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初めてのケモ娘

「ひ、ひぃ!」


 ダガーで狙う仲間に一瞬、希望が見えた強姦男だったが瞬時に撃退されて恐怖感更に倍、てな顔になった。

火傷男の制圧を確信し、再び振り返って強姦男に照準する勉。


 だ が 、


 ――ひええ。サバゲの「撃たれる前に撃て!」状態だったから即座に撃っちゃったけど! 状況次第で身体が勝手に動くって元陸自のゲーマーさんも言ってたけどマジだったぁ~。やっちゃったかな? 殺っちゃったのかな俺!? だってアイツ、ダガー投げつけようとしてたしぃ。正当防衛だよね、だよね!


と、パニクリ具合は勉も似たようなものだった。

そりゃあ銃器の扱いくらいは問題ない勉だが、本格的な軍事訓練などはもちろん、自衛隊体験入隊すらも受けた事は無い。

 ゲームでのバトルは、お互いが共通のルールを認識し合って安全に十分配慮しての銃撃戦である。だから平気で遠慮なく撃ち合う事も出来るのだが。

眼前の、マジで切った張った・殺らなきゃ殺られるなんて修羅場とは当然、次元が違っている。勉の緊張の糸は張り詰める一方だった。


「う……うわあぁぁ!」

 ――え?


 強姦男が突然叫び出した。どうやら勉より先に脳内の糸が切れたようだ。

 

 ドンッ!

