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怪異さまナー☆TSU・CHI・NO・KO ~口裂け女さんですか?昨日も一緒にお茶しましたよ?~  作者: 御度宇雲(おどぅ~ん)
パートふぁいなる 対決

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そのゴジュウニ ノッコとヤスデ(その5)

 二人が「境内」に突入した瞬間出現した、岩戸籠の光のドーム。神社の脇をそのまま駆け抜けようとしたノッコの、その目の前にたちまち立ち塞がる壁!

「クルクルクルリンパ痛ぁ!!」

 ドームの中に朗々と響く、ゴーンという衝撃音。ノッコが壁に思い切り頭をぶつけた音だった。

「ふえ?穴が開かないよぉ?!」

 もちろん神の子ノッコは瞬時に異変に気付き、対応しようとした。どんな壁でも檻でも抜け出せると、槌の輔が教えてくれたクルリンパ(正式の名称も呪文も教わったがそれは忘れた)の術。これがあるもんね♪と走り込みながらそれを使った。だがこの光の壁にはそれが通用しなかったのだ。

 超高速での激突に(ちょっぴり)痛む(だけの)頭をさすり、

「う~ん、出られないのかぁ……おっとぉ♪」

 ヤスデが即座に追いつきたちまち爪で襲い掛かる、一撃目をさっとかわす、そして二撃目以降は光の盾で弾く。すべてコンマ数秒の攻防だが、ノッコの顔は余裕綽々。

「そうだねヤスデちゃん、追いかけっこも楽しいけど、ここからは」

「……ギギギギギギギギィ……!!」

「セッキンセンで、どうかな?」

 大妖蟲と化したヤスデ、今やその口からは、人の言葉は返って来ない。だが神の子は楽し気に笑い、それを意に介さない……


「……」

 深く精神を統一し、秘術を用いるための三昧境に没入する俊介。そしてそのすぐ傍に、最強の術者巌十郎が近衛として控える。岩戸籠之術を維持するには、何よりその術者の身を守ることが最重要。それは一族に堅く伝承された防衛フォーメーションだ。

「よいな早苗。かくなる上は」

「はいお師匠、必ず!」

 互いに多くの言葉はいらない。親子三代、その血が一族の教えが、成すべきことを伝えてくれる。師に代わり父に代わり、鴻神の名を背負って今、働けるのは自分のみ。

 そうよ覚悟なら、とっくに出来てるわ!

「むむ、されば巫女殿某も!」

 と、早速早苗に飛び込もうとした槌の輔だったが。

「槌の輔、お待ちなさい」

 と、止める声。清らかに涼やかに、それは桜姫だった。

「あなたは土蜘蛛殿に助太刀を。早苗さんとは私(・)が(・)共(・)に(・)参ります。お(・)邪(・)魔(・)致(・)し(・)ま(・)す(・)ね、早苗さん」

 そして鏡の中から、その姿がするりと一歩前に抜け出した。畳の上を音もなく、桜姫は早苗に滑り近づき、そして。

「岩戸籠は守護の壁であるとともに、神聖な結界。この中でなら、天地の理を乱すことなく私も動けます。ですが現世で働くにはやはり、依(・)代(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)下(・)さ(・)る(・)方(・)がいた方が何かと……間違いもありませんから】

