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【連載版】廃棄孔―トラッシュラビュリンスー  作者: 黒染
迷宮胎動編

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12/18

迷宮胎動11


 ダンジョン解放まで、残り時間も僅かになった。


 ダンジョンの開発自体は、少しずつだけど着実に進んでいる。


 ヴェルミドーザーとモルケットが大地を削り、トドルッツとゾウアシグモが土を盛り、固める事で、山を、谷を、平野を、洞窟を、築きあげ、そこにシルヴァディが種を蒔き、ノエルの活性液を掛ける事で大樹へと生長させ、荒涼とした大地を鬱蒼とした深い樹海へとどんどん変貌させていく。


 高原にある水樹から流れ落ちた水でできた滝壺。いや、もはやそれはただの滝というよりナイアガラを思わせる大瀑布となり、滝壺は小さな湖とも言える様相で、水面に打ち付けられた水が、空気中に舞い上がり霧となって白く辺りを包み込んでいた。そして、湖から流れる水が樹海の至る所へと流れて川が作られ、樹海の大地に潤いを与えていた。


 潤いを与えられた大地に根ざす大樹は、地下洞窟として彫り込まれた活性の魔法陣の力と、急生長させる為に掛けられた活性液の力との相乗効果により、より大きく、より逞しく育ち、さらにあまりに大きく育った大樹の葉が光を殆ど遮る事で樹海の中は常に薄暗くなっていた。だがしかし、樹海の中に生える薄っすらと光を放つ花や草が薄暗い樹海を仄かに照らして、まるで御伽噺に出てくる妖精の森の様な不思議で、それでいて危うい雰囲気を漂わせていた。

 因みに魔方陣は完成しだい、ティファニアに教えてもらいながら、魔力を注ぎ込んで起動させている。今の所起動できているのは、ダンジョン中央の岩山と高原、樹海ぐらい。


 樹海の地面、滝壺の水底、洞窟の壁など、至る所で蠢く小さな小さな白い粒。

 粒の正体は、アミンコ。

 急生長した植物から出る枯れ葉や、枯れ枝、開発作業中にモルケットやヴェルミドーザーに食べられてしまったトドルッツの残骸、死んでしまったたヴェルミドーザーやモルケット等の遺骸を食べて分解して土へと還す。さらにアミンコ自体が、ヴェルミドーザーやモルケットの餌となり彼らの活動を支えてくれていた。


 ノエルは、ぼく達のいるコアルームの一画に設けた彼女専用の産卵場兼養殖場で只管“蟲産み”を使って卵を産み、彼女の能力で次々と孵化、変異繭にしては進化させてダンジョンへと送り込む。

 環境が整っていくにつれて、送り込まれて行く蟲モンスターの種類も増えていく。大きさも、ヴェルミドーザークラスの大きさから、地球でよく見る大きさまで大小様々揃っている。

 水中で活動できる蟲モンスター、樹海に潜む蟲モンスター、空を飛ぶ蟲モンスターなど、主に生み出されるのはモルケットやヴェルミドーザーといった環境整備用の蟲モンスター以外の、ダンジョンの環境を整えるのではなくダンジョン解放後に向けたモンスターもダンジョンに加わった事で、ダンジョンのモンスターの層はより厚くなっていった。


 モルケット、ヴェルミドーザーの掘削班には、地下魔方陣の掘刻に地上の掘削と盛り土を続けてもらい、緩くなった地盤をゾウアシグモが“転圧踏”で適度に固める事で、洞窟の壁や天井、地上の地面が崩れないように安定させる。

 

 シルヴァディは、ヴェルミドーザーやモルケット、ゾウアシグモが整えた場所をトドルッツを引き連れて歩き周りながら、“種生成”を使って種を生み出してはばら撒いて、蟻の様にノエルとの間を行き来するトドルッツが活性液を種に振りかけては樹を育てる。

 この時に、樹の根っこが地下魔方陣の洞窟がある深さにまで伸びてしまったとしても、シルヴァディの能力で、上手く洞窟を塞いだり、崩さない様に伸びる様にしてもらっている。

