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第四十七話 精神的ダメージ

「シンデレラとか白雪姫とかのザ・王子さまは神藤君がぴったりだけど、フリンの場合は佐渡君だと思うの」


 ホームルーム後の学園祭出し物の話し合いの後、俺はその理由が気になって足立さんに尋ねることにした。


 ラプンツェル役は東山で満場一致の様だったのだが、ラプンツェルを塔から連れ出す盗人のフリンの役は足立さんがそんなことを言いだしたもんだからまだ決定していない。


 ちなみに東山はその後すぐに帰るようだったから「なんか予定あるのか?」と聞いてみたら、「ラプンツェルを見るのよ!」と言ってそそくさと教室を出て行った。


 案外やる気らしい。


「そうなのか? フリンは王子ではないけどナルシストな自信家って感じだろ? そうなると神藤の方がイメージ通りだと思うんだけど」


 足立さんとは何度か話したことはある。しかし逆に言えばその数回しか話したことしかない。というかいつも本を読んでいてそもそも人と話さない物静かなタイプというのが俺からの印象だ。


 だから彼女が急に手を挙げたのは少し意外だった。それは俺以外のクラスメイトもそう思っていたかと思う。


 そしてそんな子が直々に俺を指名したのだ。その訳を気にならないはずがない。


「驚いた。佐渡君詳しいんだね」


 彼女は興味深そうに俺を見た。


「え? ああ、まぁ映画は見たことあるから。足立さんこそ、なんかこだわりがあるってことだろ?」


「あなたの言う通り、確かにフリンの人物像はそうよ。でも神藤君が泥棒役だとなぜかすぐにつかまってしまいそうな気がするの」


 まぁ確かに神藤が泥棒なんて想像できない。すぐにつかまってしまいそうというのもなんとなく頷ける。意外にポンコツだからな。


 けれどそれは神藤が適さない理由というだけであって俺であるべき理由ではない。


「なるほど……。けれど泥棒が似合う人の方が少なくないかい?」


 何の前触れもなく神藤がやってきて俺たち二人の会話に参加する。相変わらず神出鬼没な奴だ。


 てっきり自分がやると思っていた役を取られそうになっている神藤も腑に落ちないようだった。


「そうだよ。誰も泥棒なんてやったことないだろうしさ。それに、そもそも王国の追手から逃げるのがうまいと適任なのか? そういえばお前って足速かったっけ」


「君よりは」


「こういうウザさとか結構マッチしてると思うんだけど」


 とりあえずわずか一言で人をイラっとさせる才能があることだけは分かった。


「逆なんだよ」


 イメージ通り繊細な声を出す足立さんだが、その裏、意外と口数が多いという感想を持った。


「逆?」


「泥棒……。そう。フリンはラプンツェルの心も華麗に奪っていかなくちゃいけない」


 そんなことを思っていると足立さんの口数はどんどん加速していく。


「神藤君っていつも東山さんにグイグイって感じだけど軽くあしらわれてるでしょう? だからなんだか立場が逆って感じ。フリンは追われる側。彼は最初、常識知らずのラプンツェルに振り回されていて彼女を邪魔者扱いしているの。だから東山さんを軽くあしらえる男の子の方が適任なんだよ。そうじゃないとラプンツェルの心は奪えない」


 足立さんは教室左側前方へと視線を向けた。俺たちの座席の位置だ。


 入学当時から変わらない位置、先頭が俺でその後ろが東山。転校してきた神藤がその後ろになった。


「現状、東山さんをめんどくさそうに扱えるのって佐渡君しかいない」


 彼女のセリフの後、思わず俺と神藤は目を見合わせた。俺と東山の関係を見事に言い表していたから思わず目が丸くなったのだ。


 確かにと、俺は妙に納得してしまう。東山には定期試験や小テストのたびに得点で勝負を挑まれるようになってしまってうんざりしていたのとか全くその通りだ。


 というより、寡黙な足立さんがこんなにも饒舌になっているということの方がびっくりしていた原因なのかもしれない。


「あと……そう。神藤君は仲間が多いでしょ? でも佐渡君は一人でいることが多い。そういう点もフリンと似ているところかな」


「確かに、佐渡ってあんまり人と群れないよなぁ」


 三人で話しているところにさらにもう一人、男子生徒がやってきた。


 狩野宰。俺と同じ一般家庭からの生徒の一人だ。二学期になってからお互いにそれが発覚してから少し仲良くなった。聞けば中学も俺と隣の市立中学ということで共通点が多かった。