「えええ、あのあのひ、姫様?よろろ(・)しいんですか私なんかで】

 二人は重なり一つになる。お互いの言葉の後ろ半ばは、耳ではなく心が直接通じあっていた。

【もちろん。さ、お供しますよ早苗さん】

【お、お供だなんてぇ??】

 逆です逆ですお供は私、と。早苗の目は畏れ多さにグルグル回る。

 あああ姫様私その、こういう覚悟は、出来てなかったです……


「槌の輔殿、ここはまず二人を引き離さなければなりませんな」

 桜姫の命に従い、早苗から離れ今度は土蜘蛛の肩にヒョイと乗ろうとした槌の輔、問われてすぐに。

「割って入られるか土蜘蛛殿?承知!」

 胸の高さに飛び上がったその高さのまま、宙で止まって槌の輔はそこでふわり浮遊する。そして見る間にその姿を変えた。

 ずんぐりとした槌の輔の体が白く輝きながら、すっと長く伸びたのだ。そして頭を下に、尖った尾の先を天に。

「ささ土蜘蛛殿、某を手に取られよ!己がこの身を一振りの剣と化す、まさしく助太刀の姿、これぞ」

「名付けて『槌のス剣(槌の輔ン)』!!」

「仁美さぁん?!」

 盛大にズッコケる珠雄。

「ここカッコいいシーンでしょお?!余計なこと言わないの!」

 ペロリと舌を出し、目だけでソッポを向く仁美。見回せば、一斉にプッと吹いてる怪異たち、あちゃあと額に手を当てるニコ、あらあらと笑う悦子。

 ちょっと気まずい間が一瞬、ゴホンと土蜘蛛は咳払いを一つして気を取り直し、槌のス剣をがっと掴んで。

「……ま、参りましょうぞ槌の輔殿ぉ!エイ、エイ、オォ!!」

(つ、土蜘蛛殿ぉぉぉ……かたじけない……)

 何とか誤魔化そうとして土蜘蛛の上げたその鬨の声、大分無理してる。彼の優しさが心に染みる槌の輔であった。


 しかし一人。

 ズッコケも笑いもしなかったのは、さつき。

 社殿に入るため、再び「人間大半化け」の姿に戻ってはいたが。猫の両眼にメラメラと燃える妖気はガチガチの、マジ。マックスのままだ。

 彼女が出雲から、はるばるここ昴ヶ丘にやって来た理由。

 もちろん恭子の無法を止めるという目的もあった。しかしそれがほぼ果たせた今、残るは。

(土蜘蛛様に、ご先祖が返せなかった御恩を返す!!)

 慌ただしい雰囲気の中、まだ我こそはと名乗りも出来ていないが、それは後、後。まずは体で働くのみ!

(土蜘蛛様のお供はあたしだ、ツッチーなんかに負けてたまるもんかい!)

 フーフーと鼻息は荒く、浴衣で見えない背中は総毛立っているに違いない。

 すると。

【さっちゃん?】

 さつきのその沸騰した脳裏に聞こえてきたのは。

【よかったね、前から言ってた総大将さんに会えて。頑張るんだよ!でもちょっとハリキリ過ぎかも。いつも見てるからわかるよ、チミはね、リラックスした方が力を出せるタイプ。さぁ、肩の力抜いて】

【ニャゴ!……お、大蛇様?!】

【ワシも後(・)で(・)行(・)く(・)から。ちょっと思いついたんだ、現世で動くい(・)い(・)方(・)法(・)!これこれこうこう。一緒に頑張ろ、さっちゃん!

 ……でも桜ちゃんにはまだナイショだよ。いいね?】

【ニャハハァ♪はい大蛇様、もちろん!】

 この主あればこの家来あり。フランクにくだけた大蛇のアドバイスを受け、さつきの返事にはいつもの彼女のイタズラな調子が戻っていた。


「さぁこうしちゃいられない。アタシたちも」

 自分たちの実力では、おそらく直接戦力にはなれない。だが二人の高速移動だけは封じることの出来た今、撹乱役ぐらいならば、と。立ち上がった口裂け女に蛍子がさっと歩み寄って。

「口裂けさん、ここは私も一緒に。こうしてこうこう……」

 何やら作戦を提案する蛍子。ほうほうふふん、そしておお〜と、声を揃えて感服する怪異たち。なるほど、それは名案!

「それでいきましょう、奥様お願いします!よしくねくね、いま伺った通りだ、お前は奥(・)様(・)の(・)ア(・)シ(・)ス(・)ト(・)だよ。ご一緒してここに残りな。しっかりおやり」

「ガッテン姐さん、まかせてちょーよ!奥様よろしくっす♪」

「それからメリー、お前は引き続きそ(・)っ(・)ち(・)を。その仕事はお前にしかできない、しっかり頼むよ」

「ウン、クチサケチャン、マカセテ!」

 しっかり、しっかりと。口裂け女は仲間たちに励ましを込めて念を押す。そして最後に。

「……おいケバケバ!!」

 恭子に向かって、やおらマスクを下にずらす、そしてあの真っ赤な口を大きく開けて。

「アタシはこれからも!断じてお前をそう呼ぶからね、いいな!それでだ!!

 ……ケバケバ、お前は強い。アタシの知ってる人間の術者の中じゃ五本、いいや三本の指に入るヤツだ。

 そうだよお前はな、アタシよりも強い!認めてやるよ、それは、認めてやる!だからそんなシケた面して縮こまってるんじゃないよ!いつもみたいに偉そうな顔でふんぞり返って、そんで頭ン中にはグルグルギチギチ悪巧み仕込んどけ!!

