ライトくんはご機嫌だぜ
「あ、あの~」
「おっと、ごめんごめん。じゃあ、このお金と、この辺の情報提供を条件に依頼を受けるってことで」
「あ、ありがとうございます! でも今夜中に着くとはとても……」
「まあその辺はワイに任せなさい! ところで主、グリルの様子はどうか? 曲がったり割れたりしとらんか?」
「ああ、ええと……ありゃ、ヒビ入ってるな」
「くそ、やっぱりか! 主、スマホ持っとるやろ? 撮影して見せてくれ!」
「お、おう。ちょいと待て」
勉はライトに急かされてスマホで破損部分を撮影した。そのまま前方カメラに近づけてライトに見せる。
「ぎゃああああ! こんなんほっといたら、いずれ割れてまうがなー! 主、この下手くそペーパードライバ! さっさとリペアせぇ!」
「うっせえな、AEB切れてんのに気付かないポンコツAIのくせによ! つか、直したくても接着剤もパテも無いしさぁ」
「あの、差し出がましいようですが……」
「ほい?」
「はい?」
「もしもこの馬車さんが「生きた馬車」なら、あたしの回復魔法で治るかも……」
「お? そんな事できるんか?」
「君も魔法が使えるの?」
「ええ、初級ながら回復系の魔法を嗜んでおりまして」
「頼む頼む! やってくれたら主のケツ蹴っ飛ばしてでも夕方までに送り届けるぞい!」
「手も足も無いくせに、どうやって蹴っ飛ばすのか説明してもらおうか!」
「嬢ちゃん、ぜひ試してくれ!」
「はい、じゃあ」
ニーナはグリルの破損部に手を当てて小声で詠唱を始めた。当該箇所付近がポワっと明るくなった気もする。
「お~、なんかポカポカするのぉ~」
そのままニーナは、しばし念を込め続けた。
だが、やがて、
「はあ……」
と息をついて、念を緩めた。やはり現地民にも魔力放出時間などに限度があるようだ。
「どうだ主?」
「う~ん。ヒビ割れの隙間は小さくなったと思うけど、直ったワケじゃ無いな」
「そんなぁ~、ワイのグリルぅ~」
「すみません、やはり勝手が違うようで……もっと上級の、国軍の魔導士クラスなら或いは……」
「ん? もしやレベルが足りんのか? もっと高レベルなら直るんか? ならば……おい主、出番だぞ!」
「あ? 俺が何を……あ、そうか。ごめんニーナさん、肩に手を掛けるよ?」
そう言うと勉は、ニーナの後ろに回って両肩に手を置いた。
「このままで、もう一度お願いできる?」
「あ、はい」
再度、ニーナの詠唱が始まった。それに合わせて勉も念を込める。
しかして今度の明るさは先ほどより数段上であった。
そして、見る見るうちに損傷したグリルが修繕されていく。
「はあ……いかがでしょうか?」
「どうじゃ主?」
「ん~……OKだ、新品同様に直ったぞ!」
「マジか!? 見たい見たい!」
「ん、ちょっと待て」
勉は再度スマホのカメラで修復箇所を撮影して、ライトの前方カメラに翳した。
「見えるか、ライト?」
「おー! 直っとる直っとる! おっしゃ~!」
勉の完治宣言に、ライトは前照灯、車幅灯にハザードランプをピカピカ点滅させて喜んだ。よほどこのグリルに拘りが有るようだ。
「い、いまのは……あたしだけの魔法では効かな……あ! もしかして、あなたは付与魔導士?」
「正解。俺も攻撃魔法とか防御魔法はからっきしなんだけど、戦士や魔法使いの攻撃力とか魔法力を増大させる事が出来るんだ。人間以外にも武器や道具にも掛けられるみたいでさ」
そう。今、ニーナの回復魔法を強化したように、勉は例のガスガンにも強化魔法を施していた。結果は件のごとし。
強化されたBB弾の強度、初速は実包並みのエネルギーを持ってあの盗賊の歯を砕き、額に当たった弾は脳震盪を起こさせるだけのパワーを持っていた。
