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【連載版】廃棄孔―トラッシュラビュリンスー  作者: 黒染
迷宮胎動編

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迷宮胎動6


 食糧。それは生き物が生きていく為に必要不可欠な物。


 なんで、そんな当たり前の事をわすれていたんだろう?

 ノエルに言われて、今更ながらに気づいた。そうだよ、モンスターだって生き物なんだから、食べる物が必要になってくる。

 それに、ぼくだってここに来てから、何も食べてない。モンスター達だけじゃない、ぼく自身の食べ物だって確保しなきゃいけないじゃないか。


「どうしよう。食べ物の事なんて全然考えてなかった……」


 ダンジョンマスターってどうやって食べ物を確保してるんだ?

 やっぱり、DPショップでDPを使って確保してるのかな?でも、DPの無いぼくじゃ使えない手だしな。それとも、食べ物が採れるモンスターか食べられるモンスターでも召喚してるのか?いや、食糧のこともそうだけど、それよりも、水がないことの方がまずい。

 三の法則。それは、人は空気が吸えなければ3分、体温が維持できないと3時間、水が飲めないと3日、何も食べられずに3週間で死んでしまうという、人が極限状態で生きていられる時間の目安。

 この世界に来てから何日経った?

 丸1日気絶していたし、ティファニアに襲われていたのが1日くらい?

 目が覚めた時から続くこの頭痛は、脱水症状によるものか。でも、どうする。

 この岩と結晶だらけの空間で、どうやって水と食べ物を確保すれば良いんだ……………

…………………あっ。


「………………………………ノエル」

「ど、どういたしましたの、お父様?そんな、前が見えていなさそうなくらい渋い御顔をなされて?」

「………………ラルヴァって食べれる?」

「あ〜………ラルヴァの体には捕食者から身を守る為に毒性の血が、流れていますので、食べるのはとても危険ですわ。お父様」

 

 最悪の場合、ラルヴァを食べて、飢えと渇きを凌ごうかと思ったけど、ぼくが食べたらほぼ死ぬらしい。それでは本末転倒だ。他にどんな手があるか考えていると……。


「話は、聞いてたよ。そう言う時こそ、私の出番」


 そんな聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 声のしてきた方に振り返ると、ムフーと得意気な顔で腰に手を当てて胸を張るティファニアがいた。


「ティファニア!?」「お母様!?」

「おはよう、二人共。たっぷり寝たから元気いっぱい。私、復活」


そう言って、むんっと鼻息を鳴らし、胸を張るティファニア。

 元気になってくれたのは良いんだけど、私の出番って、まさかとは思うけど、


「ティファニア。もしかして、また“十三の獣”を?」

「んっ、そう。また使う」


 やっぱり、ティファニアはもう一度“十三の獣”を使うつもりらしい。

 ぼくも使えるのなら、使った方が良いとは思うけど、ノエルを生み出すのにあれだけ消耗していたんだ。ぼくには、回復しきったのか分からないのに再び新しい眷獣を産み出したりしたら、ティファニアは本当に大丈夫なのかどうか不安が残る。


「? どうしたの、タイキ?」

「いや、ノエルを産んであれだけ消耗してたし、新しい眷獣を産んで大丈夫か心配で……本当に体は大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。竜種は回復力も高いから、少し眠れば大体のことはすぐに治る」


 そこら辺は、やっぱり人間とは違うんだなぁ。人間だったら出産後に数時間寝ただけでここまで回復する事なんてないだろうし……。


「それじゃあ、タイキ始めよっか。ノエル、ちょっと行ってくるね」

「はい、いってらっしゃいませ。お母様」

「えっ、ちょっ…、ティファニア!?」


 ティファニアに腕を掴まれて、ついでに髪の毛でがっつり体も縛られてそのまま岩陰に引き摺られて連れて行かれた。

 岩陰に連れ込まれたら、即座に押し倒される。そこからは、ほとんど最初の時の焼き増しだった。

 始めの方は多少落ち着いていたティファニアも、段々と興奮が抑えられなくなっていき、途中から完全に理性を飛ばした彼女に貪られ、絞り尽くされて性も根も尽き果てたけど、今度は気絶せずに事を終えた。

