迷宮胎動2
生き残る為の決意したのはいいが、まず始めなくてはならないのが、戦いの基盤を整える為のダンジョンの整備だ。
コアモンスターである、ティアマットの能力、ラビュリンスアドミニストを使い、ダンジョンを作成する。
ただ、どうやってぼくが、ティアマットの能力に干渉し、ラビュリンスアドミニストを使えるようにすれば良いのかが分からない。ティアマットの能力の詳細を調べた際に見た…
【ラビュリンスアドミニスト】
コアモンスターを通して、ダンジョンマスターがダンジョンをコントロールする事ができる。
このコアモンスターを通してダンジョンマスターが、ダンジョンをコントロールする事ができると言うことがよく分からない。ティアマットなら何か知っているのだろうか?
先ほどの彼女の発声から、上手く会話できるか分からないが、身振り手振りでも、意思疎通できるかもしれない。そう思い…
「ティアマット、君の能力のラビュリンスアドミニストの使い方なんだけど…」
後ろから顔を覗かせているティアマットに話しかけてみると…
「んむ〜〜〜〜〜…………」
何故か、頬を膨らませて、唸り声を上げて”私、不満です“という感情を全面に押し出した顔をしていた。
なんだろう、何か変なことをした覚えはないのだけれど。ティアマットの抱擁から離れて、彼女の正面に立ち、改めて、どうかしたのか問い掛けてみる。
「えっと、どうしたの?ティアマッ「んむぅっ〜〜〜〜〜!」……………」
唸り声をあげて話を遮られた。どうやら、ティアマットと呼ばれるのが不満らしい。
このままでは、能力の使い方を教えてくれそうになさそうだ。
どうしたんだろう…?名前で呼ばれるのが嫌なのかな?それか、もしかすると……
「もしかして、ティアマットって君の名前じゃないの?」
【幼生母胎竜ティアマット】と表示されていた彼女のステータスから、ティアマットと言うのは彼女の名前では無く、モンスターとしての種族名なのかもしれない。
ぼくの質問にティアマットは、ぶんぶんと激しく首を縦に振る。どうやら、ぼくの推測は当たったらしい。
「そっか、なら君の名前はなんて言うの?」
ぼくの質問に対して彼女はまたしても、不満そうに頬を膨らませて、首を横に振る。そうじゃないらしい。なんだ、彼女は何をして欲しいんだ?
「………名前をつけて欲しい?」
パァッと屈託のない満面の笑顔で、頷くティアマット。正解を引いたみたいだ。
しかし、名前、名前かぁ…、何がいいかな。そう言えば、彼女を召喚する時、ぼくと最も相性のいい相手として召喚されたんだったな。
召喚術式の名前は、確か……、そうだ、運命交路だ!運命……女…、あっ、確かフランス語に運命の女って意味のファム・ファタールって言う言葉があったな。
ファム・ファタールと、彼女の種族のティアマット、それから……そうだ、彼女の特性にあった神性。そこから神様が現れるって意味のテオファニアから、ティファニア。
「うん、できたよ。運命の女、ファム・ファタールと君の種族、ティアマット。そして、神の顕現を意味するテオファニアを組み合わせて………、ティファニア。
君の名前はティファニアだ!」
ティファニアと名前を決め彼女に伝えた瞬間、彼女、ティファニアの気配が変わったのが、目に見えて分かった。名前を付ける前より、明らかに纏う威厳というか、格が上がっている。
「――ッ!?。ハァッ、ハァッ……な、何だ?これ?!」
それと同時に、自分の中から何かがごっそりと無くなったような喪失感を感じた。
そんなティファニアの変わりようと自分の喪失感による疲労に驚いていると、ティファニアはこちらを見て微笑み、徐に口を開いた。
「ティファニア…、わたしの……名前。素敵な名前、ありがとう……」
辿々しくも、先ほどよりしっかりとした口調の、心地よい、甘く透き通った艶やかな声で言葉を話すティファニア。
自分の名前を噛み締めるように呟き、こちらに嬉しそうにお礼を言ってきた。
初めて耳にした、はっきりとしたティファニアの声につい聞き惚れてしまっていると…。
「……………?、あ!あの、えっと……あなたは、なんて呼べば……良い?」
突然、問われた自分の呼び方。
ティファニアから言われた言葉にハッとする。そうだ、ぼくは今、名前が無いんだった。どうしよう、ティファニアに名前は無いんだって言おうか?でもなぁ……。
「あなたのお名前…教えて?」
あんな期待に満ちた目で見られたらなぁ。
自分の名前を考えることになるなんて思わなかった。でも、確かに名前がないといろいろ不便かもしれないしなぁ。
「え〜っと、ぼくの名前は……」
「………じ〜〜〜〜」
「え〜〜〜〜…………」
どうしよう。思いつかない。
あぁ、彼女の視線が痛い。名前、名前…。
「……もしかして、あなたも名前がないの?」
「!!」
いや、ここまで答えられなかったら、流石に分かるよね。
「……うん、実はそうなんだ。ここに来てから、自分の名前が思い出せはなくなってしまったんだ。なんでも、元居た所から否定され、いなかったことにされたからなんだって」
あのルッカダンが、言っていたことを信じるならば、そう言うことなんだと思う。というか、名前が思い出せはなくなっている時点で信じるしかない。
「なら、私が考えるよ…?」
「…ティファニア?」
「あなたの名前、私が付けたい。あなたが、私に素敵な名前を付けてくれてとても嬉しかった。だから、私もあなたに素敵な名前を贈りたい。あなたに喜んで欲しいから」
ティファニアの言葉に、思わず胸が熱くなる。今まで、自分の為にそんな事を言ってくれる人なんて、いなかった。
ただ、純粋にぼくに喜んで欲しいという、無垢な思いを受けて、それだけで嬉しくなった。
「うん。それじゃあ、お願いしようかな」
「……………っ!うんっ!!」
本当に嬉しそうに笑い、考え始めるティファニア。ああでもない、こうでもないと悩みながらうんうんと唸る。
しばらくの間、考え込んでいたか、良い名前を思いついたのか、バッと顔を上げた。
「タイキ。あなたの名前はタイキ。大きな器でタイキ。あなたは自分のことを空っぽだって言ってたけど。でも、きっとそれは、いろんなもので中を満たせる器なんだよ。だから、あなたの名前はタイキ。私を受け入れてくれる大きな器」
「…………ありがとう、ティファニア」
ぼくの空っぽという言葉を、前向きに受け止めて考えてくれた名前に言いたいことが、沢山あるはずなのに、上手く言葉にできず、ぼくは、ありがとうと、感謝の言葉しか出せなかった。
ティファニアから名前を貰った事で、自分の中に何かが流れ込んでくるのが、分かった。さっきのティファニアに名前をつけた時に、彼女の雰囲気が劇的に変わったことと何か関係あるのだろうか?
