第4話:100円の備品と、圧倒的無双 〜数百億円の超大型調査船、磁石一つで砕け散る〜
11層『常夜の森林』へと続く大空洞の直前。
そこは、メガ・アビス社が独占的な利権を誇示するために設置した巨大な前線検問所となっていた。
空洞の中央に鎮座するのは、全長百メートルを超えるメガ・アビス社の旗艦——数百億円の国家予算級資金を投じて建造された超大型調査船『ギガント・アビス号』だ。
船体には分厚い特殊装甲が施され、屋根には数百億円の巨額を投じた巨大な『大型魔導探照灯』が煌々と輝いている。
「おい見ろ! 浅層から何か不審な奴らが近づいてくるぞ!」
「あんな黄色いカッパ着た奴と、ドワーフの小娘……それに何だあの女は!?」
船の甲板に並ぶメガ・アビス社の精鋭警備隊が、蓮たちを見下ろして嘲笑の声を上げる。
だがその時、検問所の周囲を取り囲むように、岩壁の穴から不気味な水音が響き渡った。
「グアァァァ……! ギギャアアアッ!」
現れたのは、浅層から追い立てられてきた深海魚人の生き残り、およそ2,000匹の大群だった。
逃げ場を失った魚人たちは狂乱状態となり、目の前に立つ蓮たちへ牙を剥いて襲いかかる!
「ヒッ……!? 魚人の大群だ! 警備隊、防衛体制——」
調査船の幹部が叫びかけた、その時だった。
「蓮様! いらっしゃいますわ!」
「はい。じゃあ、いつものを」
蓮は静かに100円のレインコートの裾を整え、固有技能を発動させた。
【固有技能:刺身にたんぽぽを乗せる】 (Garnish Overrule)
[対象]:100円の黄色いポリエチレン製レインコート (完成品)
[概念]:Tunica Pellicea (原初の聖衣 / あらゆる外災からの絶対赦免)
─── 概念付与完了 ─────────────
『爪を弾け、牙を解け。壊れゆく身体を包み、全ての物理干渉を無効化せよ』
ガキィィィィンッ……!!
2,000匹の魚人が一斉に繰り出した鋭い爪と牙が、蓮の着る「100円カッパ」に触れた瞬間——ガラスが激し弾けるような甲高い音を立てて、魚人たちの爪と牙が根元から全滅するように砕け散った。
「ガ……ガアァァァ!?」
困惑し、痛みに悶絶する魚人たち。蓮たちはかすり傷一つ負っていない。
「よし! 次はわたくしの番ですわ!」
マルカが巨大ドリルを構える。蓮はそのドリルの先端に、ポケットから取り出した『100円の強力ネオジム磁石』をペタッと貼り付けた。
【固有技能:刺身にたんぽぽを乗せる】 (Garnish Overrule)
[対象]:100円のネオジム磁石 ✕ マルカ製超大型ドリル
[概念]:Virga Moysis (モーセの杖 / 概念の海を分かつ理)
─── 概念付与完了 ─────────
『空間を穿て、磁場を解け。立ち塞がる障害を全て爆破・消滅させよ』
「参りますわ! 穿ちなさい! 『100均・モーセ・ドリル』!!」
ドズゥゥゥゥゥン――――――ッ!!!!
