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Episode17:Side story・小太郎の過去

夜の河本邸――。


静かな夕食風景。

祖父の肝煎りでこの家に暮らすことになったひな子のことを、両親は快くは思っていない。


元々祖父は都会を離れた田舎の別宅で、昔からの妾と共に暮らしている。

祖母は五年前に他界していた。

父は仕事の都合でマンション暮らし、数年前からオレと母との二人暮らしだった。


母は愛奈の母と、女学院で小学部から大学まで友人関係だったらしく、この二人がオレと愛奈との結婚を望んでいる。

父たちも、仕事上の損得関係から両家の地盤固めとして結婚を後押ししている。


そこへ旭川家の令嬢がこの家で住むことになったのだから、母はオレに決してひな子さんに近づかないようにと言ってくるようになった。

また母は、あの彼女の美しさに嫉妬しているような一面も見受けられたのだ。

息子としては見たくもない母の裏の顔を知って落胆もしたし、言うことを素直に聞くもなく無視してるけど……。


父の方は小坂部家との関係上、この家で暮らすことに難色を示したが、旭川グループから手を引かれると会社が傾くことになる恐れから渋々了承した。


そんなワケで、我が家ではひな子さんのことを招かれざる客人扱いされている。

と言っても、ひな子さんはそんな空気をものともせず、平然と食事だけこのダイニングルームでとり、それ以外はゲストルームに籠っていた。


オレは一人っ子。


小さいころから何不自由なく、欲しい物、やりたいは何でも与えられた。

でも女性との付き合いや、結婚については自分で決めることはできず、大人になるにつれ心が何かに食いつくされていくように蝕まれていく思いをしていた。


愛奈のことは好きでも嫌いでもない。

昔ほど関心がないだけ。

子供のころは仲が良かったけど、あのケンカ以来、仲良くする気も起こらなくなった。




小太郎は夕食を無言で食べ終わり、自室へと戻る。

部屋の中には学校ほどのスペックじゃないが、そこそこ良いバーチャルマシンが置いてある。


吸いこまれるようにセッティングをはじめ、それが終わると小太郎はリクライニングシートに腰を下ろした。

すると自動的に外界遮断カバーが下りる。


完全に外界遮断カバーが下りると、バーチャルマシンが小太郎の全身をスキャンし始めた。

彼の肉体を分析し、データとしてバーチャルマシンに書き込んでいく。


そして指定モードは冒険会で遊んでいるグロースモードではなく、戦技研と同じクローンモードで仮想空間へとダイブしたのだった――。



ゆっくりと視界が開け、小太郎の目の前には真っ白な仮想空間が広がる。

左上の表示に彼のHP(ヒットポイント)バーとSP(スタミナポイント)バーのゲージが表れた。

事前に音声認識に設定をしていたので、パネル表示に触れることなくゲームを行える。


クローンモードは自分の好きな背景に変更できるが、小太郎は初期の殺風景な白い空間のまま、いつもの登録データNPCを呼びだすのだ。


「ファイルデータ【コードネーム:AOI】起動。ダメージレベルは6で頼む」


すると目の前に小学生くらいの子供が現れた。

黒く短い髪に忍者のような衣装をまとい、顔は個人のプライバシー保護のためか狐の面をかぶっている。


その子供を前にして、小太郎はブルッと武者震いをする。

さらに大きく息を吸って吐き出すと、複雑な顔つきになった。


「……いつになったら倒せるんだろうなァ。アイツに――」


小さな強敵を前に、小太郎は身構える。

狐の面の向こうの顔はどんなヤツなんだろうと、思わない日はない。


六年前のあの日から、アイツと自分との戦いが始まった―――――。




オレは幼いころから武術を始め、それなりの成果を上げてきた。


小学校へ上がるころにはバーチャルマシンのクローンモードの大会で好成績を収め、両親はとても喜んでくれて、オレ用のバーチャルマシンを買ってくれたほどだ。


幼なじみの愛奈もオレほどではないが、そこそこ強いクローンモードの戦士になっていて、たまに二人で対戦をしていた。


小学五年になると中学生相手でさえも勝ち星を取り、クローンモード十五歳以下の部門で全国一位になるという快挙を上げた。

親は大喜びで最新のバーチャルマシンを購入し、さらに上を目指せる環境を整えてくれた。

そのころにはオレは無敵だのなんだのと天狗になっていて、手の付けられないアホな子供になっていたと思う。



ある時、祖父がめずらしくクローンモードのデータを持って家に来た。


そしてオレに


『小太郎と同じ歳の子のデータを貰ってきたよ。強い子らしいから、きっとお前の良き相手になるとジジは思うぞ』


と言って、バーチャルマシンにそのデータを移してくれた。


――コードネーム:AOI。


初めて見たときは、『忍者のコスプレかよ』って大笑いした。

こんなふざけたヤツに、オレが負けるはずがない!

自信満々なオレはそう確信していた。


だが、オレの自信は十秒も立たないうちに打ち砕かれた。

最初にアイツと対戦した時、自分に何が起こったか分からないうちに勝敗が決した――。


リプレイで確認すると、試合開始と同時にヤツは目にもとまらぬスピードでオレの背後に回り込み、首筋に強烈な手刀を入れたのだ。


その結果、オレは意識を失ったという……。


何度もスロー再生でアイツの動きを見たけれど、その洗練された一連の動きにオレが達するヴィジョンがまるで見えてこない。



『こんなヤツ、チートだチート!どうせプログラムをイジってるんだろ!!』


と祖父に訴えたが、悲しそうな目をして祖父をオレの顔を見つめて言うのだ。


『自分より強い者を認められないのか?そんなにお前は誰よりも強いと思っているのか??――はぁ、己の強さを過信しすぎているようなので、無理をしてあのデータをコピーしてもらったのじゃが、逆効果だったようじゃの……』


そう言って祖父は肩を落とした。


オレはそれ以降、表立ってクローンモードをすることはなくなった。

武術もやめ、そのことで愛奈ともケンカになった。


『小太郎のバカー!何で辞めるのよー!!』


という愛奈の言葉が、今でも耳に残っている。


お前もコードネーム:AOIと対戦してみろ!

クローンモードをやる気力もなくなるぞ!!

と言いたい。


だがコードネーム:AOIのデータは極秘のものらしく、祖父がオレのために流出させない約束で()()()()()から受け取ったものだが、それでも強固なプロテクトでコピーガードされていた――。




今でもたまにクローンモードを起動させてアイツと会う。

そして十秒もしないうちに倒されるという進歩のない戦いを続けている。


――誰よりも強く、勇ましく、そして人間離れした戦闘力。


一度、その子会ってみたいと祖父にせがんだが、祖父すらその子と会うことは叶わないと困った顔で頭を撫でてくれた。


こんなチート級の子は、本当に存在するのか?

プログラムデータの中だけの子なのだろうか?


オレはそんな自問自答しながら、このコードネーム:AOIと今でも戦っている。

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