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【連載版】廃棄孔―トラッシュラビュリンスー  作者: 黒染
迷宮胎動編

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迷宮胎動8


 至るところに結晶が生える洞窟の広間。その一画にできた魔晶樹の森。

 そんな魔晶樹の森にある樹の枝や、根元にできた無数の白い繭があった。

 これら全てが、ラルヴァと言うモンスターが進化して生まれた変異繭という歴としたモンスターだと言う。


 蟲系統のモンスター。それもラルヴァみたいな幼虫型のモンスターの特徴のひとつとして、進化のしやすさと成長速度の早さがあるらしい。

 だからダンジョンにおいて、そのコストの低さと成長性、繁殖力、多様性に秀でた蟲モンスターはきっと沢山使われているのかなとも思っていたのだけれど、ティファニア達が言うには違うらしい。

 確かにコストとその種類の幅広さから、最初は採用するダンジョンマスターは多いのだけれど、階級の低い蟲モンスターは戦闘力は非常に低く、例え進化したとしても対して強くはならないと言う。

 その上、最初の内は進化しやすいけれど、進化してしまえば、他のモンスター同様に成長しづらくなり、その進化先の多さと不規則性によるムラッけ、さらには戦闘力の低さによる死に易さから、次第に使うダンジョンマスターはいなくなっていくみたいだ。

 もちろん、上級の蟲モンスターになれば、進化先はある程度決まっていて、戦闘力も高く、能力や特性も優秀な奴が多い。

 けれど、そこに至るまでの道のりが他の種族のモンスターよりも厳しくて、使うのは蟲モンスターが余程そのダンジョンに適している場合か、蟲モンスターが好きな好事家、拘りを持つ物好きくらいらしい。

 結局の所、DPというコストを掛けて大量に産み出しても、ほんの一握りの者しか大成しないのなら、多少コストは増してもしっかりと成長が見込める他の種族のモンスターの方が良いと、他のダンジョンマスターは思うのだろう。


 その点で言えばぼくの場合、ノエルのおかげでDPを使わずに蟲モンスターを幾らでも産み出せるので、他のダンジョンマスターと違い費用対効果を気にしないで、只管物量によるトライアル&エラーを行える。


 それにしても、ティファニアは色んな事を知っているなぁ。

 他のダンジョンマスターの事だって、ぼくも言われてから初めて、他の落人にもダンジョンマスターの天職を与えられているかもしれないという事に思い至ったんだから。


「前にも言ったけど、タイキの所にくる前に居た真っ暗な場所で、ただ見せられてたから知っているだけだよ?」


 と、別に大した事では無いと言いたげなティファニアだけど、見せられていた殆ど全てを憶えていて、必要な時に思い出す事ができるのは、十分に凄い事だと思う。

 それに、ぼくはそのおかげで、今凄く助かっているんだ。

 そう言うと、ティファニアは照れたように頬を赤く染めて、嬉しそうにありがとうと言って微笑んだ。

 綺麗な彼女の笑顔に魅入らそうになるも、今はやらなくちゃいけない事があると思い、魔晶樹にできた変異繭に目を向ける。


 とくん、とくんと鼓動を刻むように小さく脈打ち、薄っすらと光る繭。

 その繭を見つめ、黒曜石板で繭のステータスを確認する。


【変異繭(ムタ・プパ)】

 階級:無銘級

 契約主:タイキ

 特性:進化移変

 能力:硬化

 

 詳細:幼虫型モンスターが進化の為に糸を纏った姿。繭の中では、新たな姿に変化している最中で身動き出来ず、唯一できる事は魔力で繭の硬度を上げるだけ。

 進化先は選択出来ず、環境、取り込んだ魔力量、食べた食物に因って変化する。


 ーー


【硬化】

 体の硬度を上げて、接触物理攻撃の威力と防御力を高める。

 

 成程、改めて変異繭の詳細を確認してみると随分と扱い辛いモンスターだと思う。

 まず、進化先を選択できないというのがきつい。環境や取り込んだ魔力、食べた物で進化先が変わってしまうというのは、微妙な条件の変化で進化先のモンスターが変わってしまうという事。それはつまり、同じ進化先のモンスターを揃えづらいと言う事だ。

 蟲のような群れを作る事の多いモンスターなら、きっと同じ種類のモンスターを揃える事で効果を発揮する様な特性や能力だってあるはずだ。

 しかし、これだとそう言ったモンスターを揃えることが出来ず、その特徴を活かす事ができない。

 それなら、DPを使ってそのモンスターを直接喚び出した方が確実だ。

 安価で数を揃え易く、進化しやすいのが蟲モンスターの特徴だろうに、結局は数を揃える事で強さを発揮するモンスターを確保するのにより多くのDPを使って喚び出すしかないのなら、本末転倒だろう。

