混沌は終結し、そこには罪だけが残る
『それから先』に起こった事についてだが。
正直、あまり正確に覚えてはいない。
唯、一言で語るなら『阿鼻叫喚』とでも言うべき惨状だったと思う。
『私』の腰には拳銃があった。
『私』はそれを使うことに、何の躊躇いも無かった。何しろ、ハンナの近くに居る『人の形をした悪鬼ども』を蹴散らす事しか念頭になかったのだ。
多分、弾倉に残っていた弾丸は全て使い切ったと思う。‥‥何処へ目掛けて、何を撃ったのかも定かではないが‥‥
そして弾丸を使い切ったところで、『私』は村人の槍によって息絶えることになったのだろう。後で、血だらけになったアクセルの死体を見たような気がする。
とにかく、そこから先はひたすらに『反撃』と『乗り移り』の繰り返しだったとするのが妥当だろう。
誰に、どの順序で乗り移ったのか。その辺りは、もう何も覚えてはいない。
そのうち、パニックが頂点に達した村人同士が勝手に殺し合いを始めた。
『私』の乗り移りがあまりに頻繁なので、もう『誰』が魔女なのか分からなくなったのだ。
こうなったら、いちいち確認している暇などない。信じられるのは自分だけなのだから。
どれだけの時間が経ったのか。
『私』が気付いた時。
その眼前には、激しい雨に打たれ続ける死体の荒野が累々と広がっていた。
生臭い血潮の臭いが漂っている。
その様は、まるで凄惨な戦場のようでもあり‥‥
「‥‥。」
辺りを見渡すが。
誰ひとりとして、動いている者は居なかった。
「う‥‥」
全身に痛みが走る。
特に、手首と足首に強い痛みがある。
フラフラになりながも『私』は立ち上がった。
おや‥‥?
違和感を感じる。
何かが変だ。
違和感の正体はすぐに分かった。そう‥‥『視線が低い』のだ。
かつて感じた事が無いほどに、『視線が低い』?
『私』は、今‥‥『誰』なんだ‥‥?
辛うじて燃え燻っている松明を手にとり、水たまりを照らしてみる。
そして『私』は、その水たまりを覗き込んだ。
その水面に映ったのは。
「‥‥これは‥‥」
『私』は、ハンナになっていた。
ハッキリとした記憶はない。
だが、恐らくはどうにかして村人達の注意をハンナから『逸らす』事には成功したのだろう。
だが、その代償として『私』は死を覚悟しなくてはならないほどの重傷を負ったのだ。
そして。
ハンナを十字架から降ろした後、ほぼ無意識のうちにハンナへ『私』を移したのだ‥‥
雨は尚、天から『私』の身体を叩きのめしている。
『これ』をどう説明すれば良い?
この忌まわしき惨劇を。
いったい、何が『悪かった』のだ?
何処で狂ってしまったのだ?
村人達は本当に殺してよいほどの『悪魔』だったのか?
何が‥‥何が‥‥?
頭の中で考えが堂々巡りを続ける。
頬を伝う冷たい『水』が、雨なのか、それとも涙なのか。『私』には分からなかった。
冷たい雨が容赦なく『私』の体温を奪う。
身体が芯から冷えてくるのが分かる。
髪の毛が雨を吸って重くなっているのが感じられる。
『私』は、泥だらけになった自分の小さな掌をじっとみつめる。
神よ‥‥あなたは何をお望みなのですか?
どうして、この無垢な子羊達を救って下さらなかったのですか?
何故、尊い生命が無残に消え去るのをお止め頂けなかったのですか?
それとも、人の世に起こる事の全ては、人の手で始末せよと仰せなのですか?
神よ。
だとすればそれは、あまりにも無慈悲ではありますまいか!
彼らは皆、あなたの愛と救いを信じていたと言うのに‥‥
或いは神よ、あなたは『私』に此の結果の全てを受け止めよと言われるのか。
「無理だ‥‥」
私は地面に座り込み、そのまま両手をついた。
そしてゆっくりと首を振る。
「もう‥‥無理だ‥‥『私』の罪はあまりに重い‥‥」
ああ、分かっているとも。
その『罪状』は『私』ひとりの生命を捧げてすら贖う事が出来ないほどに重い。
これほどの悲劇を経て、『私』はやっと『魔女である事そのものが罪である』という意味を理解した。
だが。
『私』はこの先、どうすれば良いのだ?
この『私』に何が出来るというのだ?
どうすれば『これほどの罪』を償う事が出来る?
何を以って代えるのなら、『私』の魂は赦しを得る事が出来るというのか!
頼む‥‥誰か教えてくれ‥‥
どうか‥‥どうか‥‥!




