グリルは車の魂でして……
「や! 人、跳ねた方を気にせぇよ! グリルなんか二の次だろ!」
「アホ抜かせ! このスピンドルグリルはワイらのブランドのアイデンティティだぞ! なにより守るシンボルぞ!」
「そんな高級ブランド車なのに衝突被害軽減ブレーキも付いてねぇのかよ! 最低グレードか!?」
「馬鹿にすんな、当然付いて……ああー! AEBもレーンキープアシストもオフになっとる! あ、女神さまが操縦に邪魔だっつーてアシストはみんな切っとったんだったー!」
「ああもう。今まで無事故無違反のゴールド免許だったのに!」
「単なるペーパードライバーだろうにカッコつけおって。てかこっちには交通警察なんぞ居らんのだし細けぇことは気にするな……おっと主、寄ってきおったぞ?」
「なんだこりゃ……馬車……いや違う」
「木じゃねぇな。鉄……鉄で出来てんのか?」
「む! 誰か乗ってるぞ! こいつの仕業だな!」
「一人か。引き摺り降ろしてケジメつけたれ!」
盗賊が何人か寄って来た。
全身火傷で転がっている奴に頭目、女を押えながらも唖然とした表情でライトを見る強姦盗賊以外の4人だ。
「おい、てめぇ! よくもウチの者に上等こいてくれやがったな! 覚悟は出来てんだろうなぁ!」
「降りて来やがれ! 八つ裂きにしてくれっぞ!」
シャレもヒネリも無い、定番通りの恫喝を始める盗賊たち。対して勉とライトは……
「全員ロックオンしたな」
モニター画面に正面カメラが捉えた盗賊4人が映る。その上半身辺りに四角枠のマーカーが現れ、やがて「ピピピ!」と点滅を始める。
「主、シフトをNに!」
「シフトN!」
「よし! P・T・O、モードスーパーオルタネータ接続完了! 主、アクセル全開だ!」
「了解!」
ブオォォン!
咆哮を上げるV6魔素仕様エンジン()。タコメーターがレッドゾーン近くまで一気に上昇。同時に前照灯が光り輝く。
「う、なんだ。なにが……」
「気を付けろ! 仕掛けてくるぞ!」
頭目が警告を飛ばす。
それを受けて4人は得物を握り直した。そしてその中の戦斧を持った盗賊が、
「うおお、先手必勝ぉ!」
得物を振り被り、突進してきた。
「ライト!」
「行くぞー! ライトニング・ショット!」
バババ――ン!
裸眼のままを許さない、凄まじい閃光が周辺を包む。ライトの前照灯から稲妻の如き雷撃が放たれたのだ。
「ほげ!」
直撃を受けたハルバート男は全身の神経と筋肉を瞬時に焼かれ、その場に卒倒よろしく転倒した。
続いてライトは、
バン! バゴン! バゴゴォン!
残る、剣や槍を持った盗賊3人を同様に雷撃し、撃退した。正に矢継ぎ早の攻撃であった。
3人はほぼ同時、雷撃による閃光の直後、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。最後の痙攣すらも無く。
「わははは! 百発百中だぞ主! そりゃあ、金属の槍斧だの剣だの持ってりゃ通電しやすいわなぁ」
「避雷針の効果みたいなもんか」
「そうでなくてもこの距離なら外しはせんかったろうがな。いやいや、思ったより楽勝だったわ。これなら本気出せば、10人でも20人でも相手出来そうだて。さて、残りは2人か」
そう、2人は健在だった。しかし、
ダッ!
――え?
頭目は踵を返すと一目散に逃げだした。
「ちょ! 頭ァ!」
見捨てられた形の強姦男は、逃げる頭目の後ろ姿とライトを交互に見回していた。そして、
バム!
