迷宮胎動7
シルヴァディに貰った果物を食べてから、身体の様子がおかしい。別に気分が悪くなったり、体調が悪くなったりしている訳じゃなく、逆に身体の奥底から、力が湧き上がって来ているように元気が溢れかえって体調は寧ろ、絶好調って感じだ。
ティファニアを見ると、ノエルを産んだ時には、ずっと座り込んでしまう程に消耗していた彼女も平気で立って歩いけているくらいだ。
あの果物、本当に何だったのだろう?
まるで、ドラ◯ン◯ールに出てくる一粒食べるだけで、怪我も空腹も治してしまう◯豆みたいな効能だ。
気力が溢れた体で、ティファニアと一緒にノエルとシルヴァディの所に向かう。
そこでぼくは、目の前に広がる光景を見て驚いた。
何故なら、そこにはさっきまで影も形も無かった、幾つもの立派な木が生えていたのだ。
その木の下で、ノエルとシルヴァディの2人は何かを話合っていた。
「オホホホホホ、シルヴァディ。あなたの能力は、本当に素晴らしいですわ!」
『うへぇ〜、ねえちゃんは人……シシ使いが荒いなぁ、もう』
「二人共、何してるの?」
上機嫌なノエルがシルヴァディの事を褒めているけれど、褒められているシルヴァディはうんざりした様子で、草臥れていた。
そんな二人が何をしていたのか気になり声を掛けた。
「あら、お父様にお母様。フフッ、シルヴァディにお願いしてラルヴァ達の餌となる葉を生らせる木の種を生み出して貰っていましたの」
『とうちゃん、かあちゃん聞いてくれよ〜。ねえちゃんってばオイラのこと無茶苦茶こき使ってくるんだよ〜』
聞けば、シルヴァディの種生成を使い大量の良質な種を生み出させて、その種を蒔き、そこにノエルが活性液を振りかける事で、種から木へと急生長させる事でラルヴァ達の餌となる葉っぱを確保したということらしい。
ただ、種を生み出す際にノエルが質にものすごくこだわり、何度も何度もやり直しさせられたシルヴァディは精神的な方でへとへとになってしまったらしい。
「なるほどね。それで、こんな立派な木がたくさん生えていたのか」
「さすがだね、二人共。二人が力を合わせるとこんなすごい事ができるんだね」
岩と結晶だらけの洞窟の一部にできた森。
そこでは卵から孵ったラルヴァ達が一心不乱に木に生える葉っぱを貪っていた。しかも、ラルヴァ達が幾ら葉っぱを食べようとも、食べられた端から葉っぱが生えてきて尽きる事無く、葉を生い茂らせていた。
「不思議な木だね。葉っぱの再生速度もそうなんだけど、葉っぱそのものがなんというか、透き通った宝石みたいだ」
『この木は魔晶樹って言って、大地から魔力を吸い上げて、圧縮して結晶化した葉っぱに蓄える特性がある樹木なんだ〜』
「ラルヴァ達……いえ、モンスターという生き物は進化の為に魔力を必要としますの。その為、他の魔力を持つ生物を捕食して魔力を取り込み、魔力を十分に蓄えると進化という現象が起き、それによって同じ系統の上位階級のモンスターになりますの。まぁ、他にもいくつか細かな条件はありますが。概ね重要になってくるのは魔力ですわね」
ラルヴァ達の餌を確保するのみならず、進化する為の魔力供給経路まで用意していた。
抜け目ないというか、用意がいいというか
。とにかく、シルヴァディの頑張りとノエルのこだわりで、これからの戦力もとい労働力の確保は、一先ずこれで解決した。
後はラルヴァ達が成長次第、ダンジョンの拡張を始めていこう。
それまで何をしておこうか。”ラビュリンスアドミニスト“を使ってもDPがないからダンジョンの整備なんてできないし、情報の確認くらいしかできないしなぁ。
………あっ、そうだ。
「シルヴァディ、さっき貰った果物なんだけど。あれってさ、どういう果物なの?」
さっき、シルヴァディに聞きそびれていた果物の事を聞くいい機会だったので、ちょっと聞いてみた。
『ん〜と、あれは仙桃って言う果物で〜……、ひとつ食べればお腹いっぱいになって〜、怪我も病気も治せて〜、体力と魔力を回復させる特別な果物なんだ〜』
豆と桃の違いだけで、まんま仙◯だった……。
「その仙桃って、何か危ない効能とかないよね?」
もう食べてしまった後だけど、一応、そこは確認しておきたかった。
『耐性の無いただの人間が食べたら、仙桃の味に魅了されちゃうかも知れないけど、とうちゃん達なら大丈夫だよ〜。』
シルヴァディ曰く、仙桃にはその効能を発揮する為に高濃度の魔力というこの世界の大気に漂い、また全ての生き物が身の内に持つ、超常の力の源が蓄えられて、耐性の無い、所謂魔力値の低い人間や低位のモンスターでは仙桃の持つ魔力に当てられて、中毒症状のような魅了状態になってしまうらしい。魔力値の高い人間や高位のモンスターであれば、仙桃の持つ魔力に魅了される事は無いという事だ。
いや、中毒症状引き起こすような果物だったのあれ!?
