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【連載版】廃棄孔―トラッシュラビュリンスー  作者: 黒染
迷宮胎動編

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迷宮胎動5


 ノエルの言葉に思わず固まった。

 聞き間違いかな?『種をくださいまし』と確か、彼女はそう言った様な気がした。

 

「私の能力で蟲を産み出す為には、男性の種が必要になりますの。ですので、お父様にその種を提供していただきたいのですわ」


 どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。


「それって、同族の……というか、蟲モンスターの種じゃなくていいの?」

「本来なら、お父様の言う通りなのですが、お父様は、“万象生命の盃”により、お母様の特性である“生命の揺り籠”をお持ちですから。そのおかげで、汎ゆる生物の因子を備えておりますので、問題ありませんわ」

「あれ?ノエルにぼくの能力の事、教えたっけ?」


 何故か、教えた覚えの無いぼくの能力を、ノエルが知っていた。


「名付けの副次効果ですわ。お母様が、仰っしゃっられませんでしたか?お父様に名前を授けていただいた際に、お父様の力と知識の一部を分け与えていただいたからですの」


 そういえば、確かにティファニアに名前を付けた時に、彼女が、そんな事を言っていた気がする。

 なるほど、これから先に生まれる眷獣に名前を付けると、ぼくの知っている事が、その子達にも分け与えられるということか。等と現実逃避気味に話を逸らしてしまったけど、本題に戻そう。


「…………それで、種が何なのかは、大体想像がつくけど、ぼくは何をすれば良いの?」

「簡単ですわ。お父様、ここで自◯をしてくださいませ」


「―――――――………」


 その言葉で、ふいに蘇った地球での記憶。

 行われたいじめの中で、的当てゲームとか言われて裸で縛られた女の子に自◯をさて◯子を当てろと言われた事があった。

 ぼくはあの時、必死で拒否して癇に障った連中にボコボコにされて、気を失ったしまって、余りよく憶えて無かったけど、気を失う前、薄っすらとあった意識の中で見た、あの時の何かを見せられて悔しそうに、でも、逆らえないと諦めた親友の悲壮な顔を思い出す。その後の事は気を失ってしまって知らないけれど、意識を取り戻した時、全身の痛みで碌に動く事もできなかったけれど、あの場所に漂っていた匂いと、啜り泣く女の子の声で何があったのか何となく察した。そのぐらいの頃からあいつと段々、疎遠になっていった気がする。


 しばらくしてから知った事だけど、あの後、女子生徒が一人、自殺したと言う話を聞いた。


 

「―――ま、――と――ま!、―と――さま!、お父様!!」


 ノエルの声に我に返る。目の前には、心配そうな顔つきで、ぼくの顔を覗き込むノエルがいた。


「大丈夫ですか、お父様?トラウマを刺激するつもりは、無かったのですが、私の不用意な発言で、お父様に辛い事を思い出させてしまったようで申し訳ございません」


 心底、申し訳なさそうに謝罪してくるノエルに、自分の方が少し申し訳なくなる。

 

「ぼくの方こそ、ごめん、ノエル。ちょっと昔の事を思い出しちゃってね。余り気にしてないから大丈夫」

「ですが…………っ。お父様は、悪くありませんわ。しかし、心の傷というのは自分で思っているよりも、深刻な事もあります。余り、無理はなさらないで、どうかご自愛くださいませ」


 しかし、ノエルは、そんなぼくの事を励ましてくれた。


「私達は、最後までお父様の味方です。だから、ご安心くださいませ」


 ノエルのその言葉に少し元気を貰った。そうだ、ノエルは、彼女達は、あいつらとは違うんだ。過去の事を思い出して、少し呆けて、心配をかけてしまったな。


「うん、ありがとうノエル。」

「礼には及びませんわ。お母様がお休みになられてる今、お父様を支えられるのは、私のみですから!」


 堂々とした態度で、胸を張るノエルは、本当に自信に溢れている。彼女達が支えてくれるって言うんだ。ぼくも昔の事に囚われすぎないようにしなくちゃ。


―――パァンッ!!


