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【連載版】廃棄孔―トラッシュラビュリンスー  作者: 黒染
迷宮胎動編

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迷宮胎動14

 

 三人の頭を撫でている間に、シルヴァディがやって来た。

 何となく呆れた様な感じがするけれど、今まで自分がやっていた事を考えたら仕方の無い気もする。


 それにしても、シルヴァディは大分大きくなった。最初の大人の輓馬サイズから、今では大人の象程の大きさにまで成長していた。もう、この大きさじゃあ、コアルームどころか、洞窟に入るのも無理だろうなぁ、なんて思わず口から溢れてしまった。

 その事を聞いてもシルヴァディは、気にした様子はなく。


『外なら、日向ぼっこし放題だから、大丈夫だよ〜』


と、寧ろ外にいられる事を嬉しそうに語っていた。まだ、太陽は出てないけど、ダンジョンが解放されたら、確かに日向ぼっこし放題だ。ぼくも偶にティファニア達と一緒にやりに来ようかな? 


「ん。これで皆、揃ったね」


 満足するまで頭を撫でられた事で、肌に艶を帯びる程に上機嫌になったティファニアが集まった皆を見回して話を切り出す。


『かあちゃん、切り替え早いなぁ〜』

「一緒になって頭を撫でてもらっていた私が言うのもなんですが、お母様も中々に、甘えたがりなのですね」


「二人共、黙ってて」


 さっき迄の可愛らしく甘えていた姿と今の凛々しく仕切るティファニアの豹変ぶりにノエルとシルヴァディがヒソヒソと話合っていると、ティファニアはピシャリとは一蹴して、二人の事を黙らせる。因みにクララは相変わらず膝の上で、グデ〜と伸びていた。


「それで、ティファニア。もう少しで、ダンジョンが解放されるって言う事は分かってるんだけど、これから何が起こるの?」


 ダンジョン解放までの時間が、直ぐそこまで来ている事は、時間的に何となく察してはいたけれど、それならここで待つ必要もない気がするし、ダンジョンが解放された後の事を考えて、景色を見た後はコアルームに戻っても良かったのではと思った。


「ん。今、このダンジョンの雛型は異空間にある……」

「えっ、雛型? ここって異空間にある本物のダンジョンじゃなかったの?」


 ずっと本物のダンジョンだと思ってたけど、違ったのか?


「雛型って言ったけど、このダンジョンも本物って言う事には変わらない。ただ、ダンジョンが解放された時にパーガトリアムにこのダンジョンがそのまま出現する訳じゃなくて、このダンジョンの形にパーガトリアムの地形が変わる事で、ダンジョンが現れるの」


 ティファニアの説明から分かったのは、今ぼく達がいるダンジョンは3Dプリンターの設計図で、パーガトリアムにダンジョンが解放されると、この設計図を基にパーガトリアムの地形が変わって、そこがぼくのダンジョンになると言う事なんだろう。


「それで、これから起こるのは、ダンジョンが解放されてパーガトリアムと繋がる時に起きる次元干渉って言う現象」 


 真っ黒な空を見上げるティファニアの視線につられて、ぼくも同じ様に空を見上げる。


「次元干渉の時だけに現れる特別な景色があるの。それを皆と……、タイキと一緒に見たかった」

「……そっか」


「……ほら見て、始まった」


 そう言ってティファニアが指差す先の空に変化が起きていた。


 真っ黒だった空の中心に星の様な光が現れて、光は段々と渦の様にぐるぐると周り始めた。

 黒い空間の中に白い光が尾を引いて、渦に向かって集まっていく。それはまるで、闇を吸い込む輝く星の様にも見えた。


 黒い空間が吸い込まれると、薄く透き通ったドーム状の虹色の膜が現れる。虹色の膜は、ダンジョンの最外周からダンジョンを囲み込んでいて、虹色の膜の向こう側、ダンジョンの外には荒野と満天の星空が陽炎のように薄っすらと現れた。

 


「あれは……?」

「あそこが、このダンジョンが出現する場所みたいだね」

「荒野ですか……」

『また、な〜んにも無い所だね』

「うにゅ……暑そう」


 ダンジョンの出現するという荒野を見て、ノエル達がそれぞれ意見を言う。


 このダンジョンの最初の形、岩と乾いた土ばかりの岩山と荒野。それと同じ荒れ果てた荒野が、このダンジョンの出現するというのも、ぼくはそういう巡り合わせなのかと思ってしまう。


