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The Road to 親子丼

 馬車で三日の工程、未舗装道路。

 そんな状況でも異世界SUV(ライト)を持ってすれば慎重に走行しても朝イチで出発すれば十分、当日中に到着できる――そんな距離だった。

 自分のスキルに慣れて来たライトの全方向カメラによるマッピング、加えて前方路面予測も向上しており、平均速度も上がりつつあった。

 それもあって勉たちがフランセに到着したのは、陽もまだ高い午後3時頃であった。


「そんな事が……ああニーナ、よく無事で戻って来てくれたわ、大事無くてホントによかった……」


 ハンと同じく、そっと愛娘を抱きしめるニーナの母ニコル。ハンと同世代の女性ながら凛とした眼つきが、さすが支店を任される才女な雰囲気を感じさせた。

 縁談が持ち上がってもおかしくない歳頃の娘がいる、一般的な母親像より若く見えるし、身体の線の崩れも感じさせない、娘と張り合えるほどの器量の持ち主でもある。


「でも、ママもパパに賛成よ? 皇国の大店(おおだな)と繋がりが出来るのは歓迎すべきことだけど、あまりにも不穏過ぎるわ」

「うん、その辺はあたしも反省してる。皇国内の販路拡大に期待できるからって、思わず飛び付いちゃった」

「パパやママが働いてるのは第一に家族のためよ。まして一人娘のあなたを命の危険にさらすようなこと、本末転倒に過ぎるわ」

「うん、ごめんなさい。あたしも希望がなければそうしてたと思う。でもその希望が見えたのよ、だから!」

「この支店の周りも見慣れない人の往来が目立ってるの。それに……」

「それに?」

「例の商品、僅かだけど在庫が足りないわ」

「そんな! こっちで販売する分も余裕をもって仕入れたはずなんじゃ!?」

「大量購入を求めて来た客がいたの。でも、これはうちの看板商品だから纏まった数の出荷は本店の許可が必要だと言ったのだけど、個人で買える分だけでもって言われたらしくて。何か怪しいとは思ったそうだけど、転売が目的とかハッキリ断定できなかったみたいで小番頭さんが売っちゃってねぇ……」


 何と、こちらでもトラブル発生らしい。

 散々苦労の末――と言うほどでもないが、徒労に終わってしまうのは勉としてもライトとしても尻の収まりが悪い。



「……黒幕に手をまわされたかな?」


 離れた場所で、積まれる荷が用意されるのを眺めながら小声で話す勉とライト。続くトラブルに眉を顰めながらも、彼らなりに分析し始めた。

 この辺りで勉もライトも、ニーナらにドンドンのめり込んでいた。正に、乗り掛かった船的な心境になりつつあった。


「それは考え難いのではないかや? 生き残りの盗賊どもが早馬を使ったとしても、奴ら盗人如きが替え馬のネットワークを使えるとも思えんし、少なくともここまではまだ情報は届いておるまい。この世界(こちら)の魔法使いが念話――とか言ったか? そう言う電話代わりの技が使えるか、最低でも伝書鳩とかのシステムがあるかどうか?」

「だったら……あらかじめ念を押す、考えられる要所々々に隈なく布石を打って置いていた――なんて可能性はどうだ?」

「うむ。寧ろ、そちらのセンじゃろな」

「だとすりゃ、これからの奴らの動向は侮れないな。目的のためにはどんな手でも躊躇しない相手ってワケだ。だけど連中の思惑の中では俺たちの存在はイレギュラー――想定外だ」

「シャンタの街からここフランセと製造元のアルデまでの距離は似たようなもんらしいが、ここからアルデまでは二時間もかかるまい。彼奴等を出し抜けるかもしれんし、そちらへの寄り道も予定に入れるべきかの。製造元なら在庫も期待出来よう」

「ニーナさんもここまで来たら突っ走るしかないよな。ところでおまえの調子はどうだ? 悪路が続いているけど、不具合とかは出てないか?」

「そこは心配無用。女神様お墨付きの異世界仕様だからな、街乗りの皮を被ったクロカン仕様……は言い過ぎかの? 世界屈指の飛び抜けた静粛性・快適性は我がブランドの誇りじゃからの!」

