳ばらいをし、小太郎は『そこ、食いつくところ?』とひな子の態度に首をかしげ、ヒナタはひな子の肩に飛び乗ると二、三回彼女に猫パンチを食らわせてからシャッと消えた。


ひな子は少し赤くなった顔をさすりながら、黒鳥たちと親しく会話をしている楢井先生の口の動きを見る。


先ほどまでの一年生の競技について、自分だったらああだのこうだのと講釈を垂れる黒鳥に対して、楢井先生は『ふふ、そうよね~。黒鳥くんは出来る子だもんね~』と同調しているようだった。

彼女はカウンセラーもしているようだから、学生の発言を否定せず、より良い方向へと導いているのだろうとひな子は見ていた。


また、健人は楢井先生の乳談をしている後輩たちをよそに、しばらく黒鳥たちをジッと見つめたあと、思いつめたように目をギュッと閉じて大きく首をよこに振り、二年生の個人戦の開始とともに競技場の巨大ディスプレイに視線を戻すのだった――。



二年生の個人戦には愛奈が出場する。

彼女がどんな戦いをするのかひな子は楽しみだった。


事と場合によっては、愛奈も完膚なきまでに叩きのめしてクローンモード競技から手を引かせるのもいいかと考えている。


あまり家の力を使うのはイヤだが、小坂部家と河本家から恨みを買うようなマネは絶対にしたくない。

あの二人をくっ付けさえすれば、何とかこちらの体裁は保たれる。

河平の女狐が余計なことをしなければ、ここまで苦労はしなかったのにと、――ひな子はやってやったと嬉しそうに笑う麗華の顔を頭に浮かべ、ギリリと奥歯を食いしばる。


とにかくひな子にとって、小太郎と愛奈が仲良くしてくれれば周りが静かになると踏んでいた。


できるだけ今の生活を穏便に過ごしたい。

そのためなら多少の犠牲はいとわない。


(愛奈さんがクローンモード競技を止めたら、小太郎さんもAOIに固執する暇なく彼女と青春をエンジョイすることでしょう。我ながらナイスアイディア☆)


ひどい悪人面の顔つきをして、ひな子はニヤリとほほ笑むのだった。

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