 それに、見るからに生き物が生きていくには厳しい環境で、ここから見る限りでもダンジョンに侵入してくる者がまずいないと言える場所でもあり、ティファニア達の能力で、モンスターを増やしていなければ、ダンジョン内で生存DPを獲得するのはほぼ無理と思える様な場所だった。


 薄い虹色のドームがゆっくりと小さくなり、中心に迫ってくる。虹色のドームが通り過ぎた場所、まだ開発のされていない荒野のエリアではあるけれど、虹色の膜が通り過ぎると、キラキラと光る金色の粒子が地面から立ちのぼり、粒子が集まって荒野にダンジョンにあったものと同じ岩や割れ目を形成していく。


 虹色のドームはどんどん小さくなっていき、ダンジョンは立ちのぼる粒子で、金色に染め上げられる。

 虹色のドームは樹海を越え、ぼく達を通り過ぎ、ダンジョンの中心へと向かう。虹色のドームが通り過ぎると辺りは夜へと変わり一瞬暗くなるが、足元から立ちのぼる金色の粒子が直ぐに辺りを明るく照らした。


 空に浮かぶ満天の星空と、大地を埋め尽くす金色の光。

 暗い夜の闇の中で映える、銀と金の光のコントラストがこの光景の神々しさと神秘的な美しさを際立たせていた。

 

「……綺麗」

「……うん」


 ティファニアが一緒に見たいと言っていた気持ちが良く分かった。

 ノエル達も、この光景の美しさに声もあげずに、呆然と魅入られていた。


「これが、ティファニアがぼくに見せたかったものなんだね」

「ん。これがダンジョンが出現する時にだけ見る事のできる光の園。そして……」


 ティファニアは一度、そこで言葉を切りダンジョンの中心へと顔を向ける。ぼくも一緒になって顔を向ける。

 そこで見たのは、ダンジョンの中心に到達した虹色のドームが、一度細い光の線になって消え、直ぐ様大きな虹色の光の柱となって、天を貫く光景だった。


「ダンジョンの誕生を世界に知らせる“柱”」

「柱?」

「ん。ダンジョンは違う世界。天、或いは冥府からやって来るってこの世界だと考えられているの。そして、その時に天と冥府に繋がる道ができると言われている。それがこの光の柱」


 この光の柱が出現した事で、異世界パーガトリアムの人々に新たなダンジョンが出現した事が知れ渡ったのだと、ティファニア言う。


「繋がった場所が、天なら光、冥府なら闇の柱が立つ。落人がダンジョンマスターになった時は、必ず光の柱になる。落人はその名前の通り、落ちた人だから」


 ティファニアはゆっくりと前に進み、光の柱を背に振り返る。


「これから先、きっと色んな戦いが待っている。でも、必要以上に怖がらないで。あなたが何度、不安になっても私達があなたの傍に居る。どんな事があっても、私達があなたを支えるから。だから、何度でも言うよ」




「安心して」




 そう言って、両手を広げて微笑むティファニア。


「始めよう、私達の生存戦略(魂の選別)を」


 それは、ぼくがティファニアと契約した時に、これから始まる戦いで、必ず生き残るという覚悟を込めて言った言葉。


 迎え入れる様に、こっちに来てと誘う様に、ティファニアは広げていた両手を前に出す。


 ダンジョンの解放を告げる光の柱を真っ直ぐに見つめ、ティファニアの言葉に応える様に、無言で差し出されたティファニアの手を取った。


 差し出された手を取ると、ティファニアは笑みを深めてぼくの横に立った。

 ティファニアとお互いに目を合わせ、繋いだ手をギュッと握り締めて、光の柱に視線を戻す。


 ティファニアとノエルやシルヴァディにクララ、そしてこれから先、生まれてくる皆と一緒に、必ずこの戦いを生き残る。


 ―――始めよう、ぼく達の生存戦略を


―――――――――――――――――――――



 その日、異世界パーガトリアムに激震が走った。


 しかし、それはダンジョンの出現を告げる柱が現れた事では無い。

 パーガトリアムでは、ダンジョンの出現は珍しい事ではあるが、驚くべき事では無かった。

 ダンジョンはパーガトリアムの人々にとって確かに脅威ではあるが、同時に貴重な薬となる動植物や幅広い様々な用途のある貴金属、有用なモンスター等、人々に恩恵を齎すものも多かった。


