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怪異さまナー☆TSU・CHI・NO・KO ~口裂け女さんですか?昨日も一緒にお茶しましたよ?~  作者: 御度宇雲(おどぅ~ん)
パートふぁいなる 対決

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そのゴジュウニ ノッコとヤスデ(その6)

 暴走を続けるノッコとヤスデ。二人を止めるために、慌ただしく神社を出て行ったのは。土蜘蛛と槌の輔、怪異たちの殆どと、さつきに、そして早苗と桜姫。

 そして残ったのは。

 まず巌十郎と俊介の親子。二人は拝殿正面の奥にじっと座して動かない。だがその面差しは対照的。目を薄く半眼に開き、精神統一する俊介はまるで、仏陀のように穏やか。かたや巌十郎はと言えば、こちらは護持の明王、神将だ。くわと目を見開き、寄らば斬らんとする構え。

 離れて外の見える正面近くの一隅に、蛍子とくねくね。ここから出て行った怪異たちに二人で何か手助けするつもりらしいが、果たしてそれは?

 また別の一隅には非戦闘員組。悦子とニコ、そして今はそこに珠雄が恭子から離れて合流していた。

(もう恭子さんは僕がいなくても大丈夫。だったら邪魔しちゃいけないからね)

 そう、恭子とメリーさんは、この作戦の大トリ。今や二人は真剣な最後の打ち合わせに入っている。

「メリーさん?確実にコールが届くのはヤスデからどの位の距離かしら?」

 恭子の問うその声は実に冷静で、事務的とすら思える。その恐るべき自制力、先程までとまるで別人だ。

「五《ゴ》メートル以内《イナイ》。ソレナラ、通信《ツウシン》タイムラグヲ、考《カンガ》エナクテ大丈夫《ダイジョウブ》」

「……いける。五メートルなら充分過ぎる。それでカウントは?どの位に設定出来そう?」

「二十秒《ニジュウビョウ》デ、ドウ?」

「いいわ、それでお願い。やってみせるわ」

 装着解除コールの送信。毎秒一万二千回で書き換えられているそれを、ある瞬間に一発入力は不可能だ。だから予め計算したあるタイミングにおける値を、そのタイミングに正確にタイマーで入力セットしておく……そこまではメリーさんの仕事だ。

 ならば、恭子のすべき事は?

 すなわち。タイマーカウントダウンスタートから二十秒以内にヤスデの半径五メートル以内に接近し、カウントゼロの瞬間までその距離範囲内に留まり続けること。

 今のヤスデの驚異的な機動力戦闘能力を考えれば、もちろん困難、もちろん危険だ。最早ヤスデは正気ではない、近づけば恭子にも容赦はしないだろう。

(でも、みんながヤスデの動きを止めてくれるなら。私なら出来るし、私がやるしかない……!)

 鴻神一族現三代に打ち倒されたはずの妖術師・八ッ神恐子の。それは復活と、おそらく最後の戦い。

 さて、そして読者諸君。忘れてはいけない。

 仁美と八岐大蛇は?

 あのやかましい二人が今、なぜかすっかり大人しい。姿見モニターを腕組みで睨みながら黙り込む仁美、大蛇は御神鏡の中にちんまりと。まるでその存在を皆から皆から消そうとしているような。

 ……そう、悪巧みに勘付かれないように、ね。


 ヤスデの前に飛び込んで立ち塞がり、そしてノッコから引き離した土蜘蛛に。ギシギシとあの歯軋りのような声を上げ、ヤスデは狙い定める。

「ぬ!」

 上半身はそのままに、ヤスデの下半身は今や多節長大の蟲、全長は十数メートルにも及ぶ。そしてその体で高く伸び上がり見下ろす姿は、さながら鎌首をもたげた大蛇のよう。

 見上げる土蜘蛛の脳裏に浮かぶのは、千年前のあの絶望的な負け戦、その記憶。

(因果なことよ)

 ヤスデ自身が大いに憎んでいるはずの、彼女にとってのもう一人の怨敵・蛇神に。襲いくるヤスデの今の姿はむしろ酷似する。

(全てはこのわしの悪因果。天はわしに、もう一度思い知らせたいのであろう……わしの咎を)

 たちまち。ヤスデはその上半身を唐棹のように打ち下ろし、土蜘蛛をその鉤爪で切り裂こうとする。そこで一閃、受けて捌くのは、槌の輔の変化した輝く剣!その技は実にあざやかだ。

 だが実は、土蜘蛛には剣術の心得は一切ない。かつて妖総大将の名を背負っていたその頃は、彼は人間の武芸を見下していたし、その座を降りてからはあらゆる闘争の術を自ら避け退けたから。

 しかし剣となった槌の輔が、自ら動く。剣の柄を通じて霊力を通わせ土蜘蛛の体に半憑依、そして土蜘蛛の体を巧みに動かし、土蜘蛛を守る!