 さらに、シルヴァディが通った後には、鬱蒼とした草が生えて大地を覆い、活性液と魔方陣の効果で急激に生長しては枯れ草となり、どんどん体積してはアミンコ達が微生物の役割を果たして分解しては腐葉土に変えていく。


 そうやって、シルヴァディはダンジョンを周り、コアルームのある大穴を囲う岩山の周辺の領域に樹を植えて、樹海迷路を作り出してくれていた。


 しかし、幾ら急生長させられると言っても、植物の生長には時間が掛かるみたいで、樹の一本が種から巨大樹へと生長しきるのに凡そ2〜3時間程かかっている。


 その為、ぼくの広域解放型ダンジョンの広大な領域をカバーしきるには時間が到底足りなくて、樹海迷路にできたダンジョンの領域は全体の土地からするとほんの僅か。

 

 これだけギリギリの時間になっても樹海迷路へと作り変えられたのは、ダンジョンの中心なるコアルームのある大穴から、凡そ半径2〜3kmぐらいの範囲まで。

 ぼくのダンジョンの全体図が、“ラビュリンスアドミニスト”で確認した限りだと直径30kmほどの大きさがあり、全体の10分の一ほどしか開発が進んでいない。


 普通のダンジョンマスターとは違いDPを使わずに、モンスター達に協力して貰いながら、コツコツと進めてきたけれど、通常のダンジョン作りなら、DPを払えば一瞬でその施設を作り出せるのだろうか。DPっていう有限の資源が必要になるとは言え、時間っていう替えようの無いものを確保できる。

 そう考えたら、やっぱりモンスターの成長速度、穴掘りや土固め、荷運びの時間、樹木の生長速度とかを総合的に考えてみると大分時間が掛かっているし、ぼくのこのやり方は効率はかなり悪いのだと思う。

 でも、ぼくにはこれ以外の方法が採れない。

 ダンジョン作りに1週間という準備期間を与えられたけど、懸念通り、時間内にダンジョンを開発しきるのは無理そうだ。

 

 だけど、まだ時間はあるから、限界ギリギリまで開発は続けていく。

 幸い人手?蟲手?は増え続けているので、領域の開発、地下魔方陣の掘刻は問題ない。


 問題なのは種植えの方だ。

 種植えを行う事自体は、シルヴァディから種を受け取ったトドルッツ達にも出来るけど、育った樹木をコントロールして、地下魔方陣に影響を与え無いように出来るのはシルヴァディだけ。

 その為、樹の生長をコントロールしつつ充分な大きさにまで育ってから次の樹を植えに行くと言う方法で樹を増やしている為に非常に時間が掛かる。

 樹が生長した時に、土の中の根っこがどんな長さにどんな方向に伸びるのか分からないので、地下魔方陣の通っていない場所に植えてもし、地下魔方陣の方に伸びて洞窟を崩してしまったりしたら怖いので、万が一に備えてシルヴァディのいない所では、種植えしないようにしている。


 シルヴァディの他に同じ様な能力を持ったモンスターがいれば良いのだけど、そう言った能力を持つモンスターは、精霊や上位の植物モンスターぐらいで、精霊はそもそも今のぼくには逆立たしたって呼べないし、上位の植物モンスターは今のシルヴァディの力では生み出せないらしい。

