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外道なAI

「いや、なんも。ワイをしこたま乗り回して楽しんでくれた後は『次の世界でも頑張ってね~』なんつって送り出されたんだが?」

「お前にも説明されて無いのか。仮に、この世界の何者かが召喚した――とかなら目的が有るだろうし、呼び出したんだから戻る方法もあったかもしれないけど。何の理由説明もなくて、いきなりの転移とかなぁ。てことは、日本に帰るのは望み薄なのかな?」

「あの時はワイも坂道滑り落ちていったようなもんでの。その勢いで跳ねたんなら……とても無事とは思えんし、遺体もぐちゃんこで今ごろ火葬も終わっとるかものぅ」

「他人事だな~。おまえの前オーナーが一緒だったら、二度目のあの世に送ってやりたくなったろうな!」

「ワイも(あるじ)を跳ねた後に、何かに乗り上げて宙に舞ったとこまでは薄っすらと。この転移が無ければワンチャン廃車だったかも? けど女神さまが気合い入れて直してくれたようでなぁ」

「まあ俺も五体満足だし、あのままお陀仏よりかは恵まれてんのかな? それにしても少しくらいは説明とか、欲しかったよ。俺は日本じゃ天涯孤独ってわけでも無かったんだし」

「未練があるか? 愛しい恋人のもとに帰りたいとか?」

「あ~、そう言うのは無い……なぁ……」

「年齢=彼女無し歴ってクチかや?」

「そこまでじゃねぇよ! 大学時代に付き合ってた()くらい居たさ!」

「でも、今はおらん?」

「在学中に別れちまったからな。『あんたと話してても、あまり楽しくない』とか言われてよぉ。聞かれたことに真摯に答えたり、愚痴って来ることに解決策考えたりしてあげてたつもりなんだけど」

「う~む。いや、寧ろそこがアカンかったんじゃないか? 女の愚痴は聞いてもらうことが目的やからのう。理屈だの道理だの返されても窮屈したんじゃないかや?」

「職場の先輩にもそう言われたよ。だからそう言うの面倒くさくなってきてさぁ。んで、趣味に走るようになったんだけど」

「なるほど、色恋に関しては無問題か。家族はどうじゃ?」

「大学入ってからずっと一人暮らしだし。俺より出来のいい兄貴がしっかり家庭もって、親に初孫の顔見せて喜ばせたりで、疎外感は有ったかな? どうせ次男だから独立しなくちゃいけねぇし」

「なるほど、異世界向きなキャラじゃな」

「まさかそんなんで選ばれたってんのか? ふざけるのも大概に……いや、それならやっぱり使命とか目的とか、有っても良さそうだけど?」

「まあ、その辺はなぁ。つーてもそんなモンが有るなら、少なくともワイには話しとると思うがのう」

「おまえの操縦に夢中で、すっかり忘れたぁ! なんて?」

「否定は出来んかの~」

「なんかスッキリしないなぁ」

「存外、神様連中の帳尻合わせかソロバン勘定てのがオチだったり?」

「無責任だなぁ。目的も無しにどう動けばいいんだか」

「そりゃ前世でも同じでないかな? 明確な人生目標抱えて生きとる者ってな、そうはおるまい?」

「……ライトって時々達観した物の言い方するなぁ。年輩っつーか年寄りっつーか」

「年寄りとはなんぞ! 登録されてまだ3年だぞ!」

「でも車って、10年10万キロが目安だし? 人間で言えばとっくにおっさんだろ」

「昔の話だ。今のワイたちは、ちゃんとメンテしてくれれば20年でも30年でも行けるぞ!」

「そういやウチの爺ちゃん、昔の犬猫は7~8年で逝くのがザラだったけど、最近は倍以上寿命伸びてるって言ってたな?」

「言うに事欠いて犬猫扱いとか! 犬猫は抜け毛とか隙間に入り込むと悪臭の元になるし、何より粗相したら……ん? おい、主!」

「は? どうした?」

「あれ、煙ではないか?」

「煙? こんな森の中で?」


 ライトが前方の異常を訴えて来た。

勉は警戒のために、車を停止させて前方を凝視した。

 なるほど、樹々の間に白い(もや)のようなモノが広がりつつあるようだ。


「霧……にしちゃ動きが変かな?」

「外部センサーで気温と湿度を調べたが、霧が発生しそうにはないんだが」


 勉は窓を開けてみた。僅かに焦げ臭い匂いが漂ってきた。

 どうやら煙で間違いはなさそうだ。街道を包んでしまうような大火事なら引き返す事も考えなければならないが。

 勉はバッグからサバゲで使っている双眼鏡を取り出した。前方を詳しく調べる。


「主はいつもそんな物を持ち歩いとるのか? もしや覗きが趣味とか?」

「違うわ! 俺は最近サバゲにハマってたんだよ! お前に跳ねられた時もゲームの帰りだったんだ!」

「て事は鉄砲も持っとるのか? 武器に出来そうか?」

「無茶言うなよ。規制で0.989ジュール以上の威力のエアガンはご法度なんだ。そりゃ目に当たれば失明も有るかもだけど、そんなピンポイントで狙えるもんじゃないし。お、やっぱり火事だな」