マルカがドリルをひと振りした瞬間、引き裂かれたのは魚人の肉体だけではなかった。
空間そのものが真一文字に割れた。
目に見える重力波と絶対磁場が直線上に走り、襲いかかっていた3,000匹の魚人の大群は、悲鳴をあげる暇すらなく一瞬で光のチリとなって雲散霧消した。
さらには、ダンジョンの頑丈な岩壁がキロ単位で崩落し、11層へと直通する「巨大な風穴」がドカンと開通してしまったのだ。
「……は?」
調査船の甲板で威張っていた警備隊長は、口を塞ぐこともできずに開けたまま完全に固まっていた。
「ば……バカな……最新鋭のバリアを破壊した魚人の大群が……たった一撃……!? なんだあのドリルは……!? なんだあの黄色いカッパはぁぁぁぁっ!?」
一網打尽にされた魚人どもの灰が舞い散る中、エレナが颯爽と一歩前に出た。
スーツの襟を整え、冷徹な監察官の目で調査船を見上げると、タブレットを突きつける。
「メガ・アビス社調査船『ギガント・アビス号』の乗組員に通告します! あなた方はアビス・トレインチ公有空間における不当な安全通行料の徴収を行っています! 直ちに退去し、11層への独占権を放棄しなさい!」
「ふ……ふざけるなッ! 青くさいガキが!」
正気に戻った警備隊長が顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
「我がメガ・アビス社が数百億円を投じて建造したこの『ギガント・アビス号』と最高級の探照灯がなければ、誰一人として11層『常夜の森林』を進むことなどできんのだ! 貴様らごとき貧乏クランが調子に乗るな! 主砲を向けろ! 吹き飛ばせ!!」
ギガント・アビス号の巨大な魔導大砲が旋回し、蓮たちへと狙いを定める。
数百億円の最新鋭兵器による、絶対的な威圧感。だが——
「ふむ……数百億円の船か。さすがに大きいな」
蓮は感心したようにうなずくと、買い出し袋からコトンと小さな箱を取り出した。
100円ショップの文房具売り場で買った、何の変哲もない『アルニコ磁石(赤と青の馬蹄形磁石)』だ。100円(税別)のシールが光っている。
「蓮……まさか、それを使うの?」
エレナが引きつった笑みを浮かべる。
「ああ。相手が金属製の大きな船なら、磁石をくっつけるのが一番手軽かなと」
蓮は馬蹄形磁石に業務用ラップを巻くと、スキルを発動させた。
【固有技能:刺身にたんぽぽを乗せる】 (Garnish Overrule)
[対象]:100円の馬蹄形磁石 (完成品) + 添え物:業務用ラップ
[概念]:Magnetis Primordialis (天地を牽引する絶対超磁界)
─── 概念付与完了 ────────
『金属を引き寄せ、構造を歪めよ。巨大なる人工の鉄塊を塵芥へと変還せよ』
「いけぇっ!」
蓮がポイッと投げ放った100円磁石は、放物線を描いて巨大な調査船『ギガント・アビス号』の船体へとペタッと貼りついた。
直後。
ブワッ……と空間が歪むような重厚な磁気音が響いた。
「え……? なんだ……? 船体が……!?」
警備隊員たちが足元の異常に気づく。
数百億円の超合金装甲で作られたギガント・アビス号の船体が、ペタッと貼りついた親指サイズの100円磁石を中心に、まるで極小のブラックホールに吸い込まれるように「みしみし」と歪み始めたのだ!
「ひ、ひえぇぇぇっ!? 船が……船が折りたたまれていくぅぅぅ!?」
「バカな!? 100トンの特殊超合金だぞ!? なんで100円の磁石に向かって船全体が凝縮されていくんだぁぁぁっ!?」
メキメキメキ……バリバリバリッ……!!
巨大な主砲も、数千万円の探照灯も、数百億円の頑強な船体も、全てが磁石の超強力な引力によって内側へと折り畳まれ、圧縮されていく!
「全員、退避ぃぃぃっ! 船が沈む(というか丸まる)ぞ!!」
悲鳴を上げて甲板から飛び降りる警備隊員たち。
次の瞬間——
ポンッ!!
耳に心地よい軽やかな音が鳴り響き、数百億円の巨大調査船『ギガント・アビス号』は、綺麗な『鉄の巨大な球体(サッカーボール大)』へと超圧縮されてドックの地面に転がった。
「「「そんなわけあるかぁぁぁぁぁっ!!!」」」
脱出して腰を抜かしていた警備隊員全員の、魂の叫びが空洞に響き渡った。
「す……数百億円の我が社の誇る旗艦が……サッカーボールになっちゃったぁぁぁっ!?」
「100円の馬蹄形磁石ひとつで……嘘だろ……嘘だと言ってくれぇぇぇっ!!」
転がってきた鉄の球体を、蓮は「トントン」と足で軽く突いた。
「よし、これで邪魔な船はなくなったね。11層への通路もすっかり広くなったし」
「あ、あはは……もう凄すぎて言葉が出ないわ……」
エレナが乾いた笑いを漏らす。
「ふふっ、これでメガ・アビス社の独占は完全に崩壊しましたわね! これからはすべての冒険者が自由に進出できますわ!」
マルカが誇らしげに胸を張った。
こうして、メガ・アビス社が誇る数百億円の最新鋭調査船は、100円の馬蹄形磁石一枚によって無残にも『サッカーボール』へと姿を変え、彼らの独占支配は呆気なく粉砕されたのだった。
「さて……それじゃあ行きましょうか。11層『常夜の森林』へ!」
蓮がポケットから100均の極光懐中電灯を取り出し、前方を照らす。
100円グッズとラップを手にした『不遇の三銃士』は、大企業すら恐れた漆黒の暗黒世界へと、何一つ恐れることなく一歩を踏み出すのだった——。




