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第1話:100円ライトがもたらす『絶対聖光』 〜暗黒の11層が、ただの明るい公園になりました〜


 アビス第11層——『ルクス・イン・テネブリス(常夜の森林)』。


 頭上には青白く不気味に輝く「偽りの月」と星々が浮かび、地表には背の高い漆黒の樹木が果てしなく立ち並んでいた。

 足元を覆うのは、怪しく発光する菌類と、湿った黒土。地上とは完全に途絶された、幻想的かつ不気味な暗黒世界だ。


「……ここが第11層。月明かりがあるとはいえ、見通しが悪すぎる」


 エレナがスーツ姿のままタブレットの光で周囲を照らす。

 その隣で、マルカが作業用ゴーグルをクイッと直し、背負った大型スチームドリルを力強く構えた。


「ええ。光を忌避する凶暴な暗黒ゴブリンや、音もなく頭上から滑空してくる影翼竜(アーケオプテリクス)の巣窟ですわ。本来なら、メガ・アビス社みたいに莫大な金をかけた魔導探照灯がないと進めない場所ですけれど……」


「大丈夫。用意してあるから」


 蓮は首を傾げると、100均のビニールバッグをごそごそ漁り、手のひらサイズの小さな黒い物体を取り出した。


「これ、来る途中の100円ショップで買った『LEDハンディライト(単3電池仕様)』だけど……これで照らしてみようよ」


「ちょっと蓮、バカ言わないでよ!」

 エレナが即座に呆れた顔でツッコミを入れる。


「手のひらサイズの100円ライトでこの巨大な暗黒森林が照らせるわけないでしょ! 相手は数億円の魔導兵器で押し通ってるのに!」


「まあまあ、エレナ様。蓮様のお力なら、きっと素晴らしいことが起きますわ」


 マルカがお上品にクスリと微笑む中、蓮は静かに100円ライトのスイッチへ指をかけた。


「じゃあ、つけるよ」


【固有技能:刺身にたんぽぽを乗せる】 (Garnish Overrule)

[対象]:100円のLEDハンディライト (完成品)

[概念]:Lux Primordialis (原初の太陽光 / 暗黒の絶対払滅)

─── 概念付与(オーバーライド)完了 ─────────

『闇を爆破せよ、偽りの夜を払え。照射されし領域に真昼の太陽を齎せ』


 カチッ。

 蓮が小さなボタンを押した瞬間。


 ドガァァァァァァン……ッ!!


「「「ひえぇぇぇぇぇっ!??!」」」


 ライトの先端から放たれたのは、懐中電灯の光などではなかった。

 森林全体を真っ白に染め上げる、超極大の「太陽光の束」。


 青白い月夜の世界が一瞬にして真昼のカンカン照りの砂漠のような眩しさへと変貌する。

 一直線に伸びた光の太い柱は、数キロ先の樹林を通り抜け、立ち塞がる暗黒樹を一瞬で光のチリへと昇華させていった。


 キシャアアアアアアアッ!!??


 暗闇に潜んでいた数百匹の暗黒ゴブリンやら、上空から襲いかかろうとしていた影翼竜たちが、太陽光の直撃を受けた。悲鳴をあげる暇すらなく瞬時に蒸発(消滅)していく。


「……は?」


 エレナは手からタブレットを落としそうになりながら、目玉が飛び出さんばかりに見開いていた。


「な……なにこれ……!? 太陽!? 100円の懐中電灯から……太陽の光が出てるじゃない!! 物理法則どこ行ったーーーーっ!!」


「まあ……! とても晴れやかで温かい光ですわ……! 蓮様、これなら夜道もまったく怖くありませんわね!」


 マルカがパチパチとお上品に拍手を送る。

 蓮は「よし、これで足元が見やすくなった」と満足そうに笑い、ライトを前方に固定した。


 ……が、騒ぎを聞きつけたのはモンスターだけではなかった。


「な、なんだ今の閃光は……!?」

「俺たち……メガ・アビス社の探索別班が乗る装甲艇じゃないのか!?」


 まばゆい光の先にガタガタとエンジン音を響かせて進んできたのは、メガ・アビス社の新型探索艇だった。

 甲板には、このあいだ「100円磁石」にボコボコにされた連中とはまた別の乗組員やエリート探索者たちが乗っていた。彼らは一帯が真昼のようになった光景を見て、目を白黒させている。


「おい、あいつら……あの安物の懐中電灯みたいなライト一つで、この常夜の森林を丸裸にしやがったぞ……!?」

「バカな! 我々が数億円かけて持ち込んだ魔導探照灯より圧倒的に明るいだと……!」


 メガ企業の探索者たちが動揺する中、エレナはスッと一歩前に出て、キリッとしたキャリアウーマンの笑みを浮かべた。


「あら、いらっしゃい。ちょうどいいところに」


「エ、エレナ……っ!? お前、なんでこんなところに……!」


「決まっているでしょ。あなた方が独占していたこの『常夜の森林』、今日から私たちが完全に開放してあげるってこと」


「なっ……ふざけるな! 我々の高価な探照灯がなければ——」


「高価な探照灯?」

 蓮が首をかしげ、自分の手に持ったピカピカ光る100円のLEDライトを掲げた。


「これ、100円ですけど」


「「「だから何なんだよその狂気の安さはぁぁぁぁぁっ!!」」」


 メガ企業の探索者たちの絶叫が、真昼のようになった黒森にこだました。


 こうして、数億円の魔導探照灯を必要とした暗黒の11層は、たった100円のLEDライトによって「ただの明るい公園」へと姿を変え、メガ企業の支配はここでも音を立てて崩れ去っていくのだった——。

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