 それに、それは植物を操る能力の話で、植物を自在に生み出す能力を持つ者はいないそうだ。

 だからと言って、シルヴァディと同じ能力を持ったモンスターを生み出す事もできない。

 シルヴァディは“十三の獣”って言う特別な存在で、ティファニアはこう言っていた。


「“十三の獣”の産み出される眷獣は、既存のモンスターの枠組みから逸脱したモンスター。

 本来は実体を持たない無垢の魔力。

 そんな無垢の魔力を膨大な量を圧縮して造られる命の源に、心象で力と貌を与えるでこの子達は産まれてくる。

 心象で形作られたこの子達は、今まで存在しなかった全く新しい種族として世界に刻み込まれる。つまり、“十三の獣”って言うのは生命創生の能力なの。

 でも、そんな能力だからこそ同じ存在を再び創造する事はできないって言う制約がある。

 それは、この子達が死んでしまっても同じ事。例えこの子達が死んでしまったたとしても、同じ能力を持った眷獣を生み出す事はできない。

 正しく唯一無二(ユニーク)と呼べる存在なんだよ」


 “同じ能力を持った存在を再び創造する事はできない”という制約によって文字通りの唯一無二のモンスターになる“十三の眷獣”。

 しかし、同じ能力を持った存在を創造できないとはいっても、能力の対象が違うのば、同じ様な能力を持った眷獣を生み出す事は可能だった。

 それは、ノエルとシルヴァディは能力の方向性は同じだけど、対象は蟲と植物といった具合に違う事が証明している。


 これから先、“十三の獣”で新しい眷獣を生み出す時用にこの事を頭に入れておかなくちゃいけない。


 話を元に戻す。


 つまりは、シルヴァディと同じ力を持ったモンスターを増やす事は不可能だと言う事で、その為、樹海迷路を造る速度はこのままのペースで行くしかないと言う事でもあった。

 時間ギリギリまで開発は続けていくと決めていたけど、今、ぼくに出来る事って何かあるのかな?


 ダンジョン解放まで、時間も差し迫ってきている。ぼくが何か思いつたとしても、幾ら蟲手があるとは言え、それ迄に作業が間に合わ無い可能性の方が高いし。

 

 それなら、こっちの事はシルヴァディ達に任せて、ダンジョン解放後に向けてモンスターの拡充をしておいた方が良いのかも知れない。


 後一体、ノエル達と同じ母体型の眷獣を生み出せれば、ダンジョンが解放される前にダンジョン防衛とDP獲得の為の戦力を少しでも確保しておける。


 うん、ダンジョン開発は時間ギリギリまで、今の方針で進めもらって、ぼくは戦力の確保に尽力しよう。


 ノエルとシルヴァディにその事を伝えて“ラビュリンスアドミニスト”を解除する。


「ティファニア、後一体、眷獣を生み出して欲しいんだけど、ダンジョン解放までに間に合うかな?」


 時間の事も踏まえて、“十三の獣”の能力で時間迄に眷獣を生み出す事は出来るのか確認しておいた方が良いだろうと思い、ティファニアに聞いてみる。


「ん、……2人で頑張れば大丈夫だと思う。でも、嬉しい。タイキからそういう事言ってきてくれた」

 

 嬉しそうにはにかみながら、背後から首に手を回して、所謂あすなろ抱きをしながら体重を預けてくる。

 そういえば、ノエルの時もシルヴァディの時もぼく、襲われてたっけ?

 ノエルの時は、“十三の獣”の使い方を聞いたら、ティファニアがティアマットとしての本能をもう抑えきれないって言って暴走して、そのまま襲われたんだった。

 それで、シルヴァディの時はえっと……そうだ、ノエルと食糧の事で話をしていた時に、疲れて寝込んでいたティファニアが起きてきて、“十三の獣”を使って食糧を生み出す眷獣を生み出せば良いと言って連れ込まれてシたんだよね。


 言われてみると確かに、ティファニアからアプローチを掛けられてばかりで、ぼくから言い出した事なかったっけ。


 ……あれ? よくよく思い返してみたら、はにかんでなんか初々しく感じるけど、ティファニアって結構肉食系だよね。

 髪の毛と竜の筋力で、がっつり固定されて抵抗なんかまるで出来なかった上にマウントは取られっぱなしで、延々と貪られたし。

 ノエルの時も、シルヴァディの時も精根尽き果てるまで絞り尽くされて、シルヴァディの時は2回目だったからティファニアが多少理性的だったから、まだ耐えられたけど初めての時は暴走してたから気絶するまで絞られて、気が付いたら一日経ってた時はびっくりした。


