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19 姉の夢と妹の願い


ニュースは、村の広場に残る切り株に寄りかかり、自らの書いたメモを読んでいた。


これまで2週間。

ゴブリン村に滞在して、この集落で見聞きしたものを、とにかくメモってきた。


それを、そろそろまとめようとニュースは思う。

びっしりと書いたメモに目を走らせ、バベルに持参する報告書の構成を練る。

思いついたフレーズを、白紙のページに記入していった。


その手がふと止まる。

子ゴブリンたちの上げる笑い声に、気持ちが()かれた。


子ゴブリンは、村の片隅で昼寝をしているアクセル・カメオに、ちょっかいを出していた。

草むらに隠れながら、手作りの吹き矢をカメオの尻に向けて、ぷっと吹いていた。


飛ばした矢の先は、尖っていないのだろう。

尻に当たると、くるくる回って跳ね返り、地面に転がる。

とにかく当たるのが楽しくて、2匹の子ゴブリンが交互に笑い合っていた。


「確かあれは、パルとググーだっけ」


未だにゴブリンの見分けは付かないけれど、よく見ているとその行動で分かる。

あの2匹は、ファーの釣り仲間だ。


他のゴブリンのように、びくびくする事もなくて、よくファーに懐いている。

パルとググーという名前は、ファーがいつの間にか付けていた。


「ニュース姉、パルとググーがどうしたの?」


ニュースの隣でイナシルの骨をナイフで削り、釣り針作りに夢中になっていたファーが、顔を上げる。


「ほら見て。またあの子たち、カメオにちょっかい出してる」

「こりない2匹」


アクセル・カメオは、尻に矢を当てられても気にせず、眠っていた。

そのうちパルとググーは、飛ばす矢が尽きたらしい。


2匹は草むらから出て、のこのこカメオの尻まで、矢じりを取りに行った。

拾ってまた吹くつもりだろう。

すると眠っていたはずのカメオが、がばりと起きて体をねじり、パルをぱくりと呑み込んでしまう。


「あっ」


ニュースは思わず立ち上がった。

しかしニュースの焦りとは裏腹に、カメオが口を開けてパルを吐き出した。

よだれまみれのパルを見て、ググーが笑い転げていた。


「ああもう! 驚かさないでよっ」


ニュースは頬を膨らませて、また切り株に寄りかかった。


「どうしたのニュース姉? ちょっかい出してよだれまみれになる。アレはいつもの事」

「そうだけどさ、んもうっ」


ニュースはメモ帳に、パルとググーは特大のバカと書き込んだ。


「心臓に悪いわアレ」

「どうしたの?」


ニュースはジト目でファーを見つめて、溜め息をつく。


「本来ゴブリンは、カメオのエサでしょう?

でもここのゴブリンを、カメオは食べない。

村にいる8匹のカメオは、交互に狩りに出かけているようだけど……

一体普段は何を食べているのかなって、カメオのフンを調べてみたのよ」


「うえ、うんちを?」

「フンをね」

「うんち」


「そうしたらフンの中に、色々な骨のカケラや羽が混じって、ゴブリンの牙が出てきたの」

「え?」


「つまりここのカメオは、別の集落のゴブリンを襲って食べている。

そしてここに戻ってきて、この集落のゴブリンを守っている」


「どういうこと?」


「この村と、他のゴブリン村の違いは何かって言ったら、それはもう『ガサチン』しかないと思う。

ガサチンの加護を、受けているかどうか」


ニュースは子ゴブリンたちを眺める。

話している間に、ググーもよだれまみれになっていた。

2匹で笑い転げている。


「まったく! 危ない遊びばかりやってっ」

「ふしぎ」


「でしょう。何とか、ガサチンと接触できないかしら」


「違うそっちじゃない。カメオが、ゴブリンを食べるのは当たり前。

でも今は、食べられそうになったのを、ニュース姉は心配してる」


「別に、不思議でも何でもないでしょ」

「仲良くなったから?」

「そうね、2週間もいると」


「仲良くなったから、危ないことをすると心配になる?

