表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お風呂で死んだ元社長は中世の海でスローライフしたい  作者: きたぼん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/20

01-13 コーヒー ー 魚は唇で焼かれる




 機嫌のよかったアリアナが急速冷凍。真っ青になって後ずさる。

 俺は、何かの地雷を踏んだようだ。


『キミハ、魔女ナノ!?』

「は?」


 魔女?

 俺が?


 小型化したとはいえ立派な男なのだが。見えないか。そうか。

 どう言えば男が伝わる。英単語を組み立てて……いや、男の証拠をみせたほうが早いな。


 などと逡巡。

 服を脱ごうとしたが。うむ。

 そういうのではないようだ。

 これは尋常な変遷ではない。


 海を真水にしたり、筏代わりにしたり。カンタンに魔法がつかえたものだから、誰もが使えるものと思っていた。水が作れるのに、何故に、マズイ水を飲んでるのか。不思議なほどだったが。


 違ったようだ。急変したアリアナの表情には、不安と恐怖が浮いている。

 魔女イコール危険な存在という意識の社会らしい。


 魔法は希少か。使える俺は特別。

 ならば。見方を変えれば選ばれし魔導士といえた。

 なんだか頬がニヤケてしまった。いや喜んでる場合ではない。


 魔法に対する第一声が”魔女”。魔女が恐怖の象徴。思いつくのは魔女狩りだ。


 歴史に疎い俺でも知ってる。中世の西洋では、下落する教会の威信を守ろうとして、宗教裁判が頻発した。教会に異を唱えるものは異端として裁判にかけ断罪する。


 最たるものが魔女裁判。


 誰かに「あれは魔女だ」と通告されたら最期。苛烈な拷問にかけられ自白を強要される。「悪魔の宴会に出向き淫らな行為に更けたであろう」と、いわれない告白をさせられたあげく、殺されるのだ。魔”女”というが男も処刑対象。火あぶりに処せられる。


 冗談ではない。

 

 魔法に何ができるのかわからない。ほかの種類があるのか。あったとして覚えられるのか。俺に伸びしろがあるのか、頭打ちなのか。まったく分からない。


 現状は水を出せる程度。屈強な船乗りに対抗できると思えない。つかまったら、そこで詰みだ。海に逃げることはできるが。漂流は好みでない。


 救出される幸運カードは、使ってしまった。


「ノーノー。アイノット魔女。えーと、これはマジック、あいやマジックは魔法か。トリック。そうトリック――手品だ」


 出ていこうとするアリアナをひきとめる。腰にぶら下がった。23歩、彼女は俺を引きずった。扉に手をかけたところで足をとめた。


『手品? street performanceノ?』


 すとりーとばふぉーまんす?