 そう思ったけど、ティファニアの嬉しそうな顔を見たら、まぁいいかと思ってしまう。

 それだけ、ぼくを必要だと思ってくれていると言う事なのなら、そんなのは些細な事だ。


「……その、……ティファニア」


 彼女のぼくの首に回されている腕に、そっと手を添える。

 

「……フフッ。ん、良いよ。時間もないし、シよ」


 ……うぁ〜、改めてぼくの方からこういう事言い出すのはやっぱり恥ずかしい。

 緊張で碌な言葉も出せなくて、アプローチは、ただティファニアの腕に手を添えるだけ。

 男として凄く情けないとは思うけど、向こうでこういう経験なんてしたことなかったし、何より、ティファニアみたいな綺麗すぎる女の子を相手に緊張しないなんて無理だよ。


 ティファニアは、そんなぼくの情けないアプローチでも、全然気にした様子もなく、ぼくを抱き締めていた手を緩めて、背中から離れる。振り返って、彼女に向き合うと、ティファニアは優しく微笑みながら両手を広げて迎え入れてくれた。




………………………………………………


……………………………………


………………………


………………



「ゼェッ……ハァッ…ハァ…ハァッ…!」


 10時間程経っただろうか……。

 ぼくは、前の2人の時と同じ様に“十三の獣”の為に魔力をごっそりと奪われた事で、凄まじい倦怠感に苛まれて、マトモに立っていられずに息も絶え絶えに座り込んでいた。

 その横ではティファニアが、命の源で満たされて膨らんだお腹を優しく撫でながら、ゆったりと寛いでいる。


 魔力が他の人に比べて、海と言われる程に多い筈のぼくだけど、“十三の獣”の為に魔力を使うと、毎回必ずと言って良いほど疲労困憊になってしまう。


 ぼくは魔法や能力といった事に全然詳しくないけど、“十三の獣”の消費魔力量はそんなぼくからしても、絶対に普通じゃない事は分かる。

 魔力は生物の生命維持に欠かせない重要な身体能力のひとつであり、これが体中に張り巡らされた経絡を巡る事で身体機能を機能させているらしい。

 魔力が少なくなったり、失われたりすると魔力欠乏症となり身体機能が低下して、疲れやすくなったり、病気になったり最悪の場合には死んでしまう事もあると言う事だ。


 魔力量が多ければ多い程、魔力欠乏症になりにくくなるらしいのだけれど、“十三の獣”を使う為に消費される魔力は、ぼくの魔力の殆どを持っていき、酷い倦怠感、息切れ、目眩等といった魔力欠乏症を引き起こしていた。

 それでも、前2回と違って倒れ込んではいないので、ちょっとは進歩しているのかな……?