 それでも、ガクガクと足腰が震えてまともに立てないから、ティファニアに膝枕されながら、情けなく寝そべってはいるけども。

 ただ、ティファニアのお腹は、また妊婦のように膨らんでいるので、お腹と頭が密着してしまってはいる。

 密着したお腹から聞こえてくるノエルの時と同じ命の鼓動。ぼくの心配をよそにティファニアは嬉々として自分の能力を使ってくれた。なら、ぼくも彼女の好意を無下にする訳にいかない。

 彼女のお腹にそっと手を添えて、目を閉じる。


「んっ。私はいつでも、いいよ。タイキ」


 ティファニアのその言葉に頷き、彼女のお腹にイメージを贈り込む。

 イメージするのは、植物を操り、統べる者。ぼくが知る中で、大きな角と長い毛を持った最大級の四足獣であるヤク。そのヤクをベースに生き物が生きる為の環境を整え、生態系を維持する縁の下の力持ちとも言える植物を操る力を与える。

 植物を操り、豊富な食糧という実りを齎してくれる樹木を生み出す力を持ち、果実や花を実らせる樹木の牛や鹿の様な大きな角に、長い蔦の体毛を持った四足獣。


 ぼくの心象を受けて、ティファニアの胎内の命の源が、ドクンッと強く躍動した。


「んくっ……!」 


 ティファニアがノエルの時と同じ様に顔を歪める。“十三の獣”の負荷が彼女にかかっているんだ。でも、今更止められないし、このまま、眷獣を産み出してもらう。

 邪魔にならない様に膝枕をされた状態からティファニアの横に転がり、糸で包まれていない方の手で、彼女の手を握り新たな眷獣の誕生を待つ。

 苦しげに顔を歪めるティファニアの横顔を見ながら、少しでも彼女の気が紛れればと、ぼくの手を強く握り込んでくる彼女の手を、手が砕ける痛みに堪えながら、握り続ける。


 何度も苦痛に叫び声を上げ、身悶えるティファニア。横で彼女に声を掛け続けて、励まし続ける。


 それから暫くして、ティファニアの表情が和らいだ。ぼくの方に顔を向けて、彼女は柔らかく微笑む。


「タイキ、産まれたよ。私達の新しい眷獣(こども)」


 呼吸は荒く、汗で額に髪の毛を張り付かせて、ノエルの時と同様、相当消耗している筈なのに彼女は嬉しそうに笑っている。


「うん、ありがとう。ティファニア」


 砕けた手の痛みに耐えながら、寝転んだまま、首だけを動かして新たに誕生した眷獣を見る。

 

 そこには、緑の葉っぱを生い茂らせた蔓の毛皮に額から生える樹木の2本の小さい角。

 大人の輓馬程の大きさ、カバのような4本の爪のある細長くとも筋肉質な足を持った牛や鹿のような顔をしたモンスターがプルプルと足を震わせながら立ち上がってぼく達を見つめていた。

 体は大きいけど、この子もノエルと同じく“十三の獣(幼)”の影響で未熟な子供の姿で生まれた幼体なんだろう。その証拠にこちらを見つめるふたつの瞳は、純粋無垢な子供の目をしていた。


 さて、この子にはどんな名前を贈ろうか。

 ……そういえば、昔の鹿や猪みたいな動物をシシって呼んでたんだよな。それにこの子の特徴的な生い茂る緑の植物の体毛。う〜ん、確か、森に住むって意味のSilvanって言葉があったし、緑の繁み……Verdureだっけ、シシ、シルヴァン、ヴァーディア………シシヴァディア、シルヴァディア。いや、シルヴァディ……うん、これにしよう。これが良い、シルヴァディだ。


