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Episode19:お嬢さまは変な人?

その日の夜、ひな子は自室へ小太郎を呼んだ。

愛奈との約束を守るために。


五時限目からの愛奈は、見るに堪えないほど落ち込んでいるのが分かった。

ひな子の背に何とも言えない罪悪感が大きくのしかかる。


「スポーツ感覚で戦ってる女の人に、当てつけのように強く言いすぎてしまいました……」


部屋でディスプレイに映し出された大昔の時代劇を横目で観ながら、ひな子は机に突っ伏していると、ヒナタがニャンとひと鳴きして近くへやって来た。


《女の子にヒドイこと言っちゃダメだよ》


「――分かってます」


《しっかりフォローして、小太郎?っていう人とくっ付けちゃいなYO!》


「なんですか?その言い方……。それに人の心をどうこうすることは無理です。自分のことですら、何もできてないのに………」


《おおう。いつになく反抗的だね!?わたしそういう感情、ぜんぜん分からな~い》


「相変わらずですね、あなたは……」


ひな子はごっそり気力を削られるような気分がしてきた。

ヒナタもとい、たまに気まぐれでこちらの様子を観察しているあのお方は、こういうとき本当に容赦なく心を言葉のナイフで刺してくる。


()()はない。

()()はない。


そう言えば許してもらえると思ってるのだから、このお方はどうしようもない。

にゃんにゃかと嬉しそうにひな子の周りで飛び跳ねるヒナタ。


しかしドアがノックされると同時にヒナタはAIに切り替わり、アシストロボットの充電装置付きの猫ちぐらの中へと引っ込んだ。



「――ひな子さん」


小太郎の声が聞こえてくる。

ひな子は即座に姿勢を正すと、『どうぞ』と声をかけた。

するとドアが自動で開く。


「……おじゃまします」


おそるおそる小太郎はひな子の部屋へ足を踏み込んだ。

部屋のソファーに座っていたひな子は、彼に対面のソファーに座るようにと手招きする。

小太郎が席に座ると、事前にメイドに持って来てもらったティーカップに紅茶を注いで彼の前に差し出した。


「お砂糖とミルクはお好みで」


「あ、はい。ありがとう」


小太郎は何も入れる様子もなく、そのままカップを手に取って口をつけた。

女性の部屋に入るのが初めてなようで、彼はかなり緊張しているようだった。


そんな小太郎に気を留める事もなく、愛奈の頼みごとをさっさと済ましておこうと口を開こうとしたら、彼がどもりながら『そ、それは?』とひな子の胸の方を指さした。


ひな子はうつむき加減に目線を自分の着ているものへと向けたが、おかしなことがないのを確認すると顔を正面にもどす。


「わたくし、何かおかしいのでしょうか?」


「いや、その……。何というか、着物がめずらしくて、つい………」


「え?浴衣に茶羽織(ちゃばおり)はふつうでしょう??」


「それに――」


小太郎が今度は部屋に設置されている大型ディスプレイの方を向く。

先ほどからひな子が観ていた時代劇が映し出されている。


何がおかしいのか分からないひな子は首をかしげて、

「ふつうでしょ?」

と疑問に思うこともなく言ってのけるのだった。


小太郎は首をよこに二度ほど大きく振る。


「こんなの、きっとひな子さんだけだよ」


「そ、そ、そ、そんなことないですわよっ!」


洋室のゲストルームに山奥の逗留温泉宿に湯治しているような姿のひな子を見て、緊張の糸が切れたように小太郎は口元を抑えながら笑い出した。


「ぷっ、ぷぷっ。こ、古風な人だとは思ってたけど、ひな子さんの趣味ってお年寄りのようですね。――くくくっ」


「ろ、老人……?」


「時代劇なんて、オレたちの世代で観る人はいないよ」


「――な、な、なんですとォ!?」


ひな子にとって唯一の娯楽が時代劇の視聴であり、機械嫌いの祖父もネット放映だけは好きで、小さいころからずっと観賞してきた楽しみの一つだった。


「そのようなことを言われたのは、初めてですわ……」


「同い年の子や年の近い子とか、ひな子さんの近くにいなかったのかい?」


「周りはほとんど大人たちばかりですし、誰も――」


顔をこわばらせながらひな子そう言いかけたとき、ふとあの方のことが頭の中に浮かんだ……。


「そう言えば一人だけ、わたくしのことを『変な子』だとおっしゃいましたわ」


目の前の小太郎をよそに、ひな子は少し物思いにふける。


家格のある家に生まれて、子供のころから周りの大人たちにから頭を下げられる存在だった。

その家格のせいで失ったものの方が多いというのに――。

でもそのおかげで自分は、あのお方とつり合いが取れていると判断されて………。


「――ひな子さん。すいません!オレ、笑ったりして……」


物憂げな表情になっていたひな子を心配そうな顔で見つめる小太郎。

彼の声でハッと我にかえったひな子は、なんでもないと苦しい笑顔で返す。


まだまだ未熟だなと自分を戒め、ひな子は『んっ』と小さく咳払いする。


「申し訳ありません、小太郎さん。ちょっとよそ事をしておりましたわ。お気を使わせました」


「めっそうもない」


ひな子は素直に小太郎に対して謝罪する。

頭を下げるひな子の態度に焦った小太郎は腕を左右に素早く振るのだった。


気を取り直してひな子は小太郎に向き合う。

お気に入りの時代劇の途中でディスプレイを落とすのは名残惜しいが、早く用事を済ませてあとで観ようと、ひな子はリモコンのパネルを指で押す。


ディスプレイに映し出されていた親を亡くした姉弟の行く末が気になるが、今は我慢我慢とひな子は本題に移ることにした―――――。

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