 パーガトリアムの殆どの人間は、光の柱を見ても新しいダンジョンができたと、探索者(リーモア)と呼ばれるダンジョンを攻略する事で生計を立てる者達は、新たな金蔓ができたと喜び、普通の人々はなるべく自分達に影響の無い所にできていてくれと思うくらいであった。


 しかし、パーガトリアムの一部の人間。特に世界を見守る者達、魔法の研究により魔力に詳しい者達、隠遁した人の理から外れた強者など、世界の中枢に近い者達は違った。


―マギストリア魔導国研究所―


ここはマギストリア魔導国研究所。

 魔道具や魔法といった魔力に関する研究を行う大陸一の魔力に関するスペシャリスト集団である。


「何だ!? 今の魔力圧は!?」

「大変です! ダンジョン出現と共に現れた何者かによって魔力計が魔力計が振り切れました!! ここまでの事態は観測史上初めてです!!」


 今、ここは設立以来の恐慌状態に陥っていた。


 世界に満ちあふれる魔力について研究する彼らは、常に大気中にある魔力を観測し、異常がないかを監視していた。

 この場所では、ダンジョンが出現した際に発生する魔力のデータも取っているのだが、この日、観測した魔力は今までに無い程の膨大な魔力量だった。

 

「発生元のダンジョンは何処だ!?」

「只今、捜査中です!」


 出現したダンジョンの位置を特定、調査し、危険度の高いダンジョンに成長する可能性がある場合に、成長する前に探索者ギルドと協力し、ダンジョンを攻略するのだが、ダンジョンの位置が特定は、光の柱が出ている間でなければできない。


 ダンジョンが出現する時、ダンジョンのテクスチャを世界に刻み込んでいる間に光の柱が出現して、隔離境界と言うダンと外を分ける機能が停止する。その時のみ外からダンジョンを観測する事ができる。

 しかし、光の柱が消えると隔離境界がダンジョンを包み込み、ダンジョンを外の世界と分ける事で、境界の内側の法則をダンジョンの物へと変える。

 そして、ダンジョンが隔離境界で覆われてしまうと、ダンジョン内の魔力は完全に遮断されて、外から観測する事が出来なくなってしまうのだ。


 「急げ! ダンジョンと共に出現した事から、おそらくはコアモンスターの可能性が高い。早急に対処しなければ、どれほどの被害が出るか分からんぞ!!」

「「「はい!!」」」


 できたばかりにもかかわらず、これほど強大な魔力が観測されたダンジョンの脅威に、焦燥に駆られながらも各々が自らのやるべき事に取り掛かった。


―守護聖教会―


 ダンジョン、魔物、脅威となる存在から無辜の人々を守る為に設立された組織であり、その始まりは、かつて天より遣わされた守護者と、彼の者に忠誠を誓い共に人々を脅かす怪物達と戦った戦士達に因って創られた守護団だと言われている。


「あぁ……何て事、あぁ!?」

「ユリシア様!?」


 始まりの守護者は、人と交わり特別な力を持った人間を生み出した。

 彼、彼女らは、聖人や聖女と呼ばれ、その特別な力を用いて、人々を救い、心の拠り所となっていた。


 今代の聖女、ユリシア・サンクリリア


 危機感知と予知と言う二つの能力を持って生まれた彼女は、危険なモンスターの出現や迷宮(ダンジョン)暴走(スタンピード)、天災等、人々の命に関わる重大な災害を予知する事ができた。