「これは……?凄い力が湧いてくるような、何かに満たされたような感じがする。
さっき、ティファニアも同じようになっていたよね?何か分かる?」
ぼくは、自分の中の力に戸惑い、同じことが起きていても、落ち着いていたティファニアに何か知らないか、尋ねてみた。
「この世界だと名前ってね、凄く大切なものなんだ。その人の存在を定めて、意味を与えてくれるの。名前があるから、力も安定して、しっかりと制御する事ができるの。それにね、名前を贈ると贈った人の持つ力が分け与えられて、贈られた人は新しい力を目覚めさせたり、体が頑丈になったりして強くなるの。そういう名前を贈る儀式をね」
――名付けって言うんだ――
ティファニアから教えて貰った名前をつけるという行為の意味。
それは、力を安定させ、自分の力を分け与えるということ。つまり、自分の中にある、この湧き立つような力は、ティファニアから分け与えられた力ということのようだ。
「私がね、こんなに喋れるようになったのも、いろんなことを教えてあげれるようになったのも、タイキが、私に名前をつけてくれたからなんだよ。そのおかげで、タイキの力と知識の一部を私は分け与えてもらえたんだ」
そして、名前をつける前と後で、ティファニアの言語能力があんなにも変わったのは、名付けが原因ということらしい。
黒曜石板で、自分のステータスを確認してみる。
ーー
名前:タイキ
天職:ダンジョンマスター
位階:0
体力:50
魔力:#@$&!?*%¥
技能:――
能力:命の鎖
:万象生命の盃
特性:生命の揺り籠
恩寵:絶倫
:繁殖
契約:【幼生母胎竜ティアマット】
【ダンジョン】
階層:0
モンスター:0
DP:0
施設:0
ーー
名前の項目が、ティファニアがつけてくれたタイキに変わっている。
新しく能力の項目が、追加されてティファニアの能力にあった“命の鎖”と新たに“万象生命の盃”が、増えていた。
【万象生命の盃】
あらゆる命を受け止める為の器。
自身に連なるモンスターの力の一部を習得する。
さらには、特性という項目。
契約したティファニアの封印中と表示されていたものの、片方だろうか。“生命の揺り籠”という見たこと無い能力が表示されていた。
「ティファニア、この特性ってなに?」
「ん、特性はね、モンスターのみが持つその種族固有の能力のことだよ」
モンスター特有の種族固有の能力。でも、それがぼくのステータスに表示されている。
モンスター固有の能力だろうと習得することができる能力。
ぼくに新しく増えた能力は、そう言う能力だった。
「ねぇ…タイキ、私の能力は確認しないの?」
「あ、そうだね。うん、すぐに確認するよ」
ティファニアに言われて、彼女の名付けをしたことによる影響を確認する。
ーー
【幼生母胎竜ティアマット】
個体名:ティファニア
契約主:タイキ
等級:伝説級
特性:神性(微)
:竜属性
:生命の揺り籠
:■■■■■(封印中)
:コアモンスター
能力:十三の獣(幼)
:太母の胎
:竜鱗鎧
:ラビュリンスアドミニスト
:命の鎖
:生命系統樹目録
:生命を統べる者
詳細:汎ゆる生物の始祖とされる母胎竜ティアマットの幼体。神と竜のふたつの属性を 併せ持つ。“生命の揺り籠”に因って汎ゆる種族の因子を持ち、どんな生き物でも産み出せる。■■■■■の力により自身の産み出した生物とその系譜が、存在する限り生命を維持し続ける。
ーー
彼女の封印されていた特性のひとつが、解放されている。それに伴って詳細に表記されていた隠された文字も現れた。
そして、彼女にも、新しく増えていた能力、“生命を統べる者”。
【生命を統べる者】
産み出した生命とそれに連なる生命全てを把握し、統率する事ができる。
彼女の能力“十三の獣”や“太母の胎”で産み出した生命を管理する為の能力だろうか?
もし、この能力が、彼女の産み出した生命とそれらから産まれた生命すら把握する事ができるということなら、ぼくの考えるダンジョンの構想が、俄然、現実味を帯びてきた。
こういう事が、今後増えていくなら、情報の確認はこまめにした方がいいかな。
知識不足で、どのような命取りな状況に陥るか、分からないのだから、尚更だ。
どうも、黒染です。
誤字脱字報告、アドバイス、感想お待ちしています。
面白かったら、高評価よろしくお願いします。




