9 薬草と休息
レオと婚約破棄をしてから数日が経った。
私はお菓子を持って王宮医師団の部屋へ向かっている。
渡り廊下脇の薬草畑を見ると、セオドア先生の頭が見えた。
「セオドア先生!」
「デイジー嬢。今日も元気いっぱいですね。」
薬草畑から顔を出した先生は丸眼鏡を指で直し、細い目で優しく笑った。
「先生とお話ししたいのですが、休憩時間はありますか?」
「そうですね。これから少し休憩しましょうか。」
セオドア先生は薬草を抱えて渡り廊下へ出てきた。
「先生、ちゃんと休んでますか?」
ヨレヨレの服とヒョロヒョロの身体を見て聞いてみる。
「え?ああ、ちょっと昨日は王宮に泊まってしまって。」
はっと気づいて服についた薬草を軽くはたく。
「何しろこの世界には色々な薬草があって効能も素晴らしいですからね。なかなか仕事を切り上げられない。」
ハハハと笑う先生にちょっとムッとした。
「だからと言って不規則な生活は身体に良く無いですよね。ちゃんと寝てちゃんと食べてますか?身体は大切にして下さい。」
前世では持病で苦労した。健康な身体は奇跡だ。それを雑に扱うのは何だか我慢が出来ない。
「貴方の言う通りですね。ありがとうございます、気を付けます。」
セオドア先生は優しく笑った。
王宮医師団の部屋に着くと見習い医師達が働いていた。
セオドア先生は皆を休ませ、私が持ってきたお菓子を配った。
「さて、依頼されていた件ですが」
セオドア先生は大きなテーブルの片隅を雑に片付け、紅茶の入ったマグカップを置いた。
「一年前、高熱にかかった、もしくは死にそうになって王宮医師にかかった貴族はいませんでした。」
「そんな…。」
やはり簡単には見つからないか。では次はどうするか。人を使って城下町、町、村と一つ一つ当たっていくか。人を使うとなると…
「デイジー嬢、次の舞踏会はルーク殿下にエスコートされるんですね。」
思いがけない言葉に驚いて顔を上げると、セオドア先生がニコニコしていた。
「私の所まで噂は届いてますよ。ルーク殿下は素晴らしい王子様です。良かったですね。」
「良くは無いです。夢物語と現実の違いを実感しています。」
うなだれる私を優しい目で見るセオドア先生になんだか照れ臭くなった。そしてふと気になった。
「先生、婚約者はいらっしゃるの?」
「いません。残念ながら仕事が忙しくてそんな暇が無いのですよ。」
「仕事は自分で増やしているのでは無いですか?」
「そうですね。やりたい事が沢山あって。あ、ちゃんと身体は大切にします。」
笑う先生にホッとする。
「今日はベッドは貸せませんよ。不用心ですからね。」
仕事に戻る先生を眺めながら、薬草の匂いを嗅ぐ。
それから私は王宮を訪ねる度、セオドア先生を訪ねた。忙しく働く先生達にお菓子を届け休憩させ、かってにお茶を飲んで帰った。