 わかってるな?アタシらも手助けはしてやるが、あのチビは!最後はお前にしか助けられないんだからね?

 だから!お前が!一番!しっかり!やれ!!

 ……よし。んじゃみんな、いくよ」

 一息にそう檄を飛ばすと、最後は照れくさそうにそそくさと怪異たちを促す。

「あら素敵」「素敵だわ」「「口裂けさん、ナイス友情ツンデレ♪」」

「ああああうるさいねぇ!どっちがどっちか全然わかんないけど、八尺てのはどこのヤツもこうなのかい??

 黙んな!……いいからいくぞ!!」

 その時、口裂け女の顔は口の中よりなお真っ赤だった。


「でも困ったわ、仁美ちゃんったら、御社は運んでくれたけど社務所は置いて来ちゃったのよねぇ。ここお台所が無いから、もうお茶が淹れられないわ。お菓子も向こうに美味しいのがあったのに、さっき配るの忘れちゃってたのよ」

 アハ、と困り眉で笑うニコ。そしてつくづく実感する。この物に全然動じないところ、なるほどこの人が、あの早苗さんのお母さんなんだなぁ。

「それじゃニコちゃん?他にやることないし、私たちは。

 ……みんなを信じて見守りましょうね。大丈夫よ!」

 そう言って、悦子はニコの手をそっと握り締める。ニコにはわかった、気がつかなかったのだ、自分の体が震えていたのが、実は不安に怯えていたのが。

 ああこの人はやっぱり。感じる温もりに、ニコはさらにその思いを強くした。


「そうね珠雄くん。あいつの言う通りだわね。私……ら(・)し(・)く(・)なかったわ」

「恭子さん?……ふうん」

 くねくねは何やら、蛍子と作戦を打ち合わせている。恭子の側に残ったのは、メリーさんと自分だけ。

「そうですよ、その顔。恭子さんはそうじゃなきゃ」

 珠雄には見えた、恭子の蛇の瞳に再び、妖気の炎が灯ったのが。

「確かに、最後まで何が起こるかわからない。だから私も働かせるわ、悪知恵を……たとえ何があっても起こっても、この手でねじ伏せられるように!」

(うん、いいね)

 恭子のその立ち直りよう、これなら泣く子のお守りはお役御免だ。どうですまずは一安心ですよと、珠雄が仁美をちらと目で伺うと。その司令官殿は腕組みしながら何やら難しい顔で。

「むむむ、ならあたしも……ええと、う〜ん……

 あ!そうだ思いついたぁ!!こ(・)れ(・)よ、これこれ!」

(仁美さん?いやあなたはね?もう捏ねないで下さいよ悪知恵は!まさかまた何かやらかすつもりぃ??)

 珠雄くん、どうやら君は安心はしていられないようだねぇ。


 かくして。

 それぞれの胸に、決意やらナイショの作戦やらを抱きながら。

 ノッコとヤスデ・VS・昴ヶ丘トモダチ連合軍。

 奇妙な構図の決戦の、その幕が開く!


「あっと!そっちダメ、ヤスデちゃんこっち、こっち!」

 う~ん、ちょっと戦(や)りにくくなったなぁ。ノッコはそう思う。

 岩戸籠の光の壁によって、二人はその行動範囲を大幅に狭められた……お互いの恐るべき機動力は、一切変わらぬまま。

(でも神社、壊しちゃったら後で怒られちゃう)

 そう、今まで通り何も考えず激突しあえば、あっという間にあの建物を巻き込んで木っ端微塵にしてしまうのは自明だ。ここからは自分がヤスデを誘導し、社に突っ込むのを避けさせなければならない。実に「戦りにくい」のである。

 ああしかし、そこまでわかっていながらも。

 神の子はあくまでこの戦いを、ヤスデを死に誘うその遊戯を!やめる気はない……何故に?

「ほらほらこっち!こっちだよヤスデちゃん!」

 そしてまたもや、その進路が神社の方向に向きかけたヤスデの目を逸らすべく、ノッコがひらりと飛び退いた、その時。

「否!ヤスデよ、わしならこちらだぞ!!」

 別の角度からその場に飛び込み、現れ出でたのは土蜘蛛。

「ギギギギィ!!」

 たちまち向きを変えるヤスデ。やはり、と土蜘蛛は思う。二人を引き離すには自分が何よりの、餌。

 そしてさらに思う、あの鉄仮面の下でヤスデのその目は今、如何なる憤怒に燃えているのか?