「きゃ!」


男は勉に向けて女を突き飛ばすと、一目散に逃げだした。


「え、ちょ!」


 予想外の反応に、手前に転がる女と逃げる強姦男を交互に――エサを啄むニワトリのように頭をカクカクさせながら目で追った。


強姦男の逃げ足は素早かった。後ろ姿が、あっと言う間にみるみる小さくなっていく。


 ――脱兎の如くって、ホントこれだな~。てか、逃げるんなら最初っからさっさと逃げてくれてりゃ良かったのに……


取り敢えず緊張状態からは解放された勉。強張った身体を落ち着かせるために一回「ふぃ~」と深呼吸。

その後、気を取り直して倒れ込んでいる女性に近付き、


「大丈夫かい?」


と声を掛ける。

 だが、当の女性は顔を上げるも、


「ひ、人間(ヒューマン)族! いや!」


彼女は勉の顔を見るなり、小さく叫びながら後退(あとずさ)った。


 ――え? 人間だから何? ん? ()って? あ……


 よくよく見ると女性の頭には、それはそれは見事なケモ耳が(そそ)り立っていたのだ。

 彼女が人外の種族だと一目で分かるこの現状、やはりここは異世界なのだ――そんな実感が勉にも一気に湧いてきた。と言うか、突き付けられたと言うか射貫かれたと言うか。


「ケ、ケモ耳? じゃあ君は獣人とか亜人とか?」

「違うわ! あたしは妖狐族よ!」

「よ、妖狐族?」


 更に注視すると彼女は顔や手足に体毛は無く、一見しただけでは人間と大差は見られない。が、立派なキツネ耳とフサフサの尻尾が狐族であることを物語っている。


 ――ケモ(ムス)……マジでいるんだ。いや、初めて見た~


 そりゃそうであろう。まあ日本でも、イベント時のビッグサイトやインテックスに行けば見られるかもだが、彼女らは……言葉は悪いがパチモンである。

 その辺りの予備訓練(?)もあり、勉は自分でも意外なほど、すんなり受け入れられた様子。

 と、それは一時棚上げ。今は目の前の妖狐娘の件について。


「そ、それ以上近寄らないで!」


 言われて勉は倒れている盗賊、そして彼女の仲間であろう護衛も改めて見直した。

 盗賊どもは見慣れた人間たち。護衛らは、人間と同じく五体を持つ体ながら角を生やしていたり、爬虫類のような肌を持っている者だったり。


 ――て事は……被害者が魔族で悪党は人間と。異世界モノだと大抵、この逆だけどな


 などと、今以って異世界基準がラノベやコミックに偏ってしまう勉。とは言え、他にサンプルがない以上はそれに頼りつつ、徐々にアップデートするしかない。

 大体が、人間以外の種族――魔族が存在するファンタジック世界が現実として目の前に広がっているのだし。


「と、とにかく落ち着いて。俺はその、なんだ……そう、俺は生まれも育ちもこことは全然違う遠方の国でさ。ここに流れ着いたのは最近で、種族間の関係とか知らなくて!」

「……」

「ど、どうしても信じられないってんなら俺たち、このまま立ち去るけど……でも、こんな森の中に女性を一人置いてきぼりってのもまあ、寝覚めが悪くてさ」

「……」


 女妖狐は改めて周りを見回した。そして自分と目の前の男以外、動いている者が居ないことに気付かされる。

 妖狐は勉に警戒しながらも倒された護衛に近づき、様子を窺った。そっと脈を確かめるが、すぐに落胆の表情に変わる。


「ごめんなさい……」


 妖狐は謝った。

 職務とは言え、自分を守るために命を投げ出したのだ。当然、申し訳なさも有るだろう。


「助けてもらえたのに疑うような事を言って……」

 ――あ、俺のことだった。

「あたしの名はニーナ。ニーナ・マルティネーゼ。妖狐族で魔導帝国のシャンタと言う街の商家の娘です。人間族の、ルーン皇国に商品を運ぶ途中でした」

「そっか。そこでコイツらに襲われたと。でも変だな?」

「変?」

「こいつら盗賊では有るんだろうけど、肝心の荷は燃やしてるし最終的には君も殺そうとしていたみたいなんだけど……」

「……」


 それは妖狐を人質に取られた辺りから気になっていた事だ。

荷は炎上、倒された護衛の遺体を漁るでもなく、女を人買いに売るわけでも無さそうな、およそ盗賊らしからぬ動きだったからだが。唯一、荒くれ者らしい所業が強姦だけとか。


「一番の目的は運ぶ荷物――商品を台無しにする事だと思います」

「君を殺そうとしたのは?」

「そうすれば実家への連絡が遅れます。この荷の取引が不成立になり、実家はその責任を問われることになる、そんな段取りかと……」

「取引そのものを潰そうとしてるっての? え? 何かの妨害工作とか? う~ん……普通の物盗りかと思ったけど、なんか大ごとになって来たな」

「でも実家に戻ろうにも馬車も燃やされてしまったし、馬も……。徒歩で帰るにはここからだと3日はかかる距離……」

 

 ニーナはチラッと、ライトに目を向けた。


「あれは、あなたの馬車ですか?」

「え? ああ、まあ俺のだけど、馬車とはちょっと違うけどねぇ」

「そうですね。見たところ馬も牛も繋がれていないし、どうやって動いているのか……でも乗り物なんですよね? 馬車くらいの速度は出せますか?」

「あ、ああ。一応は、ね」

「では、お願いが有ります。あたしを実家まで送って頂けませんか? もちろん報酬は払います。まずはこの手持ちを前金として!」


 ニーナは腰の雑嚢から小袋を取り出し、勉に差し出した。ジャラッと言う音がしたので中は貨幣か金銀か?


「あ、ええと。お、俺はいいけど、取り敢えず相棒の意見も聞かないと……」

「相棒? どなたかまだ、いらっしゃるのかしら?」

「てか、この乗り物自体が相棒って言うか……まあこっちへ」


 勉は訝しがるニーナを連れてライトの元に戻った。近づくにつれ、ニーナの目の色が変わって来る。


「こ、これは……見た事も無い形の馬車ですね。表面は濃い灰色で、ものすごく磨き込まれているけど……でもこれは木材に亜麻仁油や蜜蝋で塗ったものでもない……まさか鉄か青銅? でも、そんな重い物……」

「おお、やっと戻って来たか。4人も仕留めたのに放ったらかしにされてイジける寸前だったぞ」

「しゃ、喋った! 馬車が!」


 ニーナは派手に驚いた。尻尾がピーンと突き上がり、ケモ耳は防御姿勢か後ろに向いている。まあ現代日本人でも驚きますわな。


「あ、ああ、これは車には違いないけど特殊な……そう、生きた馬車と言うか、人格を持った魔道馬車と言うか」

「そ、そんな魔道具がいつの間に! うちの商会でも食料品から農機具・雑貨まで扱っておりますし魔道具の商いも有りますけど、このようなモノは寡聞にして……」

「ま、まあ細かいことは後で。なあライト、実は彼女に相談を受けたんだけど」

「おう、聞こえとったぞ。要するにこの狐っ子を家まで送ればいいんだな? まあその道中、このあたりの実情を聞かせてもらえりゃ有り難いし、反対はせんぞ」

「受けて頂けますか! 明後日の出来るだけ早い内に戻れますでしょうか!?」

「徒歩で3日だったな? 一日14~5時間歩いたとして3日の工程と考えても200キロは無いな。今は午前11時……ゆっくり走っても今夜中には着けるだろ」

「こ、今夜に! ゆっくりで!? まさかそんな!」

「早いのは構わないんだろ? でもそんなに切迫した事情が?」

「主よ。おぬしも一応は一端の社会人やろがい。明後日までに戻って再送の手配すりゃ、納期には間に合う――このくらい連想出来んか?」

「お前、言葉にどんどんトゲ生えて来てるな! 確認しただけやろがい、フン!」



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