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第2話:億単位の最新兵器? 100円の懐中電灯で十分です

「ふぅ……さて、これで体制は整ったわね」


 不気味な重金属の油臭と、粘つく湿気が立ち込めるアビス・ポート最下層の『ジャンク街』。

 その吹き溜まりのような一角に構えた仮拠点の中で、エレナが満足そうに息を吐いた。


 蓮のスキルによって「極上の快適空間」へと変貌したテントの真ん中には、天才技師であるドワーフの姫・マルカが急造した木製の丸テーブルと、人数分のオフィスチェアが並べられている。

 ジャンク街の喧騒や異臭は完全に遮断されており、ここだけはまるで高級オフィスの一室のようだった。


「よし。じゃあ二人とも、着席して。これより『不遇の三銃士』、最初の作戦会議を始めます」


 エレナは眼鏡のブリッジをクイッと指で押し上げると、手元のタブレット端末を操作し、テーブルの中央にホログラムのデータを提示した。


「本日をもって、私たち三人のクラン『不遇の三銃士』を正式に探索者ギルドへ登録完了しました。代表は蓮、技術主任はマルカちゃん、そして私が財務・運営および参謀統括を務めます」


「……本当にその名前で登録したんですね」


 蓮が微妙な表情で苦笑いを浮かべると、エレナの唇がサバサバとした不敵な笑みを刻んだ。


「当たり前でしょう? 理由もなく私を左遷した腐敗官僚ども、マルカちゃんの技術を『ゴミ』と嘲笑った無能ども、そして蓮を切り捨てた連中……。私たちを正当に評価せず、虐げて捨て去った愚か者どもに、この名前で一生消えない煮え湯を飲ませてやるんだから。文句ある?」


「いえ、ありません……。頼もしい限りですエレナさん」


「ふふっ、エレナ様のそのお言葉、胸がすく思いですわ! 我ら生まれた時は違えども……」


「それはやめてマルカちゃん、私ヒゲ生やす気はない。それと蓮、あなたは敬語をやめて」


 でもこれだけは、とマルカが盃を回す。

 正義感ゆえに左遷されたシゴデキ監察官のエレナ、迫害されていたドワーフの天才技師マルカ、そしてスーパーの社畜だった蓮。

 世間から切り捨てられた三人が、あらためて今ここに強固な絆で結ばれたのだ。


「さて、本題に入りましょう」

エレナはタブレットの画面を切り替え、ダンジョンの構造図を表示させた。


「私たちが目指すのは、アビス・トレインチの深層。だけど現在11層以降への進出は、メガ・アビス社をはじめとする大企業の連合体によって事実上『独占』されている状態なの」


「独占……ですか?」


「ええ。11層から先は『ルクス・イン・テネブリス(常夜の森林)』と呼ばれる階層です。頭上に『偽りの月夜』が広がる広大な森林地帯で、強い光を極端に嫌う強力な変異モンスターの巣窟となっている」


「光を嫌う……ということは、明かりを灯して進むのは危険なんですの?」


「逆よ、マルカちゃん」

エレナは眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。


「あの階層の魔物は、強烈な光を浴びると皮膚が焼けて弱体化し、戦意を喪失するの。だから攻略には『強烈な光源』が不可欠ってわけ。……だからメガ・アビス社は、そこに目をつけた」


 エレナが提示したホログラムに、巨大な装甲艇の写真が映し出される。その屋根には、直視できないほどの光を放つ巨大な装置が鎮座していた。


「彼らは一機数百億円もする『大型魔導探照灯』を載せた特殊装甲艇を独占している。そして『安全通行料』と称して、一般の冒険者から莫大な金額を巻き上げているの。払えない者は11層へ足を踏み入れることすら許されない……まさに利権の構造ってわけ」


「数百億円の探照灯……」

 蓮が呆れたように呟くと、隣のマルカがくすりと笑った。


「まぁ、そんな大層で重い魔導具など、過剰で無駄な技術にすぎませんわ。あのようなもの、蓮様のお力があれば——」


「ええ、その通り」

エレナの唇に、攻勢に転じる軍師のような笑みが浮かぶ。


「蓮。これから私たちは、1〜10層の浅層を最短ルートで突破して、11層の『常夜の森林』へ進出します。そして……メガ・アビス社の独占市場を、根底から叩き潰してやるの!」


「ざまぁ! ですわ!」


「なるほど……了解。常夜の森林を突破するための『光』があればいいんだね」

 

 蓮は納得したようにうなずくと、自分の作業着のポケットや、足元に置いてあった買い出し用の袋をごそごそと漁り始めた。


「じゃあ、明日の初陣に向けて、100均で買っておいたライトを準備しておこう」


「ええ、頼んだわ。予備のライトもいくつか揃えて……って、え?」


 エレナのテキパキとした指示が、ピタリと止まった。

 蓮がテーブルの上に「コトン」と置いたのは、プラスチック製のチープな小さな懐中電灯だった。パッケージにははっきりと『100円(税別)』のシールが貼られている。


「蓮……? それは、何?」


「何って……100円ショップで売っている、単三電池一本で動くLED懐中電灯だけど」


「……ちょっと待ちちなさい。相手が使っているのは、出力百万ルーメンを誇る数百億円の軍事用『魔導探照灯』なんだってば! 対してそれは……ただの100均の防災ライトでしょ!?」


「あ、大丈夫。これ単体じゃなくて、僕のスキルで『+α』するから」


 蓮は当然のように言うと、ポケットからお馴染みの『業務用ラップ』を取り出し、100均ライトのレンズ部分にペタッと丁寧に貼り付けた。


【固有スキル:刺身にたんぽぽを乗せる】

※対象:100均LED懐中電灯(完成品) + 添え物:業務用ラップ


【付与効果:秘技・極光照射(全波長絶対増幅 + 概念光輝の照射)】


 一瞬、100円の懐中電灯が透き通るような極彩色の光を帯び、静かに収束した。見た目は相変わらずプラスチックの安物ライトだが、漂う気配が完全に『神話級の魔導具』のそれに変貌している。


「よし、出来た。これでたぶん、太陽並みの光が出る」


「「……はい!??!?」」


 エレナとマルカの悲鳴のような絶叫が重なった。


「た、太陽!? その100円のライトから太陽の光が出るの!?」


「うん。刺身のパックにラップをかければ鮮度が逃げないように、光も拡散させずに集光・増幅して閉じ込めれば、太陽光並みの照射ができるかなと」


「そんなわけあるかぁぁぁぁぁっ!!!」


 エレナが頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 元・優秀な官僚として積み上げてきた常識と論理が、目の前の「100均備品+ラップ」という理不尽なスキルによって音を立てて崩壊していく。


「数億円の巨大兵器を……100円ショップのライトとラップ一枚で超えちゃうなんて……。メガ・アビス社の人たちがかわいそうになってきた……」


「ふふっ、流石は蓮様ですわ! 物理法則すら置き去りにする素晴らしい技術です!」


「……もういい。私、考えるのをやめる」


 エレナは深々と溜め息をつくと、諦めたように眼鏡をかけ直した。


「行きましょう、『不遇の三銃士』の初陣へ。……世界の理と一緒に、あの腐った大企業を粉砕してやる!」


 こうして、100円ショップの懐中電灯を手に、不遇の三銃士による地底世界無双が幕を開けたのだった。


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