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星火の導く夜明け前の世界で  作者: 竜造寺。
1章 劫火赫灼の竜
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1-45 その後の話

 

 ごりゅ、ごり、ぶち、ぐちゅ。

 流石のパヌルも、赤竜の咬合力には敵わなかったようだった。


 咀嚼。


 咀嚼。


 咀嚼。


 パヌルの原形も留めないであろうほどに咀嚼を繰り返したのち、赤竜は顔を上空に向けた。

 間もなく赤竜の身体が赤熱化し、口元から光が溢れ出す。


 一瞬の閃光。


 そして、上空に向けて一筋の光が伸びていく。


 どこまでも。


 パヌルという存在を、抹消せんとするかの如く。


 どこまでも。


 ……どこまでも。




 ガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア──。




 赤竜の咆哮。

 それは永く──、カルファレステ街の響き渡る。

 不思議と、恐怖感は無かった。




 ◇




 十二日後。

 カルファレステ街冒険者協会・医務室。


 クロガネの目が覚めた。

 目が覚めたということは死んではいないということだ。

 思わず飛び起きると、ビキビキ、と身体中に激痛が走った。


「……い゛っ、てぇ〰〰」


 うわ。

 めっちゃ既視感〰〰。


 あまりにも既視感がありすぎて、思わずクロガネは笑った。

 笑えるということは記憶もなくなってはいない。安心だ。


 魔力は、もう見えない。いたって普通の視界。


「うげ」だが身体は無事ではない。身体中が痛いが、特に右腕は別格だ。「え、なん……ええ……」


 元の腕の太さより二回りどころか三回りも四回りも太くなるほどに巻きつけられた包帯。

 仕上にはなにやら意味ありげな魔法陣が包帯の上にびっしりと描かれている。

 集合体恐怖症なら思わず漏らすに違いない。


 そこではたと思い出す。

 あの時は確か。


 痛む身体に鞭打って、クロガネはベッドの下を覗く。

 果たして鞭打つほどのことなのか、というのは野暮である。


『ざんねぇん、アマテラスちゃんでしたぁ〰〰!』

「…………チッ」

『え、今舌打ちした?』


 覗くんじゃなかった、とまでは言わないが、これなら覗かずに誰かいるのかな、という希望に胸を膨らませる方がよっぽどマシだった。


『ちょっと、酷くない? 初手舌打ちは流石にキツイよ』

「いや……その、目覚めて初撃に煽られるのもかなり」

『え〰〰。じゃ~あ、こぉんな感じでいぃい? うっふぅ~ん。くろがねくんすっごぉ~い』

「ヤタガラスの顔でそれはちょっと解釈違いです」

『確かに異論ない。これはごめん』


 クロガネはベッドに横になった。思わず目覚めた時に上体を起こしたが、その体勢であってもじんわりと痛みがあった。わざわざ辛い姿勢を保つ理由などない。


『身体は、どう? 明らかにおかしいところとかない? 感覚ないとか』

「いや、それはないかな。痛いだけ」

『……そか。よかった』

「ところでなんだけどさ」クロガネはそれとなく周囲を見渡して、それが無いことに気が付いていた。「赫灼剣は?」

『あ~、あれはねぇ。……と。適任者がこれから来るから、彼女に聞いた方が早いかな』


 そう言うなりアマテラスはフッと消え、それと入れ替わるように彼女は医務室へとやってきた。


「……本当に起きているとは」


 起きているとは。まるで誰かから言われたかのようなその口ぶりで、なんとなくアマテラスが彼女に知らせたのだと想像ついた。

 クロガネはゆっくりとその声の主へと視線を向け──。


「あ、エフレインさ……ん!?」


 だが、包帯が巻かれ痛々しく見える左腕に、思わず声をあげてしまった。


「その腕、大丈夫ですか?」

「ふ。私よりよっぽど重症な奴に心配されるとは」


 ……確かに。

 クロガネは自分の腕に目を向けてから、はは、と笑った。


「私は別に酷くもない。寧ろ他の奴らの方が重傷だが、幸い、誰も死んではいない」

「そう、ですか。それはよかった」

「ああ。また君に助けられてしまったな。クロガネ」

「……いやいや」