「痛ッ〜!」

「お父様っ!?」


 気合いを入れる為に、両手で、思いっきり自分の頬を叩く。

 突然のぼくの行動に、ノエルが驚くが痛みのおかげで、気持ちが切り替わった。


「大丈夫、心配しないで。ノエル、ぼくの◯

子が欲しい、それで合ってる?」

「え、えぇ。合っていますわ。ですが、大丈夫ですのお父様。先ほどの事もありますし、お父様も、少し休まれては?」


 あと、頬が真っ赤になってますわ。ノエルが、心配そうにぼくの顔見て呟いていた。

 ノエルがぼくを心配してくれるのは、素直に嬉しいし、ありがたいけど今は時間が無い。何より、唯でさえ彼女達に頼りきりなのに、ぼくが必要とされている時に動かなかったら、ぼくは唯の足手纏いでしかなくなってしまう。


「本当に平気だよ。それに、君達におんぶに抱っこじゃ駄目なんだ。ぼくはぼくの出来ることをちゃんとやらなくちゃ。あぁ、でも流石に2人の前では、恥ずかしいから、アレはちょっと向こうでシテくるね……」

「あっ、お待ちください。お父様、出すのでしたら、こちらにお出しください」


 ノエルはそう言うと、糸を紡ぎ出して水筒のような袋を編み出して、ぼくに渡してきた。それを受け取り、ぼくはノエル達から少し離れた岩陰に移動した。




――――――――――――――――――――――


 岩陰に行ってしまったタイキを待っている間、ノエルは先ほどまでのタイキの尋常ではない様子について思い返していた。


(お父様は、一体どんな仕打ちを受けてきたのでしょう。私が、声を掛けなければあのまま、気を失っていたでしょう)


 ノエルは見た、見てしまった。あの時、タイキの顔色は青を通り越して真っ白になって、尋常ではない汗をかき、体は大きく震えていた。

 タイキが自分で思う以上に、過去のいじめで行われた仕打ちやそれに起因する人間関係の軋轢は、彼の心身に多大な傷痕を残していたのだ。


(お母様は、知っているのでしょうか?お父様がああなってしまった原因を)


 ノエルはタイキによって名付けされた際に、タイキの知識の一部を分け与えられ、様々な事を知った。しかし、ティファニアとは違いタイキの過去を知る訳ではない。故に一体何が、引き金となってタイキのトラウマを引き出してしまうか分からない。


(もし、お母様が何か知っているのでしたら、目を覚まされた時、何がお父様の辛い過去を呼び起こしてしまうか、聞いておきましょう)


 ノエルは、蟲の女王種として創生されたが、ノエル自身が群れの頂点におらず、上にタイキが主として存在する。その為、奉仕される女王としてではなく、奉仕する働き蟻としての本能が強く表面化していた。


 母を含め、自分達は父であり、主たるタイキを支える為に存在する、と考えるノエルはタイキの為にも、彼がなるべく辛い過去を思

出さない様にタイキの過去をある程度知っておかなくてはと考える。出来る限り、タイキには心穏やかに過ごしてもらい、心の傷を癒やしてもらいたいとノエルは思っていた。


「あぁ、お父様……。今、私にできるのはお父様の為にダンジョンの戦力を整える為に蟲達を産む事ぐらいしかできないのがもどかしいですわ」


 ノエルは、タイキの為にしたい事は沢山あるというのに、心の傷をほじくり返してしまう事を恐れがある為、迂闊に行動できないというジレンマを抱えながらも、今は自分にできる事をする為、タイキが戻ってくるのを待つ。そうして、しばらくしてタイキが戻ってくる。