「うるせぇ」


「あだっちって結構しゃべるんだね」


「あだっち?!」


 足立さんは突然のあだ名呼びに驚いていた。


 ちなみに狩野は社交的で誰とでも仲良くなれるタイプ。はじめから距離が近いのもご愛嬌。

神藤のことは「ヨシ」と呼ぶ。俺のことは一度「ゆう」と呼んだが、「なんか気持ちわりぃからいいわ」とあだ名呼びを辞めた。しかしさすがの狩野も東山だけは「東山さん」と呼ぶ。


 驚いている足立さんだったが特に嫌がっているわけではなさそうだった。


 ちなみに神藤は「ラプンツェルの心は奪えない」と言われたことが相当ショックだったらしく、床に膝を付いて落胆していた。


「あだっちの言うこと聞いてたら、フリン役はヨシより佐渡のほうが良い気がしてきたなぁ」


「……ぅう」


 見事な追い打ちだな。神藤はさらに肩を落としていた。


「ってか盗み聞きかよ」


「別にそうじゃねぇって。興味深い話が聞こえただけだよ」


 狩野は得意げに腕組みをして俺と足立さんを見比べる。足立さんは少し恥ずかしそうにしていた。


「あだっちに聞きたいことあるんだけど、いくつか質問していい?」


 突然狩野はそんなことを言い出す。


 足立さんが頷く前に狩野はそれを始めた。


「不思議の国のアリスに出てくるハートの女王の口癖は?」


「首を跳ねろ」


「マレフィセントのペットのカラスの名前は?」


「ディアブロ」


「ホーンテッドマンションに住む亡霊の数は?」


「九百九十九人」


「スカーとシンバの関係は?」


「叔父と甥」


「全問正解。お見事」


 狩野にそう言われた足立さんはなぜか顔を真っ赤にしていた。


「今のなんだったんだ?」


 俺が聞くと狩野は慇懃に回答してくれた。


「ディズニー検定。今のは……四級ってところかな」


 つまり足立さんはかなりの「マニア」ということらしい。

 なるほど。だからラプンツェルにあそこまでのこだわりがあったのか。

「僕も全部分かっていたけどね」


 いつの間にか神藤が復活していた。


「いやでもな。一つだけ納得いかないんだよなぁ」


 狩野はまた腕を組んで首をかしげる。


 俺が聞くと、狩野は質問で返してきた。


「佐渡よ。塔の上のラプンツェルに登場するフリンはディズニー史上最も『イケメン』なキャラクターって言われてるんだよ。なんでか分かるか?」


「いや、分からん」


「お前ってホント勉強しかできないのな」


 両掌を天井に向けて呆れる狩野。


「まったくだ」


 神藤もそれに同調する。


「ホットマン会議でしょう?」


 俺が回答に窮していると足立さんが答えた。


「さすがあだっちー。またもや正解」


 足立さんによると、ホットマン会議とはディスニースタジオで働く女性が各々自分の思う最高のイケメンの写真を持ち寄り、「イケメンとは何か」について議論するという会議だそうだ。


 そうした会議の末に作り上げられたキャラクターがラプンツェルに登場するフリン・ライダーというわけだ。とどのつまりフリン・ライダーは最強のイケメンってことだ。


「で、これのどこが?」


 狩野が俺のほっぺたをつまんでくる。ついでに反対側から神藤が俺を指さしてきた。


「イケメンっていうのは見た目だけじゃなくて、内面的な要素の方が重要視されるのよ」


 足立さん。それ、一番ダメージのでかいセリフ……。


本日も読んでくださりありがとうございました。

「おもしろい!」「つづきがよみたい!」など思ってくれた方はぜひブクマの方よろしくお願いします。


また、感想や評価もお待ちしております。


学園祭編まだまだ続きます。

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