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ライトくん、お行儀!

「それぞれの利点で商売が成り立っているなら、共に良い方向に向かってるってワケじゃ無いのかい?」

「あたしたち商人としては、取引が深まること自体は有りがたい話なんですが、例えば魔道具生産は皇国領でも行われています。でも市場に帝国製品が多く流れますとそれに反発したり妬んだりする勢力も出て来まして」

「生活基盤が揺らげば不安にもなるわの~」

「そこに大戦時から続く種族主義を掲げる過激派の暗躍もあって、近年では双方で種族差別も台頭して来てるんです」

「おまけに、さっきみたいな輩が大勢で蛮行すれば――」

「俺の顔見て拒絶するのもやむを得ないってところか」

「ホントにすみません。人間族でもツトムさんのような差別意識の無い方も多くいらっしゃるのは分かっていたつもりなんですが……」

「ん、あんな目に遭えば当然だし、気にしてないさ。こうやって俺たちを信頼して仕事、依頼してくれてるんだからね」

「おおよ。おまけに女神さまに続いて、またしてもパイスラに有り付けとるしの~」

「ぱいすら?」

「おい、自重しろ!」


 道路交通法の無いこの世界では、シートベルト着用は義務でも何でもない。しかし予想も出来ない悪路に出くわす可能性は高いし、法で決められなくとも安全のためにはベルト着用は必然の行為だ。ゆえに勉もライトもシートベルト着用を強く勧めたのだ。決してライトの趣味を堪能させるためではない! ハズだ……


「あ、町の外壁が見えてきましたわ」


 ニーナが指を差しながら言った。周りは日没を迎え、やがて夕闇に染まる頃合いとなる。

 農場が広がる平地のおかげでかなり遠くまで見渡せる上に、城塞都市のような外壁に囲まれたシャンタの街は、まだ5km以上は有りそうな距離でも視認する事が出来た。

 

「どうやら思ったより距離は無かったようだの」

「ホントに宵の口前に着いてしまいましたね。驚きですよ!」

「舗装された道なら、この半分の時間でも行けるぞ」

「え、まさかそんな!」

「いやいや。さすがにそんな長い舗装路なんて無いだろ。せいぜい街中の石畳とか? さてと……ニーナさん、俺たちってこのまま町へ入ってもいいのかな? 身分証とか全く無いんだけど。それにライトが不審がられたりするかも?」

「あたしが一緒ですから入場は問題ありません。でも、ライトさんにはどう出ますか……馬車が喋るなんて大騒ぎになりそうですし、取り敢えずお話しするのは無しで。着く頃には露店等は店じまいしている時間ですから人目も少ないでしょう。店に着けば倉庫が有りますから一旦そこへ」

「わかった。俺たちは不慣れだからニーナさんの指示通りに動くよ」

「種族間の軋轢が有るなら主は大丈夫かの? 奇異に見られるとかはないか?」

「そうですね。今はまだ、お顔が伺えない方が良いかも……フードとか頬かむりのような物はございますか?」

「雨天ゲーム用のポンチョが有るよ。あれなら顔を隠せる」

「じゃあ、それで。門番には、あたしが全て話しますからお任せください」



         ♦



 ニーナの言う通り、街に入る頃には前照灯が必要なくらいに暗くなっていた。

 そのおかげもあり、人通りも少なく、ましてニーナの店の倉庫は街はずれにあったので人目は最小限だったように思う。とは言え、その少ない目撃者のほとんどには二度見されまくったが。

 それでも何とか大した騒ぎにはならず、無事倉庫に辿り着いたニーナは、明日の出荷確認に訪れていたニーナの父親にしてマルティネーゼ商会会頭のハン・マルティネーゼに事件の一部始終を説明した。