突撃前に森の木を標的にして付与を試した時は、思い余って全力強化で発射し、直径5~6cmの枝をへし折る――と言うか吹き飛ばしてしまうほどの威力を見せた。ちょっとしたマグナム弾・ライフル弾クラスである。
いくら強化されているとは言え、所詮は直径6mm。それこそ大昔の火縄銃の玉よりもちんまいBB弾がこれほどパワーアップするとは。因みに初撃の時は銃だけ強化し、弾の方は忘れていたので着弾と共に木っ端微塵に飛び散ってしまったが。
ライトに比べて転移特典がショボくてガッカリだった勉の胸の内は、それらマイナス面を吹き飛ばす高揚感に沸いた。と同時に、そこはかとない恐怖心も。
何せ威力をギリギリまで抑え、共有するルールも有りとは言え、気軽に人に向けて撃っていたオモチャに実弾レベルのパワーを持たせられてしまうのだ。
故に実戦ではセーブしていたつもりだったが、結果は歯を砕いてしまうほどの威力であった。当然、喉や額には食い込んでいただろうし、放置したままの火傷男がどうなったかは不明だ。正直なところ、知るのが怖くて無視したわけだが。
サバゲでメインウェポンとして使っていた電動小銃HK416も、使い方次第では虐殺兵器にもなりそうで、細かい制御を行う訓練は必須となりそうだ。
あれから一行は後始末もそこそこに、ニーナの実家に向けて出発した。
倒された護衛は所属する冒険者ギルドに報告するためにギルド証と路銀、形見として武器や指輪のみを回収。時間が惜しく、残念ながら埋葬までは出来なかった。
だがこちらでは、盗賊にしても護衛――冒険者にしても死後、弔われる方が珍しくて概ね野ざらしだという。死体はそれほど時間をおかず、肉食獣が始末してしまうのだそうな。
「す、すごい! こ、こんな速さで走れるなんて!」
「でもまあ、時速40km程度だし」
森を抜けて視界の広がった街道に出た一行。多少は速度を挙げられたが所詮は未舗装――ほぼオフロードである。この速度でも結構、気を使わねばならない。
「確かに早馬ならこのくらいの速度は出せますが、疲労で馬が潰れてしまいますので精々10分程度です。何より乗り心地も雲泥の差ですよ」
「いや~。未舗装路だし結構揺れてると思うけど」
「揺れ方が全然違いますよ。馬車ならもっとこう、ガンガン突き上げられますけどライトさんはとてもマイルドと言うか。それにこの座席、座り心地がお貴族さまに納品した最高級リムジン馬車より素晴らしいです!」
「お褒めに預かり光栄だの~」
ライトは上機嫌だった。
高級ブランドのエンブレムを頂くのは伊達ではない。内装も静粛性も懸架装置のしなやかさも頭一つ抜けているのである。
さて、勉とライトの二人はシャンタ町への道中、ニーナからこの界隈の状況の説明を受けた。
大雑把に言うとサマエルと言う名の大魔神を皇帝に頂く魔族中心の魔導帝国と、人間族が主流のヒューリー皇王が治めるルーン皇国が二大大国として覇権を競っている状態だそうな。
競ってはいるが現在においては戦争と呼べるほどの軍事衝突はなく、隣接する属領・属国が時折り小競り合いをする程度との事。
昔は双方伸るか反るかの総力戦を繰り広げたことも有るが、そのせいで両陣営ともに疲弊し、内乱による国内分断も危惧されて、両国政府は休戦を選ばざるを得なかったという。
それから数十年、双方とも自国の復興に力を入れてきたわけだが、大戦時の影響で魔族と人間族の軋轢は残ってしまっているという。ニーナの一件もその一つと言えそうだ。
とは言え経済成長・発展を目指すには両国とも、それぞれの特産品や技術の共有も必要とする場面も多くなってくる。
人間族より魔力の強い魔族はその職人による魔道具の数々を、人間族――と言うより皇国領の豊かで肥沃な大地が生み出す様々な農産物をそれぞれが欲し合い、今現在は商取引量が右肩上がりに有るという。