「ハァ…ハァッ、きっ…つい……意識が、……飛びそう………。そ、そうだ……仙桃。仙桃食べれば良いんだ」


 体力と魔力を回復する効果のある仙桃をトドルッツにぼくの分とティファニアか産み終わった後の回復用に二つ持ってきて貰うよう念話で頼む。


 トドルッツが仙桃を持ってくるのを待つ間に、眷獣を産み出しておこうと思いティファニアの正面にまわる。


「……良し。ティファニア、いくよ。準備は良い?」

「ん、良いよ。来て」


 ティファニアの膨らんだお腹に、両手とオデコを当てて、目を閉じて、集中しイメージを確りと頭の中に浮かべて、命の源へと送り込む。


 今回イメージするのは、水生生物を生み出す女王モンスター。

 水の中を生きる魚類等を基に複数の因子を持たせ、単位生殖で増える事のできるクラゲの様な能力を与える。

 水を自在に操り華麗に優雅に舞う様に泳ぎ回り、聞くもの全てを魅了する様な

活力を与える綺麗な美声。

 新しくできた、そしてこれから増える水場を支配する美しき人魚姫。


 ぼくの心象が定着し、ティファニアのお腹、命の源がドクンと一際強く脈打つ。


「ぐぅっ……!」


 脈動と一緒にティファニアの表情が、苦痛に歪んだ。


 始まった……。そう思い、ティファニアの横に回り込み、岩を背もたれに彼女を楽な姿勢にすると、またティファニアの手を握る。


 ティファニアはまた、顔中に汗を浮かべて、苦痛に顔を歪めながら、呻き声を上げる。


 身を捩り、繋いだ手を固く握り締めながら、産みの苦痛と戦うティファニアに声を掛け続けて、彼女を励ます。

 励ます事しか出来ない、この時間はもどかしく感じる。

 でも、ティファニアの代わりをぼくが出来る訳も無いし、彼女が頑張ってくれている時にできる事は、これくらいしか思いつかなかった。


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」


 そして、一際大きな叫び声を上げた後、ティファニアの表情が、ふっと和らいだ。

 薄く目を開けて、足元に視線を向けた後、ぼくに振り向いてティファニアは微笑む。


「……はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……はあぁぁ…、ふぅ〜〜……タイキ、ありがとう。もう……大丈夫。あの子に名前を付けて上げて」

「分かった。でも、何かあったらすぐに言ってね」

「うん、ありがとう。タイキ」


 新しく生まれてきた子に目を向ける。


 そこには、首を傾けて不思議そうにぼく達を見つめている球状の水のヴェールの中を揺蕩う少女がいた。


 透明感のある宝石でできた糸の様な水色の髪の毛が肩ほどまで伸び、くりくりと大きな丸い瞳の中に無垢な光を湛えたノエルと同じくらいの幼い顔立ち。

 球状の水のヴェールの中、ひらひらと揺らめく透き通った大きなヒレをドレスの様に身に纏い、頭頂部に細長い触手が垂れつくクラゲの傘を帽子の様に被った上半身が人で下半身が魚の小さな人魚の女の子だった。


 ふいにクイクイっと服が引っ張られる感覚がして、そちらの方を向くと二つの仙桃を抱えたトドルッツが服を引っ張っていた。

 丁度いいタイミングで仙桃を持ってきてくれたトドルッツにお礼を言って、仙桃を受け取り、ひとつをティファニアに渡してもうひとつの方に齧りつく。


 仙桃で、魔力と体力を回復させながら、眷獣の子を見て思う。

 相変わらず“十三の獣(幼)”の影響で、幼い姿で生まれてくる眷獣。

 能力を成長させて、この(幼)と言うのを取るにはどうすれば良いんだろう?


 まあ、それは後で考えよう。

 う〜ん、この子は、どんな名前が良いかな?


 人魚。ヒレの形は金魚っぽくて、あの帽子のクラゲはミズクラゲかな?

 二の腕あたりから、ひらひらのヒレが腕を覆って萌え袖みたいに手を隠してるけど、ヒレが透き通ってるから、中の手は見えちゃってる。

 ……透明か。この子のクラゲの帽子も宝石みたいな髪の毛も、ドレスみたいなヒレも全体的に透明感のある体をしているんだよね。


 透明、透き通る。無垢、澄んだ。……澄んだか。英語だとクリア、フランス語でクレール、後何があったっけ?えーっと、クラレス、クララ……、ん? クララ?

 あっそうだ、スペイン語で澄んだってクララとも言うんだ。

 クララ……うん、女の子っぽくて良いかも。


「クララ。君の透き通った綺麗な姿から、無垢で澄んだって意味のクララ。それが君の名前だよ」


 名付けを行った時のごっそりと魔力の持っていかれる感覚と、クララから溢れ出す力の奔流。


「……………………アハッ」


 さっきまで不思議そうにぼく達を見つめていたクララの表情が変わり、楽しそうに無邪気な笑顔を浮かべた。


「クララ、クララ!私の名前はクララ!アハッ!アハハハハハハハハハハ!!」


 自分の名前を何度も叫び、空中を踊るように泳ぎ回りながら、クララは狂ったように笑いだした。 


「えっ…?えっ、え〜っと……ク、クララ〜どうしたの〜?」


 話かけても、反応せずにそこら中を飛び泳ぎ回り、楽しそうに笑うクララの奇行に、どうしたのかと困惑して言葉が出て来ない。


 いや、本当にどうしよう。クララが落ち着くまで待った方が良いのかな?

