↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/56

第十四話 思ってたより冷たかった。

 土曜日。七瀬との待ち合わせだ。


 俺は時間通りに正門前に到着すると、すでに七瀬は腕を組んで待っていた。


「遅い」


 あいつとの待ち合わせなんて一か月前からしたらあり得ない話だろう。


「時間通りじゃないか」


「わたくしを待たせるなんて良いご身分だこと。まあ良いですわ。後で地べたに這いつくばっていることでしょうし」


 何を言っているのかよく分からないがいつものくどい罵詈雑言だというのだけは分かった。


「で、今日は何の用だ」


 昨日、いきなり場所と時間だけを残して去っていったのだ。その内容を教えてはくれずに。


「察しが悪いのは馬鹿だからなのかしら?」


 彼女は俺に背を向けてそのまま学校の中へと入っていった。


 何も分からないまま俺はそれを追うしかなかった。


 付いて行くと、いつもの俺たちの教室。


 今日は授業が無いので誰もいない。


「ではこの席に座ってください」


 七瀬は教卓の前に立ち、その目の前の席を指定した。


 そして黒板の方に振り向くと、チョークを持って大きな文字で何やら書き出した。


 目で追ってみると、タイムスケジュールの横に科目名を書いている。


 それを見て俺は七瀬が何をしようとしているのかようやく理解したのだ。


 一番上に書かれているのは数学Ⅰで時間は十時十五分から十一時十五分の予定だそうだ。


 彼女は今日、俺が受けられなかった残りの三科目を受けさせるつもりなのだ。


 多分だけど、その三科目を除いて俺が全ての科目の点数で上回っていたから、諦められないあいつは残りの三科目でも勝負しろって言いたいのだろう。


 この状況で往生際が悪いと言って指摘しても言うことは聞かないだろうな。


 いいだろう。残りの三科目でもコテンパンにしてやる。


 時計を見るとあと数分で時間になる。


 七瀬は試験用紙を手渡してきて、俺はそれを無言で受け取るがその段階であることに気付く。


「俺、筆記用具無いんだけど」


 念のため制服で来たのは良かったのだけど、何せ手ぶらで来たから筆記用具が無かった。


「はぁ…… 小学生じゃないのですから筆記用具ぐらい持ってきなさい」


 七瀬は呆れながら自分の筆記用具を渡してくる。


 何も言ってこなかったのはお前だろ!! という心の叫びは抑えてありがたくそれを受け取る。


「さんきゅ」


 そのペンは俺がいつも使っている百均のシャーペンと比較して、金属製で高級感があって重い。


 しばらく待つと、七瀬は手首を返して自分の時計を確認する。


「試験時間はわたくしの時計で管理します」


 ああ。先生が試験の時いつも言うやつね。


 試験監督は七瀬ということだろう。


 時間になって「開始」と一言告げられると、俺一人だけの中間試験は開始された。


 俺はその合図とともに裏になっていた試験用紙をひっくり返して、解答を始めた。


 問題は必死に勉強した範囲のものだった。レベル的には他の科目とそう変わらないといった印象だった。


 持ち前の集中力を発揮して一通りの問題を解き終わる。


 その時点で時計を確認しようと顔を上げると七瀬と目が合った。


「なんですの?」


 彼女は驚いた反応を見せながら少しだけ不機嫌顔で尋ねてくる。


 けれどなぜだかその表情が女性的でドキッとしてしまう。


 いつも超絶罵倒を受け流すために、俺は彼女の顔をしっかり見ていなかった。


 彼女に俺から何か言うときはそれに必死で、意識していなかったというのもあるのかもしれない。


 だから改めてその顔を見てみるとよく整っていて大人びていることが分かった。


「時間確認しようと思っただけだよ」


 俺は恥ずかしくなって目をそらしながら弁解をする。


「試験中は私語厳禁です」


「聞いてきたの自分じゃねえか……」


 やっぱりこいつかわいくねぇ。俺のときめきを返してくれ。