「決めた。君の名前はシルヴァディ。緑生い繁る森のシシ。シルヴァディだ」


 名前を告げた途端に、シルヴァディもまた纏う雰囲気が変わり、目に知性の光が宿っていた。何かを抜き取られた感じはノエルの時と同じ程度。


『イシシシシ!シルヴァディ!それがオイラの名前だね。良い名前ありがとう、とうちゃん』


 頭の中に直接声が響いてきた。


「うわっ!びっくりした。これ、シルヴァディの声?」

『うん!オイラは声で話す事ができないから、念話で直接、とうちゃん達に言葉を伝えるんだ!』


 まぁ、シルヴァディヤクのような四足獣の見た目で人と同じ発声器官がある訳ないか。

 いや、ファンタジーのモンスターなら有りそうだけど。

 そんな事を考えながら、シルヴァディのステータスを確認する。


ーー


【森蝕仔獣 シシケバブ】

 個体名:シルヴァディ

 階級:幻想級

 契約主:タイキ

 特性:森蝕

   :緑(ヴィリデ)の(ィス・ウィ)衣(リティス)

   :鬱々葱々

   :大集光(マグヌス・ソルクス)

   :十三(ビースティア)の獣(・トラキデム)Ⅱ(ドゥオ)

 能力:種生成(セメン・クリアーレ)

   :念話

   :草木染心

   :光剛性(ルクス・リギドゥス)

   :大地の恵み(フルクトゥス・テラエ)


 詳細:そこにいるだけで、周辺環境を森に変える能力を持った第2の眷獣。体から生える植物”緑の衣“は光合成による体力の回復、蔓や葉を使った攻撃等、多彩な応用ができる。大集光により光を利用する技を使用する際、常に最大限のパフォーマンスを発揮する事ができる。ルクシリアの力で生える樹木や植物は、どんなに荒れた場所であろうと育ち、辺りを鬱蒼とした森へと変えてしまう。


 ーー


【種生成】

 様々な植物の種を生み出す。


【念話】

 テレパシーにより、声を用いずとも他者と会話できる。


【草木染心】

 樹木や植物と心を通わせて、対話する事ができる。


【光剛性】

 光を浴びる事で、身体から生える植物の剛性と硬度を上げるこで、防御力を上げる。

 浴びる光の量が多ければ多いほど防御力が上がる。


【大地の恵み】

 多種多様な果実や花、作物を実らせる。


「はぁ〜…、これで食糧と水の問題は一先ず解決かな」


 シルヴァディの”大地の恵み“という食糧を生み出す能力を見て、人心地つく。

 大体の栄養素は作物で賄えるし、果物から水分も採れる。ラルヴァ達の餌も育った樹木の葉っぱをあげれば解決できる。


『とうちゃん、どうした?何かそんなにヤバかったのか?』


 頭に響いた声に顔を上げると、シルヴァディが首を傾げながら、こちらを見ていた。

 ふと彼の足元が視界に入る。森蝕の特性の影響か、草木が生え始めており、この岩だらけで明らかに荒れ果てた土でも問題なく植物を繁茂させる事ができるみたいだ。


「うん。まぁ、君にお願いしたい事でもあるんだけど、見ての通りこんな岩と結晶だらけの空間でしょ?だから食べ物も水も無くてこのままじゃ、ダンジョンを開放する前にぼく達が先に飢え死にしちゃう所だったんだ。だから、食べ物を作り出せる能力を持った君を新しくティファニアに産み出してもらったんだ」


『なるほどなぁ〜。つまり、今のオイラにとうちゃん達の食べられるものを作り出せば良いんだな!イシシシシ、任せろ!』


 シルヴァディはそう言うやいなや、森や山に入った時に感じる力強い生命の息吹を思い起こさせる力を纏う。

 そして、シルヴァディの角や体から垂れる蔓に変化が起き始めた。

 まず角に蕾が付き、直ぐ様幾つもの花が咲いたと思ったら、瞬く間に桃のような果実を実らせた。蔓に蕾が付き、これもまた瞬く間に花を咲かせたが、こちらは実をつけずに花はそのまま花がらの状態になった。


