問おう。あなたが私のオーナーか?
過去作をご覧いただいていた皆さま、新たにお読みいただいた皆さま。閲覧ありがとうございます、三〇八でございます。またも異世界転移ものでは有りますが、凸凹コンビのドタバタモノを目指しておりますw
皆さまに少しでも楽しんで頂ければ幸いです。御付き合いの程、よろしくお願い致します。
三〇八
――マジか!?
途切れた意識を取り戻した時、田門 勉(25)は驚愕を絵に描いたような表情全開でフリーズしていた。
いや、無理もない。彼はついさっきまで軽く踝まで埋まるほどの雪が積もった県道沿いを、自宅アパートに向かって歩いていたはずだった。
ところが今、目の前に広がっている景色は青葉輝く初夏を思わせる風景・陽気なのだ。
しかもそこは樹々が鬱蒼と茂る森の中。草の無い街道らしき所も有るが、全くの未舗装道路だ。
生まれも育ちも街中だった勉の生活圏では緑濃い森も、未舗装の道路なぞも有りえない。
――俺は……確か、雪が激しくなって、サバゲフィールドが、閉鎖に、なって……
半年ほど前に偶然会った中学の同級生に誘われて、サバイバルゲームにハマり始めた勉は今日も意気揚々とフィールドに向かった。
ゲーム進行や銃知識等、勝手が分かり始めた時期でもあり、務めている会社はブラック企業とは言わないまでも、決して高額とは言えない給料と残業、珍しくない休日出勤のストレスを解消するには、思い切り現実離れした気分を味わえるこの趣味は、彼にとって打って付けであった。もとより、銃器類については興味・憧れのような思いもあって、級友の誘いに一気に爆発した形だった。
だが、この日。開始二時間経ったあたりから降り始めた雪が殊のほか早い勢いで積もり始め、止む気配も無いことから、車で来訪して来た参加者から「立ち往生する前に帰りたい」と言う意見も出て、お開きとなったのだ。
――そうだ、俺はアパートへ向かう坂道で……スリップを起こしたデカいスポーツ多目的車が迫って来たから逃れようとして……でも雪で足を取られて……そのまま、轢かれ、た?
朧気ながら記憶が戻って来た。
――て、コトは……俺、死んだ? なら、ここはあの世か? そうで無ければ季節が逆転するほどの間、意識不明だったって事になるけど……いやいや! ここ、病院とか診療所とかの影も形もねぇよ! 見た事も無い深い森だよ!? 死後の世界が森ってお話あったっけ? 森より川でしょ、渡り賃六文の!
直近の記憶を思い出してきたは良いが、その分、今の状況には混乱せざるを得ない。
一体ここはどこなのか? とにかく現状を把握せねばならない。
勉は情報を集めるべく立ち上がろうとした。と、
――あれ?
背中に重い感触が。何かを背負っている感覚。
――こ、これって!
勉は背負っていた物に注目。背負っていたのはサバゲに使うエアガンやその弾倉、迷彩服など装備品や予備部品が入った愛用のバックパックと小銃用のガンケースであった。
そして改めて自分の服や靴を見る。
自分の出で立ちは、あのサバゲ帰りの服装そのままだ。冬服全開である。初夏のような陽気のせいで汗が噴き出して来ている。とりあえず上着は脱ぐ。暑くてたまらん。
ここまで来て、勉の脳内でいくつかの点が線で結びついた。
そう、交通事故によって誘発される、異世界への転移・転生だ。死んであの世なら、迷彩服やエアガンの入ったバッグまで一緒とは思えない。
事ここに至り、勉の頭は冒頭の「マジか!?」に繋がるわけである。
――いや待て! ああいうのは大概、暴走トラックが相場だろ! 制御を失ったSUVに跳ねられて、なんてありか!?
とは言え、創作物ではあるが自動車どころかオバちゃんの駆る原チャに跳ねられたり、あまつさえトラクターに轢かれそうになっただけでトラックに跳ねられたと勘違いして哀れショック死――などと天界の女神様も失笑もんの例もあるワケで。SUVならばまあ即死も有りえるだろう。
最後の記憶を思い起こせば確かその車はLの字が付く高級ブランド車で、車幅も全長も日本の道路事情には向いて無さそうなほどのビッグサイズだった。安く見積もっても価格はおそらく一千万円以上は確実だ。色気のない暴走トラックよりかは幾分マシかも?