 いや。

(この気配、あの唸り声。最早正気は保っておらぬな……やはり時が無い!)

「ヤスデ!さぁ参れ!!」

 そう雄叫びながら。ノッコとは別の方向に飛び退き、神社からヤスデを引き離していく土蜘蛛。

「ちょっとお養父ぁさん?ああ、ヤスデちゃんそっちじゃないよぉ!」

 だが、慌てて二人を追おうとしたノッコのその視線を塞ぐように。一陣の風を巻いて振り散ったのは、桜の花びら、その幻。

 そしてそれを纏って現れ出る、神気煌煌と輝く一人の娘。

「ノッコ!」

 そう。神姫の魂を体に宿したそれはすなわち、【桜の早苗】。

「あなたとヤスデさん、私と先生、ここからはタッグマッチ。行かせない、あなたの相手は今度は私よ、ノッコ。

 ……おイタはもうお終い!!」

 獅子吼一喝、早苗の姿をしたそれがその手に構える、一面の光の扇。

「ええ?センパ……イだけじゃないの?」

 ノッコは腕で目をゴシゴシと擦り、眼前の新たな敵を見直す。

「誰?」

【祝子。わかりますか?聞こえていますね?私は】

 神の子は身震いする。

 初めての出会い、しかし、感じる、理解(わか)る。

「お母さん……!」

 頷きを返したのは、早苗か、姫か。


「ギャ〜〜〜〜ン!早苗カッコいい!!……恋しちゃう♪」

 仁美のその黄色い歓声に、やれやれ顔の一同。

「どうぉ?良く見えてるぅ?」

 どこからともなくそう問う声は大蛇のもの。出陣した桜姫に代わり、姿見モニターの調整を任されたらしい。

「バッチリよオロチッチ!」

「仁美控えい!浮かれておる場合か!それに畏れ多くも神に向かってその口の聞き方は何事ぞ?!」

 だが巌十郎のその一喝も、仁美の耳には右から左。いよいよ姿見の中の早苗の姿に齧り付く。

 先程は思いがけなく姫に指名&憑依され、オタオタオロオロしていたものの。やはり早苗という娘は「やる時はやる」だ。すっかり図太さが戻ってきている。

 ああそして、輝かしくも凜々しきその姿!

 そう仁美は、そんな親友がめっちゃ羨ましい。

 そして、そして。

(やー、でも早苗、あ(・)た(・)し(・)も(・)負(・)け(・)な(・)い(・)からね!見てて、やっちゃうよ!

 うん、方(・)法(・)は(・)考(・)え(・)て(・)あ(・)る(・)んだ、あとはタイミング……)

 と、仁美が珠雄の心配通り、何やら不届なことを画策していると。

【ねぇねぇチミチミ】

「……え?」

【シー!静かに。ワシだよワシ♪】

 何とその仁美に、大蛇が念話で語りかけて来たではないか。

【え、オロチッチ?】

【そ、そのオロチッチ♪えとチミ、お名前は仁美ちゃんだっけ?よろしくね。

 ……あのね、ワシ、チミにお願いしたいことあるんだけどぉ……みんなにナイショでさぁ】

【うん、いいよ】

 まだ何も聞いてない、だが仁美は即答。

 二人を繋ぐのは、不届者同士のワクワク痺れる不届なシンパシー。「ナイショ」という甘美なキーワードで通じるのだ、それ絶対面白い話でしょ?

 あっさり空手形を切って承諾してから、仁美は。

【で、どんなこと?】

【ムフフ、あのね仁(・)美(・)ッ(・)チ(・)、チ(・)ミ(・)が(・)考(・)え(・)て(・)た(・)の(・)と(・)同(・)じ(・)こ(・)と(・)だよ。ソレ、ワシもやりたいんだぁ】

【マジ?オロチッチもやっちゃうア(・)レ(・)?モチ、オッケイ!】

【やぁ、話が早くて助かるよ。ワシら気が合うかも♪】

【あたしもそう思う!そしたらオロチッチさぁ、合図はこれこれで……】

 仁美&八岐大蛇。トンデモコンビ、ここに密かに結成。珠雄が知ったらきっと泡吹いちゃうけど、残念なのか幸いか、彼は気づかない。

(あら、仁美ちゃんったら?大蛇さんも?急に静かになっちゃったわね?何か始めるつもりかしら?)

 そしてそうと勘づいても。クスッと笑って敢えて黙っているのが、悦子という人物なのである……

(続)

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