Episode10:お嬢さまは許さない
だが、戦技研の部員たちは悪びれる様子もなく、会長の健人や小太郎の言葉に耳を貸すこともなく、相変わらずニヤニヤとあざ笑いながら、『退部~?退学~?だってよw』『そんなことあるワケないじゃん!』などとうそぶく。
小太郎はギリッと歯を噛み、怒りを堪えていた。
健人もこの話を聞かない集団に対して、何か打開策はないかと模索する。
裕也は『三室会長!河本センパイ!ファイトっス!!』と応援するだけだった。
仮想冒険同好会のメンバーに、道をゆずらないどころか暴力を働く戦闘技術研究部の部員たちの卑劣な態度に、今日初めてその光景を見たひな子ですら憤りを覚える。
殴られたカオルは複雑な顔をし、その後ろで気まずくたたずむ真澄を残して、ひな子は静かに戦技研の部員たちの眼前に現れた。
「あなたたち、恥を知りなさい!」
突然現れた黒髪の美少女の言葉に、戦技研の部員たち一瞬息を飲むように気圧されたが、それでもすぐにあざけり顔にもどる。
「あ~ん。あんたもあの腰抜けらの仲間かよ」
「なにが『恥を知りなさい!』よ、ねぇ」
「なぁんでちゅかぁ?ボクチンわかんな~い」
戦技研の部員たちは、今度はひな子を小ばかにして笑い出した。
前に出てきたひな子に驚いた小太郎が、彼女の方を向く。
「ひな子さん、ここは危ないから下がって」
「いいえ、下がりません。あのような無法の輩たちを野放しにしてはなりませんわ、小太郎さん」
焦り顔で止めようとする小太郎に、ひな子はそう言ってほほ笑んで見せた。
健人はひな子の行動を口出しせずに見守っている。
『うぇええええーっ』と声を漏らしながら、裕也は先輩たちの顔をきょろきょろと見回していた。
ひな子は一呼吸おいてから、戦技研の部員たちに向けて語りかけだした。
「人様に迷惑をかけて、その行いが良いとでも思っていますの?戦闘技術研究部では『テロから身を守り、また周りをも守ること』を目標としているとお聞きしましたが、あなた方が行っていることはテロリストたちと何一つ変わりません!」
「オレっちたちがテロリストだと――!?」
「私たちへの暴言だわ!取り消しなさい!!」
「お前、何さまのつもりだよ!」
あなたたちのしていることはテロリストと同じことだ、と、ひな子から指摘された戦技研の部員たちは、どよめきや怒号に近い声を上げる。
自分たちの戦技研が行っていることは正義だと信じ、厳しい訓練にも耐えて努力してきたというのに、一人の少女に『テロリストと同等』という不名誉な烙印を押されてしまった。
こんなことは認められないと戦技研の部員たちの怒りの矛先がひな子へと向かう。
さらに状況が悪化に向かって歩み出したそのとき、戦技研の部員たちの間をかき分けて来る者たちがひな子たちの前に進み出てきたのだ。
「そちらの女子生徒が言ってることは、至極当然なことだ。戦闘技術研究部の部員というだけで、自分が偉くなったと勘違いしているのか!一般の生徒に迷惑をかける事が許されるとでも思っているのか!!」
「カズくんとラブがいないからって、またケンカしてンの?……まじウザイんですけどー」
「これまで冒険会への嫌がらせを行わないように、再三注意をしてきました。部の方針に従えない部員は退部してもらいます!」
背丈の高く身体が引き締まった男子部員を先頭に、彼に腕組みしてしがみついているちょっと小柄で可愛らしい女子部員、その後ろには同じクラスの小阪部愛奈がムスッとした顔で立っていた。
冒険会の会長である健人は、背丈の高い男子部員を見据えて口を開いた。
「一志くん、今日はうちのメンバーからケガ人が出ました。さすがに小生もこれ以上は庇い立て出来ません」
「すまない健人。ここまで部員たちを増長させてしまったのは、戦闘技術研究部の部長である俺の不徳のいたすところだ。暴力を行った者も、ここにいる者たちすべてを厳重に処罰する」
戦技研の部長である田原一志が、そう口にした途端に部員たちに動揺が走る。
『何もそこまで……』『ちょっと手が当たったくらいで……』などと、自分たちは悪くないと主張する部員たちへ、険しい顔つきをしていた愛奈がキッとにらむ。
「『一般人を傷つける行いはしてはならない』これは戦技研の方針の一つです。部活で鍛えている力を罪のない一般生徒に向けたとき、今まで先輩方が築き上げた戦闘技術研究部の栄誉は霧散します。不満を言う前に、怠慢な己の心を律しなさい!」
あくまでも戦闘行為は対テロのためであって、私用で使うものではないと愛奈は凛とした眼差しで部員たちに伝える。
また全国でも屈指の仮想戦闘の名門学園でも、今日のような暴力一つでその地位も傾くと言い結ぶ。
それでもカオルを殴ったと思われる男子部員は、戦技研の部長である田原に軽口を叩く。
「いくらそこのオタクが田原の昔っからのダチだっていっても、オレっちたちにはカンケーねーよ。こんなザコ同好会の方が廃会すればいいんだ!そうだよなー、みんな!そうじゃね!?」
すると一部の戦技研の部員も『そうだ!そうだ!!』と男子部員に同調してはやし立てる。
田原はあきれた表情で、他の部員をあおる男子部員に言い放つ。
「黒鳥、旧知の仲がどうとかの問題じゃない。お前の行動一つで戦技研は簡単に廃部になってしまう。それはどこの部でも変わりはしない。そのことがどうして分からないんだ」
「へっ、ヘタレ部長はそればっかりだな。オレっちたちは、オレっちたちがやりたいようにすんだよ。アンタのキレイごとの押し付けなんざクソ食らえだ!」
黒鳥と呼ばれた男子部員は田原の足元に唾を吐くと、取り巻きを引き連れて部室の方へ悠々と歩いて行った。
立ち去る黒鳥や部員たちの後姿を見送りながら、田原が青い顔をして大きくため息をつくと、彼にしがみついていた可愛らしい女子部員が頭をなでる。
「よしよし、カズくんはがんばった!ラブはカズくんの雄姿をちゃ~んと見てたから安心してねン☆」
「……津川さん、そろそろ離れてくれないか?」
「カズくん、ラブのことは”ラブちゃん”って呼んでよ~」
足を内また気味にして瞳をウルウルとさせる津川という名の女子部員の姿に、後方からひな子たちの元へやって来たカオルがブホッと口から笑い声をもらす。
その直後に津川はギロリとカオルに向けて鋭い眼光を放った。
カオルは『おー、こわこわ』と言いながら、彼女から目線を反らした。




