第3話:アルミホイル全反射 & 元海兵隊の脅…威…?
ポルターガイストの大群を『100円の粘着クリーナー』で見事に清浄し終えた一行は、巨大な歯車の蠢く廊下を抜け、さらにダンジョンの奥深くへと進んでいく。
そうして辿り着いたのは、まるで古代の巨大製鉄所を丸ごとひとつ収めたかのような、どこまでも広大な大空間エリアであった。
頭上からは溶融した金属の熱気が立ち込め、床一面には太い高圧パイプと黒光りする鉄板が敷き詰められている。その広場の中央で、ズシン……ズシン……と重厚な地鳴りを響かせて鎮座していたのは、全身を強固な超硬度重装甲で固めた、体長5メートルを優に超える古代機械兵——その名も『ガーゴイル・メカニカル』。
周囲には、鋭いレーザー溶接アームを備えた無数の修理用ドローンが蜂の群れのように旋回している。
不法侵入者である蓮たちを感知した瞬間、そのドローンたちが一斉に赤く発光した。
ブシューッ!
重厚な金属摩擦音とともに、ガーゴイル・メカニカルの胸部装甲が観音開きに開放される。奥に露わとなったのは、青白くドロリと渦巻く高密度の超高熱エネルギー核。
「蓮様、あれは古代の超高熱レーザー砲ですわ! 直撃すれば超硬質鋼鉄すら瞬時に蒸発させてしまう極大兵器ですの!」
マルカが額のゴーグルを速やかに引き下げ、背中のスチームドリルを限界まで加圧させながら叫ぶ。
大企業のメガ・アビス社でさえ、あの熱線攻撃を防ぐために専用の大型防魔盾を何枚も重ね、壊れては取り替える捨て身の戦術を強いられている極めて危険な攻撃だ。
だが、蓮は焦る様子もなく「熱線か……」と呟くと、肩のトートバッグをごそごそと探り始めた。
取り出したのは、自炊をする人なら誰もがお馴染みの、あの薄い銀色のロール!
「これ、例のごとく100円ショップで買った『アルミホイル(25cm×8m・100円)』なんだけどさ……熱に強いわけだし、これで受けてみようか取り合えず」
「ちょっと蓮! 何言ってるの! 相手は数千度の熱量を誇る巨大な熱線レーザーなんだって!? 料理の下ごしらえに使うアルミホイルで防げるわけないでしょバカ言わないで!!」
エレナの絶叫が広場に響き渡る中、蓮はマイペースにアルミホイルをシャッと引き出し、トートバッグから取り出した『フッ素樹脂加工フライパン(100均製・100円)』の表面にペタペタと巻き付けていく。
Plaintext
【固有技能:刺身にたんぽぽを乗せる】 (Garnish Overrule)
[対象]:100円のアルミホイル ✕ 100円のフライパン
[概念]:Speculum Sphaera (絶対反射・因果逆転の鏡)
─── 概念付与完了 ─────────
『熱波を弾け、光を返せ。放たれし破壊の指向を全て放者へ返還せよ』
蓮の手元で透明なシステムウィンドウが静かに閃光を放つ。
薄っぺらいアルミホイルと、100円の軽合金フライパンが合体したその瞬間、世界の物理法則を完全に書き換える『絶対反射の理』が静かに完成していた。
ゴオオオオオオオオッ!!
ガーゴイル・メカニカルの胸部から、視界を真っ白に染め上げるほどの極太熱線レーザーが放たれた。空間が熱歪みで歪み、掠めただけで周囲の鉄パイプがドロドロの溶岩へと変わるほどの絶大な破壊力。
「蓮さんッ!」
「嫌ぁーっ!?」
マルカとエレナが思わず目を開けていられなくなる中、蓮はフライパンを軽やかに構え、飛来する極太の光軸へと差し出した。
カンッ!!
拍子抜けするほど軽やかな、金属同士が乾いた音を立ててぶつかる音が響いた。
次の瞬間——数千度の熱線レーザーは、アルミホイルを貼ったフライパンの表面に接触した途端、まるで鏡に跳ね返る光のように、一ミリの減衰もなく180度完璧な角度で逆走を始めたのだ。
ドバァァァァンッ!!
「ギガガガッ!??!?」
自らが解き放った最大威力の極大レーザーを、あろうことかゼロ距離で胸部のエネルギー核に全直撃させたガーゴイル・メカニカルは、断末魔の機械音を上げる余裕すらなく内部から大爆発を起こした。
黒煙と火柱が上がり、体長5メートルの鉄の巨躯が一瞬にして粗大ゴミの山へと崩れ落ちていく。周囲を旋回していたドローンたちも、爆風に巻き込まれてバチバチと火花を散らしながら次々と墜落する。
しんと静まり返る広場の中、蓮はフライパンの表面を指でトントンと叩いた。アルミホイルには焦げ目ひとつついていない。
「ふぅ、やっぱりアルミホイルが熱を弾いてくれたか。フライパンに巻いておけば洗い物も楽だし、一石二鳥……一人暮らしってやっぱ、一度は経験必要だよなあ」
「全反射の原理はギリギリ合ってるかもしれないけど、スケールと威力がとアタマおかしいーーーーっ!!」
エレナが頭を抱えて膝から崩れ落ち、ツッコミの絶叫が製鉄所エリアにどこまでも木霊する。
数十億円の最新防具を揃えた大手攻略組でさえ大損害を覚悟する古代兵器の熱線攻撃が、たった200円(フライパン100円+アルミホイル100円)の台所用品で完璧に跳ね返されて全滅したのだ。もはや神聖魔導士も最新魔導兵器の開発者も廃業するしかない惨状である。
するとその時——黒煙が立ち込める広場の物陰から、朗らかな重低音の高笑いが響き渡った。
「ガハハハハハ! おいおい、すっげぇなぁ兄ちゃん! 100円のアルミホイルとフライパンで、あの古代兵器の極太熱線を軽々と跳ね返しちまうとはたまげたぜ!」
足音高く現れたのは、迷彩柄のタフなタクティカル装備に身を包んだ、ガタイの良い男たちの一団であった。
たぶん英語なのだろう。エレナは何言ってるか分かったようだが、そうも行かない蓮としては、とりあえずイヤホンを耳に突っ込む。
スキル(略)……自動翻訳機、オン!
先頭に立つリーダー格は、ワイルドなヒゲ面に日焼けした肌、そして筋骨隆々の太い腕を持つ男だった。
背中には、自作したと思われる無骨で巨大な重火器やらガジェット類が大量に乗っていた。
「あんたたちは……?」
蓮がフライパンを持ったまま首をかしげると、ジャックと名乗った男がガハハと豪快に笑いながら親指を立てて見せる。
「おう! 俺たちは元海兵隊の異能者パーティー『鉄腕おじさん組』だ! 大手や世間からは評価されねぇ『不遇な地味スキル』を持ち寄ってダンジョンを潜ってる仲間さ!」




