12 見つけた
私は渡り廊下をワンピース姿で走っていた。
頭の中で医師見習いの言葉がリピートする。
「以前、セオドア先生が一年程前に死にそうになって生き返った貴族はいません、とおっしゃってましたよね。でも……確かに貴族では無いですが、セオドア先生は一年前、馬車の事故で一時意識を失った事があるのです。」
なんで、なんで言ってくれなかったのか、何で気づかなかったのか。
廊下を駆け抜ける際、ルーク殿下とすれ違った気がするが気持ちも身体も止まらない。
「樹先生!!」
はぁはぁと息を切らしながら薬草畑に叫ぶと、ひょっこりとセオドア先生が顔を出した。
たまらず、駆け寄って先生に抱きついた。
「先生の馬鹿!!会いたかったぁああぁぁぁ…っ」
嗚咽でもう言葉にならない。
ずれた丸眼鏡を直しながらセオドア先生が言った。
「デイジー嬢…バレちゃったか」
先生はハハハと笑い、泣きじゃくる私の前髪をつついた。
「バレちゃったじゃないぃぃぃぃ」
ひとしきり泣いた後、先生がハンカチで顔を拭ってくれた。そして雑に前髪を直してくれた。
「前は前髪命ってよく言ってたのに、良いの?」
「それは、先生の前では前髪くらいキメてたかったから。…先生、好きです。先生が事故で居なくなってどれだけ後悔したか。でも、また会えるなんて」
また涙が溢れてくる。
「まさか、異世界転生ができるなんてね。しかも僕と君がね。…この世界では君は伯爵令嬢だ。何も僕を選ぶ事なんかない。憧れた世界だろ、だって金髪の王子様とダンスだって出来るんだ。」
先生の言葉に更に涙が溢れる。
「違う。私は先生が大好きなんです、つ、付き合ってください!!」
先生はもう一度、ハンカチで顔を拭いてくれた。
「僕の事なんて前世の気の迷いだよ。忘れた方が良い。もう一度言うけど君は伯爵令嬢なんだよ?」
「そして僕はしがない王宮医師だ。なんの権力もない。」
「ドレスだってきっと買ってあげられない。」
それでも良いと言う私に先生は大きく息を吸った。
少しの沈黙。
「分かった。観念する。僕も君が好きだ。」
すると渡り廊下からパチパチと拍手が上がった。
侍女マリー、医師見習い、侍従ジェフ、そしてルーク殿下がこちらを見守っていた。