(槌の輔殿。誠に誠に、忝《かたじけ》なし)

 本来槌の輔は蛇神の眷属。それが、かつてその蛇神に大きな仇を成した自分に、こうして助力してくれる。

(かくなる上は)

 土蜘蛛は心震わせる、何に?その使命に。胸に誓う。

(やらねばならぬ、必ずヤスデを助ける、そしてもう一つ!)

 蛇神の遺児、そして自分の養女である祝子には、決して。天の道を誤らせない!


 一方。

「お母さん、センパイ。そこをどいて」

「どかないわ。姫様もそうおっしゃってる、わかるでしょう?あなたには見えてる、聞こえてるはず!」

 ヤスデを追おうとするノッコを、桜の早苗が阻む。

【祝子。もう時がありません、聞き分けなさい】

 神の子祝子は、しゅんと困り眉を見せながら、しかし。

「お母さん。わたし、あなたに会えるなんて思ってませんでした。せっかく会えたのに、最初からこんなふうに怒られちゃうなんて、ちょっと寂しいな……

 お母さん。お詫びも仲直りも、あとできっと。センパイとも。でも!

 今はわたし、ヤスデちゃんと戦わないと。まだ決(・)着(・)が(・)つ(・)い(・)て(・)な(・)い(・)から」

「決着って何よ?!まだそんなことを!」

早苗は激昂する。

「ノッコ!わからないわあなた、どうして?!先生から聞いたでしょう?!ヤスデさんの命は、もうあと少ししか!!」

「いえセンパイ。わ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)のは、多分センパイの方です。こ(・)れ(・)はとっても大切なことなんです。

 でもあの、その……わたし上手く言えないし、きっと言っても……わかってもらえない。ごめんなさい。

 だけどわたしは、最後まで、ヤスデちゃんと戦わないといけないんです!」

「ノッコ!!」

 断絶。早苗には神の子の心はどうにも不可解だ。なお重ねて問おうとするも、

【早苗さん。もう祝子の話を聞く時間はありません。この上は……】

 桜姫が見切りをつけさせる、そして手にした光の扇を前にかざす。その構えを取ったのは、早苗か姫か。

(……時間が無いって、それは、わたしもわかってるよぉ!)

 サッと踵を返して二人の前から去ろうとしたノッコ。

「……あれ?え?」

 だがどうしたことか。

「何で?あれ?どうして?」

 どちらに行こうとしても、目の前に桜の早苗の姿が立ちはだかる。高速移動で回り込まれているのだろうか?もちろんそれはセンパイとお母さんのコンビなら出来るかもしれない。だがどうやら違う……二人は、ただの一歩も動いた気配が無い。

「逃さない!ヤスデさんのところには行かせないわよ、ノッコ!」

【祝子。あなたの持っている神力はとても大きい。もちろん私たちよりもはるかに上です。ですがあなたは、この世にまだ十六年ほどしか生きていない。私には。

 ……八百比丘尼寂桜として千年あまりを過ごした、その手練手管があるのですよ。思い知りなさい】

 桜姫の用いるその術の正体。ノッコにはまるで思いもよらない。どこに行くも進むもかなわない、神の子は、その場できりきり舞いを舞うばかり。

(あれ?これちょっと……困ったかも……?)

 ノッコの額にやがて、ヤスデと戦っていた時にはまるでなかった冷や汗が浮かぶ。その効果は覿面。

 かたや、相対する早苗はその様子を見つめて。

(でもこ(・)れ(・)、ノッコのクルリンパとかと比べたら、全然簡単な手品なんだけどな。姫様ってば、ハッタリすごくない?)