 その力で多くの災害を予知し、未然に被害を最小限に抑えてきた彼女が、今まで出した事の無いほどの、戦慄声を上げた。


「ユリシア様?! 如何なされたのですか、ユリシア様!!」

「あぁ……このままでは世界が………。あぁああああぁぁぁ!!」

「誰かっ…。誰かっ! ユリシア様がっ!」


 恐怖のあまり、自らを掻き抱きその場に蹲るユリシア。

 そんな彼女の余りの取り乱し様に、彼女の側役の女性は、助けを求める。


「どうしました!? 何がありました!?」

「あっ……。その、突然ユリシア様が、取り乱されて……」


 ユリシアの居る教会の祈りの間。

 ユリシアと側役の叫びを聞きつけた扉の前の警備をしていた教会の戦士、守護戦士が駆けつける。


「ユリシア様、一体どうしたのですか? 何を予知なされたのですか?」


 今だ自らを掻き抱き血の気の失せた顔で震えるユリシアは、辿々しく震える声で、自分の見たものを伝える。


「お、恐ろしい怪物を……見ました。世界を覆い尽くす恐ろしき怪物の群を……」


 ユリシアの言葉を聞いた側役の女と守護戦士の顔から血の気が失せる。


「今すぐ、皆を集めてください。これは、緊急を要する事態です」


 ユリシアの要請を受けた側役の女と守護戦士が即座に動きだす。

 世界の安寧を守る守護聖教会は、いずれ現れる脅威から人々を守る為に動き出した。


―何処の山奥―


 人気の無い深い山奥に、ポツンと建つ木造の庵があった。

 襖が開け放たれた庵の縁側に胡座をかいて座り込む一人の男が、天を貫く光の柱を見ていた。


「フッ…フハハハハハッ!! 今まで幾度と無く、力を持ったモノの降臨を見てきたが、ここまでのは初めてだぞ!」


 男は人の理から外れ、幾星霜と言う長い年月を生きてきた魔人と呼ばれるこの世界の超越者のひとり。そんな男が、自身が感じ取ったものの余りの異常さに哄笑を上げていた。


「これほどの力だ。ダンジョンと共に現れた事から見ても、おそらくは落人だろうな」


 男は、魔人として生きてきた長年の経験から、出現した力の持ち主がこの世界に一定の周期で訪れる異邦人、落人の存在だと当たりをつける。


「クックックッ、しかし今頃外の連中は大慌てだろうな。俺ですら、ここまで規格外の魔力の持ち主は初めて……む?」


 外の人間達の慌てる様を思い浮かべ、その滑稽な姿にほくそ笑んでいると男の頭の中に声が響いた。


「チッ………何の用だ、魔女」

『あら、随分な言い様ね。このタイミングでの要件なんて、分かりきった事だと思うのだけど?』


 男の頭に響いた声は、男と同じ人の理から外れた魔人。

 “魔女”と人々から呼ばれ恐れられる存在のものだった。


「フンッ……、分かっている。あの魔力の持ち主に関してだろう」

『ええ、その通りよ。あなたもアレの大凡の正体は気付いているんでしょう?』


 魔女の問い掛けに答えず、男は不機嫌な様子を隠す事なく、魔女に先を促す。


「それで、仲良く答え合わせでもしたいのか? さっさと本題を言え」

『全く、相変わらずせっかちな男ね』


 魔女は男の態度に呆れながらも、話を続ける。


『一応ね、招集よ。頭のカタ〜イお爺ちゃんがアレは危「断る」……まぁ、そう言うと思ったわ』

「当たり前だ。何時から俺達は仲良しこよしの協力関係になった? 俺は俺の好きに動く。従わせたいのなら、力尽くでねじ伏せてみろ」


 男はそれだけ言うと、もう話す事は無いと黙り込む。魔女もこれ以上の問答は無駄だと判断し、念話を切った。


 男はニタリと嗤い、胡座をかいた膝に頬杖をつく。同じ魔人であれど、いや、同じ魔人であるからこそ、命令されるのが我慢ならなかった。


 魔人とは自分の我を通して、人の理を超越した者達であり、男もまた、己の我を貫く事をやめはしない。



(こんなにも、血沸く事などいつ以来だ……? ククッ、あぁ…楽しみだ。貴様はどれほど強くなるのだろうな)


 光の柱を眺めながら、これからの事を思い、男はほくそ笑んだ。


―――――――――――――――――――――


 ダンジョン出現と共に現れた強大な魔力。それが、彼らに与えた衝撃は凄まじかった。警戒する者、恐怖する者、歓喜する者、方向性は違えど全員がその動向に注目していた。


 こうして、新たなダンジョンの誕生と落人の出現により世界はまた、動きだす。

 













 ーピロン♪


 黒曜石板に文字が浮かぶ。


 ーダンジョンが解放されましたー


 ーダンジョンマスターのタスク。ダンジョン解放が達成されました。DP及び業貨が付与されますー


 ーError:落人と恩寵の不適合による不具合によりDPの付与に失敗しましたー

 どうも、黒染です。

 これにて、廃棄孔ートラッシュラビュリンー第一章迷宮胎動編は終わりです。

 この後、幕間を幾つか投稿した後、第二章が書き終わったら、第二章を毎日投稿して行きたいと思います。

 皆様の面白かった、続きが見たいといった感想を見られれば、モチベーションになりますので、誤字脱字報告、アドバイス、感想お待ちしています。

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