 勉が双眼鏡で現場を確認した。樹木ではなく、街道の真ん中で何かが燃えている様だ。


「燃えているのは……荷馬車かな? ん? 襲われてんのか?」

「らしいな。どう見てもカタギには見えん人相の連中が取り囲んでおる。盗賊の襲撃と言ったところか」

「見えるのか?」

「前方カメラをズームしてみた。本来そんな機能は無かったんだが女神さまのご加護かの? ところで主、どうするんだ?」

「どうするって……?」

「ワイたちはこの世界の情報に飢えておる。盗賊を追い払って被害者に恩を売れば色々聞けるのではないか?」

「なんか思惑があざといな」

「もちろん反転して逃げるのもアリだ。情報か身の安全か、天秤がどちらに傾くかだ」

「とは言っても……しかし、なんでこちらに来たばっかりでタイミング良くこんなトラブルと遭遇するんだ? 異世界モノじゃ定番だけど、あれは御都合趣味丸出しのフィクションだし」

「被害者に『きゃーステキぃ!』とか言われたいんじゃなかったのかや?」

「だから、そんなの早々起こると思ってなかったし!」

「目線を変えろ。それだけこの世界は、盗賊にしろ獣相手にしろ襲撃事件は頻繁に起こる世相だと言う事の証明であろ? 21世紀の日本の治安と同列に考えるべきではない」

「でもエアガンで戦えってのも無茶振りだろ! あ、いや、お前って雷撃や炎撃できるって言ったな? あの人数、相手にできるのか?」

「見たところ7~8人ていどか? まあ何とかなるだろうが主の操縦・操作が不可欠だ。魔法によって車体の向きを変える必要が有るからな」

「そ、そうなのか、やれるか?」

「ん? 襲われているのは女か? 男は軒並み倒されたようだな。む、女が押さえつけられとる。どうやら強姦する気らしい」

「な、なんだって!」

 

 もう一度双眼鏡を覗く勉。目に映る状況はライトの言った通りだ。

 女は押し倒されて、屈強な男が覆いかぶさろうとしている。


「主の身の安全を優先するなら見捨てるのも有力な選択肢だ。このまま生強姦を見学してオカズにするという手もあるし?」

「おま、車のくせになんつー外道な発想するんだよ! 出来るかそんな事!」

「なら覚悟決めるか? ワイと主の武器が有れば排除できん相手ではない」

「いや、だから! 俺の武器は所詮オモチャで!」

「主よ。自分の特典、忘れとりゃせんか?」

「へ?」




       ♦




「いや――――!! やめて! いや、いやあ!」


 盗賊に押し倒されて泣き叫ぶ被害女性。

 歳の頃は二十歳前後だろうか。操を守るべく必死に抵抗するが、屈強な盗賊の前にそれも風前の灯火だ。


「おい、やるならさっさと済ませろ。残りの仕事は、こいつの始末だけだ」

「だからだろ。雇い主の依頼はみんなこなしたんだ、ボーナスが有ってもいいだろが」

「吹いてんじゃねぇよ。俺たちが護衛とやり合ってる間に火ぃつけてただけのクセによ」

「それが今回の依頼の本懐だろうが。つまり俺が一番の功労者よ」

「けっ、口だけは達者だな。とにかく油断するな、順番が来るまで後方の見張りは怠るなよ6番目」


 この頭目らしい盗賊は「趣味じゃねぇ」と辞退したのでヤツの順番は実質ドン尻であった。故に他の盗賊からも失笑が漏れる。


「ち、わかってらぁ」

「だったら馬車の後ろに回って見張ってこい」

「ああ、ああ、行きゃいいんだろ行けばよ、クソ!」


 などと悪態をつきながら、6番目の男は後方の警戒に当たるために、濛々と煙を巻き上げながら燃える馬車の後ろに回り込んだ。持ち場に着いてからも、相変わらず不平が収まらない様子。


「ったくよう。こんな修羅場見て、首突っ込もうなんて酔狂、国軍の騎士団くれぇのモンだろうがよ。神経質にもほどが……って、どわぁ!」


 どん!


 愚痴が終る直前、見張りの身体が宙に舞った。と言うか、突き飛ばされたに近いか?

 で、そのまま、


 ぐわしゃん! がらがらん!


身体は燃え盛る馬車に、頭から突っ込んでしまった。


「おわわわあああー! あち、あち――!」


 火中から飛び出してくる見張り。ほったらかしでロクに洗髪もして無さそうな髪が一気に焼けてしまい、見張り盗賊は火傷の痛みに水掫(もんどり)打って暴れた。服や鎧にも火が付いていたが、これは何とか消えそう。


「な、なんだぁ!」

 

 盗賊団は一斉に後方の街道に目を向けた。


「あ? な、なんだよ、あれ……」


 全員の目が釘付けになった。突如現れた見慣れぬ物体(SUV)に。




「おい主! いきなり正面から跳ね飛ばすとか何考えとんじゃい!」

「いや、突っ込めって言ったのおまえだろ! 言われた通りにしただけじゃないか!」

「まともにぶつけおって! グリルが割れたらどうしてくれるんだ!」

 

 そこか。


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