Episode15:お嬢さまが仮想ゲームをやってみる
仮想冒険同好会の部屋に入ると、すでに会長の健人と一年の裕也が来ていた。
遅れた理由を真澄が説明し、さらにひな子は笑顔で問題視しないように付け加えると、健太が『本人がそれでいいのなら』と複雑な顔をした。
それから三十分ほど時間が経過する――。
今、ひな子が空いている席に座るだけで、セッティングはすべて小太郎が行っていた。
先日同様に【ナイトネバードーン・オンライン】仮想冒険ゲームをひな子を合わせたメンバーでダイブしてみようということで、会長の健太が提案してきた。
他のメンバーもそれを了承し、ひな子の異常なまでの電子機器の苦手さを考慮して、小太郎が必要な設定を入力している。
ひな子はとりあえず大人しく座っているだけでいいらしい……。
「パラメータはどれをどのくらい上げる?前に説明したこと覚えてるかな??」
「では、わたくし魔法使いという職業をやってみたいので、INT(知力)に50、MND(精神力)に50、STR(力強さ)に50振ってみますわ」
「ええっ!魔法使いでSTRに50?AGI(敏捷性)じゃなくて??初めてのときは簡単に操作できるように、INTそのままにしてMNDに100振った方がいいんじゃないのかな?」
おかしなパラメータの振り方をするひな子に、小太郎はセオリー的なパラメータの振り方を指導する。
そこへカオルがやって来て、小太郎の頭に軽く手刀を入れた。
「痛って!」
「小太郎ちゃん、好きなようにパラを振らしたれや。これはそういうゲームやろ?」
「そ、それはそうだけど……」
「あれこれ横からチャチャ入ると面白ないやろ。セッティングだけやって、今日はひな子ちゃんの好きなようにやらせぇや、なあ?」
「……分かった」
仮想ゲームにこだわりがあるからどうしても口出ししてしまう。
それにさっきの黒鳥とのことで、小太郎はひな子を助けることも出来ずに、彼女をあんな目に合わせてしまった負い目から、やることなすこと裏目に出てしまっている。
テンションのおかしい小太郎に、健人は自分がセッティングしようかと声をかけたが、頑なに自分がやると言い張る。
真澄も小太郎と似た歯がゆい気持ちを抱えて、背もたれに倒れて目を閉じて現実からの逃避行動をとっていた。
カオルは健人と裕也の横にきて、ふうっと息を吐き出した。
「真澄ちゃんと小太郎ちゃんは純粋な子やから、ひな子ちゃんに手ェさだれてだいぶキレとるけど、ワイは彼女の方が怖かったわ~。男の股間を躊躇なく捻るんやで?ホンマ恐ろしかったわ……」
「やめて、八塔寺センパイ!聞いただけで玉ヒュンものっス!!」
「財閥の令嬢ともなれば、小生たち常人より肝の据わり方が違うのでしょうな。ははは」
思い出して背筋が凍りつくカオルの言葉に何故か内股になる裕也。
顔をヒクつかせて乾いた笑いをする健人。
それは彼らの中でひな子に対するイメージが、軽く180度ほど変わった瞬間だった――。
ひな子のセッティングが終わり、小太郎から仮想空間に入れば意識だけで行動できるから、それまでは出来るだけ動かないで、触らないで、と強く念押しされる。
冒険会のメンバーもそれぞれ自分の席につき、外界遮断カバーを下ろしてスタンバイしていた。
健人がインターフェイスから、他のメンバーにも分かるようにカウントダウンを表示させる。
《5》
《4》
《3》
《2》
《1》
《0》
薄暗い視界から、徐々に明るい世界が目の前に広がる。
この前に冒険会の大型ディスプレイから見た西洋の町並みが、ひな子の眼前にリアルな様相で現れた。
粗末なワンピース姿でひな子はその場でキョロキョロしてみたり、その場で走ってみたり動き回ったりしてみる。
さらにしゃがんで地面に触れると、土が手についた。
立ち上がって空気を吸いこむと、新鮮な空気が肺に送られているような感覚に陥る。
両手を叩くとちょっとだけ痛い。
真澄がダメージレベルが低くないと嫌だ!と言っていたが、これはほぼ痛覚がない気がする。
ひな子が仮想空間を堪能していると冒険会のメンバーがやって来て、防具屋や武器屋、魔法アイテム屋に連れて行かれた。
バタバタとそれらを一回りすると、ひな子の装備は粗末なワンピースから、魔法使いの服に変わり、魔法使いの杖を手にしている。
スキルはレベル1から扱える【ファイヤー】と【セルフヒール】だけ。
それからメンバーたちとギルドへ向かい仕事を受ける。
ひな子は何も分からないまま、冒険会のメンバーたちの後ろをついて行くのに精いっぱいだった。
森の中へ入り少し進むと開けた川辺についた。
そこはゴブリンの巣だったようで、群れをなしたゴブリンたちが木の棒片手に襲ってくる。
小太郎が盾でガードしながらヘイト値を稼ぐ兆発スキルを使用した。
ゴブリンたちが小太郎の方へ向かってくる両脇から、健人とカオルが近接アタックを仕掛ける。
後方の真澄は弓を構えてゴブリンたちに矢を放つ。
同じく後方のひな子は、ファイヤーの魔法でゴブリンのHPを少しずつ削りながら『おー、おおー』と関心した声を上げるのだった。
大量のゴブリンを前衛が上手く抑えていと、真澄やひな子の後ろから、数匹のゴブリンが唐突木の上から奇襲を仕掛けてきたのだ。
「マズイ!」
真澄が声を上げる。
その声で小太郎がマップの敵情報に目を向けた。
「カオル、行けるか?」
「今ワイがここを離れると突破される」
「会長は?」
「小生はここを抑え込むだけで、いっぱいいっぱいだなぁ」
どうしたらいいんだと小太郎がゴブリンと戦いながら思案していると、後方の敵のマークがすべて消えた――。
「真澄が、やったのか……?」
小太郎が目を見開いてぼそりとつぶやく。
だが真澄からは信じられない報告を受けた。
「ひな子さんが、――ゴブリンをみんな撲殺した!!!」
「「「ま、まじか!!?」」」
「ほらSTRに50振ってるし、魔法師の杖は鈍器扱いだから……。それにこの辺のマップの敵だと、レベル1プレイヤーでも魔法使いの服の防御補正でそんなにダメージ入らなし、何よりセルフヒールは敵の攻撃でキャンセルされることなく連発できるからね」
どうやらひな子は、魔法使いにあるまじき脳筋ごり押しプレイでゴブリンたちを屠ったらしい……。
そして今はMPが尽きて休んでいる。
でもそれって初心者には無理だよな?っと、小太郎は首をかしげた。
最初にこのゲームにダイブしたとき、ひな子は明らかに初心者の行動を取っていたのはうそじゃないと思われる。
何とも不思議な人だと、小太郎はひな子のことを考えずにはいられなくなっていた。