まあ、確かに味は、無我夢中で食べてしまう程に美味しかったけれども。
それに、自分が仙桃の魅了が効かない程に魔力が高いなんて知らなかった。
ステータス上だと、ぼくの魔力の表記は文字化けしていて、正確な数値が読み取れなかったので分からなかったから。
そこまで考えていて、気になった事がある。ティファニアやノエル、シルヴァディに名前を付けた時に感じた喪失感。自分の中からごっそりと抜き取られたものの正体について。
「名付けの時にぼくの中から、抜き取らたもの……。もしかして、あれが魔力ってやつだったのかな?」
自分の考えを小声で呟きながら、纏めていく。
「でも、それならどうしてルッカダンはぼくのステータスを見てあんな事を言ったんだろう?」
そうだ、ルッカダンはぼくのステータスを
見た時に魔力が文字化けしていた事に対して、ただ呆れていただけだった。普通は文字化けみたいにイレギュラーな事態がなったら、その事に対して何かしら疑問を持つはずなのに。
「【魂の選別】の案内人であるはずのルッカダンが、文字化けなんてイレギュラーを放置するなんておかしな話だし」
案内人だと言うのなら【魂の選別】のルールについてちゃんと把握しているはず。それなのに、参加者である落人のステータスという重要な項目について、知らないなんて事ないよね。
もしかして、自分が担当になった落人を、玩具にして遊びたい為に案内人になったから、あんまりルールとか憶えて無かったとか?
「あり得るのかな?そんな事。でもあの台詞からして、ぼくの前にも誰かの案内人をしていたような口振りだったしな」
何人も落人の案内人をしてきたのなら、益々文字化けについて何も言わなかった事に疑問が浮かぶ。
でも、ルッカダン以外の案内人なんて知りようがないし、調べる機会があればその時に調べる事にして、今はぼくの文字化けした魔力についてだ。
「う〜ん、仙桃を食べても平気だったという事は、ぼくの魔力は結構多いはずなんだろうけど、具体的にどれくらい多いのかが知りたいなぁ……」
きっとこれから先、この魔力と言うものが重要になってくるのだと言う理由はないが、何故かそうなると言う確信があった。
「タイキの魔力?そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
ぼくのひとりごとを拾ったティファニアが横からそんな事を言ってきた。
「いや、そういう訳にもいかないでしょ。絶対にこの魔力って言うものが、これから先重要になってくるはずなんだから。今の自分の状態はちゃんと把握しておかなくちゃ」
「でも、タイキの魔力は多すぎるから、正確な魔力量は分からないと思うよ?」
「…………………えっ?」
ティファニアから唐突に告げられたぼくの魔力量の話に驚いて、呆然としてしまい、理解するのに時間がかかった。
「えっ?ティファニアは分かるの?ぼくの魔力量?」
「ん。といっても全部分かってるわけじゃないよ?大まかな魔力量がぼんやりと分かる感じかな?具体的にどれくらいって言われても、多すぎて分からない」
それでも、文字化けしてしまって、自分が正しく認識できていない力を知る事ができるのなら知りたいと思った。
「大雑把でも良いんだ。ティファニア、ぼくの魔力がどれくらいあるのか教えてくれる?」
「ん、良いよ。えっとね……、タイキの魔力は、分かりやすく例えるとこの世界の平均的な魔力をコップ1杯分の水だとして、ん〜……………湖?かな。結構、大きめの」
「……………………」
あまりの量に絶句した。
それと同時に気づいた疑問。そんな量が人間の体に収まるものなのかと。
「……そ、そんな量が人の体に収まるものなの?」
「んと……、確かに普通の人なら中から溢れてくる魔力に体の魔力回路が耐えきれずにオーバーフローして、漏れ出た魔力の影響で、細胞の結合が破壊されるかもしれない」
ティファニアから聞かされる過剰魔力による恐ろしい事態。でも、それならどうしてぼくは無事なんだろうか。
学校で見せてもらったネット小説とかでよくある、違う世界に渡った人間には特殊な能力を得たり、特別な体質になったりするというものなのかな。小説とかでは、神様とかに転生特典とか言って貰っていたりしたけれど、ぼくはあの白い空間で不思議な光の球体に恩寵を貰ったけど、それは奪われて、結局ぼくの元に残ったのは”絶倫“と”繁殖“なんて何の役に立つのか分からない恩寵だった……いや、役にはたったのかな。ティファニアとした時に、この恩寵が無かったら死んでいたかもしれないし。
閑話休題
「ぼくが、平気なのはぼくが違う世界から来た落人だから?」
「んと、それだけじゃ無いと思う。落人は確かに強い力を持ってこの世界に来るけど、だからと言って身体能力はそこまで大きな差は無いはずだから」
なら、何でぼくの体は無事なんだろう?