『とうちゃん、かあちゃん。はい!これどうぞ!』


 そう言ってシルヴァディは、角に実った桃のような果物を角ごとぼく達に差し出してきた。果実をふたつ、角からもぎ取る。

 手にした果実は、瑞々しく、果肉がぎっしりと詰まった実重な手応えを感じさせ、その色艶はピンクダイヤモンドを思わせる煌めきを放つ美しさ。果実から漂ってくる、幾つもの花を凝縮したかの如き濃厚で色めき立つ香り。

 そのあまりの存在感に思わず、ゴクリと唾を飲み込む。それほどにこの果実には暴力的なまでの芳醇で蠱惑的な引力があった。


 せっかくシルヴァディが、作ってくれた食べ物なのだけど、本当に食べても大丈夫なのだろか?

 果物から漂ってくる妖しげな、それでいて抗いがたい惹きつけられる様な気配を感じる。何だか危ない薬みたいだと思ってしまうけど、さすがに気の所為だと思いたい。が、一応確認しておいた方がいいかな……。


「シルヴァディ、この果物は何て……。あれ?いない……どこにいって……あっ、いた!」


 ついさっきまで目の前にいた、シルヴァディがいなくなっていたので辺りを見回して探すとノエルと卵のところにいた。

 ぼくが果物に気を取られている最中に移動してしまったらしい。

 果物の事を聞こうと思っていたのに、どうしようかと思っていると。


 シャキ、ジュク、ジュワ、ジュク……


 横から聞こえてくる咀嚼する音。


 音のする方を向けば、ティファニアが美味しそうに果実を頬張っていた。


「? どうしたの?食べないの?おいしいよ」


 口元を果汁でベタベタにしながら、未だに食べる事を躊躇っているぼくに不思議そうな顔で、ティファニアが問い掛けてくる。

 美味しそうに食べるティファニアを見て、お腹がグゥと音を鳴らした。空腹で餓死するかも知れないのに、躊躇ってる余裕なんて無いんだ。

 意を決して果実に齧り付く。


 ガブ、ジュク、ジュワァ……――っ!!!


 ――――美味っっっっっ!!!!!

 

 齧りついた所から溢れ出す果汁。水のようにさらりとした爽快な喉越しなのに、ハチミツみたいな濃厚な甘さで、それが口いっぱいに広がって全ての味蕾を刺激する。果肉は果物を食べているというよりも程よい弾力の肉を食べているような適度に歯ごたえのある満足感を刺激する幸せな食感。


 止まらない。あまりの美味しさに食べる手を止められない。口いっぱいに頬張って、口元が果汁でベタベタになっても気にせず無我夢中で食べ続ける。

 そして、あっという間に完食してしまった。

 食べ終わった後に、口の中に残る果物の濃厚なのに爽やか甘さが、心地よい余韻を残してくれる。


「―――――っ………はぁ…」


 思わずため息が溢れた。食べた果物はひとつだけなのにまるで、昔一度だけおじいちゃんとおばあちゃんが生きていた頃に連れて行って貰った高級料亭の料理を食べたような得も言われぬ満足感がぼくを満たしてくれていた。


 すると、同じように果物を食べ終わったティファニアが話しかけてきた。


「タイキ、美味しかった?」

「ハハッ、ティファニア。口元ベタベタだよ」

「ふふっ、タイキも一緒だよ?」


 お互いに果汁でベタベタになった顔を見合って、笑い合った。




 ――ダンジョン開放まで残り110:24:31――

 どうも、黒染です。

 誤字脱字報告、アドバイス、感想お待ちしています。

 面白かったら、高評価よろしくお願いします。

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