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Episode13:お嬢さまと愛奈との違い

「わたくしには幼少のときから決められた許嫁がいますの。今さら小太郎さんに変わることは断じてありませんわ」


ひな子は”断じて”を強調して答える。

それでも愛奈は不審な眼差しをひな子に向けてきていた。


「河平麗華さんは旭川家の筆頭分家でして、自分の息子さんがわたくしの婿に指名されなかったことを妬んで、度々このような嫌がらせをなさるの」


「分家が本家に嫌がらせをするの?そんなのありえない……」


「旭川家は両親が亡くなってから、祖父母とわたくししかおりませんの。今は祖父の発言力が強いから何とかなってますけど、いつ分家の下剋上が起こってもおかしくはない状態なのですわ」


ほうっとため息をつき、ひな子は淡々と自分の家庭の事情を口にする。

ドロリとした人間関係を聞かされて、愛奈は少し身震いしていた。


愛奈の家は祖父が起こした事業を父親が引き継いで、次は二人の兄たちがその事業を継ぐんだろうな、くらいにしか思っていない家族経営で、本家がどうの分家がどうのなんてドラマでしか知らなかった。


「あとであんたは言葉をひっくり返すこと、ないよね?」


「旭川の名においてありませんわ。先ほども申しましたが、本家が弱っているときに血族ではない他家の婿養子を迎えることはリスクでしかありませんの。なにより分家衆が許さないでしょうし、――良くも悪くも長く続いている家系ですから……」


「じゃあ、あんたのその許嫁?っていう人も、旭川の分家の人なの?」


「そうですわ。そちらも他の分家より直系がほとんどおりませんので、結婚と同時に後継者をたくさん子供を生まなければなりませんのよ」


「はあ??」


ひな子が胸を張ってご機嫌でそう答えると、愛奈の思考能力を超えた話になったらしく、少し間の抜けた表情のままフリーズしていた。

彼女は婚約から結婚までしか想像をしていなかったが、ひな子はもう子供のことまで視野に入れている。

そういう現実的な生々しさに追いついていけないらしい……。


人からは勉強も部活もできる上、近寄りがたい雰囲気を持たれているが、愛奈はどちらか言えばカワイイ物を好み、物語のような恋に憧れるごく普通な女の子。

好きな男性とチャペルのある教会で、自分好みのウェディングドレスを身にまとい、みんなに祝福される結婚式を行い、ハネムーンは南国の静かなコテージで二人っきり――という夢を見ているくらいである。


「幸せな結婚なの?家の義務だからと子供をたくさん生みたいなんて、信じられない!」


「当然のことでしょう。()()()()()である限り、義務が生じるのはあたりまえのことです。わたくしに家を捨てろとおっしゃるの?」


「そうじゃない、そうじゃない……けど。相手の男の人のことは、どう思っているの?」


キツイ顔つきをしていた愛奈は、今ではひな子を心配する不安げな表情になっていた。

そんな彼女をよそに、ひな子は臆面もなく平然と答える。


「とても好ましく思ってますわ。あの方に相応しい伴侶になるために日々努力してますのよ、わたくし」


「……そう」


この人とは考える土台が違う、生きている場所も違う、考えも価値観も何もかも違いすぎる!


愛奈は、財閥の令嬢はこんなにも自分と違う存在なのだと、――認識した。

なけなしの勇気を振り絞って『小太郎をとらないで』と言った自分がバカみたいに思えるほど、ひな子は遠い存在なのだと――。


突如現れた美少女の転入生。

旭川財閥のご令嬢であり、小太郎のお爺さまとも祖父同士、親しい間柄だと耳にしたことがある。

小太郎のお家に住んでいると聞いて、悔しくて、悲しくて、夜に一人で泣いたりした。

負けたくないと思っても、家柄も容姿も人柄も、勝てるところがなに一つもない。

そして小太郎が嬉しそうに彼女に話しかけるのが許せなかった……。

だがひな子の数々の衝撃的な発言で、彼女に対する敵意も対抗意識も何もかも、すべて吹き飛んでしまった。


愛奈は張りつめていた緊張感が抜けて、心ここにあらずといった顔つきでひな子の手を取った。


「アタシ勘違いしてた。旭川さんっていい人だね。何かあったらアタシに遠慮なく相談して、きっと力になるから!――今日は、ごめんね」


旧世代のロボットのように口をパクパクさせて棒読みでそういうと、手を振りながらサンルームからフラフラと危うい足取りで出て行ったのだった。



そんな愛奈をニコニコ顔でひな子は見送ると、ホッと息を吐いてドカッと勢いよくベンチに腰掛ける。

ふふふふっと不敵に笑うと、自分しかいないサンルームで叫びだした。


「やったー!これで小阪部さんと和解できたァ!!当面の面倒ごとから脱すことができたァ!!!」


自分の交渉能力は悪くないとひな子がニンマリしていると、また黒いしっぽを振りながらヒナタが彼女の肩に乗る。


「どうでしたか!見ていただけましたか!?わたくしもやれば出来る子なんですよ!!」


《――いや、流石にドン引きだよ。ふつうの女の子は、あんなこと口にしないよ?》


「え?」


《小阪部って言ったかな、あの子。可哀想な人を見るような目をしてたよ》


「そんな、……馬鹿な!」


ヒナタから厳しいダメ出しを食らう。

何気に大ダメージを受けているひな子に、さらなる追い打ちをかけてきた。


《大体、今の女の子が結婚イコール子作りなんて思わないっての!》


「だって、本当のことでしょ?『早く子供作って地盤固めしないと、ワシらが死んだらどうすんじゃ』ってお爺さまがいうし……」


《まだ大丈夫だよ。爺様たち、みんな元気じゃん》


うつむいて涙目になっているひな子のほっぺたを頭でスリスリすると、ヒナタはにゃんと可愛らしく鳴いて去っていった。

それでもひな子は昼休みが終わるまで、一人サンルームで落ち込んでいるのでした。

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