ドアの閉じる音で我に返り、降りてきた勉を震える目で凝視した。
「ち、ちくしょう!」
「きゃ!」
最後に残った(残された)強姦男は女を抱きかかえて、彼女の首に短剣を突き立てた。
「う、動くな!」
「ヒ、ヒィ……」
「動くとこの女ァ、喉を掻っ捌くぞ!」
人質にとって逃亡を図るか? ヤツにとっては最後の手段と言ったところだが。
「自分も逃げりゃいいのに……」
「面識のない人間を人質に取られてものう。ずいぶんパニクっとるな? しかしおかげでワイの雷撃は使えなくなった。あの女には色々と聞きたい事もあるし、纏めて雷撃と言う訳にはいかん。主よ、ここからは主の見せ場だ。得意魔法の試し斬りだな」
「やり方はさっきので分かったけど……加減がなぁ」
「ダメだったら女は諦めてワイが攻撃するぞ? 主の安全が第一だからな。あと一発ならバッテリー残量でどうにかなるぞい」
「おまえホント、時々外道だな」
「極力、野郎だけを狙うつもりじゃ。まあ、女を強姦したり、仲間見捨てて逃げ出すよりマシだろうて」
ふう……勉はひとつ嘆息すると、腰のホルスターからCZ-P09を抜いた。
シャカ……シャコン!
遊底を引いて放し、初弾を薬室に装てんする。両手で握り、銃口を下方向に向けたまま前進開始。
「く、来るな! マジでコイツ殺すぞ!」
「そう興奮するなよ。別に俺はあんたをどうこうするつもりは無いんだ。その女性置いて逃げるんなら追いかけたりしないし、どこへでも好きに行ってくれていい」
「信じられるか! そ、それにこの女の始末も仕事で!」
――仕事? 物盗りだけの盗賊じゃ無い? 殺しも請け負ってる?
勉は背筋が寒くなった。先ほどライトとも話していた事だが、この世界の治安は日本とは比べるべくも無いほどに悪そうだという見立ては一致していた。しかしこれほど簡単に、殺人の依頼を受ける奴と見えるなど、ライトを外道呼ばわりした自分が単に甘ちゃんだったのかと思い知らされる。
「……俺はあんたみたいな悪党でも殺しはしたくない。でもその女性を傷つけようってんならやるしかないよ。その結果として、もし死んだとしても……まあ恨むなよ?」
ハッタリ8割で懸命に冷静を装って警告する勉はP-09の狙いを付けた。正直、本音では逃げ出してほしいと言う気持ちでいっぱいなのだが。口内はどんどん酸っぱくなるし、胃もキュ~っと締め付けられる思いだ。
対して賊の方も戸惑っていた。勉が構えている物は初めて見る得物だ。何が起きるか、何が起こされるのか皆目わからない。しかも4人を一瞬で倒した雷撃魔法使い。いま手に持っているのがそれを繰り出す錫杖のような魔道具かもしれないと。
などと思考が錯綜し、強姦男の目線は全く落ち着いていない――のだが、ついと、
――!
賊の目が勉から逸れた。勉の斜め後方に。
その目線の動きに強い悪寒が走った勉は、P-09を構えたまま、後ろを振り返った。
「く!」
勉の目に入ったのは、半身を必死に起こし、今にも自分にダガーを投げつけようとしている火傷男だった。
――ちぃ!
そいつを見た途端、勉は引鉄を引いた。引いていた。
バシュッ!
撃鉄が落ち、ガスが放出されてBB弾が加速を始める。と同時に遊底が後退。
放たれる6ミリBB弾。だがしかし、勉のP-09から飛び出したBB弾の初速は通常のガスガンの非では無かった。
バキィッ!
弾は食いしばる火傷男の口に命中した。そしてそのまま前歯3~4本を粉砕し、口内に食い込んだ。
思わずダガーを落とし、火傷男は激痛の走る口を押えて動きを止めた。
そこへ、
バシュッ! バシュッ!
更に二連射。その二発のうち一発は、歯を砕かれて動きの止まった火傷男の額に命中。ヤツは頭を後ろに反らせるだけ反れるほどの衝撃を受けて意識を失い、そのまま地面にドシャ! と突っ伏した。




