第5話:市場破壊とエレナの『ざまあ』 〜原価100円のカッパ、1,000万円で売れます〜
数百億円の超大型調査船『ギガント・アビス号』が100円の馬蹄形磁石によって『サッカーボール大の鉄の塊』へと姿を変え、静寂が戻ったダンジョン。
先ほどまで「不遇の三銃士」をゴミのように嘲笑っていたメガ・アビス社の警備隊員や残党たちは、愛艇を失い、生きた心地もせずにドックの床に腰を抜かしていた。
「ひ……ヒエッ……! お、俺たちの船が……百億円の船がぁぁぁ……!」
そこへ、トコトコとヒールの音を優雅に響かせて歩み寄ってきたのはエレナだった。
彼女は泡を吹いて倒れかけているメガ企業の探索隊長を見下ろし、ヒールでコツンと床を叩いた。
「あら、メガ・アビス社の探索隊長さん。ご無事で何より」
「ひっ……!? エ、エレナ……お前……っ!」
「お気の毒様。自慢の最新鋭バリア(1個5,000万円)は魚人が粉砕、11層進出のための数百億円の調査船はサッカーボールになっちゃった。このままだと、あんたたちはこの過酷な深層の環境に耐えきれず全滅……良くてもメガ・アビス社から巨額の賠償を請求されて路頭に迷うハメになる」
エレナは眼鏡のブリッジをスッと指で押し上げると、にんまりと微笑みを浮かべた。
「そこで……私からの提案です。どう、我がクラン『不遇の三銃士』が誇る『100円カッパの絶対防護膜(簡易版)』を買わない? 1枚につき、特別価格で『1,000万円』で手を打ってあげる」
「い、一千万円ぇぇぇっ!? たかが黄色いビニールカッパだぞ! 原価100円だろ!!」
「ええ、原価は税別100円。でも、これを買わなきゃ全員ここで死ぬか、破産でしょう? 5,000万円の防壁バリアより遥かに頑丈で、命が保証されると思えば破格の安さだと思うんだけど。 私だって別に、あなたたちを死なせたいわけじゃないんだし」
エレナは手元のタブレットからスッと電磁電子契約書を差し出した。
隊長は顔を青くしたり赤くしたりしながら自分の懐と命を天秤にかけ、最後はボロボロと涙を流しながら絶叫した。
「ぐ……ぐぬぬぬ……っ!! か、買う! 買うから助けてくれぇぇぇっ!!」
「はい、ご購入ありがとうございます。……ふふ、これでメガ・アビス社が浅層で不当に貪っていた利益の8割と、今期の予算を全額回収完了ね」
隊長が震える手で電子署名を押した瞬間、エレナはパンとタブレットを叩いて満足そうに胸を張った。
自分を理不尽に左遷した腐敗組織から合法的に巨額の資金をむしり取る——これ以上ない「ざまあ」の完成だった。
「はい、じゃあ約束の防護カッパです。一人一枚ずつどうぞ」
蓮が買い出し袋から黄色い100均カッパを取り出し、サッとスキルを付与して隊員たちへ配っていく。
「な……なんだこの暖かさは……!? 傷一つ残らないだと……!?」
「くそっ……1,000万円も取られたのに……悔しいけど完璧な性能だ……!」
感激と屈辱で涙ぐむメガ企業の兵士たちを放置し、エレナは爽やかな笑顔で振り返った。
「蓮、マルカちゃん。準備はいい? 浅層の雑魚(メガ企業)の掃除と、資金調達はこれでバッチリ完了」
「ええ、参りましょう! 潤沢な資金があれば、新しい階層でさらに素晴らしいメカを作ってみせますわ!」
マルカがドリルを誇らしく掲げる。
「蓮、次の100均グッズの準備はバッチリ?」
「ああ。次は暗闇の階層だって聞いたから、100均の『盛塩』と『サランラップ』を多めに買ったんだ。これで悪霊でも怪異でもパックできる」
「意味が分からない……いえ、やめとく。もう何が来ても驚かないわ」
エレナは深く息を吐き、微笑んだ。
自分たちを捨てた世界を見返すため、そして不遇な者たちの誇りを取り戻すため——。
メガ企業の独占を打ち砕き、浅層の王となった『不遇の三銃士』は、いよいよ未開の暗黒階層——第11層『常夜の森林』へと足を踏み出すのだった。
(第2章・完 / 第3章へ続く)