「ただいま、終わったよ。………はい」


 戻ってきたタイキが、気恥ずかしそうな顔で、やや躊躇いながら水音のするパンパンに中身の詰まったを水袋をノエルに差し出す。

 恥ずかしいそうなタイキとは、裏腹にノエルはまるで、貴重な宝石でも贈られたかの様に感極まる顔で、その袋を受け取った。


――――――――――――――――――――――


 ぼくの精◯の詰まった水袋をノエルは、嬉しそうな顔で人間部分と大きく肥大化した蟲の腹部の付け根にある穴に入れ込んだ。


「これで、準備完了ですわ。お父様♪」


 ノエルがそう言うと、彼女の腹部が蠢き始める。ぼくからでは全体は見えないけど、前から後ろへと波打ちながら、蠕動しているのが分かった。


「では、お父様。私はどんな子を産み出せばよろしいのですか?」

「どんな子?」

「はい、具体的な蟲モンスターの情報があればそのモンスターを産み出せるので、モンスターの情報を教えていただきたいのですわ。その、無くても、産み出す事はできるのですが、その場合生まれてくるモンスターの種族は決まっておりますので。ただ、申し訳ないのですが、今の私では一番下の階級のモンスターしか産み出せないのです。そこはご了承くださいませ」


 具体的なモンスターの情報か……。


 そういえば“ラビュリンスアドミニスト”でモンスターの情報の確認を後回しにしてた。

 ティファニアは今、眠っていて、“ラビュリンスアドミニスト”は使えない。そうだ、黒曜石板でモンスターの情報が載ってないか確認してみよう。そう考えるとノエルが最下級のモンスターしか、呼べない事が分かったのは良かったかも知れない。それだけで、呼び出すモンスターを幾らか絞り込める。


 黒曜石板の画面を弄くり回して、何か情報が出て来ないか探しているとダンジョンダンジョンの項目にモンスター図鑑が追加されているのを見つけた。

 モンスター図鑑を表示してみると、凄まじい数のモンスターの項目が表示される。しかし、モンスターの画像の様なものはなく、名前のみでどんなモンスターなのか、一目見ただけでは分かりづらい不親切仕様だった。

 それに名前が暗く表示されているモンスターの数が多い。これは多分、ぼくの位階が低いから喚び出せるモンスターが少ない事が、原因だと思う。そうして、モンスター図鑑を弄っているとモンスターの検索機能を見つけた。

 検索機能を使ってぼくが今、喚び出せるモンスターの中で、蟲にカテゴライズされるモンスターを絞り込む。

 絞り込んだ事で、蟲モンスターのみが表示される様になったけど、それでもかなりの数のモンスターが表示されている。

 しかし、今できる検索機能は、おおまかな分類のみで、まだ細かい条件付けはできないみたいだ。

 

「これ以上絞り込めないし、この中から一体一体確認していかなきゃ駄目か……」


 はぁ、また随分と根気のいる作業だなぁ……。

 思わずため息が出てしまうが、やるしかない。


「ノエル、ちょっと待ってて。今、モンスター図鑑を見つけたから、これで産み出してもらうモンスターを探してみる」

「それでしたら、時間を無駄にしたくないとのことでしたし、やはりお父様が探されている間に“蟲産み”で今私の知る唯一のモンスターがいるのですが、それを産み出しておきましょうか?」


 ノエルの提案に考え込む。確かにぼくがモンスターを探している間、ノエルに能力でモンスターを生み出してもらった方が時間を無駄にしなくて良いかも知れない。必要なモンスターが見つかった時に改めて、そのモンスターを生み出してもらえばいい。ああ、でも少し気になることがある。


「それって君にどれくらいの負担が掛かるの?」


 ティファニアが、ノエルを産み出す為に使った“十三の獣”であれだけ消耗したんだ。“蟲産み”を使う事でノエルがどれくらい消耗するのか知っておいた方が良いと思った。


「それでしたら、心配ありませんわ。そのモンスターでしたら、成長性はありますが、強さ自体は大したことがないので、ほとんど消耗はありませんの」


 なるほど、なら大丈夫なのかな。ノエルの言葉を信じて、GOサインを出す。


「…………そう、だね。それじゃあ、頼んだよ、ノエル」

「はい!お任せくださいませ、お父様!」


 ノエルは、胸を叩いて自信満々に引き受けてくれた。しばらくの間、モンスターの事は彼女に任せて、ノエルから少し離れたところに移動し、ぼくもモンスター図鑑で必要なモンスターの絞り込みに集中する。

