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18 森の精霊と美しき追跡者


その夜、食事を終えて。

ニュース、キリル、ファーは、あてがわれた小屋でいつものように雑魚寝した。


「ねえ、キリル、ファー聞いて。私今日ずっと考えていたのだけれど」

「なんだ?」

「なに?」


「ゴブリンは、魔獣のエサになっているでしょう?

だから長くて寿命は3年くらい。

そんな短い寿命で、なんで編み物とか、釣り針とか、小屋とか。

そんな複雑なモノの作り方を、次の世代に伝えて行けるのか?

これが不思議だったでしょう?」


「ニュース姉、なんの話してんの?」


昼間の話を聞いていないキリルに、ニュースが手短に話す。

キリルが片眉をひょいと上げた。


「へー、なるほどねえ、それで?」


「これって、次の世代へ伝えているんじゃなくて。

ゴブリンは生まれながらに、『知っている』んじゃないかしら?」


「はあ?」

「ひらたく言って」


「蜘蛛っているでしょう? 

あれって誰に教えてもらったわけでもないのに、糸でとても複雑な巣を作るじゃない。

あれと同じように、ゴブリンも誰かに教えて貰うんじゃなくて、既に知っているんじゃないかしら」


「ええ?」

「おもしろい」


「ねえキリル、ファー。

小さい頃に叱られたとき、侍女のパピルスに聞かされたゴブリンの話覚えてない?」


「あー、あれかあ。言うこと聞かない悪い子は、神さまがゴブリンにしちゃうってやつ」

「あれ、怖かった」


「あれがもし本当なら?」

「あれが?」

「パピルス、あればっかり話す」


「あれには元の話があるの。言い伝えとしてね。

実はゴブリンって、昔は凄い『精霊』だったって。

その精霊が、ある日神さまの怒りを買って、醜いゴブリンにされてしまったって。

確かそんな話」


「火の精霊よりすげえの?

「水の精霊より?」


「う~ん、とにかくもしゴブリンが『森の精霊』だったなら、つじつまが合うわ。

森の精霊は、森そのものの意思。

だから生まれながらにして、森で生きるための方法を知っている」


「おおっ」

「おもしろい」



    *



「へー、そうなの?」

「ギャプ?(なにが?)」

「ガサチン、ガブッ(ガサチン、早くつくって)」


俺は、うずくまるアクセル・カメオの腹に寄りかかりながら、「ヴォイドイヤー」を使って姉たちの話に、聞き耳を立てていた。

俺の(ひざ)には、子ゴブリンが2匹まとわりついており、約束の吹き矢を作れとせかしてくる。


俺の作る吹き矢は、ゴブリンの作るものより遥かに精度が高かった。

なにせ左手のアイテムボックスから出した、SFガジェットの工作具で作るからだ。


けれど聞き耳を立てながらの作業なので、ついつい手がおざなりになってしまう。

それが子ゴブリンたちは、お気に召さない。


「ガサチン、ガブブッ(ガサチン、手うごかしてっ)」

「ガサチンッ」

「はいはい、やってるっての」


『で、そこでガサチンなわけ』


「ん?」

いきなりニュース姉が、俺の名を出してきた。


「ガサチン、ガッ(ガサチン、手っ)」

「ギャブッ(つくって)」

「ごめん、ちょっと待って」


俺は緑のパグ犬――じゃなかった、子ゴブリン2匹をへそ天にして、腹を撫でながら聞き耳を立てる。


『あーその言葉、私も聞いたことあるぜ、ガサチンってやつ』


キリル姉がニュース姉から話を聞き、うなずいているようだ。

ニュース姉が話を続ける。


『ゴブリンはガサチンのことを尋ねると、そっぽを向く。

そして逃げてしまう。

これは明らかに、隠そうとしているでしょう?』


『してるな』

『してる』


『なんで隠すのか? なんで隠さなきゃいけないのか?

それはゴブリンにとって、ガサチンという言葉が、とても大切な言葉だからだと思う。

でもつい心が乱れると、口にしちゃう言葉』


『なんだよ、もったいぶるなよニュース姉』

『ひらたく言って』


『ガサチンは、ゴブリンがパニックになったとき、必ず口にする言葉。

それって人に例えると、似た言葉があるでしょ?』


『んー、オーマイゴッド?』

『それよファー!』


ニュース姉が、膝をぺちぺち叩く音がする。


『ガサチンは、ゴブリンにとって神なんだわ。

でも隠さなきゃいけない。

それはなぜ?

それはゴブリンを罰した神とは、別の神だからっ。

罰した神に、知られてはいけないからっ。


ゴブリンは今。

別の神さまの加護によって、森の精霊としての力を取り戻そうとしている。

あのアクセル・カメオとの共生は、その第一歩なんだわ!』


『まじか!』

『すごくおもしろいっ』


「ええええっ!? 何それえええっ!?」


「ガサチン、ギャフ(ガサチン、もっとなでろ)」

「ガサチン、ガブブッ(ガサチン、手うごかしてっ)」


俺はニュース姉の想像力の豊かさに、のけ反ってしまう。

なんでそうなんのさ!?


「話が飛躍し過ぎだろうっ。深夜テンションかよ!?」

「ギャワッ」

「ギャッフ」


「……なあ、お前らって、生まれて直ぐ喋れんの?」

「ギャギャウッ(しゃべれるよっ)」

「ガウ!(おでも!)」


「ん? ……じゃあ生まれて直ぐ、カゴとか、釣り針とか、小屋とか作り方知ってるのか?」

「ギャイッ(知ってるよっ)」

「ガウガウ!(おでもおでも!)」


「え、まじで!?」



    *



「駄目だ、どこにもおらん」


コードウェル本家。

その邸宅の3階のテラスに、ニュースたちの母。

ハーモニア・コード、コードウェルが立っていた。


その夫ランバートがテラスへ出てきて、たった今ハンターギルドから受けた報告の内容を、妻に聞かせる。


「バベル、コードウェリア、ルミナスの街では見つからん。

現在は範囲を広げ、小さな集落も捜索しておるようだが……」


「無駄足でしょうね。

村の者が、私を敵に回すようなことに、手を貸すわけないわ。

バレたら村が無くなるもの。

ニュースもそれを見越して、村の者には助けを求めないでしょう。

あの子は優しいから」


「まったくあいつら、一体どこにっ」

「もう、そうなると闇の森しかないわねえ」


「闇の森? それはいくら何でもお前っ」

「私も若い頃、一度森に家出したことがあるの」

「なに?」


ハーモニアはテラスの欄干に手をかけ、言葉を続ける。

丘の上に建つ屋敷からは、裾野に広がる城下の街、コードウェリアが一望できた。


「まさか、あの子まで同じことをするなんて……

命知らず。それを支える気概。

私は3日も持たなかったけれど、家出から今日で2週間。

やってくれたわね、ニュース。

これで、王都の入学式には間に合わないわ」


「闇の森に2週間っ、それではもう死――」


「大丈夫よあなた。あの子たちは死んでいない。

四人を産んだ私には分かる。

どこにいるか分からないけれど、私の血を色濃く宿した、ニュース、キリル、ファー、サビィはまだ生きている」


「ハーモニア、お前……」


ランバートは、妻の浮かべる笑みに身震いする。


「ハンターギルドではなく、あなたの直属の部下を30人見繕ってちょうだい。私が出るわ」

「お前が?」


「ええ、あなたも一緒に行きましょうよ。

これから闇の森で、ニュース狩りよ」


ハーモニアは、子供たちと同じ赤い瞳を見開き、夫の腕に両腕を絡ませた。





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