 

 それに身動き出来ず、できる事が硬くなる事だけと言うのも問題だ。

 今のぼくみたいに、ダンジョンの準備期間でなら、あまり問題にはならないと思う。

 でも、ダンジョンに外敵が侵入してくるというのなら、話は別だ。

 動けないこのモンスターでは、外敵からすれば格好の獲物だ。

 能力の硬化と言っても、階級の低いモンスターだからそこまでの防御力は期待できないと思う。

 DPを使い喚び出されたモンスターは、倒されてもDPを生み出すことは無い。ダンジョンマスターの概要にあったモンスターに関する項目。せっかくDPを使って生み出しても、簡単に倒されてDPの回収もまともにできない。


 特に最初の頃はDPをモンスターだけではなく、ダンジョンの施設や拡張にも使う必要があるだろうし、上手く強い蟲モンスターに進化すれば良いけれど、進化した先がどう扱えば良いのか分からない……言い方は悪いがハズレモンスターだったら目も充てられない。

 だから、初期の蟲モンスターは使われなくなっていったのだろう。


 変異繭のステータスを確認し終えて、どうするか考えてみる。

 まあ、実際に羽化してみない事には、モンスターの詳細が分からないから、作戦の立てようが無いのだけれど。


「う〜ん、何が出てくるのかな?」


 そんな事を呟いて、黒曜石板でモンスター図鑑を開く。そうしたら、モンスター図鑑に表示されたラルヴァの項目の文字の色が変わっていた。項目をタップしてみると、ラルヴァの姿や能力の詳細な情報が記載されていた。

 どうやら、モンスター図鑑は一度、実際に遭った事のあるモンスターのみ詳細な情報が表示される様になっているらしい。

 なんか、◯ケモン図鑑みたいだな。いや、あっちは遭わなければ名前も分からないか。

 モンスター図鑑に表示されているモンスターの名前を眺めながら、繭の中から出てくるモンスターについて考える。

 出来れば、穴掘りが得意なモンスターに進化して欲しいな。


「フフフ、心配いりませんわ。お父様」


 黒曜石板を弄って考え込んでいたぼくに、何とも得意げな顔でノエルが話掛けてきた。


「私がいる限り、蟲モンスターに関して案じる事など何ひとつありませんわ!」


 口元に軽く握った手を当てて、オーホッホッホッと高笑いをし始めたノエル。

 急にどうしたんだろう?

 ぼくの訝しげな視線を受けて、ノエルは少し照れたように咳払いをして、真剣な顔になって語り出した。


「よろしいですか、お父様。私の”女王のフェロモン“は、文字通り私が発するフェロモンで蟲系統のモンスターを支配するという特性なのですが、”女王のフェロモン“よって支配下に置かれた蟲モンスターは進化機能をも支配されてしまいますの。つまり、私は自らの支配下にいる蟲モンスターであれば、進化先をコントロールする事が出来ると言う事でごさいますわ」

「……………おぉう」


 さっきの変異繭に進化したと言われた時もそうだったけど、寝耳に水な嬉しい知らせなのだけれど驚愕で喜ぶより先に困惑が勝つ。

 さっきまでのぼくが延々と考え込んでいた時間はなんだったんだ。


 確かにぼく自身が想像して、ティファニアの能力を借りて産み出されたモンスターだけど、ぼくが頭に思い描いたものは大雑把なもので、特性や能力なんかもこんな能力だったら良いなくらいの考えだった。

 そんな曖昧な心象からでも、これほど強力な能力となってしまうとは思いもしなかった。

 ……寧ろ、曖昧だったからここまで多才な能力になったのかな?


 一先ずその事は置いておいて、今は変異繭の事だ。

 ノエルの特性で、進化先をコントロールできるのなら願ったり叶ったりだ。

 これで、穴掘りか得意な蟲モンスターに進化させて、穴掘りでダンジョンの通路や部屋を広げる事が出来る。

 でも、困った事に穴掘りが得意な蟲モンスターがどんな奴なのかをぼくは知らない。

 モンスター図鑑では、名前しか出てないから、どのモンスターが求めているモンスターなのか分からない以上、ノエルにどんな要望をすれば良いのか分からなかった。

 さて、どうしようか……。


「では、お父様。どのようなモンスターをお求めですか?」


 そんなぼくの考えを知ってか知らずか、ノエルがどんなモンスターに進化させたいのか、聞いてくるけどなんて言おうか……。

 一応、要望だけでも言っておこうかな。


「そう…だね、穴掘りが得意な奴が良いかな」

「穴掘りですか。幾つか候補はありますが……そうですわね、ん〜何がいいでしょうか」


 ぼくの要望に、顎に指を当てて考えるノエル。蟲系統のモンスターの知識を生まれたばかりである筈の彼女が知っているのは、名付けの影響なのかな。でも、ぼくが知らない知識を名付けで得られるとは思えないけど。