――ってそんなワケあるかーい! 大体あの手の車はAWDが相場だろ! なに積雪十数cmていどで制御不能になっとんじゃい! 腕も無いのに成金趣味丸出しで買ったクチかよ! 今度会ったら有りったけのBB弾叩き込んでボコボコにしてやんぞコラ!
などと混乱が収まっていくと同時、怒りの感情が突き出た勉は、勢いのまま過去に叩き込む思いからか、後ろに振り返った。すると、
「ぬお!」
目の前、視界一杯に件の忌々しいLのエンブレムが入って来た! 制御を失って突っ込んできた、あのSUVに違いない。
ここで会ったが百年目! 冬でも連射出来る、温暖化クソ喰らえのCO2仕様にしたガスハンドガン、CZ-P09の餌食にしてくれるわ――とばかりにバックパックに手を突っ込もうとしたと同時。
「え? あれ?」
ついと我に返る勉。
「あ、あのSUVが、なんでここに? あれ? これが目の前にあるって事は異世界転移なんかじゃ……な、い?」
眼前のSUVを見て、勉の頭にはそんな思いも過る。
なるほど、あの事故で死んだ自分だけなら「異世界に飛ばされた!」も有り得るかもだが跳ねた車も一緒なら、やはりそんな超常現象など起こってはいない……とも考えられる。
が、じゃあ何で……何であの雪景色の街から、この初夏を思わせる気候の森の中、に? いや、でも……と、さらなる混乱に戻る勉である。
「落ち着け……落ち着け……」
なんとかセルフコントロールに努める勉。
最初に連想した異世界転移、この車もそれに巻き込まれたのなら……
「運転手、運転手は!?」
勉は運転席を見た。しかし……
「いない……車だけ?」
ドライバーズシートに人影は見当たらなかった。
もしや、自分のように気絶しているのかも? と考えて中を確認することに。
「ドア付近に草が踏まれた跡は無いな。居るとすれば車内に……」
ドアに近付き、中を確認する勉。だがしかし助手席はもちろんのこと、後席にも人影はなかった。
勉はドアハンドルに手を掛けた。ゆっくりと引っ張ってみる。
ガチャ
ロックは外れていた。そのままゆっくりと、一応警戒しながらドアを開く。
「……」
警戒は杞憂だった。やはり中は無人である。
続いて勉は、引き込まれるが如く、車内に乗り込んだ。ドアを閉める。
ふー、と勉は息をついた。装甲車ほどでは無いにしろ、不安に纏わりつかれている今現在、外壁が出来るという事実は安堵すべき状況だ。
しかし、問題は何ら解決していない。
この車が有るということは、先ほど考えた異世界転移などは起こってはいなくて日本、若しくは地球のどこかに移動した可能性もある。しかしそんな瞬間移動や、季節を越えた時間移動などは異世界転移にもヒケを取らない非現実的且つファンタスティックな怪現象だが。
などと思案しつつ、さすが高級ブランド車と言える豪華な内装の車内を眺めていた勉は、ドアポケットにスマートキーが置かれているのに気が付いた。つまりこの車は始動できる可能性がある。
勉も自動車免許は持っている。高校卒業時に取得したものだ。
交通の便が良い都市部在住の今の生活環境は、置いておくだけで金が消えるマイカーの保有を必要としない。が、偶に取れる休暇で帰郷した時に親の車を拝借するので、操作・操縦は問題ない。
「まずは動くかどうか試すか。ナビが起動出来れば、ここがどこかもわかるはず……」
それも「地球ならば」と言う条件が付く訳であるが。いずれにせよ、現状を判断するのはナビ――モニターに何が映るかに懸かっていると言えるだろう。
勉はブレーキペダルを踏み、スタートボタンを押した。
同時にメーター類、そしてメインモニターに光が灯る。
「うん、ちゃんと動きそ……ん?」
スイッチが入ったのは良いが、モニター画面には何も映って来ない。通常、起動するたびにメーカーやブランドのロゴが軽いBGMとともに現れて、マップ画面等に移行するのが定番だが。
「やはり異世界……いや、車のシステムに何らかの不具合が有るのかも? ハザードランプやエアコンはどうかな?」
勉は他の、機械式スイッチの諸機能を試そうと手を伸ばした。と、その時、
ブゥン……
モニターが何かを映し出した。
「なんだ? なにが映って……文字列? もしかして初期設定画面?」
設定が初期化でもされたのか? 勉は画面の文字を注視した。と、そこに浮かび上がった文字は……、
:問おう。あなたが私のオーナーか?
勉の眉毛が思い切りひん曲がった。