「ほいほい凄い凄い」

「むしろ主の疲労の方が懸念するところでは無いか?」

「エナドリとか無いしな~。でもニーナさんの回復魔法で多少の疲れはどうにかなるんじゃないかな?」

「うむ、ワイもその辺は期待しとる。主のバフが必要とは言え、グリルの修復も可能とか正直、驚いたわ」

「ありゃ、凄いよな。俺のエアガンが故障しても、もしかして?」

「ワイのメンテしてくれる職人やエンジニアはおらんからな。この先、回復魔法士の伝手は必須になりそうじゃの……お?」

「あの……ツトムさん、ライトさん。お世話になりっぱなしで申し訳ないのですが!」


 ニーナが持ちかけて来た。どうやらビンゴらしい。


「アルデまでなら日没前は無理でも、晩飯の頃までには行けると思うよ?」

「お、お気付きでしたか!?」

「嬢ちゃんは僅かでも可能性が有れば、それに賭ける気概が有るでな。ワイらもいい経験が出来そうだて」

「よ、よろしいのですね!? ご無理ばかりお願いして済みません!」

「一宿一飯の恩義ってやつかな? 俺たちも出来るだけ協力させてもらうよ。なあライト?」

「おう。このまま連中の思惑に嵌るとか、癪に障るどころじゃないからの!」

「あ、ありがとうございます!」

「娘と店のための御尽力、感謝の念に堪えません。無事に帰還された暁には、夫とも相談して出来る限りの報酬をご用意させて頂きますわ」


 ニコルも揃って頭を下げた。

 本音では危険な現状から一人娘を遠ざけたいだろうし、それが親心と言うものだろう。しかし感情のみに流されず、娘への心配と信頼を胸に抱えて決断する姿は、さすが看板を揚げる商家の女将(おかみ)さんである。

 勉としても、邪な思惑に必死に抗う彼女の手助けが出来れば嬉しい事であるし、何よりこの世界で初めて出来た縁を、失敗で終わらせたくはないと言う思いも強かった。

 この先、こちらの世界で生きていかねばならないのなら、最初から躓き、は避けたいところだ。


「それにアルデ界隈のマッピングも出来るでな、町村や街道のデータはいくらでも欲しいしの。まあ今はともかく、この窮地を脱する方に全振りしよまい」

「例の品は有るだけ準備できたんだよね? なら、すぐに積み込んで出発しようかニーナさん」

「じゃあニーナ。急いで注文書と代金を用意するわ。積込みを指示したら事務所にいらっしゃい」

「ええ!」


 従業員に指示した後、ニーナとニコルは事務所に向かった。書類と料金の用意だけだから、時間はそれほどかかるまい。


「いや~。さすがあの嬢ちゃんのママンだけあって別嬪さんやな~」

「あ? おまえ結構見境ないな。母親だしそれなりに歳だろうし、何より人妻だぞ?」

「自動車のワイには既婚も未婚も関係ないわい。うむ、いつかぜひ嬢ちゃんと一緒に乗って貰いたいもんだの」

「……まさか、またパイスラ狙いか?」

「おお、夢のパイスラ親子丼じゃぁ!」

「ヒューズ纏めてブッこ抜くぞ、変態車輌!」


 

        ♦



「さすがに暗くなってしもたな」

「まあ、それは予定の内だから良いんだけど、しかし……」


 このアルデの町はシャンタやフランセよりも小規模で、勉の感覚で言えば村と言ってもいいかなと感じるレベルだった。

 だがその産業実態は近くの鉱山採掘と、そこから採れる地下資源の加工を主産業とする工業都市としての色合いが強く、工房らしき建屋が目立っていた。

 当然、住民はその鉱山夫・製造職人が大半を占めており、住人たちはライトを見るや、夕食時であろうに野次馬よろしくワラワラと集まって来たのだ。中にはスープの器を持ち、スープで(ほと)びらかせたパンをもぐもぐ喰いながら見物している奴までいる。食い気も好奇心も随分旺盛のようだ。


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