「一先ず、冒険者協会を破壊しながら飛び出してきたことに関しては目を瞑ろう」

「うぐ」


 ふと思い起こされる記憶。

 確かにクロガネは竜の姿となったあと、地下から天井を突き破って外に出たのだ。あの時は非常時でもあったため深くは考えていなかったが、もう少し配慮するべきだった。

 なんなら、地下だって容赦なく掘っている。

 クロガネは深々と頭を下げると、ふふ、とエフレインは笑った。


「ところで、私に聞きたいことがあるのか?」

「あ。はい。……もしかして、アマテラスから聞いてました?」

「それとなくはな」


 クロガネの前だけでしかアマテラスは姿を現さないのだと思い込んでいたが、そうではないらしい。

 普通にエフレインの前にアマテラスは姿を現したようだ。


「赫灼剣は……どうなりました?」

「ああ……赫灼剣は、そうだな……。端的に言えば、ただの剣になったよ」

「……ただの、剣」

「正確に言うのであれば、赤竜由来の能力が消えたというべきか」


 詳しく聞けば、赤竜由来の能力──つまり魔力による刀身の赤熱化と、周囲の魔力の吸収など、それらがまるで初めから存在しなかったかの如く綺麗さっぱり無くなってしまったのだという。

 それともう一つ。武器の重量が約21グラムだけ軽くなったそうだ。


 21グラムという単語を聞いて真っ先に思い浮かんだのは、魂の重さだ。

 人が亡くなった時、体重が21グラムだけ軽くなったという話。


 何の根拠もありはしないが、仮にそうなのだとしたら赤竜由来の能力が消えたというのもクロガネの中では納得できうる。

 事実、クロガネは赤竜の意志との対話をしているのだから、そうなのだとしてもあまり驚きはしない。


「今は鍛冶屋に確認してもらってはいるが、恐らく復元させることは出来ない……だろう」

「……まぁ、それはそれで致し方ないんじゃないかな」

「申し訳ない。折角の象形装具だというのに」

「いいですって。あのパヌルをぶっ飛ばせたのだからそれでいいじゃないですか」


 そうしてエフレインと話している、まさにその時だった。

 勢いよく医務室の扉が開かれ、そこには見知った顔がある。


「起きてる!?」

「起きてる!!」

「あ」とクロガネが顔を上げ、二人の名前を呼ぶ……よりも早く、二人はクロガネの眼前にまで迫った。「……ども」

「「生きてる〰〰〰〰!」」


 マナとミナ。二人もエフレインと似たり寄ったりな姿でクロガネに駆け寄った。

 マナに至っては左足を負傷しているようだ。そんな状態で無理するなと言おうとしたものの、エフレインと同じ返しをされる未来が視えた。まぁ、その隙もなく二人はぐい、とクロガネに近付いていくのであるが。


 本当に、少し身体を動かせば触れ合えるほどの距離。

 抱き付かれるよりも緊張する。マナとミナの呼吸がクロガネの頬を撫でて、心臓が慌てている。


 今まで感じたことのないような十数秒間ののち、二人はふわりとはにかむ。


「……ただいま」


 クロガネがそう言うと、二人はさらに笑顔になった。

 途端にクロガネの心の内にぶわりと安らかな感情が湧き上がる。幸福感。ああ、またこの何の変哲もない、だが幸せな日常が舞い戻ってきたのだという実感。


「「おかえり」」


 そんな二人の背後では、エフレインがやれやれと頭を掻いている。


「こっ恥ずかしい。そういうのは人のいないところでやってくれないか」

「エフレインも一緒に喜べば恥ずかしくない」

「……、…………」


 エフレインはなにか言おうとして、だが片手で顔を覆った。その気持ちを推測するのであれば、おおかた二人に何か言おうとはしたものの、その途中で無駄だと悟り、続ける言葉が出なくなった……とか、そんなところだろうか。


 そんなやり取りを見ていて、クロガネは笑いそうになるのを堪えた。

 ああ、普通と言うのは、こんなにも心地のいいものだったのか。

 窓から見える空は、雲一つない快晴だ。


 雲一つない……。


「ん?」


 そんな空の一点に、一瞬だけ映りこむ『影』。

 目が合った。そんな感覚。


「んん!?」


 それが何なのかは、不思議とすぐに理解できた。


「……竜だ」





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