 一瞬、合身していることをうっかり忘れて、そう思ってしまう。

【ええ。ハッタリは私の一番の取り柄ですから】

【きゃっ!アバババ、し、失礼致しました姫様ぁ!ハッタリじゃなくて……ブラフ、ブラフです!】

 いや早苗、それ言い換えても大して変わらないぞ?

 すると、慌てる早苗を宥めるように、桜姫は。

【どちらにしても、あと僅かの時間の勝負です。早苗さん、あなたもその間精一杯、私と一緒に祝子を脅かして下さいね】

 桜姫の、あまりにもさらりと凪いだその言葉に、早苗の胃の腑がギクリと凍る。

 ああ、ど(・)ち(・)ら(・)に(・)し(・)て(・)も(・)!姫はこ(・)の(・)作(・)戦(・)が(・)失(・)敗(・)し(・)た(・)時(・)の(・)こ(・)と(・)まで、すでに腹に据えているらしい。

 そう、それは生死も喜怒哀楽も超越した、神の思考スケール。

(私、姫様もちょっと、わかんないです……ノッコも同じなのかな……)

 またもやうっかりそう思ってしまう早苗に、姫は今度は沈黙で答えた。


(なんのこれしき!それぇい!)

 土蜘蛛の手の中で、一(・)人(・)格闘する槌の輔。ヤスデの猛攻を一見、鮮やかに捌き退けながらも。

(むむ、しかしこのままでは……)

 胸に迫るのは焦燥。とにもかくにも、ノッコからヤスデを引き離すことには成功した。が、その後の手が無い、考えていなかった。

 彼がもし全力を揮えば、ヤスデをただ斬り伏せるのは実は不可能ではない。しかしそれではすべてが水の泡。求められているのは、ヤスデを傷つけることなく、しかしその動きを一度完全に封じること。この期に及んで今更わかるのだ、それは実に至難。

 そしてもう一つ。こうして共に戦っていれば嫌でもわかる、自分の依代になっている土蜘蛛の体力妖力が、すでに限界だ。今は自分の力でカバー出来ているが。

(いつまで彼奴を引きつけていられるか?

 ……てぇい!あっ、むむむぅ?!)

 ヤスデの鉤爪をまた一つ受けた瞬間、土蜘蛛の片膝がガクリと崩れ地を突いた、衰弱した彼の体を、槌の輔はついにコントロールしきれなくなったのだ。

(しまった!!)

 ヤスデの次の腕が次の爪が、眼前に迫る。あわや!

 だがそこに、馳せ参じた者がいた。

「待て待て待てぇい!見よ見よヤスデ、わしはこちらだ!!」

「ギッ?!」

 その声に、たちまち攻撃を止め、弾かれたようにそちらを振り返るヤスデ。そこには何と、土蜘蛛がもう一人……否、一人ではない。ヤスデを取り囲み、あちらにもこちらにも。

「違う違うヤスデ、わしは、土蜘蛛はこっちじゃぞ!」

「「ぽ……じゃない」」「わしはこっちよ」「あら、あなた?『よ』はダメよ『だぞ』よ」

「キキキイ、キキキイ!」

【いやお前ら、ちょいとマシなのはターボばばぁだけかい?もう少し上手く芝居しな!あとてけてけ、お前はいっそ黙って動け!】

 そう。それらの土蜘蛛は、全て怪異たちの変身した姿だったのだ。だがどうやって?現代怪異には変身能力は無いはずだが?

「うんにゃらもんにゃら……うんにゃらら!」

「流石ですねくねくねさん、その調子です。その調子で私と念を合わせて皆さんを!」

「ガッテン奥様!く・ね・り・パワーを絞りぃ~出してぇ、それ、うんにゃらら〜〜!」

 神社の中でうねうねくねくね、いつもより一際怪しく踊るくねくね。そしてその彼と、蛍子が片手を繋いでいる。

「私の光幻術とくねくねさんの錯乱念波、合わせ技でヤスデさんを幻惑して、口裂けさんたちを大殿様の姿に見せる……」

 姿見モニターの中に映る、その光景。さながら忍者、分身の術だ。もはやモニター越しではまどろっこしい、珠雄たち三人も立ち上がって、外の見える入口近くにバタバタと駆け寄る。

「やぁすごいや!僕にもみんなが先生の姿に見える!」

「ホント!お養母さん(ノッコちゃんの)すごいです、くねくねさんも!」

「奥様、くねちゃん、しっかり!」

 目を見張る珠雄とニコ、エールを送る悦子。蛍子はうっすらと微笑みでその賞賛に応える。だが彼女には油断はない。これも所詮小手先の手品、時間が無い中での、さらにそのほんの僅かな時間稼ぎにすぎない。それは蛍子自身がわかっている。

 そう、本当は。あと一手が、決(・)め(・)手(・)が欲しい……!