 ……とりあえず、クララが満足するまで笑い泳ぎ終わるまで待って、落ち着いたらまた話かけてみよう。


 待っている間にクララのステータスを確認しておく。

 もしかしたら、あんなに笑い続けている原因が分かるかもしれないし。


 ーー


【揺籠水童女 ウィルメドゥク】

 個体名:クララ

 階級:幻想級

 契約主:タイキ

 特性:深き水(アルト・マーレ・)の狂気(ディメンティア)

   :清き(ウェスティス・)水衣(アクア・プーラ)

   :楽園の歌声

   :海姫

   :水棲の因螺旋

   :十三の眷獣Ⅲ

 能力:分御卵(わけみたま)

   :水操作

   :毒刺胞

   :戦いの歌

 

 詳細:水の中に棲む生き物の因子を持つ人魚姫であり、清らかな水の清廉な力と深海の暗い狂気の力が混在する第3の眷獣。

 深き水の狂気は、相対する者の精神を蝕み不和と殺戮を引き起こし、清き水の衣は、自らに降り掛かる災いを清め祓い除ける。しかし、清廉と狂気。今の幼く未熟な精神では、この相反する力を制御しきれず、精神が非常に不安定になっている。

 その影響で感情の抑制が効かずに、ほんのちょっとの切っ掛けで、喜怒哀楽の感情が振り切って、極端な感情表現が起きる。

 楽園の歌声。その声で紡がれる歌は、聴く者全てを虜にし、天上の法悦へと誘う。歌系の能力を最大限まで高め、聴いた味方の力を極限まで引き上げる。

 

 ーー


【分御卵】

 自分の細胞から、自分の持つ遺伝情報を元にした生き物の卵を作り出す。

 作り出された卵は、これのみで孵化が可能であり、受精を必要としない。


【水操作】

 自身の魔力を流し込んだ水を自在に操る事ができる。

 空気中の水分を操って、空中に水場を作って泳ぐ事もできる。


【毒刺胞】

 触手の中に、触れた瞬間に大量の毒を送り込む強力な刺胞を持つ。神経毒から溶血毒、細胞毒、致死性に非致死性まで自由に組成を変えられる。


【戦いの歌】

 聴く者の戦意を向上させて、攻撃力や耐久力といった戦いに関する力を引き上げる歌。

 歌い手の技量により、効果は変動する。


 ……………原因、これかぁ。


 クララのステータスの詳細にあった深き水の狂気と清き水衣の力の反発による、幼い精神への負荷。その負荷によって引き起こされる感情の暴走。

 きっとクララが今、笑い続けているのも、この負荷の所為で名前を付けられた喜びの感情が抑えきれず、感情のメーターが振り切ってしまっているからなんだ。


 初めて“十三の獣(幼)”が明確に悪影響を及ぼす事態が起きてしまった。

 今は喜びだから、笑うだけで済んでいるけれど、これが怒りや憎しみみたいな誰かに危害を加えるような感情が暴走してしまったら、大変な事になる。

 怒りの暴走で、敵味方の区別なく暴れてクララの能力的にどちらにも甚大な被害を与えかねない。


 クララの精神がまだ幼いから暴走してしまうとあるので、この子が成長していけばそれも収まってくるんだと思う。

 それまで、どんなトラブルが起こるか分からないけど、根気よくこの子に付き合って行こう。

 

 これでダンジョン解放前の僅かに残された時間。少しだけど、モンスターの層を厚くする為の布石を、さらに重ねる事ができた。

 まあ、こうして最後に新しく生まれた子は、ちょっと心配になる問題児だったけど。


 ――ダンジョン開放まで残り12:00:32――

 どうも、黒染です。

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