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Episode14:お嬢さまは護身術ができる!?

放課後、ひな子は再び小太郎たちに誘われて、仮想冒険同好会の部屋へと向かうことになった。


小太郎、真澄、カオル、そしてひな子たちが校舎と部活棟の間の渡り廊下を歩いていると、制服姿でこちらを見ていた黒鳥たちと出会う。


あちらは黒鳥と取り巻きの男女が四人の計五人。

面倒なので目を合さないように小太郎たちが廊下を進んでいると、前のように行く手を立ちはだかるように道を塞いできた。


「今日はお遊び会をやるんだろ?なあ、お前らのバーチャルマシンをオレっちらに使わせろよ。キモオタ集団が遊びで使うより、オレっちたちが有意義に使ってやんよ」


「君たち戦技研の部長から、この前の騒動で一か月の部活停止命令を出されてるんだよね?また問題を起こしたら、確実に退部させられるよ」


「くっ、どこからそんな情報を……」


「そんなん(スピード)メッセージでジャンジャカ流れてるっての」


黒鳥に対して真澄とカオルが素早く対応する。

部の情報が漏れていることに黒鳥は動揺し、取り巻きたちは急いでSメッセージを確認している様子だった。


Sメッセージとは学園が運用しているアプリケーションの一つで、学園の生徒ならたいてい入れている便利ツールだ。

よほど個人のプライバシーを侵害するようなことを書きこまない限りは黙認状態で、学園内の情報が重要機密以外はダダ漏れになっているとんでもないアプリであった。

ただし学園内部にいるときのみ使用可能で、学園外部に出るとアプリは自動的に待機状態になる。


黒鳥に部活停止命令を出されたのは昨日の早朝。

どこの部でも情報は出来るだけ部外者に漏らさないように指示をされているが、戦闘技術研究部は部員が多いので、口の軽い者が悪気なしにSメッセージに流したのだろう……。


ひな子は情報端末を利用する質ではないので、今初めて知ったという顔をしていた。

その横で小太郎は大きなため息をついて、黒鳥達に対し心底あきれた顔つきで口を開く。


「バーチャルマシンが使いたかったら、携帯用で代用できるだろ。それが嫌なら黒鳥先輩のところのアミューズメント施設を使わせてもらえばいい。冒険会のを使わせろだなんて、一体何様のつもりだよ」