「ごめんなさいパパ。護衛も荷も見捨ててあたしだけ帰って来ちゃって」


 今回の不首尾、ニーナは父親であるハン会頭に詫びた。


「何を言っておるか。おまえが無事に帰って来てくれた以上に嬉しい事などない。いや、本当に良かった」


 愛娘をギュッと抱きしめるハン。

 台無しとなった商品のことはそっちのけで只々娘の無事を喜ぶハンの姿に、勉も思わず頬が緩んできた。ライトの勧め通り、同伴して正解だったと微笑む勉である。

 

「ツトム・タモンさん、だったね? 娘を窮地から救って頂いた事、誠に感謝に堪えない。本当にありがとう! 本来なら我が家に招いて感謝の宴など催したいところなのだが、今回の件の事後処理が切羽詰まっておってな。ろくな持て成しもできない事、深くお詫びしたい」


 ニーナと同じく狐耳の中年男ハン。外見はガチムチとまでは行かないが所謂ガッシリ型。180cm近い身長も相まって、父親としても商会の会頭としても威厳溢れる男性だ。

 加害者と同じ人間族である勉にも偏見を持たず、恩人に対して礼を尽くしているようにも見える。まあ、胸の内は如何なものか? 嫁入り前の愛娘に集るハエのように見てはいないか? などと、そこまでは窺い知れないが。


「もちろん承知しております。で無ければ我々も急いだ甲斐が有りませんし」

「痛み入る。盗賊に焼かれた商品再送の手配は今夜中にも済ませないと納期に間に合いそうにないので。別室にて食事を用意させよう。恩人の客間としては甚だ礼を逸するかと思うが、事の次第が終るまでどうか容赦してほしい」

「いえいえ、どうかお気遣いなく。屋根のあるところで無料で寝させていただくだけでも感謝ですよ」

「恐縮だ。早速、使用人に案内させよう」


 ハンの指示を受けた丁稚っぽい、日本でなら小学生高学年ほどの少年の従業員が、勉を部屋に案内した。オーガ族の子だとのことで、年齢のせいか可愛らしい角が額から生えている少年だった。


 部屋がなくともライトの中で車中泊は出来る。故に寝床の方の心配はしていなかったが食事は有り難い。

 時間が惜しいので昼食はフィールドで食べる予定だったお手製の握り飯をニーナと分け合っていたので少々物足りなかったところだ。非常用の固形携帯食と雰囲気を出すためミリタリーショップで購入したレーションも持ってきてはいたが、最後の手段に残しておきたかった。とは言え消費期限もあるし、食糧確保の目途が立てば喫食してしまうが吉だろう。


 出された食事はパンとスープにワイン、重量としては200gくらいの焼肉と、茹で野菜の盛り合わせだった。こちらの世界に来て初めての食事らしい食事なので、この献立が質素なのか標準なのか豪華なのかは皆目わからないが、給仕の少年が物欲しそうな眼をしていたところを見ると、少なくとも標準以上なのだろう。

 しかし寝床は簡易なベッドが置かれただけの狭い部屋だった。夜番の詰所か仮眠所と言ったところか。

 それでもベッドで大の字になって寝られるのは良い。だが、やはり初日と言う事もあってライトと反省会はやっておきたいところ。ニーナやハンがいつまで動くかにもよるが、夜半には合流したいと思う。

 実のところ、この状態でもスマホのBluetoothで通話できるセッティングを講じては有るが、一人でブツブツ会話っぽい独り言を漏らしているところをさっきの丁稚くんにでも目撃されたら……。種族間の感情もあり、何を報告されるやら。ニーナ襲撃の件もあり、加害勢力の回し者と疑われる可能性も考えられなくもない。

 偶然ではあるが慣れない世界で生まれたこの縁は、こちらの世相をより深く知る上でも大事にしたいところである。



 時刻は午後10時をちょいと過ぎた。

 耳を澄ますと、作業している音がほぼ聞こえなくなった。

 勉はそろそろ頃合いとみて倉庫に向かった。

 と、階段を下りて倉庫に向かう途中。倉庫入口から離れた廊下中央にある事務所の横まで来て、勉は足を止めた。灯りが漏れていたからである。

つまり、人がいる。


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