ニュース姉でも、心配になる?」


念を押されて、ニュースは(いぶか)しむ。


「……ファー、何が言いたいの?」

「べつに」


ファーはそう言ったきり(うつむ)き、また釣り針作りに戻った。

ニュースはその手元をじっと見つめる。


「ファー」

「なに」

「……」


呼びかけておいて、ニュースは言葉が出ない。

いや、出したくないのだろう。


「……ファー、この私に、報告書を諦めろと言うの?」

「そんなこと言ってない」


「いいや言ってる。全身で言ってる。

ニュース姉()()って何? 言いたい事があるなら、言いなさいよ」


ニュースの問いかけに、ファーが顔を上げそっぽを向く。


「……バベルに教えれば、みんなが調べにくる。

そうしたら、この村はめちゃくちゃになる。

ゴブリンだから、何しても良いって思って。

ゴブリンは駆除の対象だから」


「それはっ」


「私、ここが気に入ったの。そっとしておきたい。

ここは私と、ニュース姉とキリル姉だけの、秘密の場所じゃだめ?」


「そんなのっ」

「ニュース姉は、ここが人間の村でも同じことしてた?」

「え?」


「ギャワッ」

「ガワワッ」


硬い表情の姉と妹の間に、子ゴブリン2匹が無邪気に割り込んだ。

パルとググーは、よだれまみれで乾いた土の上を転げたから、緑色の体が白くなっていた。

ファーの膝小僧に抱きつこうとするので、ファーは毅然と手のひらを向ける。


「まて、ガウッ」


すると2匹は手をぶらぶらさせて、大人しく待つ。


「この子たち味をしめてる。

私のこと、便利な水浴び場だと思ってる」


ファーは子ゴブリンの鼻をつつきながら、持っていたナイフに水魔法をエンチャントさせ、水の玉を2匹の頭へ落としてやった。


「ギャワワッ」

「ギャブギャブ」


2匹はふわふわ浮かぶ水の玉の中へ、自分からお尻を突っ込んで振っていた。

その小さな背中を見つめ、ニュースはしかめっ面で下唇を噛む。


ゴブリンは見慣れてくれば、どこかぶさくて可愛いのだ。

そう思う自分がいることを、ニュースは自覚していた。


(ニュース姉は、ここが人間の村でも同じことしてた?)


先ほどのファーの言葉が、耳にこびり付いている。

人間の村ならば、自分はそこまでするだろうか?

恐らくしない。そんな迷惑はかけない。


けれど、ゴブリンならば別に構わない。

言葉にせずとも、ここに来るまでのニュースはそう考えていた。

いや考えるまでもない。


ゴブリンは駆除対象。

その意識が、配慮する必要性をニュースに感じさせなかった。


しかし今はどうか?

自分の将来と、ゴブリン村の運命を天秤にかける。


目の前の子ゴブリンの楽し気な姿に、決心がぐらつく。

自分のこれからの6年のために、ゴブリンの3年を足場にする。


「ファー。私はこの家出を、半年前から準備していたの。

ううん、バベルの魔道学園にどうしたら入れるのか、それをもう何年も前から考え続けていたわ」


「……そう」


「それをゴブリンのために、捨てろと言いたいわけ?」

「ごめん、無理ならいい」


そのあっさりと引き下がるファーの言葉に、ニュースは余計に腹が立つ。

けれどその怒りは、何に対しての怒りなのか?

ニュースは荒々しく立ち上がり、その場を大股で去った。


その様子に、パルとググーがきょとんとする。

そんな子ゴブリンたちの首の下を、ファーは撫でてやった。


「ギャウ?」

「ギャギャウ?」

「ううん何でもない。ほら首の下も洗って、ガウッ」



    *



「ファー姉が、一番優しいなあ」


俺はカメオの裏に隠れ、聞き耳を立てながら大きく(うなず)いていた。

やっぱりファー姉が、3人くらい欲しい。


「ここに来て、仲間割れするとは思わなかった。

どうだろう? このままファー姉のアイデアに乗っかる?

もっとゴブリンの、和気あいあいな所を見せつけるか。

ニュース姉の罪悪感を刺激してさ。

そうしたら、俺の秘密基地公開を諦めてくれるかな?」


しかし、そこで俺は腕を組む。


「でもそれじゃあニュース姉を、バベルの魔道学園へ押し込めないしなあ」


作戦が上手くいかない場合に備えて、次の手も練っておくもの。

だけど、あのニュース姉の余裕のなさ。


「多分、プランBなんか持ってない」


さてどうしたものかと頭を捻っていると、キュイキュイ鳴いて、瑠璃色(るりいろ)の小鳥がカメオの背に止まった。

この小鳥は「ラピス・スワロー」と言って、闇の森のどこにでもいる平凡な鳥。


だからこそ砦に張りつかせておいても、疑われない鳥だった。

このラピス・スワローにも、俺の「融合管」を一本植えこんであり、ドローン代わりに使っていた。

俺は思念波(テレパス)を通して、小鳥から報告を受ける。


「キュルル、ピュロロロロッ」

「くあ、砦に人間!? やっぱり来たかっ」


俺は頭を抱えながら、指を折って家出からの日数を数える。


「2週間かあ。いつか来るとは、思っていたけどさ……

あんまり来ないから、ひょっとしてこのまま、何事もなくすむかもって期待してたんだけどなあ。

そう上手く行かねえか。

だが待てよ。

2週間もかかったって事は、街を虱潰(しらみつぶ)しにしたあと、やっとこの闇の森を選択肢に入れたわけか。


この時間のかかりよう。

向こうは、ニュース姉たちの決心と行動を、なめプしてやがったな。

うん……それはそれで、良い材料かもしれない。

さて、どうするか」


俺はスダッジドングリを細かく砕き、ラピス・スワローに食わせながら考え込む。

(てのひら)をつつく、クチバシの感触がくすぐったかった。


「チチチッ」

「うひっ」




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