しかし黒鳥は小太郎の言葉にキレたのか、自分の前に立っていた真澄を突き飛ばす。

倒れかかった真澄をカオルが支えてフォローした。


取り巻きたちをおいて一人小太郎の前に進み出た黒鳥は、今度は横にいたひな子の胸を鷲掴みして揉みだしたのだ。

その光景に小太郎はギョッとして身体が硬直する。

黒鳥はニヤリと笑みを浮かべて、そんな小太郎を軽々と蹴とばした。


「へっ、ガキが!」


上手くいったと黒鳥はしたり顔をし、なおもひな子の胸を揉んでいるが、揉まれている当の本人は何の反応も示さない。

それどころか『こんなことして面白い?』と言わんばかりのジト目をして、黒鳥のことをじっと見つめている。


小太郎たちや取り巻きたちも、お嬢さまらしからぬ異様な表情をしているひな子の様子に閉口し、身体を動かすことができないでいた。


「お前、旭川の令嬢って聞いてたのに、何だよその目は!こんなことされて何とも思わないのかよ!!?」


「あなたこそ、こんな痴漢行為を働いて良いと思っていますの?お父様やお母さまが悲しまれますわよ!?」


「うるせーよ!このアマ!!」


カッと頭に血が上った黒鳥は、今度はひな子のスカートをまくり上げる。

ひな子は黒タイツをはいているので、太ももが露わになることもなく、下着もうっすらとしか見えない。


それでも黒鳥は鬼の首を取ったように喜びだす。


「ほらほらパンツをタイツごと脱がしてやろうか?ああん」


「フッ、子供ですわね」


「くっ、くっ、くぅううううううっ!!!」


どんなに辱めても眉一つ動かさないひな子に、黒鳥は悔しそうに顔を歪ませる。

この女の泣きっ面をみるには、どうすればいいと怒りで考えがまとまらない黒鳥の背後から、見知った女の怒鳴り声が耳に直撃した。


「黒鳥先輩!女子生徒へのセクハラは退部どころか退学ですよ!?分かって旭川さんへの嫌がらせ行為をしてるのですか!!?」


「ちっ、小坂部かよ。メンドクセーなぁ」


「その手を離しなさい!」


愛奈が、ひな子と黒鳥のそばにズンズンと早歩きで迫ってくる。

だがひな子が愛奈に向かって腕を上げてストップをかけた。


「こちらへいらっしゃると、今度は小坂部さんが被害に遭います。この程度の暴漢でしたら、わたくし一人で十分です。こう見えてもわたくし、護身術をたしなんでますから」


そう言って、ニコリとひな子が愛奈に向けてほほ笑む。

愛奈はハッとして足を止めた。

黒鳥だけは真っ赤な顔をして、ひな子を睨みつけるのだ。


「クソッ、ふざけやがって!何が自分一人で十分だァ!?護身術をたしなんでるだァ!!?ひょろっひょろの女が格闘やってるオレっちに勝てるわけないだろォ!!!」


怒りにまかせて黒鳥は拳を大きく上げる。

その隙にひな子は黒鳥との距離を縮め、素早く彼の股間をにぎって軽くひねった。


黒鳥はその瞬間、『ぽうっ!』と間抜けな声を上げ、口から泡を吹いて大の字のままバタリと倒れる。


それを間近で見ていた男たちは、血の気がひいたような顔をして思わず自分の股間を手で隠す。

取り巻きの女たちは信じられないと言いたげな顔つきをして、ひな子を凝視する。


愛奈がおそるおそるひな子に近づいてきた。

そして唇を震わせながら言う。


「アレ、が、……護身術?」


「お爺さま直伝の護身術ですわ。男の暴漢なら一撃で行動不能にしてしまう優れ技ですのよ」


ひな子が腰に手をあてて胸を張って得意気に口にする。


周りの男たちはお互いに顔を合わせて、

『行動不能どころか、別の意味で不能になりそうだよ』

と口々に小声で言い合う。


愛奈は昼休みのこともあり、

『この人は、やっぱり考え方が並みの女の子と違う』

と再確認した。



そんなこんなで騒がしくしていたせいか、渡り廊下に人が集まって来たのだ。

養護教諭の楢井先生も尻を振りながら女の小走りでやって来る。


とりあえず泡吹いて倒れている黒鳥を医務室へ運ぶように取り巻きの男たちに伝え、こうなった原因を小太郎たちから説明させ、問題を起こした本人以外は特に何もなかったことを理由にこの場を収めようとした。


小太郎や真澄がひな子へのセクハラを問題視していたが、ひな子が大事にしたくないということで楢井先生がそれをくんだ形となる。


「それじゃあ泣き寝入りだ!」


「でも小太郎さん、こういうことが表ざたになると困るのはわたくしの方です。男の方には分からないと思いますが、女がキズモノにされたと世間様に知られると、結婚のさまたげになりますの」


「そうそう~、センセーもそう思うの~。加害者より被害者の方へ人の目が向くからね~」


「河本君が言ってることは正しいけど、矢面に立たされるのは旭川さんなのよ」


「――愛奈まで、分かったよ……」


女たちにそう言われると、小太郎は渋々と引き下がる。

話し合いが終わると楢井先生はまた、体を揺らしながら倒れた黒鳥が待つ医務室へと帰って行った。


ひな子は愛奈に一礼すると、今日のことは戦技研の部長の一志に言わないで欲しいと頼む。

恨みを大きくするのは得策ではない。

『これ以上、黒鳥と関わり合いになりたくないから』口にすると、愛奈はあっさりそれを受け入れた。


小太郎たちには『さっきのことは忘れて、冒険会の部屋に行きましょう』と急かす。

本当に気にしていないセクハラごときで、他の人たちに憐れまれるのはまっぴらごめんだと、ひな子は深い溜息を漏らしながら思うのだった。

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