 なんだっけ。聞いたことある。あ、大道芸のことだ。


「い。いえすいえす。すとりーとばふぉーまんす。ほら。ほらほら」


 俺は魔法の水をだした。種も仕掛けもありません。いやホント、何故に水が出る。そのうち解明しないといけないが。いまではない。


『大道芸。スゴイ。えみゅークラブ ノ仲間』

「えみゅークラブ? いえすいえす」


 なんだか知らんが。そうだと頷いておく。


「飲んでみな。どりんく、ぷりーず」


 怪しげな体液ではない。言いたいが、余計に不信感を募らせる気がして自制する。

 彼女は、おっかなびっくりながら。口にする。


『……オイシイ』


 ワンダフルと喜んでくれた。ふー。よかった。疑念は晴れたか。

 話を戻して、これで紅茶を沸かしてもらう。予想通り味はぐんと向上。硬いパステリを浸して食べると、多少、美味くなった気がした。


 ひとしきり時が過ぎた。彼女は、ふいに頭を撫でてくる。


 うーむ。


 孫のようなうら若き少女が、60歳の爺の頭ナデナデ。体は若くなってても精神的な照れ感がハンパない。


 彼女はまっすぐに、俺の目をみてくる。


『……シロウ。手品。ウソ』


 ごまかせなかった。頭のいい子だ。だが認めるわけにはいかない。魔女裁判がかかってる。いい子だとわかっても他人。ここは手品で押しきる一択。


『ウソチガウ、シカケ、アル』

『仕掛ケ?……見セル』


 多少、好奇心の混じったジト目で睨んできた。


『ソレハ……しーくれっと』


 まあ、事実シカケなんてない。「余興でウケます、覚えて損はないですよ」って、マジシャンに薦めれたことがあったが。断わるんじゃなかった。


『オーマイゴッド!』


 首をつかまれ、ゆすられた。ぎ、ギブ……。


『見セル! シカケ、ウソジャナイナラ、見タイ』


 疑がってる。半信半疑というよりも、ブラックに近いグレー。

 ほぼ信じてない。


『ヤメトケ。 オシエルト、オモシロサ、ナクナル。HAHAHA』


 タネは知らないほうがいいぞ。ははは……。そういうことで納得してくれ。

 無理かな。


 しみじみ思った。言葉がわかれば。これはで熟練の説得術も輝きようがない。アリアナも母国語ではないようだし。互いにじれったくてしょうがない。とくに俺だが。


『……手品、ウソダ』


 はい。その通りだ。

 どうする。


 船に警察がいるかわからないが、このままではつき出されてしまう。

 自慢できる戦闘力は、中高でやってた柔道くらい。黒帯だし国体まで勝ち進んだ。だが、勝ち進めた理由は自分がいまいちわからない。得意技はないのだ。


 どうするもなにも、逃げ一択である。

 窓のステンドグラスを破って海へ脱出だ。椅子とか壺とか。鈍器になるブツはそこらにある。


 覚悟をきめたとき、またまた俺は抱き寄せられた。


『命キケン。ミセナイコト、約束』


 アリアナが提案する。見逃してくれるらしい。企んでる瞳ではない。見ず知らずの漂流者を心配してくれてるのだ。取引相手の腹を読むのは経営者の最低限のスキル。本当に良い娘だなのだ。彼女の好意に甘えておこう。


『約束 ワカッタ』


 スキンシップ文化らしい。了承したの意味でこちらも抱き返す。

 思えばこのような純粋な申し出は久しぶり。ちょっと感激。早急に言語を取得しよう。

 記念に乾杯したいとこだが。酒があるのかわからない。


「酒はないかな。えーとアルコール? ドリンク?」

『船長室 モノ サワルナ言ワレテル』


 船長室。アリアナの部屋じゃなかったのか。この娘はどういう立場だ。男所帯の船で、ほかに女性は見当たらない。若いけど船長の妻か。あり得なくはない。


『アリアナ。客?』

『……Stowaway』


 すとあえうぃ?


 わからん。知らない言葉だ。居心地わるそうにしてるし、聞いちゃ不味かったな。

 まあいい。未成年の体に酒は毒だし、水があれだ。不純物だらけのくそ不味い酒だろ。


 アンティークな部屋を見まわす。紅茶セットと並んで、別の壺が手回しハンドルの容器があった。


「あれはなんだ」

『コーヒー』


 やっぱりコーヒーだ。手回しハンドルは|手挽き機<コーヒーミル>。壺の蓋をあけると、芳醇な香りが鼻をくすぐった。炒った豆。モカだ。紅茶もいいが、コーヒーのほうが好きだ。


『飲ミ方、ワカラナイ』


 その言い方だと、触ってもいいらしい。紅茶も入れてたし、飲み食い関連なら、触る許可がでてるようだ。


『マカセロ』


 中世じゃコーヒーは煮だして、皿に移して飲んでたんだっけ。トルココーヒーが上蓋で粉を避けながら飲むのは、その名残りだ。

 とはいえ、俺は自分でコーヒーを淹れたことがない。妻が生きてた時は彼女が、最近は部下におとさせていた。誰もいないときはインスタント。


 紙フィルターで濾すのはわかる。そのフィルターがないか。知らず、直にツッコんだことがあったが、カスだらけで飲めたものではない。濾せればいい。紙の必要はない。布で代用すればいいか。やってみるか。