 試験用紙に意識を戻す。


 大体いつも試験の時はこのように一通り解くと十分前後時間が余るから、残りの時間は見直しをしている。


 変な話だが小学生の時の先生が言っていたのをずっと続けているのだ。


 でもそのおかげで今の成績を維持できているので小学校の先生様様だ。


「終了」


 七瀬によって合図がなされ一つ目の試験が終わる。


 答案用紙は隣の机においておけと言われたのでその通りにして次の開始を待った。


 間の時間は五分と本番さながらのタイムスケジュールでそれは行われ、俺が中間試験で受けられなかった三科目の試験を解き終えた。


 だからこれで見込み点だが、その三科目の点数も出すことができる。


「お疲れさまでした。採点はわたくしが行います」


 やはり七瀬が答案の採点をするようだ。


 彼女はそう言って答案用紙が置かれてある俺の一つ隣に着席して筆箱から意気揚々と赤ペンを取り出す。


 俺は自分の席に座ったままそれを眺めることにした。


 自分の書いた答案が目の前で採点されるというのは自信があっても少し緊張する。


 赤ペンを持った七瀬はそれはそれは楽しそうな表情で採点するようだ。


 そんなに俺の解答に丸付けするの楽しみなのかよ。


 いや、多分楽しみなのはバツ付けだろ。


 彼女は俺の答案用紙と模範解答を見比べながらペンを滑らせていく。


 彼女も俺の実力は分かっているからしばらく正解が続いても反応は無かった。


 しかし、俺の完璧な解答はどんどん赤丸を増やしていき、徐々に彼女の顔は険しくなってくる。


 一定の間隔でごりっごりっと赤ペンが紙に擦れる音だけが教室に響いている。


 彼女の顔は丸付けが進むたびに怒りと焦りに支配されていく。


 あ~。また機嫌悪くなってるよ、こいつ。


 全部こいつの言った通りにしてあげているのにいつも機嫌が悪くなって本当に理不尽だ。


 一枚目は一問も落とさずにすべての問題で丸がついた。


 しかし七瀬は俺の答案用紙に点数を書かない。


 そのまま二枚目へと突入しようとする。


「おい、百点って書けよ」


「なっ! 満点であることは分かっているのでわざわざ点数を書く必要はないでしょう」


 俺の嗜虐性がまたもや発動してしまい彼女の神経を逆なですることになる。


「いや、こういうのはちゃんと数字で評価しないと正確なデータにならない」


 他の人に対してはそういうことはないのだけどなぜか七瀬を前にすると彼女の鼻を折るのに精を出してしまうのだ。


 それでも彼女の右手は震えるばかりで点数を書こうとしない。


「早く」


「分かったわよ!!! 書けばいいんでしょ! 百点って!!! どんだけナルシストなのよ!!」


 怒りに満ちた赤ペンは俺の名前の上に大きく「百」と殴り書き、彼女が激昂していることを表していた。


「はい、ありがと」


 それを見届けて嫌味の様にお礼を言う。


「ちょっと、あっちに行っててください!」


「はいはい」


 言う通りに教室後方に移動して彼女から離れて待つことにした。


 着席している彼女の後姿はやっぱり背筋が伸びていて気高さと美しさを兼ね備えている。


 佇まいや容姿だけはこの上ないほどの水準で、おとなしくしていれば文字通り才色兼備なのだ。


 だが、性格だけはダメだ。


 うるさいし言うこと聞かないし命令口調だし自己中だし。


 そんなことを考えているとどうやら採点が終わったようだ。


 座ったまま頭を抱えている七瀬。


 さっきよりもさらに怒っているみたいです。


「どうだった? 俺の解答」


 得意げに聞くと、その怒りは爆発してしまった。


「なんで全部百点なのよ!!!! ばかぁぁ!!」


「馬鹿じゃなくて秀才のまちがいだろ」


 俺が訂正すると立ち上がり、掴みかかってきた。


「……なんでなのよ!!! なんであなたは……!! わたくしが勝ってるの一つもないじゃない!!!!」


 彼女は詰まるように声を漏らしたあと、涙目で怒鳴ってきた。


 声と表情には怒りと悔しさがにじみ出ている。


