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チート全開SUV

「なんだこれ!? てかやっぱ初期化されてんのか? 俺を跳ねた運転手のデータは?」

「消えている。だから最初からやり直しとなったのだ」

「ああ、やっぱりそうなんだ。あの事故の衝撃で当たり所が悪かった……え?」


 勉の眉の歪みが更にひどくなった。

 自分の独り言に近い疑問の答えが、マー〇レビンソンのロゴが入ったスピーカーから聞こえて来たからだ。

 故に勉は時計の秒針がきっかり一回りしている間、フリーズしたままとなった。


「なあ、おい?」


 再び声がした。


「ワイは、お主が新しいオーナーなのか? と聞いておるんだが? なに黙りこくってしまっとるんか?」

「……」


 頭が追いつかない。今現在、勉の脳内は情報処理に大変な負荷がかかっている。で、返答も出来ない状態。

 思わぬ事故で死んだかと思ったら、異世界転移級の異常現象に見舞われ、あげくその原因となったSUVが喋り出して「あんたがオーナー?」とか来たもんだ。そんな一般常識の範疇から著しくブッ飛んでいるこの現状に、冷静でいられる人材もそうはおるまい。


「なあ、お主。何か答えてくれんか? ワイはこの通り、女神さまの加護を受けて自我を持つ自動車となったが、やはり操作する人間がおらんと手も足も出ないのだ。まあ手も足も最初からありゃせんのだが」


 ――へ? 女神?


 女神、と言うワードで渦巻いていた多くの仮説・可能性が一気に狭まった。そう、異世界転移説に、だ。


「お前、いま女神と言ったか? 加護って何だ?」

「ん? ワイたちは例の事故によって魔法の有る、この世界に転移する羽目になった。こっちに着いたら『まずは跳ねた相手と話せ。近くにいるはずだ』と自称女神さまからレクチャーを受けたのだが……お主は違うのか?」

「知らん! 俺は気が付いたらここに居た! ワケ分からんまま振り向いたらお前がいて、混乱しまくってたんだ!」

「そうなんか!? そりゃどうしたもんかな。ワイの世話をしてくれた女神さまはなんか自動車とか自動二輪とかが趣味なんだそうで、転移特典で付与される能力に関しても上機嫌で説明して貰えたんだがな」 

「てコトは……おまえは人格を持つ自動車になったってのか? 機械生命体みたいな?」

「生命体、と言うのは果たしてどうであろうなぁ。別にオールスパーク抱えて巨大ロボットに変形できるわけでも無いしの~。だがまあ、人格が有るってぇのは間違いあるまい。我思うゆえ我あり!」

「いや、異世界への転移転生でチート能力貰えるってのはよくある設定だけどさ……じゃあ俺は? なんか特典が有ったのかな?」

「う~む。神様に会った記憶が無いならワイにもその辺は……あ、いや。お主、ちょいとドラレコの室内カメラに顔を近づけてくれんか? ルームミラーの助手席側なんだが」

ドライブレコーダー(ドラレコ)? あ、これか」


 言われて勉はフロントガラス上部にあるドラレコに顔を近づけた。


「ん~、ほいOK。モニターに結果出すぞ」


 モニターに視線を移す。そこには勉のステイタスデータが浮かび上がって来ていた。


「ふ~ん。名前は田門 勉と言うんか。さて、魔法との相性は……」

「か、鑑定スキルとか言うヤツかな?」

「ふむふむ。おお、お主にも魔法はちゃんと付与されとるぞ」

「え、マジで? おおおー! で、どんな?」

「火属性に水、雷に風と一通りの属性があるが、万遍なく……」

「万遍なく?」

「低い」

「へ?」

「万遍なく低い」

「な!」

「まあ、ちょっとした火球や放水、放電などは出来そうだが……人や、()してや野獣にダメージを与えるには力不足に過ぎるな。相手を怯ませるって辺りが精々か」


 勉は各パラメータに注視した。最大レベル99に対して勉の数値は1ないしは2ばかりだった。


「おい、こう言う時って異世界人はメッチャ数値が高くて、登場するなり現地の荒くれ者をバッタバッタと薙ぎ倒して、助けを求める美少女に『キャー素敵ぃ』とか抱きつかれるもんと違うのか!?」

「現実が世知辛いのは地球もこちらも変わらんようだの~。ん? お主、随分レベルの高い能力もあるぞ。レベル88、こいつは凄い」

「なに? どれだ、どんな能力が!?」

「え~、付与能力だな。ほう、これなら例えばワイの雷撃も数倍の威力に底上げできそうだ」

「雷撃? お前、車のくせに攻撃魔法とか使えるのかよ。てか、そんな放電して車体の電装品大丈夫なんか?」

「女神さまが言うには、ちゃんと魔素アースも付与されているから心配無用、とか言っとったな」

「因みに、お前のステータスも見られるのか?」

「おう。ほれ、これがワイの数値だ」


 画面が切り替わった。SUVのスペックが現れる。


「え? なにこれ!?」


 画面を見て、またしても驚く勉。

 何故ならSUVの魔法レベルは、どれもこれもが99中90以上と言う高数値なのだ。正にチート(ズル)と呼ぶに相応しい、ウルトラハイスペックである。


「なんでだよ! 自動車の魔法付与がこんな高スペックで、人間様の方が底辺とか!」

「女神さまがワイの事を随分と気に入ってくれての~。彼女が運転しながら付与された魔法の解説とか指導とかしてくれてなぁ」

「乗りながら?」

「うむ。天国だか天界だか分からんがオフロード、きゃっきゃっ言いながら操縦してくれたわ。あそこまで喜ばれるとSUV冥利に尽きるってもんよ。前世のオーナーは成金丸出しで、威勢張るためだけにワイを所持しとったでな」

「あ~。やっぱり、そのクチだったんだ」

「今回の事故でもなぁ。前オーナーも、一応はスタッドレスタイヤ履くくらいの常識は有ったんだが、それが何年ものだと思う? 9年だぞ9年! 前の車に使っとった中古なんぞ履かせおってな!」

「9年? 確かスタッドレスタイヤの寿命って……」

「基本4~5年だ、油分が抜けちまってゴムが硬化するからな。それをまだ山があるからと使い続けおって、挙句グリップ失ってこのザマよ」

「や、でもAWDだし雪や荒れ地には強いんじゃ?」

「バカ()ーたらイカン! 4駆だろうが6駆だろうがタイヤが路面に食いつかなんだらどうしようもないわ」

「ああ……まあ、道理だわな。で、坂道で滑り落ちて、俺をこんな異世界まで跳ね飛ばしてくれたと?」

「主犯の前オーナーはどうなったか知らんけどな。女神さまに呼ばれて目を覚ました時は神通力レストアが終ったところでの。生前(?)のダメージは不明だが、もしかしたら車外へ飛び出しとったかもな」

「なるほど、そういや新車同様にピカピカだな」

「ホント、ええ女神さまに当たったようだわ。人で言えば30前後くらいで決して若くは無いが、シートベルトした時のパイスラがこれがまた!」

「パイスラ? ああ、斜めにベルトすることでお胸が強調されるってあれか?」

「そう! 最初はゆったりした衣装のせいで気付かんかったが実は隠れ巨乳での。パイスラで強調された上に悪路走破時はもうブンブン揺れまくってな! 実に眼福であった! ワイとしたことがドラレコのスイッチを入れ忘れとって……いや~惜しかこつした」

「いや、おまえ。車のくせに女体に興奮するとかアリか?」


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