『オ湯。ツクッテ』


 泥水は飲まん。薬缶に魔法で産んだ水を注ぐ。それをアリアナが火にかける。


 |手挽き機<コーヒーミル>で豆を挽いていく。分量は、二杯分ならこんなものか。部屋の中が深い香りに満たされていく。


『オー。イイ香リ』


 引き出しに洒落た模様のハンカチを発見。目が細かいからイケそうだ。カップの上に敷いて窪みをつくり、挽きたての粉をバサッといれる。そこに薬缶のお湯を、数滴づつまんべん垂らす。しばし蒸らしてから、本格的にゆっくりお湯を注いだ。


 カップ八分目になった。ハンカチフィルターを別のカップに移し、二杯目を注ぐ。味は薄くなるがしかたない。琥珀色の飲み物の出来上がりだ。


「異世界お初、コーヒーの誕生だ」


 異世界でいいよな。タイムスリップの可能性も否定てきないが。俺に魔法が使える時点で異世界だ。そう決めた。これからずっと、何をやっても「初」だ。


「うまいっていいたいが……微妙だ」


 そこそこ味はいい。飲めなくはないが。時間が経って酸化が進んでるのだ。しかたない。常温で長い距離を運搬した豆だろう。現代物流ってすごかったと失ってわかる。いかに、新鮮に届ける技術に長けていたか。いまさら感謝しても遅いが。


 アリアナもカップを取って飲んだ。


『bitter !?』


 苦いか。その苦味がいいのだよ。ブラックの味は、子ども舌にわかるまい。


「ふふふ、お子様は砂糖を入れて飲め」

『バカニ、シテル?』


通じたらしい。からかいは万国共通だ。けど意思疎通が片言の英語だけというのは不便だ。今後、この世界の厄介になるようだし、きっちり言語を習得しておいたほうがよかろう。ちょうど、ベストな先生が目の前にいる。


 その先生が、コーヒーに砂糖を投入した。


『オーイシイ!』

「だろ? ミルクがあるともっといんだが」

『ミルク?』

「そーそーミルク。えーと英語でなく、こっちの言葉ではなんていうんだ? 『ミルク、フツウ ノ コトバデ』」


 身振り手振りで、牛乳の単語を訊くんだが、なかなか通じない。「牛乳 オレ」「ミルク アリアナ」と、指をさすという、よくわからないコミュニケーションをやってるうちに。


『ミルク ハ ガラ』

「ガラ? ガラがミルクか」

『イエース。夜 星 ガラクシア』


 そういって上を指さした。


 星、ガラクシア? あ。


「ギャラクシー?」

『ソウ。 ゲルマン ハ ギャラクシー エラダ ハ ガラクシア』

「エラダ? アリアナ エラダ?」

『ソウ エラダ!』


 アリアナはエラダって国の人らしい。エラダ。エーゲ海のようだから、ギリシャかトルコと思ったんだがエラダ人か。やはり異世界のようだな。なおのこと、言葉を習得せねば。


『タノム コトバ オシエテ』

『コトバ エラダ?』

「そうそれ。エラダ語」



 扉が乱暴に開かれた。男が二人はいってきた。鉤腕のリーダー格と部下だ。コーヒーを飲んでる俺たちにリーダーが憮然とする。勝手に飲んだことを怒ってるなこれは。リーダーが顎でしゃくると、部下は俺の首根っこをつかんだ。


 抵抗してもよかったが、悪いのはこっちだ。拾われた負い目もある。魔法がバレるのも避けたい。


「悪かったすまん」


 素直に頭を下げたが、怒りは収まらないご様子で、なにか言い続ける。怒鳴りはしないが、有無を言わせない口調だ。


 アリアナは一生懸命に反論。俺をかばってるらしい。だが俺は、部屋から引きずり出されて、甲板へ放り投げられた。


 痛くなかった。


 驚いたことに、受け身を取ったのだ。歳をとって動きがにぶくなり、そこらで転んでも受け身などとれなかったのだが。嬉しい誤算だ。若返りは反射神経をよみがらせた。



 鉤腕リーダー格は、船長だった。


 俺は、下っ端の見習い船員身分として、扱われていく。放り出されるよりマシだが、この俺を投げ飛ばしたことは忘れない怪我こそしていないが、屈辱は別のはなしだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