 ティファニアの能力で生まれた彼女達は、ティファニアの知識を引き継いでいたりするのだろうか。


「ん。それなら、モルケットはどう?」


 悩んでいたノエルにティファニアが、モンスターの名前だろうか、知らない単語を挙げてノエルに提案してた。何だろうモルケットって。


「モルケットですか……。ええ、良いかもしれませんわね。それなら、お父様の求める穴掘りが得意と言う条件にも当て嵌まりますし、能力面でも申し分ありませんわね」


 得心したのか、ノエルは頷くと変異繭に向かい顔の前に手を差し出して、ふぅっと息を吹きかける。


「今、何したの?」

「モルケットにする為の誘導フェロモンと霧状にした活性液を吹きかけましたの」


 すると、ノエルが息を吹きかけた先にあった変異繭達が、一斉に一際大きくうち震えた。

 そして変異繭は、心臓が鼓動する様に大きく脈動を繰り返し始める。

 脈打つ度に変異繭が纏う光が強さを増していく。


 暫く脈動を続けながら光を放っていた変異繭だか、突然脈動が止まると同時に纏う光も消え失せた。


 光の消えた変異繭。唐突なその変化に進化に失敗してしまったのかと考えた次の瞬間、


 ビリィッ!!


 変異繭の毛羽を突き破って、中から熊手とスコップを合わせた様なものが突き出してきた。

 そのまま突き破られた穴を中心に、繭を引き裂いて中から、成人男性程の大きさのモンスターが出てきた。


 出てきたのは、黒鉄色の甲殻が全身を覆い、繭を引き裂いた時に見た発達した大きな2本の熊手とスコップを合わせた様な前足、4本の後足で直立した長い触角と尾角を持つオケラ型のモンスターだった。


【掘土蟲 モルケット】

 階級:害獣

 契約主:タイキ

 特性:鉄甲殻

   :鋼鋤爪手

   :探知角

 能力:掘削

   :硬化

   :振動探知(ヴィブラ・デテクト)

 

 詳細:硬く大きな鋼の鋤手で穴を掘り、餌となる他の小型の蟲モンスターや植物を探す。その際に長い触角と尾角で微細な振動をキャッチして獲物のいる場所を探知する。


 ーー


【掘削】

 地面や壁を掘り穴を開ける時に補正が掛かり、穴掘りの速度がかなり早くなる。


【硬化】

 体の硬度わ高めて、接触物理攻撃の威力と防御力を上げる。


【振動探知】

 僅かな振動でも探知して、周りの状況を把握する。


 本当に穴掘りが得意な蟲モンスターに進化した。ノエルの力を疑っていた訳じゃないけど、実際に狙い通りの進化した事にはやっぱり驚きは隠せない。

 そして、他の変異繭からも次々とモルケット達が出てきた。

 どうやら、今ある全ての変異繭が全てモルケットに進化したみたいだ。


 沢山のモルケット達が居並ぶその景色は、どこかのライダーに出てくる悪の組織の集会を思わせる光景だった。


 進化したモルケット達に、早速穴掘りをお願いする。

 ぼくの頼みにモルケット達は、右手を斜めに挙げて「イーッ!」と元気よく返事をした。いや、返事がまんま◯ョッカーじゃないか。


 ドタドタと足音を鳴らしながら穴を掘りに行くモルケット達を見送った後、ティファニアに頼んで”ラビュリンスアドミニスト“を使う。

 ”ラビュリンスアドミニスト“でダンジョンマップを使い、モルケット達にどこをどう掘って通路や部屋を広げるか指示を出してダンジョンを拡張していきたい。


 ”ラビュリンスアドミニスト“を使っている状態でどうやって指示を出すのかというと、さっき黒曜石板を使った時にぼくのステータスを確認した時にぼくの能力の項目にシルヴァディの能力にあった”念話“が追加されていた。

 この能力を使って、”音響支配“で一斉に指示できるノエルにモルケット達に指示してもらう。

 そうすれば、ダンジョンを俯瞰して見ながら、都度細かく調整をする事ができるはずだ。



  ――ダンジョン開放まで残り98:10:00――

 どうも、黒染です。

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