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お風呂で死んだ元社長は中世の海でスローライフしたい  作者: きたぼん


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01-02  海をただよう ― 始まりは全体の半分



 鳥の鳴き声がうるさい。波の音もだ。波音となにか鳥がさえずってて、寝てられない。誰の仕業だ。屋敷では鳥は飼ってない。近くに海はない。子供。それとも社員の誰かが、鳥と、波の環境音源を持ち込んで鳴らしてるのか。


 そうでなけでば窓が開いてるのか。そこにたまたま、バカでかいスピーカーを積んだ自然保護の宣伝カーが、うろついているとか。


「騒がしいぞ……誰でもいい追っ払え……」


 甲高い怒鳴り声がして、俺は目を覚ました。鳥と波音でうるさかったのに、とどめに怒鳴り声。意識がもどったのだ。もどった? 意識が?


「意識があるな。死んだのではないのか」


 うすく目を開けると、真っ青に澄んだ空の色が視界に飛び込んできた。そう。飛び込んできたと言っていい明快な青があった。青以外には、点々と舞う白い鳥。それだけしかみえなかった。他にはなにもない。


 ビックリして起き上がる。俺は浴室にいたはず。そこで死んだはず。だというのに、ここはどこだ。屋内どころか、建物の陰すらもない大海原。腕時計は夜の11時。過ぎた感覚的にはそれくらいだが、あまりは昼間だ。


 そして海の上に俺はいた。ぷかぷか、ゆっくりうねる波の上に、船とか板などなく、ただ、ぽつんとひとり。身体だけが浮いてるのだ。


「ここは……死後の世界?」


 よく言われるお花畑にはとうていみえない。羽根を生やした天使も飛んでない。息子の書いた「報い」を受けるとすれば、地獄って線もあるが、地獄の使者っぽい悪鬼もなし。

 生き物もいる。上空をキーキーいいながら鳥が飛んでる。カモメにはみえない。


 陸地がみえない。となれば三途の川の真ん中かもしれない。指の先を、水にいれてみた。死人に味が感じるかわからないが。ためしに舐めてみる。


「ぺっ……塩っ辛い」


 海水だ。海だ。それ以外にあり得ない。海の上に浮いてる。泳いでるのでなく、波の上に漂ってるのだ。腕時計をしてる段階で世俗とつながってるんだが。なんだこの状況は。


 俺は浴槽で溺れた。火事だったのだから、逃げ場もなかった。


 あり得ないことだが、もしも俺のなかに、危機的状況で稼働する奇跡のような機能が備わっていたとして、浴室から這い出れたとしても。あの火の回りからは脱出できないだろう。溺死か焼死ぼ違いはあるが、死んでる。機能があるって前提がバカげてるのだが。


 排水溝から逃げ出たのか? 家庭用の排水管の直系は100ミリくらいだ。軟体生物や液体金属のロボットみたく、ぐんにゃり出て、公共下水管を通って、下水処理場へか。水再生センターと改名された処理場では、泥や汚物は除去、細菌は消毒される。再処理された水は海へと流される。


 スライムも液体金属だって、粉々に粉砕されて、命を終えそうだ。パンと頬を叩く。痛かった。

 なぜ俺は、特殊機能体って前提で思考してる。死んでいないのなら生きてる。現実にもどそう。お気を確かに。


「とはいえ。混乱しないほうが難しい……板が流れてきたな」


 乗れる大きさだな。船の残骸だろうか。かなり頑健さがあるとみた。俺は迷わずそれに乗った。海に浮かんでる不安定さは解消された。状況はかわらずだが。気持ちに余裕ができた気がする。


 身体は死んでない。生きている。でもそれがなんで海の上なのか。じっと手をみてると、なんか知ってる手とちがっていた。張りがある。年齢相応のしわしわじゃない。みぐるしかった、老人性色素斑も消えて、それどころか、ボツボツ毛穴もキュートに締まってる。


 まさかと、顔に手をやる。無精ひげが生えてない。頬や首元がぴちぴち弾力だ。


「若返っている…………?」


 30代、いや20代。もっと若いかもしれない

 あこがれの若い肌がここに?


 顔をじかに確かめたくなった。板から頭をだして、波打つ海面に顔を映す。揺れすぎて見えない。いや待てば、そのうち明鏡止水のタイミングがくるはず。俺は四つん這いでじっと待った。


 すると。いきなりおおきなうねりがおこって乗っていた板を大きく持ち上げた。斜めになって板は転覆。俺は海中へとツッコんだ。


「ぼぼぼぼ……っ?」


 魚の群れが泳いでる。大群ではない。あれはイワシか。それを大柄の魚が襲ってる。海洋ドキュメント番組で何度かみたが、実際目にするとすごい光景だ。


 見とれてる場合じゃない。頭を海面に向けて浮かび上がった。うっぱっ うっぷあ。急いで板に手を伸ばしてつかまる。踏み台のない海水を蹴り、どうにかよじ登る。危ないところだった。ごろりと仰向けになって息をする。


「……死ぬかと思った」


 改めてあたりをみる。四方。どこまでいっても海また海。冗談ではなく漂流してる。晴天で雲の気配もない。


「喉、乾いたな」


 干からびてしまいそうだ。板の上で死んだら、あの上空をまわってる鳥に突かれるのか。それが狙いか。あの鳥は、俺がくたばるのを旋回しながら見張ってるのか。さっきまで3羽くらいだったのに数が増してるし。


 ついばまれ、躯は板から落ちれて魚のエサ。サバに食いちぎられ、イワシの群れを増やすのに貢献する。最期はプランクトンに吸収されていくと。食物連鎖の底辺か。実感してる倍ではない。


「おまえら! 俺は死なんぞ!!」


 鳥にむかって叫んだ。キーキーいう声が返ってくる。あいつら。死ぬまで見張るつもりだな。


「せっかく生きてるんだ。死んでたまるか」


 拳をにぎって板をたたきつける。叩きつけたところで、ふと、考えた。

 さっきまで俺は海に浮かんでいたよな。板に上がるまでは、どういう理屈か、自力で浮いていた。


「…………なぜだ?」


 理由を探ってみよう。海に浮くなんてあり得ない。理由があるはずだ。

 それが、助かる糸口になるかもしれない。



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