【ツッチーどうだい、先生は回(・)れ(・)る(・)かい?先生、どうですか?】

 口裂け女が念話で呼びかける。

【回る?……おお、その位ならばまだまだ!】【お支えしますぞ土蜘蛛殿!】

 口裂け女、ターボばばぁ、ツイン八尺様、てけてけ。五人の偽者に本物を加えて、その場には土蜘蛛が六人。彼らはヤスデを丸く取り囲むと、一斉に一方向に周回し始めた。そして回転速度を次第に増していく。そうやっていよいよ本物を判別しにくくしながら、ヤスデを渦の中心に釘付けにする作戦だ。

「ギィ!グギギギギィ!」

 ヤスデの歯軋りはいよいよ甲高く響く。的を定められないことに苛立っているのがはっきりわかる。口裂け女は仲間の芝居の伎倆を心配したが、それだけは杞憂。ヤスデにはどうやらもう、それを見抜けるような理性も判断力も残ってはいないらしい。

 ……いや。今彼らの眼前で暴れ荒れ狂っている怪物は、果たしてヤスデなのか?

(まさかね)

 背筋に走る嫌な悪寒に口裂け女は身震いを一つ。すでにヤスデは事切れていて、彼女の妖力を吸い尽くした鎧だけが戦っているのでは……

(まさか!そんなこと、ない!)

 周り走るその足で、口裂け女は打ち消すようにバシンと地面を叩き踏む。

(まだ間に合うはずだ!恭子!メリー!今だ、早く!)


「イコウ、キョウコ!」「ええ!」

 メリーさんが促し、恭子も席を立とうとした、その時。

「ギィィィィ!」

 ギョロギョロと回る六人の土蜘蛛達に目を取られていたヤスデが、急にその場に大きく伸び上がり棒立ちに。

 恭子が念を込めて叫ぶ。

「いけない、みんな散って!電撃が来るわ!」

【何だって?みんな散れ!】

 届いた警告、口裂け女が号したのと、皆が大きく輪を崩して散ったのは同時。

 だがしかし!

「ぬぬ……!」【ああ、いかん!】

 本物の土蜘蛛だけが、回避行動を取れない。皆と共に回っていたのが、土蜘蛛にも槌の輔にも最後のギリギリの踏ん張りだった。もう飛び退く余力が無い。

 一人取り残された土蜘蛛、伸び上がったヤスデの八本腕に灯り輝く電光。

 ……そして集中砲火!

「ニャゴワァァァァ!」

 どこに隠れていたのか。土蜘蛛の元に飛び込み覆い被さったのは、最強戦闘形態《マックスバトルフォーム》のさつき。ヤスデの放った八本の電撃は、その背中を伝い地面に流れ落ちた。

【あたしの体の毛の電気伝導性は避雷針並だ!その雷は効かないよ!】

 念で叫んでしかし、その続きは胸に呑み込む。

(ま、この威力じゃ流石に、直に受けられるのは三(・)発(・)く(・)ら(・)い(・)ま(・)で(・)だけど、な……!)

 そう、さつきの体はうっすらと焦げ臭い煙を漂わせている。電流自体は流し去れても、高熱によって確実にダメージは残るのだ。百戦錬磨、八岐大蛇第一の眷属たる彼女だからこそわかる、わかってしまう。今目の前に立ちはだかる敵、その力は自分のそれを大きく凌駕している……

(でも、あたしの体がたとえどうなっても、土蜘蛛様はお守りしたいんだ、やっとお会い出来たんだから!

 ああ大蛇様、わがままなあたしに、それと恭子に!御力をお貸し下さい!)


【うん、あのコ(ヤスデ)強いな。さっちゃんでも止めるのはちょっと厳しいね……ねぇ?そろそろどう、仁美ッチ?】

【いいよオロチッチ、いつでも!行こう!】

 密かにそしてついに、けしからんコンビがスタンバイする。

 ……って、いったい何を?

(続)

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