 今、ぼくの位階で喚び出せる蟲系統のモンスターの中で、繁殖力が高い蟲モンスターと穴掘りが得意な蟲モンスターを探す。

 ひたすら、それっぽいモンスターの名前をタップして、モンスターの詳細を読み込んで目当てのモンスターかをチェックしていく。

 ホリケムシ、シズミミズ、クリワーム、被り虫、アナカブト、魔幼虫、ハナムシ、穿ち穿り、スコッパー………etc、etc。

 どれもこれも思っていたものとは違って、名前の通りの能力を持ってはいなかった。やっぱり、位階が1ではそう言う特殊な能力を持ったモンスターはいないのかなぁ?

 そう思いながらも、モンスター図鑑の確認作業を続けついく。


 ……作業を続けて、どれだけの時間が経ったのだろうか。時間を計るものがないこの場所で正確な経過時間は分からないけど体のこわばり具合から、相当な時間が経ったと思う。延々と成果の出ない作業を続けて、集中力が落ちてひどくなった眠気を覚ます為に立ち上がり、体を動かしつつ体のこわばりも取る。気分転換に一度、ノエルの様子を見に行く。


「おぉ……」


 ノエルのところに行くと彼女の背後に夥しい数の卵が産み付けられていた。そこかしこに付着する粘液に塗れた卵。その凄まじい光景に思わず声が漏れた。


「あら、お父様。産み出すモンスターは決まりましたの?」

「あっと……まだなんだ、中々目当ての能力を持ったモンスターが見つからなくさ……」


 ぼくに気づいたノエルがモンスターについて質問してくるけど、あれだけの時間を掛けていまだに見つけられていないことを彼女に言うのはバツが悪かった。


「まぁ、そうでしたの?ですが、蟲モンスターの種類は豊富ですから仕方ありませんわね」

「ちょっと集中力も切れてきたから、少し気分転換でもと思って、様子を見に来たんだけど……」

「でしたら、見ていてくださいませ。いくつか、もうすぐ産まれそうな卵がありますの!」


 ノエルに案内されて、孵化寸前の卵の場所に行くと、そこには既に卵から複数の幼虫型の蟲モンスターが孵っていた。


「おや?既に孵っておりましたのね。お父様、この子達は【ラルヴァ】と言いまして、色々な蟲モンスターに進化する種モンスターと言うものですわ」


 ノエルはラルヴァと呼んだモンスターを抱き上げぼくに差し出してくる。

 それは、白い円錐状の節のある小型犬くらいの大きさの芋虫だった。


「この子達は、戦闘力はありませんが、環境に合わせて様々な種類の蟲モンスターに進化できる特性を持っていますの」

「キィ〜」


 ノエルに抱き上げられたまま、ラルヴァが甲高い鳴き声を上げていた。


 ーー


【ラルヴァ】

 階級無銘(インコグニトス)

 特性 :種虫

    :毒血

 能力:糸吐

 詳細:どんな成長を遂げるか分からないその蟲モンスター。


 ーー


 黒曜石板で能力の確認をしてみても、大したことは書いてない。寧ろ、最弱の蟲モンスターと太鼓判を押されるレベルで弱いらしい。


「あぁっ!?どうしましょう!?大変ですわ、お父様!」

「えっ?何?!どうしたの!?」


 突然、ノエルが大声で慌て始める。いきなりの事にびっくりして、ぼくまで軽く慌ててしまった。


「この子達の餌がありませんわ!」


――ダンジョン開放まで残り116:25:36――

 どうも、黒染です。

 誤字脱字報告、アドバイス、感想お待ちしています。

 面白かったら、高評価よろしくお願いします。

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