Episode21:お嬢さまはちょっとヒドイ!
――バトルフィールド・コンベンション当日。
秋風が冷たい早朝から四つ葉国立競技場には大勢の人たちが集まっていた。
警備員が多く導入され、警備ロボットも百体体勢で巡回しており、テロ防止対策に万全を期すための工夫がされているようだ。
ひな子は車の中から競技場周辺を観察する。
「まあ、あんなにもたくさんの人がいますわ。すごく大きな大会なんですねぇ」
子供のように目を輝かせながら眺めているひな子の様子に苦笑する小太郎。
今日の朝からひな子には驚かせられっぱなしだった――。
まず最初に着物姿。
寝るときは浴衣だったが、まさか私服まで着物だとは思いもしなかった。
『今の時期は袷ですよね』といたってこれはふつうだとひな子は言ってのける。
そしてショールを首元に襟巻のように巻いていた。
ひな子的には、女性は肌をむやみに晒すのは厳禁らしい……。
この時代に老人すら冠婚葬祭以外で着物を着ることはない。
だがひな子の普段着はすべて着物だというから驚きしかなかった。
逆に小太郎はラフなかっこうで、ヘンリーネック長袖にスキニー、その上にパーカーを着ていた。
はっきり言って、ひな子と並んで歩くのはとても勇気がいる。
スーツにサングラスの竹谷がひな子と並ぶと、近寄りがたさが二倍アップするので、もしかして彼女は人よけに着物を着ているのかもしれない……。
そして次にひな子は竹谷による持ち物のチェックをされて、忘れ物が数点みつかり、叱られながら和装バッグにつめ直しをしていたこと。
さらにそのバッグを置き忘れないように竹谷が持つことになったこと。
最後にひな子は機械オンチなので、今日必要な情報関係をすべてヒナタが管理するように、竹谷がデータの調整までしていたこと。
小太郎の頭の中で当然のことながら、ひな子は竹谷がいないと何も出来ない可哀想な人と認識されている。
少し話を二日前までさかのぼらせる。
愛奈から五人分の電子チケットを送ってもらっていたので、小太郎以外の学友を先にバトルフィールド・コンベンションに誘うことにした。
冒険会のメンバーから観戦希望者を募ったところ、真澄とカオルはその日は用事があるからと早々に断念し、それじゃあということで、会長の健人と一年の裕也が参加することとなった。
健人は元々行く気でいたらしい。
戦技研の部長である一志とは仲が良いので、一部の部員から嫌がらせを受けようと、友人の応援には行きたいとのこと。
裕也は小太郎さん同様に、小学生のころはクローンモード競技にハマっていたそうだが、勝てなくなってから早々に辞めたらしい。
今のクローンモード競技はどうなっているのか気になるということで、好奇心から観戦してみたいそうだ。
もらった電子チケットをアシストロボットのヒナタが、健人・裕也のカード端末へ送信し、当日は観戦席で落ち合うこととなっていた。
四つ葉国立競技場のパーキングについたひな子と小太郎と竹谷は、入り口のゲートで電子チケットと身分証のチェックを受けたあと、中央には四方に向いた巨大ディスプレイが設置されている観戦席へたどり着いた。
すでに健人と裕也は指定の席についており、二人ともひな子の着物姿にビックリして目を大きく見開いて凝視していたが、一分後にややパニクった裕也が立ち上がって彼女に一礼して席へ座るように促す。
「さ、姫!こちらへお座りください」
「ひ、姫ェ――!?」
「旭川センパイのかっこうみてたら、何となく……」
「そうなの??」
ひな子はイマイチよく分からない表情をしていたが、分かる分かると健人がコクコクとうなずく。
そのあと気を取り直してひな子が健人と裕也に丁寧にお辞儀をする。
「何はともあれ、おはようございます」
となりにいた小太郎は片手を上げて『よっ』と軽くあいさつし、竹谷は無言でお辞儀をした。
そしてひな子たちも席に座る。
クローンモード競技の観戦のために、仮想空間を映し出す巨大ディスプレイ。
バーチャルマシンでダイブすると、肉体がどうしても無防備になるため、闘技場のバーチャルマシンはかなり頑丈に作られているそうだ。
競技は個人戦、団体戦とあり、トーナメント方式を採用している。
個人戦は各校各学年で男女一名ずつ、団体戦は男女混合で各校五名になっている。
個人戦参加者は団体戦に出場できない。
戦士のHPバーのゲージは相手戦士に分かるように表示されるが、SPバーのゲージは表示されない。
個人戦の持ち時間は十分、団体戦は三十分。
本日の出場校は十二校。
競技用に適したバーチャルマシンは高価なため、購入している学校が少ないとか……。
それでも各学校・学園のつわものたちが集まっている。
「バトルフィールド・コンベンションは一日で終わらせるためのスケジュールを組んでるみたいだけど、十人参加タイプの団体戦で持ち時間一時間っていう大会もあるよ」
にこりと笑顔で健人がいう。
彼がひな子たちに色々とクローンモード競技の説明をするよこで、小太郎は浮かない顔をしていた。
一番左端の裕也は、売店で購入したと思われる競技場マスコットキャラの入った大型バケット入りのポップコーンをもきゅもきゅと食べながら健人の話を聞いているようだ。
右端は竹谷で、存在感を感じさせないくらいに気配を消している。
ふむふむとひな子が健人の話に耳を傾けていると、ヒナタが彼女の肩に飛び乗ってきた。
《小坂部愛奈からメールがきました》
無機質なAI音声が耳元でそうささやく。
ひな子はとなりの席に座っている竹谷からバッグを受け取り、中からコンパクトミラーを取りだす。
ヒナタに受信したメールをコンパクトミラーに送信してもらい、内容を確認する。
「――なるほど」
ひな子はそうつぶやくと、左隣で気だるそうにしている小太郎に声をかけた。
「小太郎さん、笑ってみてくださいませ」
「……はぁ?」
ふいに声をかけられ戸惑う小太郎をよそに、ひな子はヒナタを抱きあげて彼の前に突きだす。
「はい、チーズ」
<ピロロ~ン>
《撮影が終了しました》
意味が分からず硬直する小太郎。
ひな子は『笑顔が撮れなかったけど、ま、いっか』と口にしたあと、ヒナタにこう命令する。
「小坂部さんへの返信メールに、小太郎さんの写真を添付しておいてください」
《了解しました》
「えっ、愛奈に?ちょっとまっ――」
《ニャーン》
思わず小太郎がヒナタを捕まえようとしたがするりとかわされ、メールを愛奈に送ったあと、仕事は終わったとひと鳴きして即消えた。
再び固まる小太郎に、優しい瞳をした裕也がポップコーンの入ったバケットを差し出した。
「河本センパイ。よくわかんないっスけど、ガンバっス!」
となりの健人は乾いた笑いをしていた。
ひな子はコンパクトミラーをバッグに収めると竹谷に渡し、はあっと息をつきながらイスに深く座るのだった。