 興が乗って少し彼女を煽り過ぎてしまったようだ。


 襟をつかんだまま身体ごと揺らされる。


 その勢いはだんだん強くなっていく。


「落ち着――」


「きゃっ!」


 七瀬の腕を掴むと、それに驚いてしまったようで彼女はバランスを崩してしまう。


 俺も彼女に詰め寄られていたこともあり、のけぞるような姿勢となっていたためバランスを崩した彼女の左手に押されて後ろに倒れそうになる。


「やべっ」


 しかしどうすることもできず、そのまま七瀬と一緒に背中から床へと一直線だった。


 目をつむって衝撃に耐える。


 腰への衝撃は痛みとなって伝わってきた。


 しかしふと気づけばその痛みとは裏腹に唇になにか柔らかくてひんやりとしたものが重なっていた。


 違和感を感じて目を開けてみると七瀬の顔があった。


 目が合ったと思えば、彼女は一瞬だけ目を見開くと即座に俺から離れて、強烈な右ストレートを顔面に食らわせてきた。


「ななななななにしてんのよ!!!!!!!!」


 あまりの衝撃と痛みに左手で自分の顔を抑える。


「いってぇ……」


 その理不尽パンチに盛大に文句を言ってやろうと顔から手を離してみると、七瀬の顔は真っ赤に染まり涙目になりながら自身の唇を押さえていた。


「お、お前が掴みかかってきたんだろ……」


 その表情を見ると俺の言葉の勢いは燃料タンクに穴が開いたかのように失速してしまった。


 そんな顔をしている女の子にきつい言葉を浴びせるのがはばかられたのだ。


「なんで、あなたはいつもそうなのよ!! この間だって……」


「事故なんだから仕方ねーだろ……」


 この前の横断歩道の件も含めて、元のきっかけはこいつだけど偶然起こってしまったことなのだ。だから俺はわざとじゃないことだけは主張したかった。


「でも!! そんな、いきなりっ! はじめてだったのよ!!!!」


 そんなの、俺もだし……


 しかし彼女は納得してくれなくて、俺に跨ったまま説教を続ける。


「掴みかかって体を揺らしたのは確かにわたくしの過失かもしれませんけど! 偶然唇と唇が重なるですって? そんなことは少女漫画でしかあり得ませんわ!! 何が『事故なんだから仕方ねーだろ』ですか!!! 許可なくわたくしと、その、き、すしておいてそのような不行儀な態度で許されると思っているのですか?!! この間の件に関してもです! 無断でわたくしの胸を触っていながらまだ正式に謝ってもらっていませんしね!!」


 猛烈な勢いで捲し立てるが七瀬はまだ俺の上からどいてくれない。


 先ほどのちょっとか弱い女の子みたいな表情をしていたのが嘘の様で今は金剛力士像みたいな顔をしている。


 この様子じゃ素直に謝らない限りどいてくれなさそうだなと思ったので俺は諦めることにした。


「ごめん! 今日の事とこの前の事は全部俺のせいだ。悪かった。この通りだ」


 彼女に跨られたまま首だけ前に倒して誠意を示す。


「……ふん。ようやく認めたわね。チンパンジーにしては上出来だわ」


「……あの…… そろそろどいてくれないか?」


 俺の謝罪を認めてくれたのは良かったけどしばらく待っても俺の上から動こうとしなかったので恐る恐る言ってみた。


「……」


 それは認められて七瀬は俺の上からようやく立ち上がってくれてついに俺は自由を手に入れた。


「このことを誰かほかの人に漏らしたら、冗談じゃなく殺しますからね」


 そう残すと自分の荷物をまとめて教室を出て行った。


 あいつが居なくなった途端、教室は深海の様に静かになる。


「結局、テスト勝負の件はどうなるんだろ」


今日も読んでくださりありがとうございました。


就職活動の方に気力を取られてしまっていて時間が空いてしまいました。

エタるつもりは全くないので見守ってくだされば幸いです。


「おもしろい」「続きが読みたい」と思ってくださった方はぜひブクマよろしくお願いします。


また感想、評価もお待ちしております!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。