ぼくのそんな疑問を察してか否か、ティファニアがそのまま捕捉するように自分の憶測を語ってくれた。
「多分、私と契約して、名前を付けてくれたからだと思う。タイキが私に名前を付けてくれた時に、タイキの魔力の大半が私の中に流れ込んできたんだよ」
やっぱり、あの時のぼくの中から抜き取られたものは魔力だったらしい。
ティファニアに名前を付けた時は、喪失感というか、虚脱感というか、とにかく名前を付けてだけなのに、結構な疲労感があった事に驚いた。
「名前を付ける時に、相手に力を分け与えるって言ったけど、その時に分け与えられるのがその人が持つ魔力、もしくは身体の力である体力。与える相手によっては凄く沢山の魔力か、体力を持っていかれるの」
「なるほど、だからあの時あんなにごっそりと魔力を持っていかれたのか」
ティファニアは、神性、竜種と言う特性やあの能力から考えても、かなり特別な存在なのだろう。
「それで、タイキの体を傷つける前に魔力のほとんどが私に分け与えられたから、タイキの体はあの時無事だったんだと思う」
「あれ?でも、今は仙桃を食べて、体力も魔力も回復してるのに体はなんとも無いや」
魔力が回復しているなら、ぼくの体に何かしら不調が出ていても、可笑しくないはずなのに。
「それは、私がタイキに名前をあげたからタイキの体がタイキ自身の魔力に耐えられるようになったんじゃないかな?あっ後、私の能力を使う時とかにタイキの魔力が流れ込んでくるの。きっと、それで魔力が使われて、体が壊れないくらいの量になってるんじゃないのかな」
えっ?何それ、知らない。
魔力が減っていた事になんて、全然気づかなかった。
あぁ、でもそうか、名前を贈られたというのなら、ぼくもティファニアに名前を貰ったんだ。名付けの力で体が丈夫になって、自分の魔力に耐えられる様になっていても不思議じゃないのか。
というか本当にギリギリだったんじゃないか、ぼく。救済者を使って、ティファニアが来てくれなかったら、ぼく自身の魔力で知らず知らずの内に自分の体を壊して死んでいただなんて。
それに、ティファニアが来てくれたおかげで、水分と食糧を確保する事のできるシルヴァディが産まれてくれたんだ。
「ティファニア。本当にぼくの所に来てくれて、ありがとう」
「? ふふっ、急にどうしたのタイキ?」
ぼくの言ったお礼の言葉に、一瞬きょとんとした顔をして、すぐに可笑しそうにティファニアは笑った。
「いや、ぼくの置かれていた状況を振り返ってみて、君が来てくれなかったら、本当に詰んでいたんだと分かったから。そう思ったら、お礼を言わずにはいられなかったんだ」
「そうなんだ。でもね、別にお礼を言われる事じゃないんだよ?私は、タイキの役に立てる事が凄く嬉しいの。タイキが私を呼んでくれたおかげで、私は何も無い真っ黒な所からこの世界に来られたの。それにこれから先、きっといろんな、素敵な景色をこの目で見られると思うと嬉しくて仕方ないの。だから、お礼を言いたいのは私の方なんだよ」
溢れ出そうするものを抑えるように胸の上に両手を重ねて、嬉しそうに微笑みながら、暖かな眼差しでぼくを見つめてくるティファニアに思わず見惚れてしまう。
助けられて感謝しているのはぼくの筈なのにティファニアもまた、ぼくに感謝していると言う。このままだとお互いに感謝を言い合って、堂々巡りになりそうだ。
「そっか、ならお互い様だね」
「ん。そう、お互い様だよ」
お互いにそう言い合って、笑い合う。
「うぉっほん!お父様、お母様。私達も居るということをお忘れなく」
『イシシシ!仲いいな〜、二人共。でも、オイラ忘れられてるみたいでちょっと悲しいぞ』
ふくれっ面をしたノエルと少し寂しげなシルヴァディがぼくとティファニアの間に流れる空気を遮るように声をかけてきた。
忘れていた訳ではないけど、ついティファニアと話に夢中になって、二人の事を無視する様な形になってしまった。
「ごめん、ごめん。二人を忘れてた訳じゃないんだ」
「ごめんね、二人共」
「むぅ。それなら、良いのですか」
『オイラも〜』
ティファニアと共に二人に謝ると、ノエルもシルヴァディも、すぐに機嫌を直してくれた。ノエルはまだ少し不満そうだったけど。
ため息をひとつ吐いて、ノエルが”報告したい事がありますわ“と言ってきた。
「お父様、ラルヴァ達の一部が進化し、変異繭になりましたわ」
「………………進化するの早くない?」
その報告を聞いて出てきたのは、真っ先に喜びよりも困惑だった。
――ダンジョン開放まで残り109:10:21――
どうも、黒染です。
誤字脱字報告、アドバイス、感想お待ちしています。
面白かったら、高評価よろしくお願いします。




